JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 ファイナンス研究会 第8回「企業価値創造第3の鍵:役員報酬とオプション」

Q&Aセッションはここ

Ⅰ オプションとデリバティブズ

1. デリバティブズ

 日本取引所グループ(JPX)のウエブサイトによればオプションの起源は古代ギリシャにある。「古代ギリシャの哲学者ターレスは天文学から『来年のオリーブは豊作だ』と予想し、前もってオリーブの絞り機を借りる権利を買っておきました。翌年のオリーブはターレスの思惑どおり大豊作になりました。絞り機を貸してほしい人が殺到し、使用料は上昇、ターレスはオリーブの絞り機を高く貸し、利益を得ました。これらのオリーブを巡る権利の売買が、現代のオプション取引の仕組みと同様であることから、オプション取引の起源をギリシャ時代に遡ることができると言われています。」(北浜博士のデリバティブ教室

他方、オプションと並んで挙げられる先物は、江戸時代にさかのぼり、大阪の堂島米会所において行われていた収穫前の年貢米の売買が先物取引の起源だと言われている。現代においては、先物取引オプション取引スワップ取引などが「デリバティブズ」(Derivatives)と総称される。株式、債券、為替などの金融契約や農作物や鉱物などの商品をオリジン(Underlying asset;原資産)として発生してきた(deriveされた)金融契約であるので総称して「デリバティブズ(derivative)」と呼ばれている。その意味では火災保険などの保険もデリバティブズの一つである。日本語では金融派生商品と呼ばれる。

2. 先物とオプション

 これらの契約の本質は予約である。需給で価格が決まる相場商品のうち需給の変化に価格が激しく変化する市況商品の場合、将来、売りまたは買いの予定がある企業や投資家の一部は価格変動のリスクを回避(ヘッジ)するため、価格および取引量を契約-予約-により確定することを望む。予約を受ける者にリスクを転嫁し、リスクを負担してもらうのである。これを先渡し契約(Forward contract)という。予約は、契約をすると最後まで遂行することが義務であるが、「結果的に予約をしないほうが良かった」という場合には予約をキャンセル出来ることが望ましい。逆に言えば、都合の良いときだけ予約した価格で売買できる権利を買うという契約が望ましい。これがオプション契約(Option contract)である。これらの方法は、予約をする者と予約を受ける者との間で相対取引として自然的に発生してきた。しかし、1980年代以降、貿易・為替の自由化や金利自由化等により金融のリスク―いわゆるシステマティックリスク―が高まると、先渡し契約やオプション契約に対する需要が高まった。そこで、各国の政府は、これらの契約に市場原理が働くように、取引所を設けるなど市場を整備してきた。取引所で取引される先渡し契約が先物(Futures)である。

3.先物価格とオプション価格

(1) 先物価格

 現物を売るないし買う取引舎は、先物を買うないし売るという反対ポジションを組み合わせることにより、完全にリスクがないポートフォリオを形成することができる。リスクフリーの金利が与えられれば、先物価格が決まる。このポートフォリオとリスクフリー資産の間の裁定取引を想定することにより、先物の理論価格が容易に決まる。

(2) オプション価格(オプションプレミアム)

 オプションの場合にも、連続時間を想定すると、現物とオプションの組み合わせでリスクのないポジションを作ることが出来る。価格が連続時間の下で連続的に変化すると仮定すると、リスクフリーのポジションを維持できるので、先物と同様にリスクフリーの金利との最低により、ユーロピアン・コールの価格(プレミアム)を理論的に求めることが出来る。これがブラック=ショールズのオプション価格モデル(Option Pricing Model; OPM)である。数学的に厳密であるがゆえに、現実との乖離が問題になるので、実用にはさまざまな工夫が必要である。

