JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 CG研究会:第6回「指名/コーポレートガバナンス委員会とCEOの後継者育成:Q&A」

(Q&Aセッションはここです) 

取締役会委員会の一つである「指名委員会」(the nominating committee)は、取締役会に対する取締役候補者の指名、および在職中の取締役の再指名という伝統的な職務にとどまらず、多くの企業において役割が拡大し、「コーポレートガバナンス委員会」(the corporate governance committee)として再編される動きが出てきている。それを反映してNYSEのコーポレートガバナンス基準(Standard)は指名/コーポレートガバナンス委員会と名付けるとともに、当該委員会を独立取締役のみで構成することを求めている。CEOは社内取締役であるので当然指名/コーポレートガバナンス委員会のメンバーではない。このことは、取締役人事に関して、CEOは何の役割も果たせないないということではない。CEOは、伝統的に多くの企業において、指名委員会に対して候補者を推薦し、また候補者を募集するにあたって取締役会に対して人的・資金的援助を提供するという重要な役割を果たしてきた。それは現在も変わっていない。しかし、指名委員会がコーポレートガバナンス委員会の色彩を強くするにつれてCEOの役割は限定的になっている。その代わり、CEOの後継者問題において、従来も重要な役割を果たしてきたが、近年は異なる意味で重要性を増してきている。それがCEO Succession Planningへの新たな関与である。第6回研究会においては、新たな指名/コーポレートガバナンス委員会の役割と最近のCEO後継者育成計画の動向を見ていくが、最初に、指名委員会およびコーポレートガバナンス委員会の実務についてまとめておく。

指名委員会の伝統的な役割は次のようなことを取締役会に勧告することである。
(1)取締役会が株主総会において株主に提案する取締役候補者名簿を作成すること
(2)取締役会の下にはさまざまな取締役会委員会があるが、その構成員たるべき取締役の名簿を作成すること
(3)監査委員会、指名委員会および報酬委員会などのガバナンス機能を担う取締役委員会の議長である取締役を推薦すること

他方、コーポレートガバナンス委員会は次のような機能を果たしている。

(1)取締役会委員会の構造を検討すること
(2)取締役の中から取締役会委員会の構成員を任命すること
(3)取締役の中から取締役会委員会議長を選考すること
(4)取締役会の会合に関するポリシーを決定すること
(5)報酬、退任、損害賠償問題など、取締役の処遇を決定すること
(6)コーポレートガバナンス・ガイドラインを策定し取締役会に勧告すること

指名委員会の責任が拡大するにつれ、取締役会の中には指名委員会をコーポレートガバナンス委員会として再編するものも現れ、指名委員会は、取締役の指名、再指名、経営評価、後継者問題に加え、上述の機能を果たすようになった。NYSEのコーポレートガバナンス基準は指名/コーポレートガバナンス委員会の呼称の下にそのあり方を規定している。

1.Nominating/Corporate Governance CommitteeとNYSEのコーポレートガバナンス基準
303A.o4 Nominating/Corporate Governance Committee

(a)上場企業は、独立取締役のみで構成される指名/コーポレートガバナンス委員会を置かなければならない
(b)指名/企業統治委員会は、以下の事項を文書化した憲章を定める。
(i)委員会の目的と責任 少なくとも次の事柄を定める。取締役会によって承認された規準(criteria)を満たす取締役会メンバー有資格者を特定し、次期株主総会における取締役候補者として選任する、あるいは取締役会が選任するように推薦する。企業として遵守すべきコーポレートガバナンスガイドラインを策定し、取締役会が遵守するように推奨する。取締役会および経営陣の活動に関する評価を統括する。
(ii)指名/コーポレートガバナンス委員会自身の年次業績評価を行う。

NYSEによる解説:指名/コーポレートガバナンス委員会は、取締役会が効果的に機能するために重要な役割を果たす。新しい取締役および取締役会の各種委員の指名は、取締役会の最も重要な役割の1つである。この責任を独立な指名/コーポレートガバナンス委員会に委ねることで、候補者の独立性と質を高めることができる。当該委員会はまた、企業のコーポレートガバナンスを形成する上で指導的役割を果たすという責任も負っている。

