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2020 CF研究会:第2回「貨幣の評価-時間とリスク-:Q&A」

営利が企業(株式会社)の目的であるので、事業を行い毎期の利益を株主に分配する。ゴーイングコンサーンとしての企業は長期的な利益を追求しなければならない。長期的な利益を反映した株式の価値は株主価値と呼ばれる。工場制機械工業が確立した資本主義においては、事業を継続するために、現代の企業は初期に設備・機械等への大規模な投資を行い、その後、販売収益から諸費用を支払った後、投下資金を回収(減価償却費計上)し、最終的に利益を確保し分配する。お金の面からすると、初期投資という支出とその後の各期の利益-収入-とを交換するわけである。ところが、資本市場が存在する現代においては、現在の貨幣と将来の貨幣とは、金額は同じであっても購買力で見た貨幣価値は異なる。このことを貨幣の時間価値という。企業が事業の拡大により将来利益の増加を目指す投資が、貨幣の時間価値の下で株主価値の増加、株主価値の創造をもたらすかを判断することが重要である。第2回のファイナンス研究会では貨幣の価値の問題を取り上げる。

以 上

経済と数学-新井論文の紹介を中心に-

第2回ファイナンス研究会のテーマである金利の計算はファイナンスの基本原理であり、ファイナンスの入り口である、これを理解していればファイナンスの80%は理解できる。数学的にはほぼ四則演算で完結しているので、ファイナンスは誰にとって親しみが持てる世界のはずである。しかし、実際には、大学でファイナンスを教えてきたが、敷居が高く、どうしても中には入れない学生が多い。実務の世界でもファイナンスを理解できない執行役員が多く、ファイナンスはCFO(Chief Financial Officer)の独壇場である。その結果、重要な業務意思決定に関する取締役会において、CFOの提案にチェックを掛けられる取締役が不在のため、みすみす間違った意思決定がなされ苦境に陥る企業が少なくない。

大学でファイナンスを教えてきたが、そこで使われている算数や数学は、まさに昔学校で習った算数や数学である。算数や数学を生活や経済と結びつけて学んでいたら、みんながこんなに数学嫌いにならなかったのではないかとずっと感じてきた。金利の問題がまさにその一つである。

第2回ファイナンス研究会に関連してこんなことを考えていると、たまたま新井明著「経済教育と算数・数学-算数・数学教育の歴史的検討からー」(経済教育学会誌 2017年9月号)という論文を見つけた。私の経験から共感することや教えられることが多いので、若干紹介させていただく。ただし、算数・数学の全体について触れていくと膨大な量になるので、金利計算を中心に取り上げていく。 ⇨ 続きはコラムに移動しました

Q&Aセッション

Q01:今や世界の先進国はゼロ金利状態にありますが、ファイナンス理論上現状のマイナス金利についてはどのように考えればよいのでしょうか。極端な例ですが、割引率マイナス10%とした場合、今の100万円は1年後に90万円となります。現在価値が100万円で、将来価値(1年後)が90万円という矛盾が生じます(ファイアンス理論での説明不可)。そして、歴史上においてもこの異常な低金利(或いはゼロ金利)状態はいつまで続くと考えればよいのでしょうか。(武正雄)

A01:現在の日本でマイナス金利というときには二つの意味があります。一つは、銀行は余剰資金を日銀に当座預金しますが、その際、金利が付くどころか金利を払わなければならないのでマイナス金利と呼ばれます(注)。政府は、銀行が企業に積極的に貸し出しを行うことにより経済が活性化することを期待しているので、一定額以上の当座預金にマイナス金利を課しています。この金利は資金の貸し出しを行わずに日銀に預金することに対するペナルティと考えることができます。

 もう一つのマイナス金利は、アベノミクスの下、日本国債の「投資利回り」がマイナスになっていることです。日本国債は公募により発行されますが、人気があり多いときは発行額の10倍ぐらいの申し込みがあるので、満期10年物の国債は、額面100円に対して102円とか103円の発行価格(over-par額面超という)になります。最近の額面金利は年0.1%ですので(簡単のために単利で考えると)金利は10年間で1円にしかなりません。102円や103円で買えば損をすることになります。それでも銀行等が国債を買うのは、日銀が銀行保有の国債をオーバーパーで買ってくれるという暗黙の了解があるからです。日銀は資金を市中にばらまきたいのですが、政府が発行する新発債を買うことが出来ない決まりなので、一度銀行が保有した既発債を買うことにより貨幣供給をする仕組みになっているからです。したがって、投資家の利回りが実際にマイナスのになるわけではありません。

 仮りの話として、政府が国民に収入の全部を消費させたいときには、銀行の預金金利を、貯蓄を安全に預かるという名目でマイナス金利にすることも考えられます。その場合、銀行に預金すれば貨幣は長く預金しておくほど現在価値が減少し目減りすることになります。そのような政策の効果で経済が活性化すれば企業の利益が増えるのでマイナス金利がプラスに転ずることになります。(若杉敬明)

