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第9回 2019 M&Aの論理「M&Aのメリットとデメリット:Q&A」

M&Aとは企業の買収・合併の総称である。ある企業が他の企業を買うこと、あるいは二つの(あるいはそれ以上の)企業が統合し一つの企業になることである。企業は営利-長期的には企業価値創造-という課題を与えられているのであるから、買収や合併により企業価値を創造しなければならない。残念ながら日本企業においては、M&Aにより企業価値を創造することを目指す企業は少なく、①内部留保を貯め込んで資金が沢山あるからとか、②ライバルがやっているから負けずにやるとかいうようなM&Aが多いと言われる。2つ(以上)の企業が合体するM&Aを成功させるのは容易なことではない。世の中には必ずプラスとマイナスがある。M&Aも同じである。今回の勉強会ではM&Aが行われて来た形態や理由をとりあげそこに潜む利益と費用を考えて見たい。M&Aにはさまざまな形態や方法があるが、M&Aの価値の源泉を、①シナジー効果、②経営の効率化、③市場支配力の獲得、④多角化、に求めてさまざまな側面を持つM&Aのプラス・マイナスを考察する。最後に、米国に特徴的な経営者のためのM&A-ガバナンスの先進国である米国ではあるまじきM&A-について考察する。

Q&Aおよびディスカッション(田中さん、松浦さん、議論の記録ありがとうございました)

はじめに

1.M&Aにおける企業評価
 M&Aにおいては企業評価(valuation)が出発点である。企業買収の場合、売り手企業の観点に立てば、①現在の事業を続けた場合の将来のフリーキャッシュフローの現在価値、②資産の簿価額、③資産を売却する場合の収入、あるいは④会社を清算した場合株主の手元に残る金額、のいずれかが基礎になる。これらの選択肢のうち最大金額が売却価格の下限になるはずである。買い手企業からすれば、その下限より高い価格を付けなければ買収は成功しない。その意味で、①~④の最大値が買い手企業にとってのコストである。このような考え方に基づくコストは、経済学ではopportunity cost(機会原価、機会費用)と呼ばれれが、コストの基本概念とされる。
買い手企業が、①~④のコストで買い取っても、もっと高い価格で企業の資産を売却出来るような経済状況であれば、企業を買収しその資産をバラ売りないし一括売却して利益を上げるとことが可能になる。あり得ないことのようであるが、1980年代の米国ではこのような買収が頻繁に行われた。
 正常な状況では、買収企業はターゲット企業を買収し、事業キャッシュフローを増加させ買収のコストより大きいキャッシュフローの価値(投資価値)実現しようとする。したがって、企業買収における評価は、買い手企業およびターゲット企業がそれぞれどのような状況にあるのか、その組み合わせによって異なることになる。それゆえ、いろいろな評価方法が挙げられているが、どれが適切かはケースバイケースであることを理解して、M&Aの企業評価のあり方を決めることが重要である。
 しかし、企業会計や税務会計が絡んでくると色々な問題が生じる。企業会計や税務会計においては簿価での資産価格が基礎になっているからである。企業会計では、企業買収を行った場合、買収企業の貸借対照表には、買収価格と資産価格との差額が「のれん」として計上される。これが日米企業のM&A行動に影響を与えている可能性がある。日本ではのれんは企業買収のコストとされ、一定期間の間に費用計上し償却することが求められる。他方、米国においては、償却が認められていない。今回の勉強会ではのれんの償却が議論の対象になったので、このことを考慮に入れて以下の議論を読んでください。

2.経営者がM&Aを好む理由

米国の経験(実証研究)が示すところでは、M&Aによって利益を得るのはターゲット企業の株主であり、買収側企業の株主はほとんど利益を上げていない。それでも経営者がM&Aに積極的なのは①経営者の自信過剰、②経営者と株主との利益相反問題という理論がある。後者①によれば米国ではM&Aで企業規模が大きくなるとCEOの報酬が上昇するので、株価が下がってもトータルには経営者にとってはM&Aはプラスの効果があるというのである。米国の経営者は、自分がやれば困難なM&Aも成功に導くことができるという自信を持っているというのが前者②の考え方である。

