JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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第10回 2019 コーポレートガバナンス勉強会「仏独のコーポレートガバナンス改革:Q&A」

仏蘭西
フランス社会および企業は次のような特徴を持っていると言われる。
1. ブルボン王朝の絶対王政やナポレオン帝政などに代表されるように伝統的に中央集権的な国家運営
2. エリート養成学校グランゼコール等の出身者が政府の要職を歴任した後、民間企業に移って企業経営にあたるのがふつうで、官民のエリートの間に人脈による強い横の繋がりがあるという特徴がある。いわばインナー・サークルにより国・企業が運営されており国の方針が企業経営に行き渡りやすい構造になっている。
3. 株式会社においては国&機関投資家が主要な株主であり、その結果、資本市場は発達不全である。
4. 株主重視よりステークホルダー重視であると言われる。その意味では日本に類似してる。
5. 重要な産業は国有企業が抑えており、そこでは株主利益より雇用の継続を重視したせいさくが取られている。その意味では、社会主義的傾向が強い。
6. 大企業のトップは天下りの高級官僚であり、公共部門と民間企業との間に強力な人的関係が存在している。それをベースに官僚主導型の企業経営が行われている。
7.主要な産業では国有企業が多く、大株主による株式保有や株式の相互持合も活発に行われている。社外取締役制度が定着しているが、取締役の相互派遣も盛んである。

このような企業慣行のもと、フランスのコーポレートガバナンス体制は次のような特徴を持っていた。➀一元的取締役会が一般的(ドイツ型の二層構造も認められているが採用している企業は少ない)、➁取締役会長と代表執行役を兼任するPDGに権限が集中、(3)株主総会によって選任された監査役が株主に代わって業務・会計を監査、することである。
勉強会では、このような環境の下で、どのようにコーポレートガバナンス改革が進められて来たかを明らかにする。

独逸
ドイツ企業を特徴付けるのは、1976年に成立した共同決定法である。従業員が2000人を超える大企業では、株主が取締役の半数を社外から選出し、従業員(労働者)が残り半数を選出する。この法律の下で、統治委員会(日本の取締役会に相当)は、株主選出の取締役と従業員選出の取締役で構成される取締役会(日本の翻訳では監査役会)と取締役会が選任した執行役で構成される執行役会とで構成される。日米などの取締役会と対比される、いわゆる二層式の取締役会である。

このようなガバナンス構造の下で、銀行がコーポレートガバナンスを支配し、銀行従属型の企業経営が行われて来た。1980年以降、グローバリゼーションが進み、銀行支配がさまざまな矛盾を生み出した。その結果、銀行支配-銀行のガバナンス-に対する批判が高まり、銀行行動も変わらざるを得なかった。
1.ドイツ金融機関は、M&Aによる競争力強化を目指した
 ・金融のグローバル化による国際的な競争圧力の増大から、ドイツ銀行やアリアンツなどの大手金融機関が、それまでの国内企業の安定株主としての役割を見直し、事業の収益性や効率性を重視する戦略へと転換せざるを得なくなった
 ・ドイツ銀行による米国バンカーズトラスト買収
 ・アリアンツによるドレスナー銀行買収など
2.金融機関は経営環境の変化への対応の中で①株式売却や②取締役派遣削減を実施した
 ・ドイツでは国内大手金融機関同士が株式を持ち合い、かつ個々の金融機関が複数の上場事業会社の大口株主であった時代が長く続いたが、1990年代後半にこうした状況に変化が生じた。
 ・つまり、事業会社の株主構成が大きく変化し、外国人株主のウエートが高まり、英米流の株主ガバナンスが作用するようになった。その結果
 ・株主価値をより意識した経営が、ドイツ企業の事業構造転換を促進した
 ・金融機関に株式を売却された大手上場会社の中にはコアビジネスに集中することにより企業価値向上を図ったり同業他社を安定株主に迎えることにより主力事業におけるシナジー効果を高める企業もあった。

2000年頃からシュレーダー政権の下でコーポレートガバナンス改革が議論され、DCG KODEXと呼ばれるコーポレートガバナンス原則が成立した。勉強会ではこの間の経緯を取り上げる。

 

Q&Aおよびディスカッション(松浦さん、三井さん、いつもありがとうございます)

Q01:フランスの筆頭取締役が取締役会議長に就任するケースは多いのか

A01-1:フランスでは筆頭取締役の制度があるが必置ではない。筆頭取締役は一般に独立取締役の中から選定され、独立取締役の調整およびガバナンスや株主に関連する職務を担うことが多い。PDG型の取締役会の場合、半数の会社が筆頭取締役を置いており、筆頭取締役が副議長としてPDGを牽制しているケースが多い。(若杉)

https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/corporate-governance/vol21.html 

Q02:フランスの場合、監査役が業務・会計を監査するとあるも、監査委員会との関  係はどうなっているのか。

A02:講義で紹介したように2001年以降のフランスの取締役会機構は、➀取締役会議長とCEO分離の一層型取締役会、②取締役会議長とCEOの兼任(PDG)の一層型取締役会および③取締役会と執行役会設置の二層型取締役会(ドイツ型)の3形態である。➀・②ともに株主総会は取締役と会計監査役を選任するが、➀では取締役会は会長と社長を別々に選定する。②では、会長と社長を兼任する取締役を選定する。③の株主総会は、取締役と執行役そして会計監査役を選任する。(若杉)