4. 日本のオプション取引 日本取引所グループ(JPX)のオンデマンド・セミナー → 日経225オプション

5. オプションプレミアムの演習問題

次の表は11月14日(土)日本経済新聞朝刊の日経平均オプションの相場欄です。12月の取引最終日は12月10日(木)です。
CASIOのブラック=ショールズ計算式を利用して、各権利行使価格のコールオプションのプレミアムを計算してください。右下の日経平均HVが標準偏差(ヒストリカルボラティリティ)です。リスクフリーレートは皆さんが適切だと思う値を使ってください。参考までに同じ紙面での短期金融市場1ヶ月物コールの金利は-0.012%でした。

Ⅱ ストックオプション

はじめに
企業が価値創造をするためには、賢い方法で資本調達を行い、その資金で予想収益性の高い投資を行うことである(もちろん優れた経営管理で予想を実現することが重要である)。ファイナンス研究会では、資本調達の問題を「株主価値創造の第1の鍵」と位置づけ、そして投資決定の問題を「第2の鍵」として取り上げてきた。今回は、最後の第3の鍵として株式報酬-役員の報酬問題-を議論する。
株主価値の創造には、新規投資が不可欠であるが、投資にはリスクがともなう。経営者は新規投資により(市場で決まるリスクに見合った以上の)リターンを実現しなければならない。したがって、投資決定を行う経営者はリスクをとらなければならないが、リスクに慎重な経営者は投資を躊躇するかも知れない。他方、株主は企業価値の創造により株主価値の上昇を期待している。この時、どのようにしたら経営者を投資に向けて動機づけることができるのであろうか。基本的には、次のような考え方が一般的である。経営者と株主の利害を一致させることであり、それには経営者に自社株を保有させることである。この考え方から、経営者に払う報酬を株式あるいは株式と同様の権利で支払うことが行われる。それが株式報酬である。株式報酬は、そのほかの理由あるいは目的-経営者・従業員の引き留め策として-でも利用される。そこで、ここでは株式報酬の一般論を解説する。

1.金銭報酬対株式報酬
労働の対価としての報酬は、基本的には現金で支払われてきたが、これは労働基準法で定められているもので、「通貨払いの原則」と呼ばれている。他方、コーポレートガバナンス・コードの要請もあり、インセンティブとして機能する自社の株式や新株予約権-ストックオプション-を経営陣に対して付与する会社が増加している。これを受けて、会社法は非金銭報酬の付与の決定に際しての規定を設けている。
現金報酬と株式報酬の特徴(https://maonline.jp/articles/bizsupli0903)
・現金報酬:① 金額がわかりやすく、給料という実感がある ② 流動性が高いので生活給に向いている ③支給された後 、価値が減るということがない
・株式報酬:① 会社に流動性が乏しくても付与できる  ② 将来の株価が収入になるので、株価を高める経営行動へのインセンティブとなる  ③  付与される者にとって、株価の上昇によりハイリターンを期待できる  ④ 株主となることで、とくに従業員の場合、会社へのロイヤリティの向上が図れる

