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第6回コーポレートガバナンス勉強会「指名委員会と役員育成計画:Q&A」

米国の株式会社では早くから、取締役会の下部委員会として指名委員会が普及しており、株主総会に提出する取締役候補者を事実上決定してきました。投資家のコーポレートガバナンスに対する認識の深化ともに、指名委員会が、①その他の取締役会下部委員会の設置および②委員長および委員である取締役の選定まで行うようになり、コーポレートガバナンスの体制の決定へと責任範囲を拡大してきました。指名委員会がコーポレートガバナンス体制の頂点に立つようになったのです。そのことから、21世紀に入って大幅に改訂された、ニューヨーク証券取引所の上場会社ガイドラインでは、指名およびコーポレートガバナンス委員会と呼ばれています。

CEOの選任は取締役会の専決事項です。わが国では、アメリカの次期CEOは外部から招聘されるものと思われていますが、後継CEOの決定は伝統的に、退任するCEOに委ねられ内部昇進のケースが大部分を占めていました、しかし、コーポレートガバナンスへの関心が高まるなか、このプロセスに大きな変化が現れ、会社の将来を担う経営幹部を、「社内」で意図的・継続的に選抜し育成するプログラムである役員育成計画(succession planning)が注目を浴びています。10年後、20年後、会社の重要な経営ポストを担う人材を現在から準備し育成していく仕組みです。ここでは、①会社リーダーとして素質を持つ人材が早期に選抜され、②計画された職務経験と教育訓練等により育成と選抜が行われていきます。対象は社内の人材です。この計画的な幹部人材の育成システムの使命は、③現在の事業に専念しつつ、かつ④余裕をもって将来のリーダーを輩出することです。究極の狙いは、急速な経営環境変化の中、⑤いつ出現するかわらからないビジネス・チャンスを逃さないこと、かつ⑥思いがけないリスクに対処するために常に優秀な人材を選別し育成しておくことにあります。

背景にあるのは、会社が持続的に好業績を上げ成長していくためには、戦略と経営幹部のマッチングが不可欠という認識です。会社の事業により、あるいは会社の発展段階-急成長期、拡大期、安定期など-により、経営幹部に要求される資質・能力は異なります。したがって、まず、5年後、10年後、20年後などの会社の経営環境(よくステージと呼ばれる)を想定するとともに、それに対応するビジョンを描き経営戦略を策定します。そして、ステージごとに必要なCEO、CFO、COO等々の資質・能力を具体的にリストアップします。他方、現在の社内人材の個別の資質・潜在能力等を測定し、適性に応じて役員クラスに分別します。ここで形成される人材のグループは人材プールと呼ばれます。必要に応じて追加採用も行われます。人材プールごとにキャリアパスを設計し、職務経験や教育研修を積んで行くプロセスが役員育成計画です。

 役員育成計画は、現在の担当役員と人事担当役員(アメリカではCHRO)との協働で作成され運営されます。それを取締役会のガバナンス体制のもとで監視しているのが取締役会およびその下部委員会である指名委員会です。

Q&Aおよびディスカッション(質問・意見は、三井さん、松浦さんの記録によります)

Q01:米国でも社内出身のCEOが80%前後ということであるが、人材の流動性の大きい米国の現状を考えると納得できない。他社から移動してきた人物がCEOになっているケースも多いのではないか。

A01:その通りである。ここでいう社外調達のCEOというのはCEOになるために社内に入った人物ということである。

Q02:米国では中規模以上の企業はすべて独立取締役から構成される三委員会というガバナンス構造を有しているのか。創業者CEOがいるような企業ではどうなっているのか。

A02:勉強会で取り上げているのはNYSEの上場基準であるので、対象は大企業である。NYSEが推奨するようなガバナンス体制は相当大がかりなものであり、中堅企業が実現するのは事実上困難であろう。上場企業にしても、Comply or Explainであるのですべてがそのような体制を実現しているわけではない。重要なことは、NYSEのいう委員会を構成することではなく、そこで提言されているガバナンス機能を実現することである。ファミリー企業でも創業者CEOの企業でも同様である。

Q03:指名委員会がガバナンス体制の頂点に位置し、指名委員会委員長が大きな権限を持つことに弊害はないのか。

A03:NYSEのガバナンス体制は、委員会憲章、委員会ごとの委員である独立取締役の要件、委員会活動の自己評価等を前提としており、委員会ごとに、そして取締役会全体として内部統制が機能することを要求している。指名委員会も、十分注意しなければ弊害が生じるリスクがあるので相互に監視し、牽制し合うことが不可欠である。ガバナンスに限らず、どんな体制もどんな組織も監視を怠ると問題が発生することに注意しなければならない。

Q04:株主の意見を反映させるべく、CEO選任は株主総会の決議事項にすべきではないか。

A04:取締役会で選任するからこそ、独立取締役がリードする取締役会が必要であるというのが米国流の考え方である。ただし、定款に基づき株主総会でCEOを選任することができる。その場合も株主総会に提案するCEO候補者をどのように決めるかが問題になるであろう。

