JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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第9回 2019 英米のコーポレートガバナンス改革「アングロ・サクソン流ガバナンスの成立:Q&A」

英米のコーポレートガバナンスいわゆるアングロ・サクソン流のコーポレートガバナンスは概ね次のように整理することができる。

1.会社法も判例・慣習に基づいて解釈される:法律を用いた規制強化より企業の自主性を尊重
2.コーポレート・ガバナンスにおいても社会の慣習に則して民間の自主規制機関(証券取引所)のルールが重視される a.実施されるべき望ましい慣行の特定・規範化:Best Practice b.規範の遵守についての勧告:Comply or Explain
3.発達した資本市場・活発なM&Aを通しての企業経営支配(ガバナンス)
 ①機関投資家を中心とする投資家の合理的な行動
 ②株主の積極的な投資家行動(議決権行使など)
 ③企業側のディスクロージャー対投資家の評価の対峙
 ④M&Aによるガバナンスの流動化
4.取締役会よるガバナンスと執行役員によるマネジメントの分離
 ①CEO等の執行役員には絶対的な執行権限を与える
 ②監督者である取締役と非監督者である執行役員とは別人にする
5.取締役会の監督機能の強化
 –独立取締役で構成される三委員会(指名、報酬、監査)による経営者の規律づけ

米国では実務を通してこのような取締役会のガバナンスを確立してきたが、英国では民間委員会報告の積み重ねでコーポレートガバナンスを概念化し体系化してきた。その出発点になったのがカドベリー委員会報告書(1992)である。1980年代英国では不正経理による企業不祥事が相次ぎ社会問題になった。そこで証券取引所や会計士協会が音頭を取りカドベリー委員会が発足した。そこでは取締役会のガバナンスのあり方が示されコーポレートガバナンス原則の嚆矢となった。その後次々と委員会が組織され報告書が積み重ねられていった。それらの提案がまとめられ統合規範(The Combined Code;1998)として体系化された。統合規範は、その後、何度となく改訂され、2008年の改訂版では第Ⅰ部会社、第Ⅱ部機関株主の二部構成になり、さらに2010年にはコーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードという独立した二つのコーポレートガバナンス原則の形になった。これらは世界各国のコーポレートガバナンス原則のベンチマークになったと言われている。わが国においては、東証のコーポレートガバナンス・コードはOECDのコーポレートガバナンス原則の流れをくんでいるが、日本版スチュワードシップ・コードと呼ばれるものは英国のそれを見倣ったものである。
米国のガバナンス改革も企業の不祥事を契機に進んできたが、委員会が組織されることはなく株式の売買やM&Aなどの、株式市場における投資家行動によって行われて来た。

勉強会では、英国の2018年改訂コーポレートガバナンス・コード改訂および2019年改訂スチュワードシップ・コードを紹介しながら、最近のコーポレートガバナンスの関心事を観てゆく。

Q&Aおよびディスカッション

本日の勉強会「英米におけるコーポレートガバナンスの進展」の質疑応答について以下備忘録を記載します。但し三井さんが議論に係わった箇所は三井さんに議事録の作成をお願いしています。(松浦)  (以下は松浦さんの記録を整理し補足したものです。若杉)
 (12/30三井さんから英国のESGに関してコメント(C04)がありました。若杉)

Q01:今回の改正の主なポイントは何ですか

A01:従業員との関係強化、②企業目標・戦略と企業文化の整合性、③取締役会の多様性と後継者計画並びに④経営者報酬制度の4点である。(若杉)

Q01-1:それぞれ今までもいわれてきたことであり新鮮味がない。それに総花的である。

A01-1:確かに総花的と言えばそうであるが、企業にはやらなければならないことがあるので、どうしてもそうならざるを得ない。しかし、ルールが決まると、それが独り立ちし銘々勝手な方向に動いて行くのが通常である。改訂コーポレートガバナンス・コードでは、四つのカテゴリーがシステマティックに関係づけられており、社会に支持される企業価値の向上という観点から統合されていることが特徴だと思う。(若杉)

Q02:今回の改正は所得格差が大きくなって社会問題化していることに配慮しての改革と理解して良いか。

A02:そうだと思う。基本は企業において誰が価値(具体的には付加価値)を創造しているかといいうことである。労働と資本とで価値を創造するのであるが、経営者の意思決定が価値の創造に最も大きな影響力を持っている。そのように考えれば、経営トップの報酬が従業員の報酬より大きいのが当然である。しかし、同じ会社の中でその差が大きくなると不公平感が高まり従業員の不満が大きくなるのは当然である。それを社会的に解消しようとするのが累進的な所得税制であるが、税は見えないのでなかなか不満解消にはつながらない。そこで経営者報酬の報酬を抑制し、社内で所得格差の問題を軽減しようというのが改定コーポレートガバナンス・コードの考え方である。(若杉;ブログでの捕捉)

