JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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第12回 2019 コーポレートガバナンス勉強会「わが国のコーポレートガバナンス改革:ディスカッション」

 わが国の株式会社においては、コーポレートガバナンスの権限は明治以来監査役に与えられてきた。旧商法と呼ばれるわが国初めての商法は, 明治23年(1890年) に制定され、株式会社において、監査役は経営全般の監査権限を有すると定められ、経営監督権限と会計検査権限を与えられていた。その当時の監査役の責任権限は強大なものであったとされ、社会的地位も、代表取締役と並んで高いものであったとされている。監査とは「監」督「検」査の意味で、事前監査である「監督」と事後監査である「検査」の機能を併せ持つ機能である。諸外国では監督と検査は分離され、経営の「監督」機関、会計の「検査」機関とが分業されていたが、日本の監査役は2つの機能を内在する独自の機関であった。
 明治32年(1899)に新商法が施行され、監査役は業務全般の監査権限を与えられ、監査役について、①資格を株主に限定、②総会招集権限、③取締役の会社代表訴権が定められ、監査役の地位は本質的に経営監督機関と認識されることになった。時代は下り、第二次大戦後、昭和25年の商法改正で、アメリカの取締役会制度が導入され、監査役の経営監督機能は取締役会に吸収され、監査役には会計検査機能のみが残ることになった。
 昭和40年(1965)、山陽特殊製鋼倒産事件(倒産により粉飾決算が発覚)により、取締役会による経営監督の機能不全が露呈され、昭和49年(1974)の商法改正により、再度、監査役に業務監査機能を付与された。このことは、取締役会と監査役の二つの経営監督機関が並立することになった。昭和49年改正の意味するところは、ともに株主総会で選任された取締役と監査役とが重複した機能を持つことであり、世界でも類を見ない独自の制度といわれた。ただし、監査特例法により、➀資本金1億円以下の小会社においては、監査役は従来通り会計検査機能のみ、他方、➁大会社においては、会計監査人による会計監査が義務づけられたため(会計監査人制度創設)、監査役の会計監査と外部会計監査人の会計監査とが併存することになった。
 昭和51年(1976)、ロッキード事件等の企業不祥事が発生したことを契機に、昭和56年(1981)、商法が改正され、再度、監査役制度の充実が図られた。商法特例法上の大会社に複数監査役および常勤監査役の制度が導入導入された。監査費用請求権が定めれたのもこの時である。
バブル崩壊後の平成5年(1993)、証券・金融不祥事を契機に、監査役任期の伸張(2年→3年)および大会社の監査役員数の増強(2人→3人以上)が定められた(ただし、中・小会社では1人以上)。監査役会の法定および社外監査役制度も導入された。平成13年(2001)、議員立法による商法改正が行われ、➀監査役任期の3年から4年への伸張、➁取締役会における監査役の出席および意見陳述義務が明文化された。さらに大会社においては、③社外監査役の人数の拡充(1人→半数以上)、④社外監査役の社外性の厳格化、⑤監査役選任について監査役会の同意の必要等が定められた。
 この改正で画期的だったことは、世界標準である⑥委員会等設置会社が導入されたことである。明治以来100年以上続いてきた監査役によるガバナンス体制の終焉であった。大会社・みなし大会社では、⑥取締役会の中に社外取締役が過半数を占める監査委員会、指名委員会、報酬委員会の三委員会を設置、⑦業務執行を担当する執行役を置き、取締役会決議事項について決定権限を大幅に執行役に委任するという「三委員会+執行役体制」が導入されたことである。委員会等設置会社では監査役を置くことができないということで監査役との決別がなされた。その後、平成17年(2005)、商法から離れて「会社法」が独立し、 内部統制システム義務付け、委員会設置会社への改称などが行われた。その後小さな改正を経て、アベノミクスのもとようやくコーポレートガバナンス改革と呼べるものが実現した。今年度最後のコーポレートガバナンス勉強会はアベノミクスのコーポレートガバナンス改革を取り上げる。

ディスカッション

最終回の勉強会は私(若杉)のレクチャーの録画を配信する形で行われました。収録風景を見学した勉強会メンバーがレクチャーの後、日本のコーポレートガバナンスを巡ってディスカッションしました。その模様を松浦洋さんが詳細に記録してくれましたので、編集せずにそのまま掲載します。お楽しみください。

日本のコーポレートガバナンス改革の質疑応答の備忘録

1.監査役設置会社と監査等委員会の相違について(会員の意見)

  監査等委員会設置会社の論点として、先生がご指摘の通りですが、次の相違点を追加申し上げる。

  ① 監査等委員会設置会社に移行している会社数は現在1,060社程度と思われる。ただ、移行の増加傾向は低減している。

  ② 制度の相違として、監査役の独任制と常勤制が監査等委員会には法的に担保されいない。

  ③ 監査役の任期については、長年の商法の改正を通して、1年から4年になり、監査役の独立性の確保が図られてきているが、監査等委員の任期2年は少し短い。

  ④ 監査等委員会設置会社の目玉は、役員の選任並びに報酬に対する意見陳述権があることであるが、この陳述権を行使して株主総会で牽制の効いた意見を表明することは容易で無く、実際にそのような実例を余り目にしていない。(これは監査役の差し止め請求権同様、伝家の宝刀であるがなかなか抜けないジレンマがある)

