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2020 CF研究会:第3回 株主価値の評価-配当割引モデル DDM-:Q&A」

 ファイナンスにおいては、様々な場面で資産、負債あるいは事業などの価値を決定することが必要になる。このことをバリュエーション(valuation:評価)という。株主価値の評価は、株主の資産である株式の価値を決定することであり、ファイナンスにおける代表的なバリュエーション問題である。

 企業の利益の一部は,配当など現金支払いで株主に分配されるが、残りの利益は内部留保として企業に留められ企業成長を目指した再投資に向けられる。再投資は企業の将来の予想利益を増加させるので株価を上昇させる。しかも、利益の増加は将来であるにも関わらず株価は現在上昇するので、株主には内部留保分が株価上昇(キャピタルゲイン)として分配されることになる。株価上昇が内部留保の金額を上回るならば、株主にとっては、企業が配当するより内部留保する方が望ましい。つまり、配当されなかった利益は株式市場のメカニズムを通して株価上昇として還元される。したがって、株価が合理的に形成されていなければ投資家は安心して株式に投資し株主になることはできない。今回は、株価はどのように決まるのかという問題を取り上げます。株価は、株式市場における投資家の株式売買によって決まるので、投資家がどのような投資行動をとるかが株価決定の重要な要因になる。それと同時に、株式市場が投資家の行動を受け止めきちんと機能しているかが問題になる。合理的な投資家行動という視点からの株価に対するアプローチが、今回の配当割引モデルである。それに対して株式市場の機能を取り上げるのが効率的市場理論である。配当割引モデルによれば株価は将来の予想配当によって決まる。将来を予想するためには現在利用できるすべての情報を賢く利用しなければならない。株式市場において、情報が適切に利用されているか否かを議論するのが、次回とりあげる効率的市場理論である。

 企業の事業にともなうビジネスリスクを負担するのが株主の役割であるから、株式投資にはリスクがともなう。株式投資を行うためには、投資家は自分自身で投資リスクを管理するリスクマネジメントが重要になる。その基本的な原理のひとつは分散投資であることが、経験的にも理論的にも証明されている。したがって、現実に分散投資が積極的に行われている。むしろ、現在の株式投資においては分散投資が大前提である。株式市場で分散投資が中心であるとき、株式市場ではリスクに関してどのような経済原理が成り立つのであろうか。この問題を解明したのが、現代資本市場の基本理論の一つである資本資産評価モデルCAPMである。本研究会では、これまでリスク・プレミアムということばを度々用いてきたが、それがどのように決まるかについては言及してこなかったが、このモデルにより、株式投資におけるリスクとは何か、それに対してどのようにリスク・プレミアムが決まるかが明らかにされます。これについては別の機会に譲りたい。

 株主は資産を増殖させるために株式投資を行う。株主にとっての株式という資産の価値-株主価値ーは 「株式市場で決まる株価」✕「保有株式数」で表される。株式市場で株価がどのように決まるかを解明するのが配当割引モデルDDM(Dividend Discount Model)である。これを紹介するのが今回の研究会の目的である。しかし、実際の株式市場においては伝統的にさまざまな株価決定公式が利用されている。最後に、DDMとこれらの公式との関係を分析する。(若杉敬明)

Q&Aセッション

Q01:本講義において、一番のキーワードはテキスト28ページの式、P=D/k-g(一定成長配当割引モデル)であろうと受け止めました。この式の導出ですが、連続する元の式 P=D/(1+k) +D(1+g)/(1+k)2 +・・・・ ① の両辺に公比(1+g)/(1+k) を掛けた式を②として、 【①引く②】から導き出すことを面倒ながら、手計算(手書き練習)しておくことが、(重要かつ)頭に入りやすいと思ったのですが・・・。(ついつい忘れがちな重要公式を納得して記憶しておくために)(武 正雄)

A01:その通りです。➀式の両辺に(1+g)/(1+k)を掛け算するとP{(1+g)/(1+k)}=・・・になります。これを➁式として、➀-➁を計算すると、右辺はD/(1+k)だけになります。その式を整理すると配当が一定率gで成長する場合の株価公式が得られます。アナリスト試験の時に勉強したのでしょうか、お見事です。(若杉敬明)

Q02:26ページの公式を変形しますと、① k=D/P (ゼロ成長) ②k=D/P +g (一定成長)となります。①の場合(ゼロ成長)の要求収益率は配当利回りと等しくなり、②の場合(一定成長)のk(要求収益率)は【配当利回り】プラス【期待配当成長率】という形になりますが、DDMから要求収益率(k)を推測するという考え方は正しい(妥当な)のでしょうか。(武 正雄)

