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第12回 2019 ファイナンス勉強会「行動ファイナンス-時間節約のヒューリスティクス」

1.脳科学と認知心理学

 脳科学Brain Scienceとは、ヒトを含む動物の脳と、それが生み出す機能について研究する学問分野をいう。対象とする脳機能としては次の3つがある。(1)視覚認知、聴覚認知など感覚入力の処理に関するもの(2)記憶、学習、予測、思考、言語、問題解決など高次認知機能(cognitive function)と呼ばれるもの(3)情つまり感情・情緒 emotionに関するもので、➀喜・怒・哀・楽・慈愛・憎などの気持ちである「感情」と➁感情よりも持続的な気持の状態である情緒をいう。

 ここで、認知cognitionとは、人間などが、外界にある物、外界で起こっている現象などを、➀認識する、➁理解する、③思考する、判断する、などの高度な知的な活動プロセスのことである。具体的には,知覚、注意、記憶、意識、表象、思考、推論、問題解決、・・・などである。目に見えない「心、脳の働き」のうち、認知という知的活動を、目に見える「行動」を通して研究する学問を認知心理学という。

2.「知」と「情」の関係

 「知」と「情」とは、かつては対立するものと考えられていた。「知」とは認知が機能している状態であり、知性、理性などと呼ばれるものである。「情」とは感情・情緒を生み出す力のことである。かつては、「情」よりも「知」の方が優位であると見られていた。人間の知性的・合理的な部分「知」に対して、感情的な部分「情」は生活をかき乱す良くないものという見方である。現在、このような対立的な考え方は大きく変わり、「認知」と「感情・情緒」 は、互いに結びついて、人々の生活を支えている、という考え方に変わりつつある

3.感情の4分類

1)衝動(Impulse):感情による行動が相手に向かうもので、その効果がその場限りのもの:悲しみ・可笑しさ・怒り・憤り・照れ・喜び、など

2)反応(response):感情による行動が自分に向かうもので、その効果がその場限りのもの:驚き・恥・悔しさ・安心・当惑・恐怖・畏怖・失望

3)態度(attitude):感情による行動が相手に向かうもので、その効果が長期間に及ぶもの:愛・憎しみ・嫉妬・哀れみ・罪悪感・興味・恋・軽蔑・恨み・嫌悪・感謝・羨望

4)気分(mood):感情による行動が自分に向かうもので、その効果が長期間に及ぶもの:幸福・誇り・淋しさ・楽しさ・倦怠感・不平不満・焦燥感・憂鬱・不安・希望・自信・無力感

3.2つの認知システム

 現代の認知心理学は、脳の中に2つの認知システムがあると推測している。1つはシステムⅠであり、次のような特性を持つものである。脳幹・小脳の活動によるもので、無意識に働く反射システム、衝動的・直観的システムである。その特徴は次のようなものである。➀本能的行動・習慣的行動 ➁マルチタスクに対応(速い) ③素早く、労力を必要とせず疲れない。そして、無意識のうちに作動し、止めるのは難しい ④自動的で融通が利かない。環境等の変化に対応できない 

 もう一つはシステムⅡで、大脳新皮質の前頭前野の働きによるもので、意識下の論理的な思考能力を備えたシステムである。➀理性的行動・思慮的行動、 ➁シングルタスク(遅い) ③時間がかかり、努力やエネルギーを必要とし疲労感や負担感がある、意識しなければできない ④臨機応変に行動できる、などの特性を有している。

4.認知活動の本質

 行動とは新しい事態(=情報)に対する反応である。その際、最善の行動をとるためには、➀現在発生した情報に対して ➁過去の情報を駆使するとともに、③新たな情報を収集し、④行動したときの結果を分析・予想し、⑤代替案を比較し選択(意思決定)しなければならない。これらの認知活動はシステムⅡの役割であるが、それにはエネルギーも時間もかかる。そこで人間は、本能的・無意識的にシステムⅠの助けを借りてエネルギーや時間を節約する行動をとる。それがヒューリスティクスである。

5.2つの認知システムの関係

 システムⅡが怠け者のシステムⅠをコントロールすると言われる。システムⅡが行う処理は負担が多く、疲労感を伴うので、知らず知らずのうちにあるいは直観的に「システムⅡを節約してシステムⅠを使った行動―ヒューリスティクス―をとろうとする仕組みが、脳の中に仕組まれている。直観的であるがゆえに間違いを犯すことも多い。この間違いを認知バイアスという。「人の行動」というとき、システムⅡの行動を思い浮かべがちであるが、実際はほとんどの行動はシステムⅠによって無意識になされていると考えられる。とくに不合理な行動―認知バイアス―のかなりの部分が無意識の脳の働きによって引き起こされている。他方、人には、無意識の行動を修正する能力が備わっている。能力を生かすには不合理行動の本質を理解することが重要

 システムⅠにはさまざまなヒューリスティクスが蓄えられている。今回は時間の節約に分類されるヒューリスティクスについて考察する。

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