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2020 CF研究会:第5回「財務レバレッジと操業レバレッジ:Q&A」

財務レバレッジと操業レバレッジ

はじめに-レバレッジ効果の本質-

財務レバレッジ(Financial Leverage) 事業利益をX(確率変数)と表す。この利益を上げるのに企業は自己資本(W)と負債(B)を調達している。負債の金利はrである。事業利益Xから負債への利息rBを支払った残り(X-rB)が株主の利益である当期純利益である(税金は無いものとする)。当期利益の平均は(μX-rB)であり、リスクの尺度である標準偏差はσXである。rBは固定費であるのでXのリスクがそのまま株主の利益のりすくになり、これは不変、一定である。このとき、当期純利益の平均1単位(円)当たりの標準偏差、つまりのσX/(μX-rB)を変動係数というが、変動係数は負債が多く支払利息が多いほど、平均利益1円当たりのリスクが大きくなる。これが、ROEは、負債比率が高まるほどハイリスク=ハイリターンになるという財務レバレッジ効果の背景にある数理である。

操業レバレッジ(Operating Leverage) 財務レバレッジは、自己資本に加えて「負債を利用する」というファイナンスがもたらす、事業利益の一部である当期純利益(株主利益)のリスクに関する効果であったが、操業レバレッジは、事業利益自体のリスクに関する効果である。企業は事業を行って事業利益を上げるが、事業にはコストがかかる。コストにはオフィスのレントや工場の設備などのように売上高とは関係なく発生する固定費と、原材料費や部品費などのように売上高や操業度に比例する変動費とがある。その意味では売上高は当然「変動」収入である。ここでは販売数量をX(確率変数)とする。財務レバレッジの説明ではXは事業利益を表したがここでは販売数量であるので注意されたい。ここでは事業利益をΠ(大文字のパイ)で表す。これも確率変数である。製品単位当たりの価格をp、製品単位当たりの費用をcとする。pもcも一定であ。売上高および変動費はpX、cXであり、期ごとに変動する販売数量に依存するので確率変数である。(売上高-変動費)を貢献利益というが、単位当たり貢献利益は(p-c)、総貢献利益は(p-c) Xである。

総貢献利益から固定費を控除したものが事業利益Πである。

  Π=(p-c)X―F

景気の変動等により販売数量Xが変動すると、事業利益Πが変動する。Πの変動リスクをファイナンスではビジネスリスクあるいは事業リスク(Business Risk)という。

  σΠ=(p-c)σX

したがって、販売数量の変動リスクσXが同じであっても、単位当たり貢献利益(p-c)が大きいほどビジネスリスクは大きいということになる。単位当たり変動費cと固定費Fとの間に代替関係(トレードオフ関係)がある時、Fが大きい企業はcが小さいことから単位当たり変動費(p-c)が大きいので、事業利益の変動すなわちビジネスリスクが大きい。それゆえ、事業リスクを分析するとき、固定費対変動費という原価構造の影響を操業レバレッジあるいは営業レバレッジ(Operating Leverage)という。

レバレッジ 財務レバレッジおよび操業レバレッジには、固定金利や固定費という「固定」部分が株主利益や事業利益に影響を与えるという共通部分があるので、ともにレバレッジと呼ばれるのである。

Ⅰ 財務レバレッジ

株主資本利益率 ROE=ROA+(ROA-r)・L            L:負債比率(=負債/株主資本)

  ROEの平均 : μROE=μROA+(μROA-r)・L

  ROEのリスク: σROE=σROA+σROA・L

μROA-r>0の時、Lが大きいほどμROEおよびσROEが大きくなる。つまり、ハイリスク=ハイリターンになる。これ財務レバレッジ効果という。

◆ リスク許容度と最適資本構成

 レバレッジLを大きくするとROEのリスクσROEが大きくなり倒産リスクが大きくなる可能性がある。そこで経営者はROEのリスクの上限σを定めているとしよう。経営者が慎重であるほどσは小さい。したがって、σ経営者のリスク許容度を表すと考えることができる。

経営者は次の関係が成立することを望む。

     σROE≦σ          

 ∴ σROA+σROA・L≦σ

   L≦(σ-σROA)/σROA=(σ/σROA)-1

したがって、経営者はレバレッジに対して L=(σ/σROA)-1 という上限を設定することになる。このL最適負債比率で、これにより最適資本構成が決まる。節税効果により、負債の利用を深めるほど税金を減らすことが出来るが、同時に倒産リスクを大きくすることになるので、経営者はLにより負債利用限度を設定せざるを得ない。この限度L*は、経営者が慎重であるほど(σが小さいほど)、またビジネスリスクσROAが大きいほど、低い。したがって、他を所与とすれば、ビジネスリスクの大きい企業ほど,負債比率が低いと推論できる

