JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 CG研究会:第4回 「現代企業のガバナンスとマネジメント:Q&A」

株主価値最大化と企業価値最大化 企業は人々が欲する財・サービスの生産・流通により付加価値を生産する。その付加価値は、労働を提供した従業員に賃金として分配され、次に負債を提供した債権者に金利として分配され、最終的な残余が利益として株主に分配される。付加価値は経済の状態や企業経営によって変動するので、株主の利益は、予め決められたものではなく、事業年度が終わってはじめて確定する。つまり、結果次第というリスクをともなう。株主は株式会社の所有者として、取締役の選任を通して企業を統治するが(株主のガバナンス)、その見返りとしてリスクを負担する。株主にとって利益は多い方が望ましいので、株主から会社を任された取締役は、ゴーイングコンサーンとして長期的な観点から利益の最大化を目指す経営を実現する責任を負っている。これを株主価値最大化経営という。従業員に対しては市場原理を反映して世間並みの賃金を支払い、債権者には金融市場で決まる金利を支払った上で、企業が、-従業員の賃金や債権者への金利を犠牲にすることなく- 株主価値最大化を最大化するならば、付加価値は社会的に公平公正に最大化される。長期的観点から企業が生み出す付加価値の全体を企業価値と定義するならば、株主価値最大化は企業価値最大化をもたらし豊かな国家の実現に貢献する。東証のコーポレートガバナンスコードは企業に持続的な企業価値の向上を求めているが、経営者は株主価値最大化経営によって受託者責任を全うすることができる。

株主価値最大化の論理 株主価値最大化は、会社法のガバナンス規整(第3回ファイナンス研究会)によって担保されているが、仮にそれがうまく機能しなくても、長期的な投資価値の最大化を目指す年金資金や各種財団などのシェアホルダーアクティビズム(物言う株主運動)も、株主価値最大化を経営者に求めている。また、現在の企業経営が株主価値最大化から乖離すると、M&Aなどによる株主の交代を通して株主のガバナンスが更新され、経営者の交代や経営戦略の改定などにより、株主価値最大化経営が追求されるようになる。また、➀ガバナンスが優良な企業に投資をするガバナンスファンドや、➁取締役会のガバナンスが形骸化している企業の経営をTOBなどを通して経営改革を目指すガバナンスファンドなどが、株主価値最大化経営の実現に貢献する。ガバナンスの交代をもたらす株式流通市場の機能は伝統的にmarket for corporate controlと呼ばれてきたが、現代風にいえばmarket for corporate governanceということになろう。

株主価値最大化のマネジメント 株主価値最大化を実現するのは経営者のマネジメントである。それは、➀明確な経営理念と行動規範、➁それを実現するためのマーケティング志向的な経営戦略、③戦略および目前の事業を展開するための経営組織、および④経営者および従業員にやる気を起こさせるリーダーシップの確立、目標管理、合理的なインセンティブシステムに支えられたHRM(Human Resource Management;人的資源管理)等を構造とする合理的・論理的な経営でなければならない。それを導出することこそ取締役会のガバナンスの役割であり目的である。(若杉 敬明)

Q&Aセッション

Q01:ガバナンス改革(国策でもある)がさらに一段進展するためには、進化する株主総会(ベストプラクティス株主総会)が求められると考えます。テキスト1頁および21頁を参考にして、(極論になりますが)株主総会は「独立な社外取締役を選任する場である。」と言い切ってもいいのでしょうか。あるいは、株主総会のメインのテーマ(主たる議題)は、「真の独立取締役を選任する場である。」という考え方でよろしいのでしょうか。(武正雄)

A01:現代のコーポレートガバナンスの基本モデルは、➀独立取締役が支配する取締役会による業務意思決定、および➁独立取締役のみから構成される指名・報酬・監査の三委員会によるCEO以下の経営陣(業務執行役員)に対する監督です。これが、株主のガバナンスを代行する取締役会のガバナンスです。したがって、独立取締役の選任がガバナンスの出発点です。その意味では、質問にある通り、株主総会は真の独立取締役を選任する場でなければなりません。独立取締役がしっかりしていれば、機関投資家などの株主がエンゲージメントと称して企業の戦略や経営に深く関わる必要はありません。しかし、金融庁も東証も独立取締役に対する認識がそこまで深くなく(あるいは独立取締役が好きでない日本の財界の意向を慮っているのか)、スチュワードシップ・コードにおいてもコーポレートガバナンス・コードにおいても、独立取締役の重要性の強調の仕方が十分でないと思います。それに、会社法においても、社外取締役の概念はあっても独立取締役には言及されていません。ただし、独立取締役として選任された取締役が、資本主義や株式会社制度の意義を正しく理解できる知性を持ち合わせていることが不可欠です。その意味で、取締役教育も喫緊の課題です。アベノミクスのコーポレートガバナンス改革はうわべだけの似非改革ではないかと怖れます。(若杉敬明)

