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第7回ファイナンス勉強会「金利スワップと信用格付け:Q&A」

負債調達には、融資の完済まで金利が固定されている固定金利型と、返済期間中、一定期間ごとに、市場金利などの変動に対応して金利が上下する変動金利型とがある。一般的傾向として事業法人は固定金利型を、金融機関は変動金利型を選好する。しかし、時間とともに変動する金利の下で、企業が選択できる調達金利が選好する金利型とは異なるというリスクがある。そのようなときには、負債調達後に金利型を変更する手段があれば企業にとって好都合である。その手段が金利スワップである。
金融機関は、預金などの低い変動金利で資金を調達し、費用や利益を上乗せした固定金利で貸し出し、その金利差で利益を得ている。しかし、変動金利が固定金利を超えて上昇した場合は、逆ザヤが生ずる。1970年代の米国、オイルショックやニクソンショックで変動金利が乱高下する中、住宅ローン貸付を主業務にしていた多くの金融機関が破綻したところから、金利変動によるリスクを回避する方法として、投資銀行が考案したのが金利スワップである。なお、リスク管理の手段として金利スワップをオプションの対象とするデリバティブズが利用されているが、それがスワップションである。
負債を調達する企業財務は金利変動始めさまざまなリスクに直面しているが,企業に貸し出しをする金融機関も、社債を購入する社債投資家も、つまり負債の供給者もリスクを負っている。企業が負債供給者に支払うキャッシュフロー(元利)は確定している。変動金利の場合も、金利が定められた一定期間については確定している。しかし、①貨幣の時間価値により、確定した元利キャッシュフローの現在価値は金利によって変動するので、社債価格もそれに応じて変動する。また、②株主の有限責任により負債の元利が確実に支払われるとは限らない。社債の場合には、とくに満期までの期間が長いので、企業の変質-有限責任への影響度の変化-が問題になる。
債権者は、貸倒リスクを正確に見積もることができれば、正当なリスク・プレミアムを課すことにより、貸倒リスクに合理的に対処できる。ここで次のような問題が生ずる。①貸倒リスクを正確に見積もることができるか?②負債の契約をした後の企業の行動によっては貸倒リスクが変化するのではないか?企業はダイナミックに変化しているので特にこれらの問題が重要である。①が専門の信用格付機関が行う信用格付けであり、②が、社債投資家が負債を調達する企業の行動に制約を課す財務制限条項の設定である。

Q&Aおよびディスカッション(質問・意見等は、松浦さん、田中さんの記録を参考にしています)

1. 米国投資銀行の行動様式

・ 米国投資銀行は新規の金融商品を開発するが新規商品についてのリスクについて投資家から質問無い限り積極的に説明することはしないのではないか。一方訴訟されない程度のリスクの開示はする。各種情報に対する分析力が無い投資家が損をするのは自業自得の考えが根底にあるように思う。

2. 企業が固定金利を選好する理由

・ 企業のキャッシュフローはさまざまなリスクや不安定性に晒されている。本業ではないファイナンスの面でのキャッシュフローに関しては安定的確保を図る傾向がある。
・ (参加者)格付け機関も支払い能力の評価の観点から変動金利社債より固定金利社債の格付けを有利に扱っている。

3. 実際のスワップションのマーケットは大きいのか。

・ 世界には多数の企業がありさまざまにニーズに直面している。相応のマーケットも相応の規模のようである。http://www.jsri.or.jp/publish/research/pdf/92/92_04.pdf

4. 減債基金積立制度について

・ 日本では社債は償還されず借り換えが行われるので減債基金を積み立てている企業はほとんどないとのことである。他方、日本では国債については減債基金積立制度が適用され、対外的にはそれが国債の信用力を高めていると言われる。

5. 社債の満期期間に累積デフォルト率が連動するのであれば、満期期間を細分化して累積デフォルト率を精査すればリスクプレミアムを下がる可能性はあるか

・ ここで計算した貸し倒れリスクのプレミアムの計算は、期間は1期間、貸し倒れの時の回収率は0パーセントなど、きわめて単純化されたモデルに基づいている。これらの仮定を変えれば累積デフォルト率は下がる可能性がある。

6. (意見:山口)銀行では要注意先に対し5%の引当金設定制度を適用してきたが、今回提示されたS&Pの累積デフォルト表ではBB格付の5年物のデフォルト率が4.82%と5%に近い事から5%の引当金設定制度の納得がいきました。

