JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 CG研究会:第5回「コーポレートガバナンスのベストプラクティス」

第4回の研究会ではアメリカにおけるコーポレートガバナンスの実務(best practice)をお手本(benchmark)として、コーポレートガバナンスのあり方を見ていく。その前に、取締役会のダイバーシティという観点から近年の女性取締役の動向を観察する。

1.ベストプラクティス-なぜアメリカ企業か-

コロンブスのアメリカ発見(1492年)を契機に、アメリカではヨーロッパ諸国からの入植が始まり、16世紀には大西洋岸に沿って各国の植民地が形成された。1620年には移民船メイフラワー号がマサチューセッツ州プリマスに入港した。乗客102人のうち約三分の2がイギリス国教会の迫害から逃れてきたピューリタンであったことから、メイフラワー号は信教の自由のシンボル的存在となった。18世紀になると13の植民地が連合してイギリスと独立戦争を起こし、1776年7月4日独立を勝ち取りアメリカ合衆国が成立した。18世紀後半は、ヨーロッパでは産業革命が起こり、資本主義経済が確立する時期であった。各国で国王または政府の許可により株式会社が設立されていた。独立前のアメリカにおいては、法人(corporation;必ずしも株式会社を意味しない)が、英国王の治世下、特定の会社の設立を許可する法律に基づいて設立されていた。独立後、法人の設立は州議会の許可制になり、許可の代わりに特権や独占権が付与された。銀行から株式会社形態の法人が普及し、その後、全国を鉄道網でつないだ鉄道会社等が株式会社という形態をとった。1811年ニューヨーク州が規制を緩和、1875年ニュージャージ州が法規制を廃止、そして19世紀末までにデラウエア州はじめ各州で株式会社設立が自由化された。その後アメリカではM&Aが繰り返され、株式市場の発達に助けられて株式会社制度が普及した。

メイフラワー号は米国の信教の自由の象徴とされてきたが、アメリカ自体が自由の象徴であった。株式会社の運営も民間の自由に委ねられた。アメリカのルーツはヨーロッパの各国にあるが、アメリカとヨーロッパの違いは土地である。ヨーロッパの資本主義経済は土地と密接に結びついた封建経済の後に成立したものである。ヨーロッパの資本主義および株式会社は過去の経済の柵(しがらみ)に引きずられていたのではないだろうか。しかし、アメリカにおいては、土地は誰のものでもなかった(本当は先住民のものであったが)。アメリカでは資本も労働も土地も自由な経済財であった。資本主義は自由経済を本質とする。その意味では、アメリカの資本主義は自由経済に基づいた純粋な資本主義であったのではないだろうか。この研究会で、コーポレートガバナンスのベストプラクティスとしてアメリカの企業をとりあげるのはそのような私なりのアバウトな理由からである。

2.取締役会のダイバーシティ

私が院生の頃に勉強したCyberneticsの第一法則はRequisite Varietyであった。Oxford English Dictionary (lexico.com)によれば”(In cybernetics) the variety or flexibility of response necessary in a system for it to be able to control another system in which variety exists” ここでvarietyとは現代のdiversityと共通の概念である。 要するに、環境や相手が多様性を持っているときそれに対応するためには自分もそれに匹敵する多様性を生み出せなければならないという法則である。サッカーは11人ずつで試合をするが、レッドカードで10人になってしまったチームは、相手チームが11人で作り出すフォーメーションに対応できないので、(双方の選手の力量が同程度であれば)勝つことは出来ないということである。将棋の藤井聡太くんが強いのは相手より多くの手を読むことが出来るからであろう。それと同じように、企業は環境変化に適応したり、競争相手が繰り出すさまざまな戦術に対抗するためには、企業自身が環境や競争相手の生み出す多様性に対応できる多様性を持っていなければならないと言うことである。企業の経営はCEO以下の経営陣が行うが、変化する企業環境の下で、取締役会は重要な決定をしたり経営陣を選任したり、企業価値の創造と企業の存続に向けて動機づけ無ければならない。経営陣にも多様性が必要であるが取締役会にも多様性が必要である。

グローバルの機関投資家を主体とする組織である ICGNでは、「取締役会には、効果的な牽制や議論、客観的な意思決定を行うことが可能な関係分野の知識、独立性、能力、業界経験など十分な多様性を備えた取締役が配置されるべきである。」とし、以下の提言をしている。(三菱UFJ信託資産運用情報 2020年6月号より  https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u202006_1.pdf )