Q02:日本の特殊事情なのか、日銀のETF保有(推定時価37兆円)は上場会社のガバナンスにおいて、大いに問題ありだと考えます。確かに、日本の優良企業が海外から買収されにくいというメリットもあるのでしょうが、株主の立場からはガバナンスの低下(緊張の緩み)に繋がっていると思います。アセットマネジメント会社(野村、大和、日興etc.)による議決権行使は形式的の域を超えず(迫力がなく)、アセットオーナーたる日銀はどういう立場にあると考えるべきなのでしょうか。市場が歪められていることに加えて(緊急金融市場対策とは言え)、市場の信頼性は日本企業のガバナンス評価と表裏一体の関係にあると思います。この問題(大株主日銀によるガバナンス)をどう考えたらよろしいのでしょうか。(武正雄)

A02:アベノミクスは金融の独立性を踏みにじり、➀日銀にETF買いを強要し、また➁GPIFはじめ公的年金の基本ポートフォリオにおいて内外株式の保有比率を50%に引き上げさせ、日本株式の時価総額の10%以上を保有させ、株式市場をバブル化しています。大蔵省時代から理財局は株価は政府の手でどうにもなると考えてきました。バブル崩壊のあとPKO(Price Keeping Operation)という言葉が株式市場を賑わせてのがその象徴です。日銀もGPIFもパッシブ運用が原則ですからインデクス運用です。インデクス運用は銘柄選択は行わず、市場価格のままに幅広い株式を買っていきます。それと同時に、日銀もGPIFも、財界の反対で議決権行使も運用機関任せです。これでは株主のガバナンスはほとんど機能しません。毎年GPIFの新規年金資金が流入し、またアベノミクス以降は日銀の資金が株式市場に投入されても、現在の日本株の時価総額は1980年代末のそれとほとんど同水準です。日本企業の価値は、当時と代わらないどころかむしろ下がっているわけです。それは正にガバナンスが働いていないことの証左ではないでしょうか。

 ところで、日銀や公的年金が10%、20%保有しても、他の大部分の株主が健全な株主行動-その一つが議決権による取締役の選任-をとれば問題が無いとも言えます。株式会社制度の考え方は、「大規模な事業を行う会社は多数の投資家から出資を仰ぐことになる。広く散らばっている多数の投資家が経営に参画することは不可能であり、また彼らが経営能力を有しているとは限らない。そこで、株主の利益を代表する取締役を選任し、会社の経営を委ねる」ということである。この背後には、「投資家は、自らの資産を増殖させるために投資を行う。株式を購入し株主になるのもそのためである。したがって、株主である以上、株主に代わって営利を正しく追求する取締役を選任するという賢明な議決権行使を行うであろう」という理念がある。大衆が株式を所有する大衆資本主義が発達したのは20世紀前半のアメリカであるが、そこでは株主は見事に経営者に裏切られ、『所有と経営の分離」の下、経営者資本主義が確立した。しかし、第二次大戦後企業年金が発達しERISAの下機関投資家が影響力を持つようになった米国の株式市場は機関投資家資本主義に変身し現在に至っている。零細な個人株主に代わり大規模な機関投資家が株式市場を支配するようになったのである。年金加入者から受託者責任を負っている年金が株式投資を重視し、経営者に株主価値創造経営、株主価値最大化経営を迫るようになった。

 機関投資家が、株主として健全な判断を行うならば、取締役の選任においても機関投資家の意見が一致し、優秀な取締役が選任され、株主の負託に応え、株主価値最大化経営を実現させるであろう。しかし、世界の各国から資金を集めて機関投資家が各国の株式市場で多様な投資行動を行っている。そこでは、株式会社制度が想定しているような株主総会での議決権行使が行われるとは限らない。それでも、企業年金や多くの財団のように、長期的な観点から投資を行い、会社に株主価値最大化経営を強く望む機関投資が多数存在することも事実である。日銀の株式保有に戻るが、日銀やGPIFなど国の資金が議決権行使により企業経営に口を出すのはガバナンス上好ましくないというのが日本の財界の持論である。コーポレートガバナンスの誤解に他ならない。ガバナンスは経営内容に口を出すことではなく、良い経営が行われるような環境作りである。いずれにせよ、日銀やGPIFが議決権行使を積極的に行わないことは大きな問題である。しかし、議決権行使に積極的でない機関投資家も個人投資家も多数いる。だれでも自由に株式を購入し株主になることが出来るというのは株式会社制度の重要なメリットである。しかし、本来株式会社制度が前提として賢明な株主が支配-ガバナンス-を持たないと、企業は劣化するばかりである。私の考えでは、日本版スチュワードシップ・コードに唯々諾々として従い、エンゲージメントなどでガバナンスを効かせたと誤解するのではなく、賢明な機関投資家が力を合わせて実効ある議決権行使を行い、真の独立取締役から構成される取締役会を実現させることが重要であると。議決権行使は、いかに機関投資家が大きな資金を持っていようと、バラバラにやっていては効果は多寡が知れている。わが国の喫緊の課題は、「賢明な」機関投資家の、意図して力を合わせる株主行動(シェアホルダーアクティビズム)つまり議決権行使である。もちろん、上述のように真の独立取締役の育成である。(若杉敬明)

