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第7回コーポレートガバナンス勉強会「報酬委員会と役員報酬:Q&A」

コーポレートガバナンスのベストプラクティスを米国に範を求め、前回は指名/コーポレートガバナンス委員会を紹介したが、今回は報酬委員会と株式報酬の実態をとりあげる。アベノミクスのコーポレートガバナンス改革の下、わが国でも急速に株式報酬が普及しつつあり、米国で行われているさまざまな株式報酬プランに関心が持たれているが、今回は特色ある米国CEOの報酬構成の実態に焦点を当てる。

役員報酬は、費用として株主の利益を減ずるので、株主にとっては「経営を委任するコスト」であるが、他方, 工夫次第で経営者を同期づけることができるので利益を生むインセンティブとして機能する。したがって、株主は「役員報酬は利益を生むためのコスト」と認識することが重要であり、株主は、①コストと効果(利益)の関係は明確かということと、②トータルで見て、インセンティブとして効率的に機能しているかということに関心を持たなければならない。

NYSE上場会社の場合、役員報酬を監督するのは報酬委員会である。報酬委員会の第一の使命は、株主価値の創造に向けて経営陣を動機づけるためにインセンティブ・システムを確保することである。そのために、株主より取締役会に与えられている決定権限の多くが報酬委員会に委譲されている。大半の企業で報酬委員会には、①CEOはじめ執行役員の報酬制度の設計、②Annual reportにおける報酬制度の詳細な開示、③役員報酬プランの更新・改訂、④報酬制度のPlan-Do-Seeサイクルの監視、⑤執行役員の臨時収入(退職金等)の確認および⑥CEO/執行役員の報酬プランに対する外部評価の調査等について権限が与えられている。

これらに加えて、報酬ポリシーの策定も重要な責務である。報酬哲学に基づき報酬原則や報酬戦略等を体系化したのが報酬ポリシーである。報酬ポリシーで、①役員報酬制度の目的を明確にしておくことは、株主に対して、自社が役員報酬を通じて何を実現したいかというメッセージを発信するのに役立つと同時に、②報酬に関する考え方を定めておくことで、明確なフレームワークの中で議論を進められるというメリットがある。

このような報酬構成のもとで、米国大企業のCEOは世界でも稀なCEO報酬を得ている。その特徴は次の3点である。①長期インセンティブとして株式報酬のウエートがきわめて大きいこと,②最近30年、報酬額が急上昇していること、および③CEO報酬が企業業績や株価、世間的な物価水準、労働者の賃金額などとは無関係に高騰し、社会における格差の拡大を助長しており、多くの批判を受けていることである。今回はまずその実態を明らかにする。その中で、SECは、高額報酬役員5人の個人報酬額の開示、株主総会におけるpay-on-say、あるいはペイレシオの開示等を制度化しているが、これらについては別の機会に譲る。

Q&Aおよびディスカッション(質問・意見等は、松浦さん、藤島さんの記録を参考にしています)

Q01:株式報酬の内訳にStockとOptionsがあるが、株式とストックオプション(SO)にはどのような差異があるのか。

A:SOは値上がり分しか反映されない、つまり株価が権利行使価格を下回ってもSOはゴミになるだけである。したがって、経営者は度を越したリスクテイクに走りやすい。株式だと、付与された時より株価が下落すると損失を被ったと感じるので、リスクテイクに慎重になる。アクセルとブレーキの関係である。株式だと値下がり分も影響するので経営者は慎重になる。株主はStock とOptionsの組み合わせを選好する。

Q02:株価は下がっても価値はゼロにはならない。権利行使ができなくなるSOよりむしろリスクテイクに走るのではないか。

A:いったん所有したものの価値は大きく感じ、それを手放すのが惜しくなる。それが保有効果だ。人間の心理として株式を付与された時の価値が重要で、その後株価が下がると損をしたと思う。

Q03:企業価値を株価だけで決定し役員報酬に連動させることに違和感がある。

A:少し説明が足りなかったと思う。株式報酬を付与するときには事前または事後に業績評価を行う。事前評価の場合で説明すると、売上高や利益などの業績指標の(数年分の)実績を用いて業績評価を行い、それに基づいて株式報酬の付与額(株式やSOの付与数)を決定する。それを現金化しようとすると金額はその時の株価次第というのが株式報酬である。