A02-1:日本では従業員重視のコーポレートガバナンス改革と喧伝されているが、今回の改革は長期的に企業価値を想像するための従業員との関係強化であり、株主重視のコーポレートガバナンスに変わりはない。企業目標・戦略と企業文化との整合性も、企業目標・戦略が実現できるように企業文化の構築することを求めていると思う。(若杉)

Q03:取締役会は自社の企業文化をモニターして評価するとあるも、企業文化は計測できるものではないので、如何にして評価するのか疑問である。

A03:確かにその通りである。私見では、(将来の企業の姿を計量的に描いた)ビジョンや企業行動ガイドラインに「事業を通して社会に貢献することにより企業価値を追求する」というような企業理念(実際にはもっと具体的に記述する)すべての従業員に配布し、日々の行動にそれを生かすように、経営者が説くことであると思う。それを行っているのがジョンソン&ジョンソンである。ぜひ、同社の「わが信条」をじっくり読んで下さい。https://www.jnj.co.jp/about-jnj/our-credo (若杉)

Q04:英国の改訂コーポレートガバナンス・コードでは従業員とのエンゲージメントを強調しているが、従業員の利益と株主の利益との間にはコンフリクトがあるのではないか。

A04:現代の豊かな社会(ガルブレイス)においては、個人はある程度の貯蓄を保有している。それらは保険会社の投資や投資信託、あるいは年金基金の資産運用により、株式に投資されている。つもり人々の多くは労働者であると同時に資本家・株主なのであり、株主と働く者とは対立する関係ではない。このような認識が基礎にあることを改訂コーポレートガバナンスの表現からは読み取れる。(若杉)

C04:昨年改定された英国のCGコードは、会社法セクション172で求められるマネジメントの責任を履行し、それを報告することを求めています。S172は新しい法律ではなく、以前からかかげられていたものです。
S172の要件とは、マネジメントは株主利益を最大化するために、関係者全体の利益が損なわないよう誠意をもって経営にあたらなければならい、とし、そのための留意事項として、・長期経営、・従業員の利益、・顧客やサプライヤーとの関係育成、地域社会や環境にあたえる影響、レピュテーションなどを挙げています。  つまりこれらの要件を履行することを、ESGへの配慮をなるといわれていると思います。(三井)

Q05:経営者の説明責任について、その重要性がもっと強調されるべきではないか。

A05:経営者は株主の財産を預かり、それを元手に営利事業を行い、利益を上げて株主に分配する。自由経済を基礎とする資本主義では、事業にはリスクをともなうので、株主は「これだけの利益上げて下さい」と確定した数字を示すことが出来ないので、「最善を尽くして下さい」というお願いしか出来ない。このような契約を「委任」契約という。1年間事業を行った後、経営者は株主に「最善を尽くした」結果これこれの利益になったということを報告しなければならないが(財務報告)、その時に「最善を尽くした」ことを証明しなければ責任を果たしたことにならない。この証明のことを「アカウンタビリティ」というが、日本では「説明責任」と誤訳し、安穏として経営者はトップの座についている。「アカウンタビリティ」は、委任契約の責任を果たしたことを証明する責任であり、「証明責任」と言うべきものである。ただし、日本社会にはない概念であるので、「証明責任」と訳してもまだ訳し足りない。Accountabilityはアカウンタビリティとしか言い様がない。Governanceがガバナンスとしか言い様がないのと同じである。(若杉)

Q06:日本の場合、社是等には社会的貢献等の記載はあるも、株主価値重視等の記載はなく、企業の社会的責任は認められているが、株主価値増大等は企業の目的には組み込まれていない。なぜだろうか。

A06:これまで日本人の多くが、「資本主義の大前提である私有財産制度の下では、企業の所有者は出資者であり、出資者は企業所有者としてガバナンスを有する」ということに納得していなかったからではないか。確かに、資本家の下で労働者は過酷な労働をさせられてきたことは確かである。貧しい社会では、労働者は多数いるが(供給過剰)、資本は少ないので(供給不足)、資本の力が強く、労働者は安い賃金で働かされるのは経済原理に基づいている。しかし、現代の日本のように豊かな社会では、資本が豊かになり、相対的に労働者の力が強くなっている。A04で述べたように、働く人も労働者であるとともに資本家であることを理解し、株式会社をいじめるだけでなく、その存在を大事にすることも必要である。(若杉)     

むすび:日本における政府の審議会のあり方や官僚のあり方等が問題になり盛り上がった。(松浦)

 

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