注)「日本銀行当座預金」とは、日本銀行(以下、日銀)が取引先の銀行や証券会社等から受け入れている当座預金のことです。日銀は、マイナス金利導入にあたり、「日銀当座預金」を「基礎残高」、「マクロ加算残高」、「政策金利残高」の3つに分け、それぞれプラス0.1%、ゼロ%、マイナス0.1%の金利を適用しています。マイナス金利の適用を一部にとどめることによって、金融機関の収益を過度に圧迫することを回避しています。https://www.smam-jp.com/market/report/keyword/japan/key160616jp.html

 

Q02:第2回目の講義ありがとうございました。後半の株式投資のリスクのあたりから難しく感じました。分散投資を行うことでリスクの軽減を図るという考え方は分かったのですが分散投資によって相殺されないリスク(systematic risk)の意味がよくわかりませんでした。具体的にどのような事象なのでしょうか。投資を分散しても回避できない状況であれば、株式市場が崩壊するような事態のことでしょうか。(番場作郎)

A02:企業の業績は毎期変動しますが、その変動は大別すると、経済全体(景気)に連動している部分と、経済とは別に個別企業の要因で動く部分とに分けることが出来ます。前者は、経済全体というシステムと一緒に動く部分であるのでシステマティック・リスク(systematic risk;SR)と呼ばれます。それに対して後者はシステマティックではないリスクですから、アンシステマティック・リスク(unsystematic risk;UR)と呼ばれます。株式投資のリターン(投資収益率)も企業の業績を反映しますから、その変動にはSRとURとがあります。URは個別企業ごとにバラバラに変動するリスクですから、沢山の銘柄を組み合わせる分散投資により相殺され、銘柄が多いほどゼロに収束します。ところが、SRは同じ動きをする(=連動する)変動ですから、どんなに多数の銘柄を組み合わせても相殺することは出来ません。

株式市場に上場されている全銘柄を組み合わせた投資(portfolioポートフォリオという)のことを市場ポートフォリオ(market portfolio)と呼びます。分散投資の観点からはこれがもっとも合理的なポートフォリオです。株式投資において、銘柄を増加させるほど、URが減少し、市場ポートフォリオのリスクに近づきます。何千銘柄も上場されているような株式市場の市場ポートフォリオのURはほぼゼロで、SRだけだと考えられます。そのとき市場ポートフォリオの動きは経済全体の動きを表している考えることが出来ます。

したがって上場銘柄をすべて含んだ株価指数(stock price index)の動きは、市場ポートフォリオの動きを表すと考えられます。投資ファンドにインデクスファンドがありますが、それはリスク分散の点でもっとも合理的な市場ポートフォリオと同じリターンを実現することを目指すファンドです。(若杉敬明)

Q03:貨幣の時間価値についての質問です。現在の超低金利は資本主義による富の蓄積と人為的なペーパーマネーで資金が溢れているためですね。投資機会が少ないとも言いますが、一方で将来何が起こるか分からない、よって事業のリスクはこれまでよりも高まっていると思います。

 昨年の夏ごろは所得格差、気候変動よほどとデジタリゼーションの3つが大きな要因と云われていました。コロナにより感染症のリスク、日本固有のリスクでは地震津波があるでしょう。一纏めで言えばexternal riskが低かった時代は終わったわけです。でも金利が反応しない。逆に政策的な低金利で何とかしようとしています。

 マネーの希少価値がなくなったからでしょうか?またマネーでは測れない要素、人的資本やバランスシートにのらない無形資産の重要性が高まっていることも影響しているのでしょうか?

 今までは測れないものも、これからは測るようにしないと、金利自体歴史的意味は終わったとならないでしょうか?fat tail を勘定に入れると金利制度が成り立たないのでは?コスト高で事業投資も採算の合わない案件続出では?極論ですが分からなくなりました。(山口公明)

A03:難しい質問ですね。世界中を見ればまだ飢えに苦しむ人々も教育を受けられない子どもたちも沢山います。その人たちに先進国並みの生活をして貰おうとすればお金はいくらです。しかし、民族の対立や宗教の対立等があり、お金がうまく流れず偏在しているので、世界ではお金が余っています。その結果、金利はほとんどゼロです。その意味で貨幣の時間価値の概念は死んでいます。しかし、SDGsが示唆しているように、人類がお互いに助け合い労る心を持って、困っている人たちを救おうとすればお金はいくらでも必要です。そのような問題の解決は大きなベネフィットをもたらしますがリスクもともないます。時間価値は無視できても貨幣のリスク価値-貨幣に対するリスクプレミアム-はますます重要になります。資本の要求収益率=金利+リスクプレミアム≓リスクプレミアム ですから、貨幣の割引現在価値の概念は依然として有効です。

人類は、過去、大きな困難に直面する度にそれを克服し進歩してきたと言われます。今回のコロナウイルス危機も、人類が新たな進歩、突然変異を果たした、エポックメーキングな事件として歴史に残ると思います。今回の危機を乗り越えるのに人類は巨額のコストを費やしていますが、コロナ後の世界を作るためには沢山やることがあります。そのためには新しい井技術や新しいアイデアが必要です。私は、あらためてビジネスの世界は革新のためにビジーになると見ています。(若杉敬明)

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