Q05:社内取締役が非業務執行取締役に就任する意義は何か。

A05:業務執行に責任を負っていないのであるから、業務執行役員を独立な立場から監督できるだろうという考え方に基づいている。日本でも非業務執行社内取締役がいる会社がみられる。

Qo6:取締役会に執行役員が出席する意義が大きいと思われるが、これを積極的に推進する動きはあるのか。

A06:(取締役でない)執行役員の取締役会への出席の意義は議題による。「積極的に推進する」ということが制度化(法制化)ということであればそのような話は聞いたことがない。既に各企業がケースバイケースで行っていると思われるので、とくに積極的に推進する必要がないのではないか。

Q07:指名委員会が取締役会にCEO候補を提案する際は、必ずしも一人ではなく2,3人の候補者リストを提出するのか。

A07:ケースバイケースであろうが、複数の候補者を提出することが多いと聞いている。

Q08:日本ではCEOの選任・解任について株主の意見を聞く場がなく、パフォーマンスの悪い社内CEOが居座ることが多く、日本経済低迷の一因となっていると思われる。改善策はあるか。

A08:法定にせよ任意にせよ指名委員会を設置し、合理的な選任方法を定めるしかない。重要なことはCEOの適性、能力等を判断するには、過去の実績など人材のヒストリーが不可欠であるから、従業員を人材として評価・処遇するHRM(Human Resource Management)が前提であることに注意しなければならない。これが本日のテーマであるCEO後継者育成計画の考え方でもある。

Q09:No2の役員を引き留める策としてどのようなものが考えられるか。

A09:米国における代表的な引き留め策は報酬と処遇と言われるが、No2まで上り詰めたら報酬しかないのではないか。ただし、このことが米国のCEO報酬が高額である原因になっていると言われる。

Q10:指名/CG委員会の委員長がCEOを兼ねた場合、どのような効果または問題が想定されるか。

A10:NYSEのルールでは三委員会のメンバーは独立取締役であるから、CEOが指名/CG委員会の委員長になることはありえない。

Q11:機関投資家は投資先の選択肢を持っているにも関わらず、投資先の10年、20年先の業績に注目する理由は何か?

A11:年金、大きな財団などの機関投資家の資産運用方針は長期分散投資であるので、短期的な銘柄の入れ替えは行わない。したがって、保有した株式の会社には、長期的な運用パソーマンスを期待する。そのために、良いガバナンス体制のもとで良い経営が行われるように、投資先企業のガバナンスに大きな関心を持たざるを得ない。

Q12:指名/CG委員会は社内の実態把握にどの程度時間を割いているのか。CHRO等の業務執行に依存し過ぎると、情報操作されたりして合理的な意思決定ができないというリスクがあるのではないか。

A12:指名/CG委員会の開催は10回以下という会社が98%と聞いている。そのうち半数が5回以上である。当該委員会はCEOおよびCHROと緊密はコミュニケーションを持つことが重要である。また、CEOおよびCHROの株式報酬を長期的業績と連動させ、CEO、CHROが、将来の経営幹部として優秀な人材を育てることに関心を持たせるようにすることが重要である。

Q13:指名/CG委員会のメンバーは、経営者としての経験と能力を相当備えていなければ役割を果たせないのではないか。

A13:その通りである。米国では、指名/CG委員会メンバーに限らず、取締役には、業界知見、執行役員経験(CxO)、国際ビジネス、リスクマネジメント、テクノロジー/IT、ファイナンスなどなどのスキルや経験が必要であると考えられている。

Q14:指名/CG委員会の委員長と取締役会議長の関係はどのような関係にあるべきか。

A14:あるべき論はないと思う。独立取締役が各自がしっかりしていれば同一でも別々でも、どちらでも良いのではないか。指名/CG委員会委員長を牽制するという意味では、取締役会議長は別人の方が良いかも知れないが、いずれにせよケースバイケースで一般論はないと思う。

Q15:CEOが取締役でない事例があるか。

A15:具体的な事例は知らないが、あるということである。しかし、CEOが毎回取締役会に出席する状態でないと、CEOが取締役会のガバナンスを感じる上でも取締役会がCEOを監督する上でも効率が悪いのではないか。

Q16:社外から招聘されたCEOはパフォーマンスが低く在任期間が短いということだが、業績が悪い会社に社外CEOが入り、短期間のうちに業績を回復させるという策もあるのではないか。

A16:可能な限り次期CEOは社内からという認識が一般化している米国でも、もちろん例外はあると考えられている。例えば、何か問題を起こして経営がピンチになっている会社の場合、次期CEO候補者全員が傷を負っていたりあるいは汚れていたりすれば、外から優秀なCEOを呼ぶしかない。

参加者の意見:日本の問題の一つはパフォーマンスが悪い会社に対して株主の力が働いていないことだと思う。それは株主のレベルが低いということかも知れない。CEOは将来の利益のために手を打っていかなければならないと言われるが、将来のキャッシュフローの現在価値が株価であるから、株価が低迷しているのは将来のキャッシュフローが期待できないということだ。日本では株価が低迷している。それは現在のCEOが将来のキャッシュフローのために正しい手を打っていないからだ。株主は「CEOは代われ」と言わなければならない。言わないのはレベルが低いからではないか。

以上

 

 

 

 

 

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