上場会社が契約または何らかの理由で、取締役の指名権(たとえば、配当不履行、株主契約、あるいは経営協定に基づいて優先株が取締役を選任する権利)を第三者に付与することが求められている場合、取締役の選定および指名に当該委員会が関与する必要はない。

指名/コーポレートガバナンス委員会憲章は次の事項についても定めなければならない。取締役会の各種委員会構成員の資格要件;各種委員会構成員の任命と解任;各種委員会の構造と運営(下部委員会への権限委譲を含む);取締役会に対する指名/コーポレートガバナンス委員会自身に関する報告;さらに、取締役候補者の選任にあたり、指名/コーポレートガバナンス委員会のみに、取締役候補者調査会社との契約の保持および終了の権限を付与すること。これには、調査会社への報酬およびその他の契約条件を承認する権限も含まれる。

取締役会は、指名/コーポレートガバナンス委員会の責務を下部委員会に委譲することができる。ただし、下部委員会構成員は独立取締役であり、下部委員会は委員会憲章を定める必要がある。

ウェブサイト掲載要件:上場企業は、指名/コーポレートガバナンス委員会憲章をウェブサイト上またはウェブサイトを介して公開しなければならない。指名/コーポレートガバナンス委員会の機能が下部委員会に委譲されている場合、下部委員会の憲章も上場企業のウエブサイト上またはウエブサイトを介して公開しなければならない。

開示要件:上場企業は、年次委任状を提出するか、年次委任状を提出しない場合は、SECに提出されたフォーム10-Kの年次報告書で、指名/コーポレートガバナンス委員会憲章が、上場企業のウエブサイト上あるいはウエブサイトを介して利用可能であることを開示しなければならない。

2.NYSEのコーポレートガバナンス基準

指名/コーポレートガバナンス委員会が策定するコーポレートガバナンス・ガイドラインについて、コーポレートガバナンス規準は次のように定めている。

303A.09 上場企業はコーポレートガバナンスガイドラインを策定し開示しなければならない

解説:各上場企業ごとに適切な単一のガイドラインというものはないが、すべての企業に共通の重要な事柄はある。取締役の資格要件と責任、主要な委員会委員会の責任、および取締役の報酬である。

コーポレートガバナンスガイドラインでは、次の事項をとりあげなければならない。

取締役の資格要件:少なくとも、セクション303A.01および303A.02に記載されている独立性の要件を満たさなければならない。企業はまた、取締役が兼任できる取締役会の数、取締役の在任期間、退職および後任の選任等に関するポリシー等、重要な資格要件を決めることも望ましい。

取締役の責任:取締役に期待される責任を明示する。取締役会への出席および会議資料の事前レビュー等である。

取締役の経営陣へのアクセス:必要かつ適切な独立助言者として経営陣にアクセスする。

・取締役の報酬:取締役報酬ガイドラインは、取締役報酬の種類と金額を決定するための(および必要に応じてそれらの原則を検討するための)一般的な原則を定める。取締役会は、取締役への謝礼あるいは給料が慣習を超える場合、取締役会の独立性に関して疑問が持ち上がる可能性があることを認識していなければならない。上場会社が、ある取締役に対して、その取締役が所属する組織に相当額の慈善寄付をしたり、その取締役とコンサルティング契約を締結したり(またはその他の間接的な形の報酬を提供したり)という場合も、同様の懸念が生じる可能性がある。取締役会は、取締役の報酬の種類と金額を決定する際、および取締役の独立性を判断する際、これらの事項を批判的に判断しなければならない。

取締役に対するオリエンテーションと継続的教育

経営者の後継問題:後継者育成計画には、CEOの選任と業績評価に関するポリシーと原則、ならびに緊急事態またはCEOの退任時における継承に関するポリシーを含めなければならない。

取締役会の年次パフォーマンス評価:取締役会は、少なくとも年に1回自己評価を行い、取締役会と取締役会の各種委員会が効果的に機能しているかどうかを判断しなければならない。