7. 大きい投資家がBBBを投資基準としつつも、BBに投資するのはリスク管理してるのか。

・ 分散投資をしてリスクを分散しつつハイイールドで債券ポートフォリオの利回り全体を引き上げている。

8. (意見:山口)High Yield債が流通したが、High Yield債のリスクの評価が十分で無かったことをこれらのデータが証明していると思った。いくら分散投資をしても格付けがいい加減であったら意味がない。

9. この累積デフォルト表は社債発行時の格付なのか、またはデフォルト発生時の格付な
  のか。

・ デフォルト発生時の1年前の格付との注がある。

10. (意見:松浦)発行体(企業)の格付は長い歴史があり格付手法が確立しており格付の精度が高いと思われるが、2000年以降活発化した投資銀行が開発した仕組債(金融機関等がPaper Coに正常債権と疑わし債権=サブプライムローンを譲渡し、これらの債権を組み合わせた社債、更にはAIG等の保険会社の信用保証=Credit Derivative付きの社債等)に対しても格付機関が格付をして、仕組債の流動性を高め、金融機関は益々サブプライムローンを実行して、高利益と高報酬を追求し、仕組債のアレンジャーである投資銀行も同様の行動様式で仕組債市場を拡大したが、サブプライムローンのデフォルト率が上昇し、また信用保証残高が巨額に達していたことが発覚し、一気に仕組債の市場は縮小して2018年問題のキッカケになったと理解しているが、この問題に対する格付機関の役割は大きく且つ責任が重かったと思う。

11. (意見:渡辺)日本と米国の企業倒産率等を考える際、企業倒産法の違いも影響していると思う。

12. (意見:山口)日本の企業は万一に備えて社債を発行しており、資金に余裕がありデフォルト率が低いのは当然の帰結と思われる。

13. 以前は2部上場企業においても、借入の際、経営者が個人保証を発行しているケースがあったが最近はどうか

・ (田中)最近は上場申請時に幹事証券会社が経営者の個人保証を外すよう指導している。

・ (山口)平成26年の経営者保証に関するガイドラインによる社長個人保証を解除する制度の導入(日商と全銀協)と、中小企業庁・信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止により、個人保証に頼らない融資が促進されている。因みに従来は保証金額や期間を定めない包括根保証を社長から徴求していたが、民法改正により包括根保証は平成17年から禁止となっている。

14. (意見:松浦)日本と米国の倒産法の相違は、日本に米国のチャプター11に習った民事再生法が成立してからは、殆ど無くなったと理解されますが、個人保証の存在が民事再生法の申請を躊躇させている可能性は十分あると思われる。

15. (意見:武)個人保証により保証人の生活権が脅かすことになるのであれば、個人保証の取り付け憲法違反ではないのか

16. 意見(松浦)個人保証の取り付け自体は憲法違反とは思わないが、個人保証の実行が保証人の生活権を脅かすまでの過酷なものであれば、社会問題に発展すると思われるも、一般企業が個人保証を実行する場合は保証人並びに家族のためマンション等の手当てをした上で豪邸等を処分しているのが現状である。

17. 格付機関の実態は開示されているのか

・ (松浦)或る格付機関のNY本店を訪問して格付が決定されるプロセスの説明を受けたことがあるが、重厚なオフィスでセキュリテーが厳重で高級オフィサーが多く、最高意思決定機関に著名な投資銀行のCEOが就かれていたが、財務内容等の開示はなかった。格付機関も、監査法人が被監査企業から監査報酬を得て監査報告を出しているのと似た構図で、発行体から格付報酬を得て格付しているので、発行体並びにアレンジャーである投資銀行からの独立性が重要な問題である。

18. 格付機関を監督する機関はあるのか

・ 議論では「ない」と答えたが、平成22年度に信用格付業者制度が創設され、格付業者は登録制になっている。監督官庁は金融庁であり金商法も信用格付業者の規制を行っている。

https://www.fsa.go.jp/news/22/syouken/20100930-1.html

19. 高格付にデフォルトが発生した場合、格付機関が投資家から損害賠償を請求されたケ  -スはあるのか。

・ (松浦)格付は保証ではなく、格付機関の意見(評価)であり投資家が最終判断を行う構図になっており、私の理解では訴訟のケースは無かった。2008年、問題が発生した時に、格付機関に対する批判と格付機関を公的機関にすべきとの意見が多く出されたが、その後それらの意見は消えてしまったと理解している。

以 上

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