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2020 コーポレートガバナンス研究会 第8回「監査委員会と内部監査-その3 DX推進ガイドライン-」

監査委員会と内部監査 その1 その2 その3

その3:経済産業省のDX推進ガイドライン Ver.1.0.

 

経済産業省が2018年9月に発表した「2025年の崖」レポートが契機になりDX(Digital Transformation)という言葉が経済界を揺るがしている。DXとは、企業の各部署でデジタイゼーション(Digitization)を進めることにより、企業全体としてデジタライゼーション(Digitalization)を実現し、企業のデジタルトランスフォーメーションを推進することを言う。

内部監査とは内部統制の一部で、内部統制が予定通り機能しているかを監視し、不具合があれば改善についてアドバイスする機能である。企業は目的を達成するために事業を行うが、事業はさまざまな職務の遂行によって推進される。職務遂行の方法や職務間の関係に関する規定の体系が内部統制システムである。企業全体としてデジタライゼーション進めれば、当然、内部統制もまた内部監査も大きな影響を受けるであろう。

経産省は、ごく一部の企業を除いてDXは対岸の火事であると指摘し、ボーッとしていると2025年には崖淵に立たされる重大な事態になるリスクを「2025年の崖」と称して警告を発している。第7回CG研究会のテーマは、取締役会のガバナンスとしての内部監査であるが、DXを意識しつつ、内部統制と内部監査について考えてみたい。

DXは2004年スエーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」という社会の進歩に関する一種の予言である。テクノロジーをデジタル化でとらえ、進化をトランスフォーメーションと表現しtransの略字であるXを充て、DXと称されているわけである。現在使われている意味は、①デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革し、かつ②既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらす破壊的な変革(Destructive transformation)であると私は受け止めている。

経産省が2018年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0」では次のように定義されている。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

経産省は「このような中で、我が国企業においては、多くの経営者が DXの必要性を認識し、DXを進めるべく、デジタル部門を設置する等の取組が見られる。しかしながら、PoC(Proof of Concept: 概念実証、新しいプロジェクト全体を作り上げる前に実施する戦略仮説・コン セプトの検証工程)を繰り返す等、ある程度の投資は行われるものの実際のビジネス変革には繋がっていないという状況が多くの企業に見られる」との現状認識に基づき、DX推進には新たなデジタル技術を活用して、どのようにビジネスを変革していくかの経営戦略そのものが不可欠である」として、「DX の実現やその基盤となる IT システムの構築を行っていく上で経営者が押さえるべき事項を明確にすること、取締役会や株主が DX の取組をチェックする上で活用できるものとすることを目的として、本ガイドライン『デジタルト ランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』(DX 推進ガイドライン)を策定した」と宣言している。

なお、経済産業省は東京証券取引所と共同で、「我が国企業の戦略的IT利活用の促進に向けた取組の一環として、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化のために、経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業を、『攻めのIT経営銘柄』として2015年より選定」してきたが、さらに「2020年からは、デジタル技術を前提として、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく『デジタルトランスフォーメーション(DX)』に取り組む企業を、『デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)』として選定し、企業名を公表している。

本ガイドラインは、「(1)DX 推進のための経営のあり方、仕組み」と、「(2)DXを実現する上で基盤となる ITシステムの構築」の2つから構成されている。以下、簡単にその内容を紹介する。

(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み

経営戦略・ビジョンの提示
1.想定されるディスラプション(「⾮連続的(破壊的)イノベーション」)を念頭に、デー タとデジタル技術の活用によって、どの事業分野でどのような新たな価値(新ビジネス 創出、即時性、コスト削減等)を生み出すことを目指すか、そのために、どのようなビジネスモデルを構築すべきかについての経営戦略やビジョンが提示できているか。

経営トップのコミットメント
2.DX を推進するに当たっては、ビジネスや仕事の仕方、組織・人事の仕組み、企業文化・ 風土そのものの変革が不可欠となる中、経営トップ自らがこれらの変革に強いコミットメントを持って取り組んでいるか。仮に、必要な変革に対する社内での抵抗が大きい場合には、トップがリーダーシッ プを発揮し、意思決定することができているか