A02-1:内部監査と外部監査は,最終的な目的を異にするために直接連携することは難しい。しかし, 例えばフランスでは,それぞれの監査が固有の目的を見据えながら,監査委員会の機能を支援するという共通の目的を措定することにより,実質的かつ効果的な連携を実現することができる。フランスの内部監査人は,会計の専門的能力の向上に努めることで,会計業務監査を通じて会計不正の防止・発見に有効な情報を監査委員会に提供することができる。会計監査役は,企業のリスク管理システムや内部統制を理解して有効性を評価し,その結果を伝達することで監査委員会を支援すると同時に,内部監査に有用な情報を提供する。内部監査人,会計監査役,監査委員会の三者は,コーポレートガバナンスを通じて文字通りの連携を図ることができ,これによってそれぞれの監査の有効性が高まれば,企業経営の健全性の確保により一層貢献できるのである。蟹江章「フランスにおける内部監査と外部監査の連携」『現代監査』No.26より。なお、AFEP-MEDEF コードでは、三委員会の設置は推奨であり必置ではない(若杉)

Q03:社会及び環境に対する責任の遂行度合いを役員報酬の算定基準の一つとすべしとされているが、フランスでは社会及び環境に対する貢献度を算定する定量化手法が確立しているのか

A03:2010年7月に制定されたグルネルⅡ法の基本に、企業は活動によって生み出された社会的・環境的影響を検討し、必要な是正措置を実施しなければならないと書かれているとのことである。この法律では、上場企業が報告すべき42項目のリストが作成されているという。この中には定量的な項目もあれば定性的な項目も亜ある。ESG情報についてはブルームバーグ ESG データベースがよく知られているので、その収集・活用に関する次の記事を参照されたい。「企業のESG情報はどのように収集・活用されているか」(若杉)

http://sus-com.net/global/bloomberg/bloomberg_page1.php 

C01:日本では定年を迎えた官僚が民間企業に天下りするケースが見られるが、フランスでは官僚は若い時から民間企業に出向し、其の後、官僚として戻る制度があるため、日本とは比較できないほど、官僚主導型企業経営となっている。

Q04:ドイツの従業員と株主の共同統治制度において、従業員と株主の利害対立を如何に調整しているのか。

A04:従業員の共同決定への参加によってなされる。従業員の参加には、取締役会における企業レベルの共同決定参加と、経営協議会における経営レベルでの共同決定参加とがある。前者により、従業員は企業政策の決定に影響を及ぼすことができるとともに、企業政策の意思決定に対してモニタリング機能をもつ。他方、経営協議会においては、情報公開に関する請求・協議から人事や社会福祉に関する問題等について共同決定に参加できる。ただし、会社経営に介入することは禁止されている。経営協議会は、ドイツ事務所組織法により社内で従業員を代表する委員会として従業員5人以上の会社に設置がみとめられているもので、協議委員は従業員の直接秘密選挙(定足数無し)によって選出され任期は4年である。(若杉)

Q05:役員の競業避止に関連して65歳という年齢が出てくるがフランスにも定年制があるのか。

A05:フランスでは、雇用主は、従業員に老齢年金の満額受給資格があれば、本人が承諾することを条件に65歳から定年退職させることができる。満額受給資格がない場合、本人が勤続を希望すれば70歳まで定年退職させることができない。(若杉)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07000317/1006r5.pdf

Q06:フランスには従業員代表の取締役がいるがどのような条件で選ばれるのか。

A06:フランスでは、労使対話促進のために従業代表取締役の任命義務が定めれている。詳細は勉強会資料のP.9を見て欲しい。

Q06-1:従業員代表の取締役の身分は?

A06-1:取締役の間は従業員の身分はなくなり、取締役が終われば従業員に復帰すると推測できる。

C02:従業員代表となると、従業員からの独立性を如何に維持するのか、また会社役員としての矜持を如何に保持するのか等の問題が有ると思う。

Q07:フランスにも株主平等の原則があるのか。

A07 フランスでは、支配株主型企業は独立取締役の構成は2分の1以上では無く3分の1以上になっている制度、2年以上の株式所有者に2倍議決権を認める制度、更には国有企業の金庫株を認める制度等は、株主平等の原則と一線を画しているように見受けられる。

A07-1:株主平等とは何かという議論があるが、議決権に関する限りフランスには株主平等の原則はないといえよう。(若杉)

Q08:コーポレートガバナンスに関してはフランスもドイツも発展途上にあるのではないか。

C03:取締役会議長は株主側の取締役の中から選任され、決議案の投票が同数となった場合、取締役会議長は第2票目を投ずることが出来る制度となっており、最終的には株主の利益が優先される。

C04:日本においても、会社法改正の審議会で連合側から従業員代表監査役制度の導入を提案された。その趣旨は従業員からの内部通報制度の利用の活性化を図ることにより、企業不祥事の早期発見による企業価値毀損の防止とコーポレートガバナンスの強化に資するというものであったが、経団連等の反対で導入は見送られた経緯がある。

Q09:欧州ではコーポレートガバナンス体制が国ごとに異なり、上場企業数もドイツは700社強、フランスは1,300社程度(内半数は新興市場)と少なく、欧州の市場統合は前途多難と感じる。その意味ではコーポレートガバナンスも発展途上ではないか。

A09:現在はそうかも知れないが、EUが市場統合を強力に推進しており、意外と進展する可能性がある。

以上

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