日本コーポレートガバナンス研究所はコーポレートガバナンスの確立・普及を通して自由主義経済の発展に貢献します 
 JCGR一般社団法人 日本コーポレートガバナンス研究所
 
HOME>研究会ブログ>ファイナンス#02
研究会ブログ
2021 ファイナンス研究会
第2回 資本市場と貨幣価値:時間とリスク

Q&Aセッション

Q01:マイナス金利ですが、これはあくまで中央銀行が意図的(市中銀行の預け金を少なくする)に行っている政策金利であり、ファイナンス理論上は時間的価値がマイナスとなることはない、という理解で宜しいでしょうか?大量の紙幣や硬貨に対する保管的なコストが時間的価値を上回るような概念は別としまして。

A01:名目金利と実質金利とに分けて考える必要があります。貨幣価値の変動が予想されている時には、実質金利=名目金利-予想インフレ率、デフレの時には実質金利=名目金++予想デフレ率です。

(1)インフレやデフレが予想されていない場合:常識的に考えて名目金利がマイナスになることは考えられません。マイナス金利で預金すれば現在価値が減少するのですからわざわざ預金する人はいません。したがって、市場でマイナス金利は成立しません。ただし、巨額の資産を持つ富裕者は、何らかの理由で流動性が必要な場合、安全に現金を預かってもらう代わりに保管料として銀行に金利を払うこと、つまりマイナス金利を承知するかも知れません。これが質問の最後にある断り書きのケースで(事実上のマイナス金利)が考えられます。巨額の資産の保有者は他の部分をリスクのある資産に分散投資などをすれば、そこからの利益で預金のマイナス金利を払うことができます。したがって、マイナス金利の預金を受け入れることが考えられますが、現実には、銀行や証券会社のプライベート・バンキング部門が富裕者の資産を預かり、総合的に富裕者の資産管理をしてくれますので(その分プライベート・バンキングの手数料がかかりますが)、マイナス金利の銀行預金は事実上成立しないでしょう。銀行はマイナス金利(預かり料)でなくゼロ金利で調達しても、その資金は、貸倒れリスクなどを理由に、プラスの金利で貸出しを行えますから、(経済活動が全体として付加価値を生む限りは)十分採算の取れる預貸業務を営むことができます。おかげで、それほど大きな資金を持たない者も、マイナス金利でなくゼロ以上の預金を享受できます。

(2)インフレ予想下の場合:インフレ下であれば黙っていても貨幣価値は時間とともに減少します。名目金利がマイナスであれば預金の貨幣価値の減少をさらに加速するわけですから預金する人はいません。自宅の金庫預金より銀行預金の方が安全だと考える人は、実質金利がマイナスでも預金をするかも知れませんが、マイナス名目金利では預金をする人はいないでしょう。仮にいても、量がわずかでビジネスになりませんから市場ではマイナス金利が成立しないでしょう。

(3)デフレ予想の場合:名目金利がマイナスでも、絶対値が予想デフレ率以下であれば、実質金利はプラスです。したがって、マイナスの名目金利は成立することが可能です。それでも、黙っていても貨幣価値が上がるのですからだれも、マイナス金利の預金を使用とは思わないでしょう。自然と金利が上昇しゼロ金利以上になるはずであり、現実にマイナス金利になることはないと考えるべきです。

(4)いずれにしろ、貨幣価値の変動が会ってもなくても、わざわざマイナス金利の預金をするメリットはほとんど無いわけですから、ファイナンス理論的あるいは経済理論的にはマイナス金利はあり得ないと言えます。銀行間や国際間ではマイナス金利が成立することがあると言われますが、それは名目金利ではなく事後的な実質金利のようです。⇨ 参考

(5)わが国のマイナス金利:わが国の政府はこの10年間、デフレから脱却することが長期の経済成長路線に乗せる唯一の方法だと考えてきました。そして経済成長とは国全体としての付加価値つまりGDPの成長にあるので、企業が積極的に投資等をすることが必要だと考え、アベノミクスの下で企業に成長のヒントを示唆する第三の矢を放ちました。その前提にあるのは、日本企業が積極的にリスクをとって前向きの投資に乗り出さないのは、お金がないからだという認識でした。それゆえ、第二の矢の金融緩和施策で銀行を通して市場に資金を供給しましたが、産業界に資金が出回るどころか、資金は銀行に滞留するばかりで,銀行の日銀への預金を膨らませるばかりでした。そこで、日銀に預金をしないで企業に成長資金として供給させようと、日銀への預金をマイナスにしたので、日銀のマイナス預金政策です。政府の認識と政策はどこか間違っていように思います。
   