2. 株式市場の活性化問題(複数の会員の意見)

  ① 米国の株式市場が1990年以降、大幅上昇を実現している裏に、米国企業のコーポレートガバナンス改革が有ったと思われる。一方日本企業は1990年以降業績低迷し、株価も優れていない。従って、コーポレートガバナンス改革を通して企業の新陳代謝を促すことが重要で、この面から監査役設置会社の改革が必要と考えている。

  ② 確かに、株式市場の株価上昇のトレンドは圧倒的に米国が日本を上回っているが、一方で米国の株価重視政策が行き過ぎている面もみられるのではないか。最近の報道では、高額配当と多額の自己株式政策がS&P500社の中で、24社の債務超過を招き、平均自己資本比率が34%に低下し借入依存度が上昇し景気変動への抵抗力の低下が危惧される処にきていると報道されている点に留意する必要があると思う。また日本の官製相場が崩れた場合、日銀の債務超過が危惧され、その影響が心配される。

3.監査役会の役割について(複数の会員の意見)

  ① 今回のコーポレートガバナンス・コードに監査役会の記述が少ないが、それはコーポレートガバナンスに関する監査役の役割が従来から十分では無い事の裏返しでは無いのか?もし監査役会が役割を果たしたいと考えるのであれば、積極的に監査役会の実効性評価を実施し開示していくべきである。

  ② コーポレートガバナンスの目的は、企業不祥事防止による企業価値毀損の縮減と業績向上による企業価値の増加があり、監査役会等の監査は前者に重点があり 後者は取締役会(社外取締役)の役割期待があると思われ、また従来のコーポレートガバナンスの議論は前者に重心が有り、今回のコードは後者に重心があると理解されることから監査役会に関する記載が少ないのは必然と思う。監査役会の実効性評価については監査役会協会の委員会でも議論になったが、社外監査役が半数以上を占める監査役会が前期の監査実績を踏まえて期初に監査計画を立て、監査を実施し、監査結果と翌期の監査計画を社外取締役が出席している取締役会に期末に報告している。この社外役員がリビューするプロセスを踏んでいることから十分実効性の評価を得ているとの結論になったと記憶している。

  ③ 取締役会に報告しても、監査役会は取締役会から独立した機関なので、監査役会の報告に対して意見が言えにくい雰囲気が有り、そのプロセスだけで十分実効性が評価されるか疑問である。

  ④ それは社外取締役の資質の問題である。就任している役員がその職務を矜持を持って遂行しない限り、どのような制度でも有効に機能しないと思う。

  ⑤ 各社のガバナンス・内部統制に配賦している経営資源の質・量が異なるのに、一律に体制の良否を議論しても、実益が無く、各社の事情に応じたベストプラクティスを運用面で計って行くことが重要と思う。

4.日本の社外取締役の人材不足の問題(会員の意見)

  ① 日本は会長と社長が存在するが、会長制を廃止すれば、社外取締役の人材層が充実し、内容の有る社外取締役制度が実現するのではないかと思う。

5.日本の個人株主保護(会員の意見)

  ① 日本の個人株主保護は十分か

   先生の意見・・・少数株主保護に関する規定が会社法の中にあり、またそれの実効性を担保するために、独立社外役員(社外取締役並びに社外監査役)制度がある。

6.監査役並びに会計監査人の責任(会員の意見)7

  ① 0社並びにT社は会計不祥事案件であるが、監査役は責任を問われているのか

  ② 0社の監査役会議長並びにT社の監査委員会議長は元CFOであったが、監査役は会計監査人の監査の方法並びに結果について妥当であると、監査報告書に記載していることから、会計不祥事に対して株主から監査役に対し株主代表訴訟が提起され多額の損害を負っているケースが見られ0社並びにT社の監査役においても責任を負っている。一方、社外取締役は役割期待・責務の規定が無く、また積極的に対外的に意見表明する機会も無いことから、法的責任を負うケースが見られない。このような社外取締役制度にコーポレートガバナンスの改革の担い手として過度の期待をすることは禁物と思う。

  ③ 日本は会計監査人(監査法人)に対する責任追及が米国と比して弱く、会計監査人の厳格監査が損なわれていると思う。例えばエンロン事件では監査法人(アーサーアンダーセン)が解散した。

7.個人資産の形成の問題

  先生・・・老後の対策として、国民年金・企業年金・私的年金の三本柱があるが、日本は、退職金制度があるため、私的年金の活用が少ないように思われる。日本の退職年金制度は江戸時代に大店が丁稚が独立する際に資金を提供した習わしに起因すると言われ、日本の風土として根付いたものである。

  (会員の意見)

  先日の老後資金として2,000万円必要との議論も、株式等の金融資産への投資を誘導する意図があったが、意図しない形で表面化し実際の効果が上がっていない。

以 上 

 

 

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