DX 推進のための体制整備
3.経営戦略やビジョンの実現と紐づけられた形で、経営層が各事業部門に対して、データ やデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを構築する取組について、新しい挑 戦を促し、かつ挑戦を継続できる環境を整えているか。
① マインドセット: 各事業部門において新たな挑戦を積極的に行っていくマインド セットが醸成されるよう、例えば、以下のような仕組みができているか。
 - 仮説検証の繰返しプロセスが確立できている 仮説を設定し、実行し、その結果に基づいて仮説を検証し、それに基づき新たに仮説を得る一連の繰返しプロセスが確立できていること
 - 仮説検証の繰返しプロセスをスピーディーに実行できる
 - 実行して目的を満たすかどうか評価する仕組みとなっている
② 推進・サポート体制: 経営戦略やビジョンの実現を念頭に、それを具現化する各事 業部門におけるデータやデジタル技術の活用の取組を推進・サポートする DX 推進 部門の設置等、必要な体制が整えられているか。
③ 人材: DX の実行のために必要な人材の育成・確保 ※に向けた取組が行われているか。
 - DX 推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保
 - 各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DX の取組をリードする人材、その実行を担っていく人材の育成・確保等 (※ 人材の確保には、社外からの人材の獲得や社外との連携も含む)

投資等の意思決定のあり方
4.DX 推進のための投資等の意思決定において、
① コストのみでなくビジネスに与えるプラスのインパクトを勘案して判断しているか。
② 他方、定量的なリターンやその確度を求めすぎて挑戦を阻害していないか。
③ 投資をせず、DX が実現できないことにより、デジタル化するマーケットから排除されるリスクを勘案しているか。

DX により実現すべきもの:スピーディーな変化への対応力
5.ビジネスモデルの変革が、経営方針転換やグローバル展開等へのスピーディーな対応 を可能とするものになっているか。

(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築
(2)-1 体制・仕組み
全社的な IT システムの構築のための体制
6.DX の実行に際し、各事業部門におけるデータやデジタル技術の戦略的な活用を可能と する基盤と、それらを相互に連携できる全社的な IT システムを構築するための体制(組織や役割分担)が整っているか。
- 経営戦略を実現するために必要なデータとその活用、それに適した IT システムの 全体設計(アーキテクチャ)を描ける体制・人材を確保できているか(社外との連 携を含む)

全社的な IT システムの構築に向けたガバナンス
7.全社的な IT システムを構築するに当たっては、各事業部門が新たに導入する IT システ ムと既存の IT システムとの円滑な連携を確保しつつ、IT システムが事業部門ごとに個 別最適となることを回避し、全社最適となるよう、複雑化・ブラックボックス化しない ための必要なガバナンスを確立しているか。
8.全社的な IT システムの構築に向けた刷新に当たっては、ベンダー企業に丸投げせず、 ユーザ企業自らがシステム連携基盤の企画・要件定義を行っているか。

事業部門のオーナーシップと要件定義能力
9.各事業部門がオーナーシップを持って DX で実現したい事業企画・業務企画を自ら明確 にしているか。さらに、ベンダー企業から自社の DX に適した技術面を含めた提案を集め、そうした提案を自ら取捨選択し、それらを踏まえて各事業部門自らが要件定義を行い、完成責任までを担えているか。
 - 要件の詳細はベンダー企業と組んで一緒に作っていくとしても、要件はユーザ企業 が確定することになっているか(要件定義の丸投げはしない) (2)-2 実行プロセス
IT 資産の分析・評価
10.IT 資産の現状を分析・評価できているか。

IT 資産の仕分けとプランニング
11.以下のような諸点を勘案し、IT資産の仕分けやどのような IT システムに移行する かのプランニングができているか。
 - バリューチェーンにおける強みや弱みを踏まえつつ、データやデジタル技術の活用 によってビジネス環境の変化に対応して、迅速にビジネスモデルを変革できるよう にすべき領域を定め、それに適したシステム環境を構築できるか
 - 事業部門ごとにバラバラではなく、全社横断的なデータ活用を可能とする等、シス テム間連携のあり方を含め、全社最適となるようなシステム構成になっているか
 - 競争領域とせざるを得ないものを精査した上で特定し、それ以外のものについて は、協調領域(非競争領域)として、標準パッケージや業種ごとの共通プラット フォームを利用する等、競争領域へのリソースの重点配分を図っているか
 - 経営環境の変化に対応して、IT システムについても、廃棄すべきものはサンクコス トとしてこれ以上コストをかけず、廃棄できているか
 - 全体として、技術的負債 5の低減にも繋がっていくか

刷新後のITシステム:変化への追従力
12.刷新後のITシステムには、新たなデジタル技術が導入され、ビジネスモデルの変化 に迅速に追従できるようになっているか。また、ITシステムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているか。

  • 2019年内部監査全世界実態調査(PWC)

 

経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0」

2019年内部監査全世界実態調査(PWC)「デジタル化で高まる内部監査の役割」 

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