◆ 田中さんの記録に基づいて議論を整理した。

Q01:上場会社の場合は、時価純資産総額プラスのれんか。
   非上場会社の場合、類似会社比較法を用い、実際の差額がのれんか。
 A01: ネットアセットを引いた後に、さらに評価をし直して、カスタマーベースなどの価値を差し引いてのれんを決定する。(海外では)償却はしない。(栗田氏)
Q02:税務署との関係では、日本では償却をするので、時価純資産を越えるものをのれんというほかないのか。(松浦氏)
 A02:キャッシュフローに評価が基本であるが、のれんに関しては、上記のようにケースバイケースである(若杉)
   -のれん計上できないプレミアム(買収価格がコストを上回る額)が大きいとディールブレイク(破談)になる。(山口公明)
  Q02-1:のれんにならないプレミアムは最終的にはどうするのか
   A02-1:米国では一括で処理する。(山口)
    Q:税務署がOKするのか。
     A:税務と会計は別だから。(山口)
      公認会計士が決めたのれんで税務署と話をし、合意ができたところで決定する(大林)
      -業績が中途半端に悪いと、中堅層も悪いので、かえって得にならない。(山口)
Q03:売り上げが一兆円を超えると経営者の報酬が上がるのはなぜか。
 A03:報酬決定の際にコンサルタント会社を使うのが、その際の要素の一つである。報酬決定には、売上高のウエートが大きい。(渡辺)
Q04:米国ではのれんの償却がないというのが大きいのではないか。その構図がある限り少し高くても買っちゃえとなって抑制力がないのではないか。
 A04:米国のGAPでは償却しない。ただし、年度末に結構厳しく評価し直し減損会計で費用計上する。BSに載せておいてそのままという話でない。その意味では減損会計が費用計上の代替になっている。(栗田)
A04-1:ソフトバンクの決算がそう。投資先のウィーカンパニーの企業価値急低下で莫大な評価損が出たけれど、孫氏はそんなものだとうそぶいている。(渡辺)
Q05:合併でなく買収の時、ターゲット企業はシナジーがあるのだから買収価格をもっと上げろというが、買収側は、シナジーはこっちのものだといって応じない。
 A05:力関係の問題である。売り手が瀕死の状況であれば強いことは言えない。良く聞くのは、業績が下降している後継者難のファミリーが売りに出したとき、業績が好調だった過去の業績に基づいて買収価格をふっかけるという話である。(若杉)
Q06:シナジーはどうやって計算するのか。(武)
 A06:統合した後のキャッシュフローから予想した企業価値から現在の両者の企業価値の合計を控除した差額がシナジーの価値である。ファイナンス的にいえば簡単であるが、実際にはそれを予想するのが難しい。言うは易くなすは難しい。(若杉)
   -実務的にはシナジーものれんも恣意的だ。(渡辺)
 A06-1:当たり前のことであるが、交渉の時には、状況にもよるが、シナジーを全開せず小出しにするほうが望ましいのではないか。(若杉)
Q07:M&Aが成功か失敗かは容易には判断できない。(栗田)
 A07:理論的には株価が上がったか否かではないか。
  Q07-1:その瞬間の株価が上がれば良いのか?(栗田)
   A07-1:厳密には、株価が上がり、上がった株価が維持されているかどうかである。理論的には、M&A公表の一瞬に株価が上昇し、その後も株価収益率が維持されることである。(若杉)
C01:取締役会では、買収前にはシナジー、シナジーと言うけれども、買収後にはシナジーという言葉はいっさい出てこない。(大林)
C02:日本企業はシナジーの分析はあまりしない。(小松)
C03:M&Aを行った(前)経営者が分析させない。(渡辺)

80-20ルールに関連して
C04:私がいたGEのM&Aであるが、日本ではまあまあの結果を残しているが、海外では80%は失敗だったという統計がある。M&Aをやること自体が勲章になっている。(山口)
 C04-1:早稲田の服部先生の分析では、ほとんど失敗のようだ(渡辺)。
 C04-2:歯止めが効かないということが分かる(中村)
 C04-3:M&Aには社内政治も絡んでくる(山口)。
 C04-5:M&Aを正当化する数字を作るのは簡単だから。(渡辺)
 C04-5:株主の力が弱いせいではないか。クローバックつまり「役員報酬を返せ」というのが今後のテーマではないか(武)。

◆記録係の松浦さんからは、以上で議論は尽きているので、経験に基づき自分の意見を述べたいということでした。。

1.投資銀行とM&A
 1960年代の投資銀行はM&Aについては顧客へのアドバイス・サービスとして実施していたが、1970年以降は収益を追求する事業としてM&Aの仲介手数料並びにLBOを可能にするジャンク債の購入を積極的に行い投資銀行の収益を潤したが、それをやり過ぎたドレクセル・バーナムの破たん(1989年)でLBOブームは終焉した。
 2000年に入り、住宅・自動車ローンの証券化を投資銀行が主導して収益を上げたが  其のやり過ぎがサブプライム・ローンの問題を引き起こし、リーマンブラザーズの破たん(2008年)で世界的な金融危機を招いた。
 現在は投資銀行を仲介役とするM&Aが経営者の利益相反・自信過剰の要因も加わりブームが続いているが、M&Aの失敗事例は多く、M&Aのメリット・デメリットを慎重に分析して対応することが重要である。
2.のれん問題に対する最近の動き
 日経新聞は、米国並びに欧州ののれん残高が多額になり、2017年ののれん残高は米国300兆円超、欧州250兆円超となり、IFRSがのれんの定期的償却を真剣に検討していると報道している。
 米国基準がIFRS基準の修正に追随するか否かは不明なるも、万一IFRSがのれん償却10年を導入し、米国基準が追随した場合、S&P構成企業の年間利益がおよそ200兆円なので15%の減益要因になるとの意見も有る。

以上

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