◆ 法人税 τ が課されるときのレバレッジ効果

事業利益NOI=Xと置く。税引き後のROAATROEATを次のように定義する。

  ROAAT=(1-τ) X/A 

  ROEAT=(1-τ)(X-rB)/W  ここでA=B+W

  ROEATROAAT+{ROAAT-(1-τ)・r}・L

ここでROAAT は、企業が負債を利用しない場合の総資産利益率である。(1-τ)rは、支払い利子の損金算入により、利子の支払いは税金を節約することになるので、その分だけ利子率の負担が割り引かれることを表している。この式から、法人が課される場合にも、これまでと同様に財務レバレッジが機能することが分かる。

Ⅱ 操業レバレッジ

◆ 労働集約的業界 vs 資本集約的業界

管理会計の教科書には、資本集約的産業では固定費のウエートが大きく、労働集約的産業では固定費のウエートが小さいので、操業レバレッジの影響は前者で大きいと書かれている。私は、この命題は従業員の解雇が事業の繁閑に応じて比較的容易に行えるアメリカでは正しいかも知れないが、従業員の解雇が容易ではない日本では正しくないと常々思ってきた。しかし、日本でも最近は、派遣社員の拡大労働市場の流動化により、あるいは外資系企業での従業員の増加により、事情が変わってきたようにも見える。しかし、COVID-19の影響でアメリカでは失業者が急増したのに対して、日本でも解雇の急増が大問題になっているが、アメリカほど極端ではないようである。なお、日本におけるコロナ禍での従業員の解雇は、変動費cXの削減というより、固定費Fの削減と考えるべきであろう。

◆  固定費と変動費のトレードオフ

操業レバレッジがは、固定費が大きいことはビジネスリスクが大きいことを示唆している。だからと言って省力化投資をしないで従業員を雇用しても、固定的な人件費に変わるだけで固定費の削減・単位当たり人件費への振り替えにはならない。また、省力化投資により、ビジネスリスクの増大を招くかも知れないが、生産効率の向上で、事業利益のリスク=リターン特性は向上するかも知れない(リスクの増加以上に利益増加の効果の方が大きい)。

しかし稼働率の低い固定費項目は、外注することにより変動費化することが可能であるから、ビジネスリスクの低減に効果があるかも知れない。例えば、製品や原材料の輸送に利用していた輸送用車両は廃止し、必要なときだけ運送会社を利用することにすれば車両の保有に伴う固定費を削減し、運送料という変動費に変換することができる。また、セールスマンが使用する営業車もタクシーなどに代えれば固定費を変動費に転換することが出来る。ただし、リースなどは固定資産の減少に通ずるように見えるが、リース料は固定費であり、変動費化には貢献しない。オフバランス化に貢献するだけである。

◆ 目標生産量決定への応用

利益 Π=pX-(cX+F)=(p-c)X-F

この式より、Π=0 となる販売数量(損益分岐点)が分かるとともに、目標事業利益を達成するために必要な販売量を算出することが出来る。目標事業利益がΠ*のとき、上の式でΠ=Πと置くと目標販売量を決定することができる。

              Π=(p-c)X-F   X*=(Π+F)/(p-c)

この式より、X*は固定費Fを回収しかつ目標利益Πを達成するための販売数量であることが分かる。

(若杉敬明)

Q&Aセッション

Q01:今回のテーマは財務レバレッジと操業レバレッジについてでありますが、これはバランスシートの右側(貸方)と左側(借方)の構成比率の問題と捉えてよろしいのでしょうか。財務レバレッジはDEレシオそのものでありますし、操業レバレッジはその資産内容によって決まってくると考えられるからです。企業の資産内容(借方)から固定費比率が高いか低いかが判断できるという見方は正しいのでしょうか。(武 正雄)

A01:今回の研究会は、指摘されるように、まさにB/Sの借方側(資金の運用)対貸方側(資金の調達)の対応の問題です。企業の目的は事業活動により株主価値を創造することである。そしてその過程で国民生活に安全と豊かさもたらし国民の幸せに貢献することである。