講義の補足説明
 貨幣の時間価値の問題は、技術的には複利(compounding)と割引(discounting)の問題であるので、ここで特に付け加えることはない。しかし、実際の計算をエクセルの財務関数で行うことを今回の目的としているので、今回取り上げたPV関数、FV関数、PMT関数の変数(インプット)について説明をしておく。どの関数も、引数として、「利率」、「期間」、「定額支払額」、「現在価値」および「支払期日」という5つのインプットを定めることを求めている。同じ名前であるが、関数によって内容が異なるものもあるので、ここで説明しておく。3関数の使い方は動画<番外編>を視聴されたい。

◆ PV関数(ローン返済や満期積立金を目指して定額の支払いをするとき、ローンの借入額や貯蓄をスタートするときの必要な頭金額が、定期支払額の現在価値として求められる)
1.利率:年率の数値をパーセント表示でインプットする。例えば、関数PV (・,・,・,・,・)(・は引数を表す)の最初の・には利率が入っているセル(a5とC3とか)を記入する。ただし、支払いや受け取りが月ごとになされる場合には、月率に換算する必要があるので「a5/12」や「C3/12」とする
2.期間:返済や積立の年数を指定する。関数においては(2番目の・に期間が入っているセルが記入される。月払い等では、セルを12倍する。つまりa6*12とC4*12となる。期間というよりは支払いや受け取りの回数である。月払いで10年であったら、セルa6やセルC4に最初から120と記入してもよい
3.定期支払額:ローンの場合毎期の返済額を、積立貯蓄の場合毎期の払込額を指定する。通常、マイナスで指定する
4.将来価値:残高を指定する。ローンを完済する場合は0を指定。積立貯蓄の場合は満期受取額を指定
5.支払期日:返済や払込が期首に行われるか期末に行われるかを指定する。期首の場合、通常は1を指定する

<例題1>3年後に300,000円必要である。3年の間、月末に10,000円ずつ積立て、満期積立額(将来価値)として300,000円を確保したい。頭金として今、いくら用意しなければならないか。

<答>B6にカーソルを置き、財務関数からPVを選ぶと、引数の表が現れるので、順に B1/12, B3*12, B3, B4,B5 をインプットすると、B6には、=PV(B1/12, B2*12, B3, B4,B5)が入り、瞬時に答えとして¥66,587が計算される。

  A B
1 利率(年利) 2%
2 期間(年) 3
3 定期支払額 -10,000
4 将来価値 150,000
5 支払期日  
6 現在価値(頭金) ¥66,587

 ◆ FV関数(ローン残高や満期積立額が定期支払額の将来価値として求められる)
1.利率:年率の数値をパーセント表示でインプットする。以下、PV関数と同じ
2.期間:返済や積立の年数を指定する。以下、PV関数と同じ
3.定期支払額:ローンの場合毎期の返済額を、積立貯蓄の場合毎期の払込額を指定する。通常、マイナスで指定
4.現在価値:ローンの場合借入額を、積立貯蓄の頭金を指定する。省略すると0が指定されたものとみなされる
5.支払期日:返済や払込が期首に行われるか期末に行われるかを指定する。期首の場合、通常は1を指定する

<例題2>年利3%で1,000,000円を借りて、一ヶ月後から毎月末に30,000円ずつ3年間返済するとき、3年後のローン残高はいくらか。

<答>財務関数からFVを選択し、引数の表に順に B1/12, B2*12, B3, B4,B5 をインプットすると、B6には、=PV(B1/12, B2*12, B3, B4,B5)が入り、瞬時に答えとして¥-54,372が計算される。

  A B
1 利率(年利) 3%
2 期間(年) 3
3 定期支払額 -25,000
4 将来価値 1,000,000
5 支払期日  
6 現在価値(頭金) ¥-54,372

 ◆ PMT関数(定期的にローンの返済や積立貯蓄の払込を行うとき、1回当たりの返済額や払込額がいくらになるかを求める)
1.利率:年率の数値をパーセント表示でインプットする。以下、PV関数と同じ
2.期間:返済や積立の年数を指定する。以下、PV関数と同じ
3.現在価値:ローンの場合は借入額を指定し、積立預金で頭金を入れる場合は頭金を、頭金がない場合は0を指定する
4.将来価値:ローンで借入金を完済する場合は0を指定し、積立の場合は目標満期額を指定する
5.支払期日:返済や払込が期首に行われるか期末に行われるかを指定する。期首の場合、通常は1を指定する

<例3>金利3%のローンで100万円を借りた。頭金はなしで毎月返済するとき、月々の返済額はいくらであるか。なお、最初の返済は契約と同時つまり期首に行う。

<答>財務関数からPMTを選択し、引数の表に順に B1/12, B2*12, B3, B4,B5 をインプットすると、B6には、=PV(B1/12, B2*12, B3, B4,B5)が入り、瞬時に答えとして¥-29,009が計算される。毎月のローン返済額は29,009円である。

  A B
1 利率(年利) 3%
2 期間(年) 3
3 現在価値 1,000,000
4 将来価値 0
5 支払期日 1
6 定期返済額 ¥-29,009

                                            (若杉敬明)

TOP


Japan Corporate Governance Research Institute 2001-2022