A02:利益を内部留保すると、内部留保は再投資されますので企業は成長します。したがって、ゼロ成長の時はD=E(EPS;一株当たり利益)で、P=E/k ∴k=E/Pとなります。このような企業がガバナンス改革をしたことにより、予想利益がΔEだけ増えたとします。これを株式市場が真摯に受け止めれば株価はP=(E+ΔE)/kに上昇します。株主はΔE/kだけの株価上昇を享受し、このようなイベントがあった期間の投資収益率はkより高くなります。このことは成長企業でも全く同様です。したがって、企業に活力があり企業が投資家の予想を超えて、有利な投資を実行している経済では、実績の株式投資収益率は要求収益率より高くなると考えることができます。したがって、DDMから要求収益率(k)を推定することはできないと推論できます。逆に言えば、企業が投資家が予想した程度の事業展開しかできないとき、DDMにより要求収益率を推定できます。ただし、気を付けなればならないことは、DDMで用いている配当あるいは利益は予想配当や予想利益です、予想はデータベースされていないので、以上に述べたようなことを実証するのは不可能に近いことですが、実現した株式投資収益率こそ予想を超えた投資収益を表しているという考え方もできるわけで、DDMから要求収益率を推測することも一定の合理性を持っていると言えます。活力ある経済では、活力ある企業活動を織り込んで株式投資収益率は高い、したがって要求収益率も高い、活力を失って経済では株式投資収益率も要求収益率低いということになります。(若杉敬明)

Q03:各投資家の要求収益率と期待収益率が等式になるまで売買が継続し、市場均衡が図られ適正な株式価格が設定されるとのご説明に説得力があり、また各投資家が自由に各自の期待値を交錯して均衡点を探るのが最も効率的な価値の決定方法(市場メカニズム)であるとも理解されました。但し、歴史的には市場が過熱し、ピークに達して暴落(市場の失敗)して実体経済に大きなNegative impact を与えてきたことも事実と思われます。(日本ではバブル崩壊で発生した巨額の不良債権の整理に10年超を要している。)最近では、コロナウィルスの問題が実体経済に大きな影響を与え、コロナ後も実体経済の回復は鈍いとの経済見通しで、企業の設備投資並びに在庫投資が伸び悩んでいる(従って、内部留保の再投資による成長(g)が期待できない)中、経済回復を急ぐ政治的要請で大幅な金融緩和と中央銀行による多額の資産の購入が実施され、余剰資金が株式市場に流れ需給ギャップが株価上昇を招き、今回のIMFの警告に繋がっているのではないか、又日本においては日銀が株式市場に直接資金を投入する方法で株式市場を歪めているのではないか、と危惧されますが経済学的にこの様な現象を如何に評価されるのかについてのご説明をお願いします。(松浦 洋)

A03:DDMは、(利益がもたらす)配当と(利益の成長による配当の成長がもたらす)キャピタルゲインを視野に入れた合理的な投資家の株式価値評価モデルです。ところが他の商品と同様、真の価値を無視した価格で株式を買ってくれる投資家が出現すれば、それに合わせて株価は決まります。その波に乗ることができると自信を持っている投資家やファンドがいるからです。トランプ政権も安倍政権もそのような投機家をあてにして経済運営をしているのだと思います。ファンドと政権は腹の探り合いです。そのような不安定は状況こそ投機家には絶好のチャンスです。Good NewsとBad Newsを交互にばらまけば、株価は思うように動きます。その株価変動で大儲けできるわけです。株価を動かせない投資家-個人投資家など-には到底できないことですが、情報をばらまくことができる投機家は思うように株価を動かすことができるので、Good Newsでは買い戦略で、Bad Newsでは空売りで大儲けするのです。今回のIMFの警告はこのことを言っているのだと思います。コロナ禍のような誰にもその影響を正しく推定できない場合には、チョットして情報操作で思うように相場を動かすことができます。このような株式市場で、愚直に買い支えている日銀は、絶好のターゲットではないでしょうか。最初の質問に戻りますと、現在のような市場はDDMの市場と全く異なるのです。それはDDMが間違っているからではなく、合理的でない投資家の存在があるからです。世の中は複雑で魑魅魍魎の世界だと言うことではないでしょうか。このような株式市場での正解は、雑音に邪魔されないで、本当に良い企業を見つけ支えていくことです。(若杉敬明)

以 上

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