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2021 ファイナンス研究会
第5回 レバレッジと加重平均資本コスト
1.ファイナンスには二つのレバレッジ効果がある。資金調達の面からの財務レバレッジと生産現場でのコスト面からの操業レバレッジである。固定金利あるいは固定費という「固定」部分が株主利益あるいは事業利益のリスク、リターンに影響を与えるという共通部分があるので、ともにレバレッジと呼ばれる。レクチャーで財務レバレッジを詳しく取り上げるので、ここでは操業レバレッジの概要を説明する。

 操業レバレッジ(Operating Leverage) 財務レバレッジは、自己資本に加えて「負債を利用する」というファイナンスがもたらす、事業利益の一部である当期純利益(株主利益)のリスクに関する効果であったが、操業レバレッジは、事業利益自体のリスクに関する効果である。企業は事業を行って事業利益を上げるが、事業にはコストがかかる。コストにはオフィスのレントや工場の設備などのように売上高とは関係なく発生する固定費と、原材料費や部品費などのように売上高や操業度に比例する変動費とがある。その意味では売上高は当然「変動」収入である。ここでは販売数量をX(確率変数)とする。財務レバレッジの説明ではXは事業利益を表したがここでは販売数量であるので注意されたい。ここでは事業利益をΠ(大文字のパイ)で表す。これも確率変数である。製品単位当たりの価格をp、製品単位当たりの費用をcとする。pもcも一定であ。売上高および変動費はpX、cXであり、期ごとに変動する販売数量に依存するので確率変数である。(売上高-変動費)を貢献利益というが、単位当たり貢献利益は(p-c)、総貢献利益は(p-c) Xである。

総貢献利益から固定費を控除したものが事業利益Πである。
  Π=(p-c)X―F
景気の変動等により販売数量Xが変動すると、事業利益Πが変動する。Πの変動リスクをファイナンスではビジネスリスクあるいは事業リスク(Business Risk)という。
  σΠ=(p-c)σX
したがって、販売数量の変動リスクσXが同じであっても、単位当たり貢献利益(p-c)が大きいほどビジネスリスクは大きいということになる。単位当たり変動費cと固定費Fとの間に代替関係(トレードオフ関係)がある時、Fが大きい企業はcが小さいことから単位当たり変動費(p-c)が大きいので、事業利益の変動すなわちビジネスリスクが大きい。それゆえ、事業リスクを分析するとき、固定費対変動費という原価構造の影響を操業レバレッジあるいは営業レバレッジ(Operating Leverage)という。

2.法人税制下での投資利益率と加重平均資本コスト

 加重平均資本コスト Weighted Average Cost of Capital : WACC とは、資本コストは負債および自己資本の要求収益率の加重平均であるという意味である。法人税が無い場合には WACC==r(B/A)+k(W/A)である。ここにr:金利(負債の要求収益率)、k:自己資本の要求収益率である。またB:負債、W:自己資本株主、A:B+Wである。自己資本の利益に税率tの法人税が課され場合には WACCt=(1-t)r(B/A)+k(W/A) となる。ここに、kは負債を調達していう企業の株主の要求収益率であり。(1-t)rは、税金があるとき金利は税率の分だけ低くなることを表している。その結果、負債を利用するほどWACCは低下するのである。これに対応して、投資の経済性計算において税引き後のキャッシュフローを用いるときには、キャッシュフローに(1-t)を掛ける。実際には、株主利益分だけに税金がかかるのであるが、キャッシュフロー全体に税金がかかったとして利益率を計算するのである。これについては次回(9月)の研究会にて取り上げる。

3.最適資本構成
 講義では詳しく説明する時間がないのでここで詳論する。ROA やROE の平均をμ、標準偏差をσで表すと、ROA,ROEの定義式およびA=W+Bより次の関係が得られる。ここで負債比率B/W をLで表す。
  μROE=μROA+( μROA-r)L・・・・・・④
  σROE=σROA+ σROA・L   ・・・・・・・⑤
⑤式右辺の第1項σROAがビジネスリスク(BR)そのものであり、第2項σROA・Lは負債利用というファイナンスがもたらすリスクである。BRが負債調達というファイナンスの結果Lによって増幅されるリスクである。そこで、 σROA・Lは、フィナンシャルリスク;FRと呼ばれる。確かに、B=0つまりL=Oであれば FR=0 すなわち負債を調達していなければフィナンシャルリスクは0である。以上から、負債利用の高度化はROEをハイリスク=ハイリターンにすることが明らかである。これをレバレッジ効果という。

<倒産リスク> リスクが大きいということは、利益の変動が大きいということである。つまり、事業にとって悪環境が長く続いたりすると赤字が続き倒産のリスクが大きくなる。倒産リスクを抑えるためにはROEのリスクを一定範囲内に治めなければならない。その上限をσROE*と表そう。σROE*はいわば経営者のリスク許容度である。σROEは次の条件を満たさなければならない。
  σROE=σROA+ σROA・L ≦ σROE* ∴ L ≦(σ*-σROA)/ σROA=L*
この式から、負債比率Lの上限は、①ビジネスリスクσROAが大きいほど、また②リスク許容度σROE*が小さいほど、低いことが分る。
負債の節税効果から、企業は負債をより多く利用する方が資本コストという点で株主価値創造上有利である。しかし、過度の負債利用は倒産リスクを増大する。最適な資本構成の選択は上のL*であるべきである。
                                          (若杉敬明)

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