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第5回ファイナンス勉強会「リスクマネジメントとファイナンス:Q&A」

企業価値創造という目的のために企業は事業を行うが、そこにはさまざまなリスクがともなう。安定的に企業目的を達成するために、合理的にリスク対策を講ずることをリスクマネジメントとよぶ。リスクマネジメントの出発点はリスクの認知、洗い出しである。リスクによる損失の発生頻度(確率)を横軸にとり、損失の規模を縦軸にとり、2次元平面に各リスクをプロットしたものをリスクマップと呼ぶ。期待損失=損失規模✕損失確率であり、一般に、期待損失が大きいリスクが、大きいリスクと考えれる。このようにリスクを認知したら、①それを回避する方法があるのか、②回避できないとしたらリスクが発生したときの損失をいかにして最小にするか、等の意思決定のプロセスをプラグラム化しておくことがリスクマネジメントの目的でありプロセスである。①はリスクコントロールと呼ばれ、②はリスクファイナンシングと呼ばれる。リスクマネジメントにおけるファイナンスの出番は主として②にある。リスクファイナンシングの統計的原理は、リスクの分散とヘッジである。今回の勉強会では、リスクマネジメントの考え方と、リスクファイナンシングの確率論的側面について勉強した。

◆Q&Aおよびディスカッション◆(田中さん、松浦さんの記録を元に若杉が編集)

質問1 講義に用いたリスクマップは間違っていないか?(低減と移転の場所を交換すべき)

<答え> 講義の時の図と少し違うが、簡単のためにリスクマップ平面を次の4つに分割し、リスクを次のようにタイプ化する。タイプⅠ(損失金額:大、損失頻度:大)タイプⅡ(損失金額:大、損失頻度:小)タイプⅢ(損失金額:小、損失頻度:大)タイプⅣ(損失金額:小、損失頻度:小)。私の説明の趣旨は次のようなものであった。タイプⅠのリスクを伴う行動は選択しない。これをリスクの「回避」という。タイプⅣのリスクに対しては、何も対策を採らずにリスクを甘受し、発生の都度対応する。これをリスクの「保有」という。問題は、タイプⅢについて私は損失を減少する努力をまずすべきであると説明したことです。この説明は間違いでした。損失はもともと小さいわけですが頻度が大きいわけですから、損失低減の努力より、損失の頻度を減らす方が有効なわけです。その一つの方法は損害保険をかけるなどして、損失の発生を防ぐ(頻度を減らす)ことが有効なリスク対策です。これをリスクの「低減」といいます。タイプⅡは損失発生の頻度は低いのですが、損失の規模は大きいのですから、損失規模を低減する策を講じるのが有効です。最近は地震や水害の損失が大きくなっていますが、工場の耐震化や排水路の完備などで損失を軽減できます。これをリスクの「低減」といいます。以上が、リスクマップを用いた説明の修正です。間違ったリスクマップを描きそのまま説明してしまい申し訳ありませんでした。

質問2 社内保険の説明があったが、社内保険と保有とはリスクを会社がとるという意味では同じであるから区別する必要はないのではないか。

<答え> 貸倒引当金は、事実上、社内保険であが、これはリスクをきちんと認識していることを、株主や投資家に開示する意味を持つ。株主等に開示する必要はなくても、発生頻度がある程度の水準である場合、社内保険はリスクマネジメント上有効でありうる。

質問3 リスクマネジメントの三本柱-リスクマネジメント委員会、コンプライアンス委員会、内部監査室-が理解できない。

<答え> リスクマネジメント委員会は、会社全体のリスクを仕分けして基本対策を決定するERM委員会である。まさにマネジメント委員会であるから、業務執行役員が委員長になる。当然、具体的なリスク対策を検討するリスクマネジメント室のサポートが必要である。一口にリスクと言っても多種多様である。なかでも法律に関することは専門的知識を要する。法令遵守違反など法律に関わるリスクを監視するのがコンプライアンス委員会である。常識的には法務室などがサポートすることになるのであろう。内部監査室は、現場で内部統制がきちんと機能しているかを監視する役目を負っている。通常、業務遂行上の内部統制の乱れがリスク要因となるから、内部監査がしっかり監視して内部統制を機能させることがリスクマネジメントの基本の一つである。

質問4 確率論や統計学の研究はアメリカが先行していると聞いているが、アメリカではカジノが盛んだからではないか。

<大林先生の答>たしかに確率論はギャンブルの研究が起源になっている。ただし、確率論の基礎を作ったのはフランス人である。なお、統計学のもう一つの系譜は社会統計-人口問題など-である。

質問5 アメリカにおいて株主価値損を脅かしたリスク事例として、マーサーマネジメント・コンサルティングの調査結果が引用されているが、いささか古いのではないか。

<答え>無責任かもしれないがいつの調査かは確認していない。このような要因がかつて株主価値を大きく毀損したということを理解していただきたい。最近はリーマンショックなど過去にはなかったリスクが発生したが、マーサーのリストには上がっていない。最新のリスクを上げていないという意味では確かに古いと思う。ご指摘ありがとう。

質問6 リーマンショックから10年以上経ったがBlack Swan(滅多にないが起きると被害が甚大)の研究は進んでいるか。

<答え>私はある公的年金において資金運用委員会の委員長を務めているが、資産運用の世界ではBlack Swanに対して何も手を打てないのが現状である。

以上、田中さんと松浦さんは、重複を含めて合計17項目の質問をメモしてくれましたが、主なものにお答えしました。その他株式市場のデータ(市場収益率など)に関する質問がありましたが、株式市場の問題は今後取り上げることがあると思いますのでその時にお答えします。リスクマネジメントに関する質問・議論は以上とします。田中さん、松浦さん、ご協力ありがとうございました。

若杉

 

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