産業革命以降、事業を行うためには特に製造業においては固定的な設備や在庫などの運転資産が必要であるから、それを保有するための資本が不可欠である。設備の寿命-回転期間-は事業によって長短が異なる。資本にも返済期限に長短があるので、資本調達の際には資産側の設備や在庫などの回転期間に合わせて資本の源泉を組み合わせる必要がある。私はこれを資本の期間構造問題と呼んでいる。

他方、事業活動にはリスク-ビジネスリスク-を伴うが、事業によってリスクが異なる。対応する資本にもビジネスリスクを負担するリスク-自己資本-と負担しない資本-負債-とがある。ビジネスリスクの大きい企業においては、業績が悪化したときには、負債が多い場合負債の利息が払えないなどで企業倒産のリスクが急速に高まる。したがって、資本調達においてはリスクを負担する資本とそうでない資本との組み合わせも考える必要がある。私はこれを資本のリスク負担構造問題と呼んでいる。

財務レバレッジ分析はリスク負担構造に関連する機能で、ビジネスリスクの大きい企業では負債比率を抑制する必要があることを示している。ファイナンスの分野では、一般にビジネスリスクは事業が決まれば所与でありコントロールできないとされているが、今回の研究会では、(設備等に伴う)固定費と変動費との間にトレードオフ関係がある場合には、事業を固定費指向ではなく変動費指向にすることにより、ビジネスリスクを低減することができると問題提起している。

財務レバレッジと操業レバレッジとを総合的に管理するという観点からは、固定資産が大きい鉄鋼や化学などの素材産業においては、操業レバレッジ効果が大きく概してビジネスリスクが大きいので、財務レバレッジ効果が抑制されるように自己資本比率が高く負債比率は低いと推論できる。このことをデータで示そうと財務分析を試みているが、現代の企業は多角化が進んでいるので、残念ながら、すっきりと推論通りの結果は得られていない。

コロナ禍のもとで多くの会社や商店やレストランが需要減退のリスクに直面し、倒産の危機に瀕している。固定費という観点から、どのような企業が悲鳴を上げているかを考えてみてください。若杉敬明

Q02:ROAとROEの利益率について(資料6ページ);先生の解説によりますとROAはNOI(事業利益)/総資産、ROEはNI(当期税引前利益)又はNIAT(当期利益)/株主資本と定義されていいます。これまでそれぞれの分子はNIAT(もしくはNI)と同じものと考えていましたが、ROAの分子にNOIとなり、NIATもしくはNIでは無い理由は何でしょうか?(番場作郎)

A02:企業は、労働と資本との協働により財・サービスを生産し流通させ、その過程で付加価値を生産する。付加価値は、労働には賃金として、資本には負債に対する利息および自己資本に対する利益NI(またはNIAT)として分配される。資本の効率あるいは収益性は、負債の場合には利息÷負債により、自己資本の場合には➀NI÷自己資本によって測定される。資本全体の利益は利息+利益=事業利益(NOI)であるから、資本全体の効率あるいは収益性は➁NOI÷(負債+自己資本)によって測定される。➀がROEであり、➁がROAである。ROAやROEは資本の効率性・収益性を測定するのが目的であるので、分子と分母の対応という観点から、分母の違いに応じて分子を使い分けられるのである。(若杉敬明)

Q03財務レバレッジの適正倍率について;財務レバレッジの倍率が高いほど、積極的・効率的という面とリスクを負っている面の両方があることがわかりました。その場合、適切な倍率と言うものはどのように考えるべきでしょうか。(番場作郎)

A03:レバレッジによりROEがハイリスク=ハイリターンになる。ROEのリスク(σROE)が大きいほど企業利益が赤字になる確率が大きくなるので、不況が続くと赤字が続く確率が大きくなり、企業が倒産するリスクが大きくなる。σROE=σROA+σROA×負債比率 であるので、ROEのリスクはROAのリスクつまり事業リスクが拡大される。ROEのリスクを一定程度に抑えようとするならば、ビジネスリスクが大きい企業ほど負債比率を低くしレバレッジ効果を抑えなければならない。また、経営者がリスク抑制的でROEのリスクを低水準にしようとするほど負債比率は低くしなければならない。したがって、すべての企業に共通の適正レバレッジ倍率というものはなく、➀ビジネスリスクが大きいほど、➁経営者(企業)がリスク抑制的であるほど、レバレッジ比率は低く無ければならないので、適正レバレッジ比率は企業によって異なる。(若杉敬明)

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