・上場企業は、コーポレートガバナンスのガイドラインをウェブサイト上またはウェブサイトを介して公開しなければならない。

・上場企業は、年次委任状を提出するか、年次委任状を提出しない場合は、SECに提出されたフォーム10-Kの年次報告書で、コーポレートガバナンス・ガイドラインが、上場企業のウエブサイト上で、あるいはウエブサイトを介して利用可能であることを開示しなければならない。上場企業は、年次委任状を提出するか、年次委任状を提出しない場合は、SECに提出されたフォーム10-Kの年次報告書に開示する必要がある

3.指名委員会の伝統的なCEO候補者決定方法
(1)CEOの推薦によって決める
(2)一般公募で候補者を募る
(3)アウトソーシング
     ➀エグゼクティブ・サーチ会社とコンサルティング契約を結び、CEO候補者をサーチする
     ➁その時の契約には、リーテイナー契約と成功報酬型契約がある
     ③サーチ会社は、候補者と面接をするがその時の面接手法として行動面接法(STAR面接)が有名である。S(Situation)T(Task)A(Action)R(Result) 4.CEO Succession Planning
最近は、CEOを中心とする社内育成・選抜を重視するが、取締役会のガバナンスを強める仕組みが広まりつつある。
(1)現代の企業環境下では正しい後継者選びが重要との認識が広まっている
(2)後継者選びにおいて行動心理学的バイアスが発生することが正しく認識されるようになってきた
(3)間違ったCEO選びが、簡単に会社の将来を狂わせる事実が頻発したので、CEOの後継者選びについてより慎重に考慮した結果、従来からの社内からの育成の重要性が認識されるようになった。

 もともとアメリカにおいても、日本と同様に現職CEOが後継者選びに絶大な権限を有していた。しかし、その方式ではミラー効果(Mirror Effect;CEOが後継者に自分と似た人を選んでしまう傾向があること)など、重大な問題が発生することが認識されるようになった。そこで新しい形のCEO Succession Planningが議論され実務に応用されるようになってきた。これが第6回コーポレートガバナンス研究会の、指名委員会、コーポレートガバナンス・ガイドラインに続く第3のテーマである。

5.Succession Planningのベストプラクティス
5.1 役員後継者育成計画の根底にある考え方
①企業経営の将来を担うコア人材の継続的選抜と意図的な内部育成計画により、将来必要とされるコア人材(リーダーシップ)を輩出することが不可欠である。
   ・会社を成功に導くのは経営者のリーダーシップ
   ・経営上重要なポストを担う次世代の人材を輩出するためには、社内で
      a)リーダーとしての資質が高い人材を早期に選抜し、
      b)しかるべきポジションに配置・登用し、育成するシステムが望ましい
   ・このような計画(planning)実施することにより、
      a)現状に対処しながら、
      b)余裕をもって将来のリーダーを育成することが可能になる
急速な経営環境変化の中、a)いつ出現するかわらからないビジネス・チャンスを逃さないため、またb)思いがけないリスクを回避するために常に優秀な人材を選別し育成して置くという意味でも不可欠である。その意味ではリスクマネジメントそのものである。

5.2 サクセッションプラニングを重視している会社に共通のベストプラクティス 取締役会がサクセッション・プラニングに深く関与している;経営陣と取締役会が継続的かつ頻繁に接触
CEOの次世代候補者に、早くから、他社の取締役会、メディア、インベストメントコミュニティ等へのexposureを経験させる
活発な執行役員会を組織し、執行役員に会社全般、経営戦略、会社の諸問題を知る機会を与える
④ サクセッションプラニングはつねに進行中であり、リアルタイムのダイナミック・プロセスであることを前提としている
⑤ CEOのa)候補者名簿もb)ランキングも環境や戦略等の変化に応じて変更する
⑥ 育成のプロセスで、N0.2にさまざまな人間ドラマを演じさせる(No.2にとっては過酷!!!)
CEOの報酬を、a)サクセッション・プラニングおよびb)サクセッション・プログレスにリンクさせる
CEOの報酬は株式報酬とした上で、さらに自分の資金で自社の株式を購入するように要請する
⑨ 社内のCEO候補者たちをつねに外部の潜在的候補者と比較する
⑩ 後継者育成を積極的に会社の風土とする

(若杉敬明)

Q&Aセッション

 

 

9月15日(火)の第6回コーポレートガバナンス研究会Q&Aセッションで武さんから参加者に質問が投げかけられました。それに対して甲斐さんから回答がありましたので追加掲載します。