Q04:日本の長期インセンティブの比率が低い理由は何か。

A:現在の現象で言えば、業績連動型インセンティブ報酬制が導入されてから日が浅い事が一因と思う。(以下捕捉:原点を辿れば平等主義が根本にあるのではないか。同じ会社の中では、みな人間として平等であるから、業績で報酬に差を付けるのは好ましくないという「結果」平等主義である。また、人間はお金で動くのではないという価値観があるのではないか。これまでの年功賃金制では、役員とは言え大した個人財産を持っていないので業績連動部分が大きいと現実問題として生活ができないというようなこともあると思う。)

A:(山口隆太)・・インセンティブとして適切に認知されていないことや、交際費など隠れたフリンジベネフィット(注:米国ではperquisites, perks)があることも影響しているのではないか。とくに大きいのは税制の問題である。税制適格ストックオプションとして、キャピタルゲインへの20%課税で済ませるためにはストックオプションの行使価格の年間合計額が1,200万円以下であることが条件とされていることから、ストックオプションの利用に制限があることも影響していると思われる。

意見:(不明)日本のCEO報酬が低い理由は日本企業の経営体制が集団指導体制でCEOだけが飛び 抜けて高い報酬を得る根拠に欠けると思う。ただし集団指導体制が無責任体制になるリスクが有ることに注意する必要がある。

意見(渡辺):米国の企業経営はCEO主導型の経営スタイルが採られており、スーパーマンCEOの絶対的権限と責任並びに報酬体系が一体的に捉えられていると思う。

意見(笹川):日本はサラリーマン経営者が多いが、米国では、役員の市場が成立しており国籍を問わずタレント経営者が多いのも原因していると思われる。

Q05:(松浦)米国のCEO報酬が米国企業の利益の伸び率を遙かに上回る伸び率が長年続き、企業の利益や経済成長率・株価上昇率等で説明できないレベルにあることは、独立社外取締役で構成されている報酬委員会が有効に機能していない証拠ではないか、またCEOの「辞める」等の脅しに対しては、サクセッション・プランでNO2, NO3を育てて置けば対抗できるはずなのに、これができないというのは指名委員会も機能していないという事ではないかと思いますがいかがですか。

A:(渡辺)指摘は最もだが、報酬委員会が無いよりはある方がましでは無いかと思う。

A:NO2, NO3も、実力が社外で認められていれば他社からの引き抜かれるおそれがある。それに対抗するためには、やはり十分な報酬が必要である。このように報酬には、インセンティブのほかに「引き留め策retention」という手段的な側面がある。この意味の報酬は日本でも使われていると思う。

Q06:日本の報酬委員会にはインターロッキング(相互兼任)の問題は認識されているのか。

A:(藤島)同問題の所在は報酬水準の引き上げを画策されるリスクにある。日本の場合、未だ報酬水準が低いこともあり、このような問題が議論される状況にはないのではないか。

Q07:積極的リスクテイクで株主価値創造を追求するということであるが、投資と投資の成果の間にタイムラグがあり、投資による株主価値創造でCEOがStockやOptionsの売り抜けを役員が図り、その後投資の成果が表れず、または多額の損失が発生し、結果として役員報酬の過払いとなる問題を如何に防止しているのですか。役員報酬を設定するときにクローバック条項を付すのも一つの方法と思われるが、米国 ではクローバック条項を付すのは常識になっているのですか

A:クローバック条項はごく普通に報酬契約に含まれているようである。また長期インセンティブ報酬においては、投資の成果が表れない時、または多額の損失が発生すれば株価に反映されるので、過払いの状態を回避できることもある。行使した後でもクローバック条項により取り戻される可能性がある。

注)クローバック条項(Claw back):投資に伴う巨額損失や大幅な業績下方修正、不祥事などが発生した際に過去に支払った報酬や現金化済みの株式報酬などを会社に強制返還させる仕組み。

Q08:米国の役員報酬および報酬委員会の改善に関わる次のテーマは何か。

A:ビジネスラウンドテーブルでも表明された、ステークホルダー重視の動きは無視できない。もっとも米国では「会社は利益を稼ぐもの」「会社は株主のもの」という点に疑いの余地はなく、これに持続性を持たせるために「ステークホルダーとのバランス」を重視すべき、というのが議論の本質であると思われる。株主価値創造が経営者の本質的な役割であることを否定したものではと理解される。トランプ大統領の再選を後押しする政治的な配慮であるとする意見もある。

 アセットマネジメント業界では、ESGに配慮した経営を行っている企業のTSRが高いというデータが用いられているが、ESGと株主価値創造の因果関係は明瞭ではない。多分ESGに配慮した経営を行っている企業は概して収益力に余力が有る企業が多いことから、収益力の余力を評価して株価が上昇しているという見方も考えられる。

以 上

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