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2020 CF研究会:第4回 効率的市場の理論- DDMと市場効率性-:Q&A」

効率的市場とは 配当割引モデル(DDM)によれば、株価は将来各期の予想配当(配当の期待値)を要求収益率で割り引いた現在価値の合計である。ここで2つのことが問題になる。第一は、株式市場において将来の配当予想はどのように形成されるかということであり、第二は、要求収益率はどのように決まるかということである。配当の予想は、投資家ごとに現在利用可能な情報を用いて行われるが、現代のように情報化の時代においては、情報は市場の隅々までほぼ行き渡っており投資家に共有されている。一人ひとりの投資家が用いる情報や予想形成の方法は必ずしも同一ではないが、株を買おうとする投資家は自分なりに情報を収集し分析して買値を決め注文を出す。株を売ろうとする投資家も同様のプロセスを経て売値を決め注文を出す。それにより買いの需要曲線と売りの供給曲線が形成され、その交点で株価が決まる。需要曲線および供給曲線の交点は、各投資家が持つ情報を集約したものであると考えることができる。株価にはすべての投資家が持つ情報と分析技術とが集約されていると見ることができる。

新情報と効率的市場 新しい情報が発生すると、インターネットを始めとしてテレビや新聞の報道を通しても情報が市場に伝えられるが、投資家はいち早く(瞬時に)それを分析して新しい株価を推定し、売り・買いを決め注文を出す。その結果、新しい株価が成立する。情報は絶えず発生する。株価が時々刻々動く所以である。このような市場を情報に関して効率的な市場という。そこでは、つねに適正な株価―リスクに見合ったリターンが期待できる株価―が形成されるはずである。もし、一部の投資家に情報が伝えられていないとか、あるいは分析が適切でないということで、情報が非効率なまま株価が成立していれば―例えば、情報を十分に持っている投資家から見て割安であったり割高であったりする株式が存在すれば―買い注文の増加で株価が上昇し割安が解消されるし、売り注文が増えて株価が下落し割高が解消される。

株式投資にともなうリスク それでは適正な株価とはどのような株価であろうか。株式投資においては分散投資が非常に重要な意味を持つ。株主に帰属する利益は、会社の事業活動の結果である残余利益であるので、つねにリスクを伴う。そこから株主に分配されるのが配当であるから、配当にも変動というリスクがともなう。利益や配当に伴うリスクは、景気など経済全体の動きによって引きおこされるリスクと、個々の企業の経営に伴って発生するリスクとに大別される。前者は自国の経済や世界の経済というシステム全体の変動に伴うリスクであるのでシステマティック・リスクと呼ばれる。後者は、システムとは無関係な企業独自の個別リスクであるのでアンシステマティック・リスクと呼ばれる。前者は、すべての企業に共通の要因であるので、各企業の株価は多かれ少なかれ連動する。したがって、多数の銘柄を分散保有してもシステマティック・リスクを減少させることはできない。他方、アンシステマティック・リスクは企業ごとにバラバラの動きをするので、多数の銘柄から構成されるポートフォリオを保有すると株価の動きは相互に相殺し合い、ポートフォリオ全体としてはあたかもリスクが存在しないかのような現象を示す。これはしばしばリスク分散と呼ばれる。かくして、システマティック・リスクが分散不能リスクと呼ばれるのに対して、アンシステマティック・リスクは分散可能リスクと呼ばれる。

CAPMと要求収益率 株主の利益および配当はこのような特性を持つので、投資家にとって、株式を保有する以上は分散投資を行うのが賢明で合理的な投資行動である。機関投資家がプレーヤーとして主役を演じている現代の株式市場では、分散投資を行う合理的投資家によって株価が決まり、期待株式投資収益率つまり期待株主総利回り(TSR)が決まる。そこでは、分散投資によって相殺されるアンシステマティック・リスクはリスクとして認知されない。他方、分散投資によっても消去することができないシステマティック・リスクのみが分散投資に伴う不可避なリスクとして認知される。具体的には、システマティック・リスクの尺度として市場ポートフォリオ(究極の分散投資である市場の全銘柄を持つポートフォリオ)の変動が用いられとともに、市場ポートフォリオのTSRと連動する部分が個別企業のシステマティック・リスクとして認知される。具体的には、市場TSRとの連動性を表すベータ係数(β)が、個別銘柄のリスク指標とされる(ベータ係数は、各銘柄の投資収益率を市場収益率の上に回帰させた直線の勾配=回帰係数である。)その結果、βが大きい銘柄にはそれに比例したリスクプレミアムが付与され、高いTSRが期待できるという市場原理が成立する。ハイベータ=ハイリターン、ローベータ=ローリターンというリスク=リターン関係である。この関係を資本資産評価モデル(CAPM;Capital Asset Pricing Model)という。ベータによって決まるTSRは、その時の株価で株式を購入するときの期待収益率を表しており、それがリスクに見合った適正なTSRということになる。したがって、投資家はこれを超える要求収益率を期待することができないので、CAPMで決まる期待TSRが要求収益率ということになる。予想配当と要求収益率を適用したDDMによって決まる株価が適正な株価である。

第4回ファイナンス研究会では、最初に、要求収益率の決定理論(Ⅰ節)を取り上げたのち、効率的市場仮説(Ⅱ節)がどのような意味を持つかを解明し、さらに効率的市場における新情報(Ⅲ節)の役割を説明し、最後に非効率的市場(Ⅳ)が存在する場合、投資家には何がもたらされるかを分析する。(若杉 敬明)