<ダイバーシティ>
 取締役会は、その経営幹部と取締役会(業務執行および非業務執行取締役の両方)について、ダイバーシティ(ジェンダー、民族、知識・経験、人格、社会的な背景など)の方針を開示すべき 会社は、現在の取締役会のダイバーシティ、測定可能な目標、およびかかる目標達成への進捗度合について報告すべきであるが、これには、幹部と取締役会レベルの適切な後継者計画の策定を通じてどのようにダイバーシティを確保するかについての説明も含まれるべき
<取締役の指名の開示>
 取締役会は、取締役の指名および選任・再任のプロセス、並びに以下を含む取締役候補についての情報を開示すべき
a) 取締役の氏名等と指名の理由 b) 主な能力、資質および職歴 c) 最近および現在の他の企業における取締役会および経営陣への就任状況、並びに非営利組織・慈善団体における重要役職への就任状況 d) 支配株主との関係を含む、独立性に影響を与える要因 e) 在任期間 f) 取締役会および委員会への出席状況 g) 会社の株式の保有状況
 この開示をスキル・マトリックスにまとめると、取締役会全体の主要スキルを説明するための方法を考える際に有効な手段となりうる。開示では、外部アドバイザーの活用、候補者探しや選定基準、多様性に関する方針を含めた取締役の採用プロセスについての情報を提供してもよい。

 

取締役会のダイバーシティ二つの範疇に大別されるという。「デモグラフィー型(性別、国籍、人種、宗教、障害の有無など)」ダイバーシティと「タスク型(経験、スキル、才能、見識、専門分野)」ダイバーシティである。これに関して次のようなエッセイを見つけた。『私は2019年8月に欧州へ赴き、多国籍企業(銀行、自動車、製薬企業7社) へ「どのようなダイバーシティを持つ取締役会が企業経営に良い影響を与えうるのか」をヒアリング調査しました。その調査の結果、社内の利害関係にとらわれず、事業戦略や事業の現場に踏み込んだ監督役割を取締役一人ひとりが目指すためには、「デモグラフィー型」は所与のものとし、現在は、「タスク型」ダイバーシティが重要であることを聞き取りました。今回のヒアリング調査の結果以外にも、「タスク型」ダイバーシティが、「デモクラフィー型」ダイバーシティよりも、企業経営に良い影響を与えることは、長年の世界各地での研究結果で指摘されているようです。』https://i-common.jp/column/corporation/management-diversity/

3.女性取締役に関する世界の動向

どこの国にも少なからず性差別が見られるが、特に男女の概念は昔からありまた肉体的な特性の違いもあるので女性差別はなかなかなくならない。どこの国でも政府が政策的に女性の活用を勧めているが、特に取締役に関しては女性取締役はまさにマイノリティである。しかし、レクチャーで紹介した通り、近年とくに女性側から積極的な活動がある。他方、次に示すように政府や機関投資家からの動きもある。。

企業取締役会への女性の登用割合を義務づける法律案 スウェーデン政府は、ジェンダー均衡の不平等を是正するための方策を開発・実施するため、民間部門とも持続的な対話を行ってきた。政府は手始めに、かつて取締役会に占める女性の割合を25%以上にするよう強制しようとした。この警告によって、企業の取締役会は適任の女性探しに着手した可能性が高く、この3年間に女性取締役の割合が6%から16%に上昇した。そのためこの問題は一時沈静化したように見えた。

https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2006_2/sweden_02.html

米カリフォルニア州で新法、上場企業に女性取締役を義務づけ  米カリフォルニア州で30日、上場企業に対して女性取締役の選任を義務付ける法律が施行された。新法によれば、カリフォルニア州で上場している企業は2019年末までに少なくとも1人の女性取締役を選任しなければならない。違反すると罰則が科される。また、取締役が5人の企業の場合、21年末までに女性取締役2人を選任しなければならない。取締役が6人以上の企業の場合は21年末までに選任すべき女性取締役は少なくとも3人となる。CNN Money 2018.10.01 Mon posted at 11:06 JST

女性活用後進国ニッポンに黒船来襲!「取締役に女性を」と海外投資家が迫り、「ノー」なら社長選任に反対ってアリ? 「米ゴールドマン・サックスは、同社が上場支援サービスを提供する企業に対して、少なくとも1人の『多様な』取締役を置くことを義務付ける。今年6月30日から実施する。デービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)が1月23日、米のニュース専門テレビ局CNBCで明らかにした。ソロモンCEOは『多様』な取締役の定義は明らかにしなかったが、実質的には女性が対象になると述べた。女性取締役が1人もいない場合は、新規株式公開(IPO)の引受業務を行わないという」