Q03:日本において、独立取締役や社外取締役の導入が遅々として進まないのは、日本企業の経営者の頭が古いということもあるかもしれませんが、独立取締役や社外取締役の候補となりうる人材が、圧倒的に不足しているということを聞いたことがあります。特に、米国と比較した場合、そういった人材のマーケットのあり方に、大きな違いがあるのでしょうか? それとも、日本においても潜在的な候補者はいるので、候補者バンクなどの仕組みをつくり、候補者にトレーニングの機会を与えるなどして環境を整えれば、日本でも独立取締役や社外取締役を十分に供給できる態勢にある、と考えてよいのでしょうか?(甲斐幹敏)

A03:日本には独立取締役として機能できる人材が少ないという指摘は正しいと思う。しかし、日本で独立取締役や社外取締役の導入が進まない理由がそれだというのは、何%かは真実かも知れないが、実は言い訳に過ぎない。本当は経営者が、そして国民全体が望んでいないからだと思う。経営者の多くが本当に望んでいるのであれば、真に必要と感じているのであれば、そういう人材を育成しようとするのではないだろうか。経団連がその気になれば容易なことだと思う。日本人には、現代の世界の潮流である「独立取締を中心とする取締役会、そして独立取締役から構成される三委員会」というガバナンス体制がどうしても理解できない、否、理解しようとしないからではないかと思う。日本全体として-経営者も機関投資家も、政治家も官僚も、そして大学・民間の研究者も-資本主義および株式会社制度を正しく理解していないからではないだろうか。まことに残念である。明治維新を迎え、西欧の技術の優位性に気づき文明開化の花を開かせが、その本質は産業革命という技術革命であり資本主義革命という精神革命ではなかったのである。福沢諭吉は資本主義を理解した偉大な人物であったと思うが、産業革命に圧倒され資本主義革命を惹き起こすことが出来ず教養的な思想家に終わってしまったように思う。それが現在まで続いているのではないかというのが私の実感である。

 甲斐さんが言われるように、人材育成は重要であり不可欠であるが、資本主義と株式会社制度の正しい理解なしに独立取締役を育成しても、企業を間違った方向に引っ張るばかりなので、その点に十分留意することが重要だと思う。(若杉敬明)

Q04:<30頁の「企業理念と企業戦略」のスライドに関して> 日本の企業は、長期的戦略がない、ミシガン大学の学生も、1980年代の日本企業には、勢いがあったが、最近は、戦略がない旨のご説明がございましたが、その理由について、教えていただけますでしょうか。また、米国企業の方が、長期戦略があるということでしょうか。(村田恒子)

A04:色々な要因があると思いますが、日本の会社には戦略的な経営が欠けていると思います。それは長い間(遡れば奈良時代から明治維新、第二次大戦後まで)、先進国に「追いつき追い越せで」で成長してきたからだと思います。しかし、「追いつき」に成功した80年代に、成功後の将来を戦略的に発想することが出来ず、バブルの崩壊で崩れ去ったのがその証拠だと思います。先進国に追いついたらその先どのように走るべきかを戦略的に考える必要があったのに、それが出来ず先頭から脱落してどんどん他の国に追い越されています。そうなってもまだ、どうやって先頭に返り咲くかという戦略が企業にも政府にも内容の思います。私が日本の企業には戦略がないという所以です。現在の日本政府を見ていても、Covid-19対策でも、その後の日本のあり方についても戦略を示すことが出来ません。いたずらにその場しのぎの策を出すだけです。。これが日本人のやり方です。米国企業はその点、違うと思います。⇨参考資料(若杉敬明)

Q05:<23頁の「会社支配権の市場と株主価値最大化」のスライドに関して> M&Aが株主のガバナンスで取締役や経営陣を刷新して、株主価値最大化を実現させる一つの要素である旨のご説明がございました。敵対的買収に関して、2006年前後は、投資ファンドが仕掛ける敵対的買収が多かったですが、昨今、事業会社による敵対的買収が急増してきているように見受けられます(伊藤忠商事がデサントに、HISがユニゾに、コクヨがぺんてるに、HOYAがニューフレアテクノロジーに、前田建設が前田道路に、コロワイドが大戸屋に等)。このような最近の傾向は、株主価値最大化の観点から、あるべき姿と受け止めるべきなのでしょうか。(村田恒子)

A05:M&Aを仕掛けている会社が、株主価値最大化と宣言しているかどうかは知りませんが、二つの会社が一緒になることによりトータルとしてこれまで以上の利益を出すことが出来るという計算をしていることは確かだと思います。もちろんM&Aの結果にもリスクがありますから、結果的に株主価値創造に成功するかどうかは分かりませんが、その胸算用はあったのではないでしょうか。結果はさまざまですが、TOBをかけられること自体が経営陣に緊張を与え、よい結果をもたらすと言われています。(若杉敬明)

 

 

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