Q02:「何故、米国は、社外取締役が8割なのか?」(武 正雄)

A02:私なりに考えるに、「それが、優秀な(=企業に利益をもたらすことのできる)CEOを見つける有効なシステムだから」、「企業が利益を上げられないときに、CEOを交代させることができるシステムだから」が答えなのではないかと思います。日本国民は、プロのアスリートや音楽家はともかく、企業経営において、「プロの経営者(CEO)が存在する」という認識をあまり持っていない気がします。多くの大企業の社長(CEO)は、サラリーマンの“成れの果て”であり、激越な出世競争を経てきているものの、プロの経営者と自他ともに認める人は少ないのではないでしょうか。この点が、日本の稼ぐ力の無さにつながるとの認識のもと、稼ぐ力、ひいては、日本の国力・地位を上げるために、プロの経営者を育てる「仕組み」を導入する必要があるというのが昨今の流れだと理解しています。その「仕組み」のひとつが、コーポレートガバナンス改革であり、また、大学を始めとする教育システムの改革なのだと思います。後は、どのようにして、優秀なCEO候補者の裾野を広げ、また、それと同時に、優秀でないと評価される現CEOらを排除していくか、ということなのだと思います。やるべきことは明確であると思います。一方、松浦さんのご意見ではないですが、このような改革によって、米国のGAFAのような巨大企業を産み出すことができるか、となると、それは、また、別の話ということになると思います。(甲斐 幹敏)

Q01米国に於いても、社外CEOより社内CEOの方が業績も良く、社内組織及び報酬体系の継続性の維持のために優れている事が検証され、それ故に優秀な社内CEOの育成と発掘を可能にするためにSuccession Planningが重要視されて来ていることが理解でき、大変参考になりました。

 そうだとすると、社外取締役だけで構成される指名委員会は社内事情に疎いため、CEO又はCHROからのCEO候補者の情報の依存度が高くなり、情報の精度と客観性が大きな意味を持つのではないかと思われます。また、CEO/CFO等のトップレベルだけのSuccession Planningだけでは、有効な人材の育成や人材データベースの構築は困難と思われます。これを有効に実現するためには、グループ全体の人材育成プラン・社員教育・人事評価・人材データベースを戦略的に構築し、管理職・執行役員等もSuccession Planningに乗って選抜される風土を築き、その延長線上にCEO/CFOのSuccession Planningがあるとの前提に立てば、CEO又はCHROからのCEO候補者の情報の精度並びに客観性が担保され、人事制度の一貫性を保つことも可能かとも思いますが、米国企業のSuccession Planningの構築・運用の実態について、教えてください。(松浦 洋)

A01:経営トップは、会社の現在の利益に責任を持つと同時に、10年後、20年後の会社の将来にも責任を持たなければならない。そのためには明確な経営ビジョンを描きそれを実現するための経営戦略を策定しなければならない。将来経営戦略を実行するのは将来の経営者であるから、現在の経営者は戦略を立てるだけでなく、それを担うCEOはじめ経営陣を育てておかなければならない。それが役員サクセッションプラニングの本質である。そのために、会社は役員の人材育成を会社の風土としなければならないと言われている。質問の中で松浦さんが言われているとおりである。これには、知恵もお金も時間がかかる。したがって、収益性が高くゆとりのある会社でなければこのようなことはできない。優良な会社の多くがさびれていく一つの要因は、戦略的な人材育成の欠如だと私は考えている。

 ところで、申し訳ないが、米国企業の実態を私は知らない。しかし、米国のすべての企業が理想に近い人材育成を行っているわけではないことはほぼ断言できる。むしろ一部であろう。大事なことは、望ましいトップ人材の育成はどのようにあるべきかの理想形(モデル)を理解し、次に自分の会社はその理想のどこまでを実現すべきかを計画し、その計画を実施することであると考えている。もちろん計画は環境や寺社の変化に応じてアップデートしなければならない。もし、他の模範企業の実態-つまりベストプラクティスーを知りたければ、自社なりの計画を立てた後、優秀なコンサルタントに相談するのが良いと思う。(若杉 敬明)

 

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