Q&Aセッション

Q01:テキスト24頁(グラフ)についてのご質問です。グラフにありますように、Good Newsが出た後に適正水準の(安定した)株価になるまでにある程度の時間がかかる(非効率的市場)と思います。株価のゾーンが変化するプロセスにおいて、必ず行き過ぎが生じるものと考えます(いわゆるオーバーシュート)。GoodにしろBadにしろ、その行き過ぎを判断するモノサシとして、たとえばDDM理論などが有効だと考えます。ただ、多くの投資家の見方は千差万別であり、果たして誰が勝者となるのか、絶対的な勝者(相場の神様)はこの世に存在しないと考えます。ただし、長期投資においては米国のウォーレン・バフェットに見る如く神様がいるように思えるのですがいかがでしょうか。(武正雄)

A01:効率的市場の理論は二つの前提、すなわち➀情報は速やかに市場の隅々まで行き渡る、および➁情報を利用する投資家は合理的で情報の意味を正しく理解するということである。いかに現代が情報化時代であるとは言え、発生した情報が一人ひとりの投資家に届くには時間差がある。本当に情報が欲しい投資家は積極的に新しい情報を得ようと闘っているであろうが、ただ情報を待っているだけの投資家もいる。それゆえ重要な情報を市場に流すときには、公平性を確保するために色々な工夫がなされる。例えば、ある企業が取締役会で重要な意思決定をしたとする。その情報は株価に大きな影響を与えるとする。そのような情報は内部者情報(Insider Information)と呼ばれ、発表するときには全ての投資家に対する公平性を確保しなければならない。議長は、締役会臨席者に情報を絶対に漏らさないようにと箝口令を敷き、取締役会を終了する。その後会社は、マスコミ等を一斉に集めて意思決定の結果を公表する。通常、記者会見は午後6時とか8時とか、その日の場が閉じてからである。その情報を利用してその会社の株式を売買しようと思っても、翌朝場が開くまでは取引が出来ない。その頃には、情報発表の時から十分時間が経過しているので、株の相場に関心を持つ者はすべてその情報を入手しており、その情報を利用して取引を行う。これがまさに効率的市場の第一の前提である。しかし、情報を得てもその情報の意味を正しく理解できず無視する投資家が多かったり、あるいは過大評価する投資家が多かったりすると、株価が過剰に反応して暴騰したり、逆に暴落したりする。これが、武さんの質問にもあるようにovershootingである。このような投資家の反応は行動ファイナンスでいう心理的バイアスによるものである。つまり、投資家が合理的でないということである。このような投資家が多数存在している市場は効率的でなくなる。しかし、時間が経過すると、諸々の情報を用いて株価の再分析が行われ、それがオーバーシューティングであれば株価が修正される。IPOは、未公開すなわち未知の会社が株式市場に初登場する瞬間であるから、得てして投資家の非合理的な行動ー株価の過大評価ーが現れがちである。だからこそ少しでも早く勝って株価がさらに上がったら売り逃げようとする投資家が群集心理とともに群がり、異常な相場を形成すると言われる。

 暴騰した株価を、適正な株価と判断するか割高と判断するかには、理論やモデルなど何らかの判断基準が必要である。しかも、それは多くの投資家が依拠するもので無ければならない。つまり、共通の評価基準になっているということである。投資家全体の見方が一致するからこそ、オーバーシュートした株価は修正され適正な水準におちつくはずである。投資家ごとに依拠するバリエーションは異なるであろうが、現状ではそれはDDMでありCAPMであると推定できる。ただし、DDMは将来の予想利益に基づいている。いかに世界経済のファンダメンタルズを正しく予想し、それぞれの企業の正しい予想利益に辿り着くかで勝負が決まる。まさにウォーレン・バフェットの世界だと思う。 (若杉敬明)

Q02:テキスト15頁からの質問です。PA(三菱商事)のPER(株価収益率)は15.9倍(3177÷200)となりPB(味の素)は24.4倍(4889÷200)になります。通常、株価の割高割安判断にPERが使われることが多いのですが、PERから個々の企業の要求収益率が計算できるということでよろしいのでしょうか。(武正雄)

A02:第3回研究会資料のP.34を見て下さい。最後の行にPER=P/E=(1-b)/(k-πb) という式が示されている。ここで、πbは企業の成長率を表わす。bは内部留保率ですから、もし企業が内部留保をせずに(b=0)利益をすべて配当するのであれば、PER=1/k となる。PERは要求収益率kの逆数という関係であるから、PERから直ぐに要求収益率kが計算できる。しかし、b>0であると、企業は成長することになり、k-πb=(1-b)/PER ∴ k=(1-b)/PER+πb という関係に変化する。つまり、要求収益率kとPERとの間に、π、bが関わり簡単な関係ではなくなる。

 第4回研究会資料の15ページの例示は、配当性向は100%と仮定されているから成長がないケースである。三菱商事と味の素を比べると、三菱商事のベータ係数が1.4322であるのに対して、味の素は0.6968であり、味の素の方が分散投資で消すことができないシステマティック・リスクがはるかに小さい。したがって、要求収益率は、三菱商事が6.296%であるのに対して味の素は4.091%とはるかに低い。いずれの企業も、期待一株当たり利益(=期待配当)は200円であると仮定すると、味の素の株価が4,889円であるのに対して、三菱商事は3,177円であり、後者の方がはるかに安い。リスクが大きい分だけ価値が低いのである。この差は、割高、割安の差ではないことに注意して欲しい。どちらもDDMによる正当な価格であり、リスクに見合ったリターンを反映している。このとき、もし市場で味の素の株価が4,889円より高ければ「割高」ということになり、4,889円より低ければ「割安」ということになる。 (若杉敬明)

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