https://www.j-cast.com/kaisha/2020/06/17388137.html?p=all

世界の女性取締役選任状況 海外の資産運用会社や議決権行使助言会社が、上場企業に女性取締役の選任を迫る動きが強まっている。女性不在の場合、株主総会で提案される取締役選任議案への反対も辞さない構え。企業側は将来の役員候補となる女性幹部の育成など対応を急いでいる。
 2000社超の日本企業に投資する米資産運用大手のステート・ストリートは、昨年の株主総会から女性取締役がいない場合、企業の会長または社長の選任議案に反対票を投じている。2021年以降はさらに指名委員会を構成する取締役の選任にも反対する方針だ。
 同社のベンジャミン・コルトン氏は「女性取締役が多い企業は業績で良い結果を出し、イノベーションも多く生む傾向がある。厳しい事業環境でも生き残る可能性が高い」と説明している。
 米議決権行使助言会社グラスルイスは東証1部上場の主要100社を対象に、今年の株主総会で女性取締役の起用を要請。不在の場合は、会長または社長、もしくは指名委員会委員長の選任議案への反対を推奨している。20年には対象を拡大する。
 同社は海外投資家に影響力を持つだけに、賛同の動きが広がる可能性がある。東証が昨年改定したコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)も取締役会の多様化に向け女性の起用を促す。
 日本の上場企業役員に占める女性の割合は3%程度と欧米などと比べ大きく見劣る。政府はこれを20年に10%に引き上げる目標を掲げるが、役員候補となる女性管理職が少なく、達成は難しいとみられる。
 企業では、女性管理職に対して、将来の役員としての自覚を促すため、具体的なキャリアプランを提示するといった取り組みが出始めている。

https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_company20190617j-07-w390

【参考1】ニューヨーク証券取引所の上場マニュアル

-The New York Stock Exchange Listed Company Manual-

https://www.nyse.com/publicdocs/nyse/listing/NYSE_Corporate_Governance_Guide.pdf

NYSEのコーポレートガバナンスは、上場会社マニュアルのSection3「企業の責任」303A コーポレートガバナンス準則により規整されている。

Section 3 Corporate Responsibility/企業の責任

301.00 Introduction

301.00 Introduction

302.00 Annual Meetings

302.00 Annual Meetings

303A.00 Corporate Governance Standards/コーポレートガバナンス準則

303A.00 Introduction/序

303A.01 Independent Directors/独立取締役

303A.02 Independence Tests/独立性テスト

303A.03 Executive Sessions/エグゼクティブセッションズ

303A.04 Nominating/Corporate Governance Committee/指名・コーポレートガバナンス委員会

303A.05 Compensation Committee/報酬委員会

303A.06 Audit Committee/監査委員会

303A.07 Audit Committee Additional Requirements/監査委員会追加要件

303A.08 Shareholder Approval of Equity Compensation Plans/株式報酬プランの株主承認

303A.09 Corporate Governance Guidelines/コーポレートガバナンス・ガイドライン

303A.10 Code of Business Conduct and Ethics/企業行動規範と倫理

303A.11 Foreign Private Issuer Disclosure

303A.12 Certification Requirements

303A.13 Public Reprimand Letter

304.00 Classified Boards of Directors

305.00 Reserved

306.00 Reserved

307.00 Website Requirements

308.00 Reserved

309.00 Purchases of Company Stock by Directors and Officers

310.00 Quorums

311.00 Redemption of Listed Securities, Tender Offers

311.01 Publicity and Notice to the Exchange of Redemption

311.02 Trading in Securities Called for Redemption

311.03 Tender Offers

312.00 Shareholder Approval Policy

312.01 Shareholders’ Interest

312.02 Companies Are Urged

312.03 Shareholder Approval

312.04 For the Purpose of Section 312.03

312.05 Exceptions

312.06 In the Event

312.07 Where Shareholder

313.00 Voting Rights

314.00 Related Party Transactions

315.00 Regulatory Review

【参考2】わが国会社法における三委員会の規定

アメリカ各州の会社法は、株主総会、取締役会、取締役およびcorporate secretaryしか規定していない大雑把なものであるが、日本の会社法はもう少しきめ細かい。

http://home.lifeplan-japan.net/index.php?%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%B3%95404%E6%9D%A1

第2編 株式会社
 第4章 機関

  第10節 委員会及び執行役

委員会の権限等

第404条 指名委員会は、株主総会に提出する取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の選任及び解任に関する議案の内容を決定する。

2 監査委員会は、次に掲げる職務を行う。

一 執行役等(執行役及び取締役をいい、会計参与設置会社にあっては、執行役、取締役及び会計参与をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行の監査及び監査報告の作成

二 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定

3 報酬委員会は、第361条第1項並びに第379条第1項及び第2項の規定にかかわらず、執行役等の個人別の報酬等の内容を決定する。執行役が委員会設置会社の支配人その他の使用人を兼ねているときは、当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても、同様とする。

4 委員がその職務の執行(当該委員が所属する委員会の職務の執行に関するものに限る。以下この項において同じ。)について委員会設置会社に対して次に掲げる請求をしたときは、当該委員会設置会社は、当該請求に係る費用又は債務が当該委員の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない。

一 費用の前払の請求

二 支出をした費用及び支出の日以後におけるその利息の償還の請求

三 負担した債務の債権者に対する弁済(当該債務が弁済期にない場合にあっては、相当の担保の提供)の請求

(若杉敬明)

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