2.株式報酬の種類
(1)ストックオプション
株式を、将来一定の条件-期間、価格など-で購入できる権利を支給するもので、有償ストックオプションと無償ストックオプションとがある
1)有償ストックオプション
会社が発行したストックオプションを役員・従業員が発行価額を支払うことで購入し、あらかじめ決められた条件を満たした際に、ストックオプションの保有者が行使価額を支払い権利行使することで株式を取得することができるスキームのこと。労働の対価とみなされる無償ストックオプションと違い、有償ストックオプションの場合、役員・従業員はストックオプションを購入しているため税務上金融商品として課税される。
2)無償ストックオプション
無償ストックオプションとは、役員・従業員に発行価額が無償で付与されるストックオプションのことである。無償で付与されるがゆえに税制上、給与課税が適用される。しかし、一定の適格要件をみすものは所得税が課されない。わが国の適格要件は次の4点に関わる。
・ 発行形態 無償で発行されること、かつ権利は本人行使すること(譲渡禁止)
・ 行使価額 第1に年間権利行使が1200万円未満であること、第2に権利行使価額を付与時の時価以上に設定すること
・ 行使期間 ストックオプションの付与決議から2年後~10年後の8年間のみ
・ 付与対象者 ①発行会社およびその子会社の取締役・執行役・従業員であること ②付与決議日において1/3以上の持ち分を有する大口株主およびその特別関係者(親族や配偶者など)でないこと
2-1)税制適格ストックオプション:ISO(Incentive Stock Option)
利益について税務上有利になるものの、行使価格が付与時の株価以上であるため、値上がりした時のみ利益となるが、税務上の恩恵がある(権利行使後売却したときに譲渡課税)。株価が付与時より上昇しないと保有者の報酬にはならないので、経営陣の株価上昇行動のインセンティブになる。それゆえISOとも呼ばれる。
2-2)株式報酬型ストックオプション:1円SO(1円ストックオプション)
権利行使価格が1円であるので、株価が付与時の株価より下がっても利益がでるが、税務上の恩恵はない(権利行使時に給与課税、売却時に譲渡課税)
(2)株式給付
2-1)リストリクテッド・ストック:RS(Restricted Stock譲渡制限付き株式)
一定の勤務期間後に譲渡制限が解除される株式を付与され、解除時点で給与所得となり課税される
2-2)リストリクテッド・ストック・ユニット:RSU
一定の待機期間後に株式が付与され、その付与時点で給与所得となり課税される。
2-3)パフォーマンス・シェア:PS(Performance Share)
中長期の業績目標が立てられ、計画期間経過後の目標達成度合いに応じて株式数が決定される。具体的には、目標策定時点に一定数の譲渡制限株式が付与され、計画期間経過後の目標達成度合いによって、譲渡制限が解除される株式数が決まり、その時点で給与所得が発生し、所得税が課される。その後、売却時に譲渡税が発生する。
2-4)パフォーマンス・シェア・ユニット:PSU
中長期の計画期間経過後、その時点において業績目標の達成度合いに応じて株式付与が行われ、給与所得が発生し所得税が課される。
2-5)株式給付信託
自社株購入資金を外部に委託・運用し、実際に株式にて報酬を支給する際に自社株式で払戻しを行う仕組みを言い、 RS/RSU/PS/PSU どの類型にも対応している
2-6)従業員持ち株会:ESOP(Employee Stock Ownership Plans)
従業員の給与からの拠出と企業の拠出(奨励金)とで自社株を買付けをし、退職時に従業員に配分する確定拠出型退職給付制度。従業員への課税は退職時に行われる。多くの場合、最初に借り入れが行われるのでレバレッジドESOP(Leveraged ESOP)と呼ばれる。企業の拠出は借入金の返済に充てられ損金算入される。

<参考>日本のストックオプションの利用状況に関する調査 「株式報酬の導入状況」(ウイリス・タワーズワトソン&三菱UFJ 信託銀行)

3.株式報酬の利用
株式報酬が一般的なアメリカでは次のような使われ方がされている。
(1)採用: サインアップボーナス(採用の一時金)を、資金余力のないベンチャー企業などでは、株式報酬で支払うことがよくあると言われる。 例)非上場会社の税制適格SO
(2)業績向上へのインセンティブ: 企業価値向上(株価向上)を目的として従業員の精勤を獲得するインセンティブとして利用される。特に企業価値に大きく影響を与えることができるマネジメントあるいはマネジメントに近い層には株式報酬が向いていると考えられている。例)上場会社の税制適格SO、パフォーマンス・シェア、株式給付信託
(3)リテンション(引き留め策):株式報酬の長期性を利用して経営陣や従業員の引き留め策として株式報酬が利用される。 例)リストリクテッド・ストック、株式給付信託、従業員持株会
(4)退職:退職給付としてストックオプションが付与されることがある。特に経営者の場合、株価上昇行動へのインセンティブとして期待される。例)1円SO

<参考> ストックオプション全般に関する紹介「ストックオプション」BiZHiNT

4.むすびに
役員等に対するインセンティブとして有効であるということで業績連動報酬が重視され、株式報酬を実施する企業が増えている。しかし、一口に株式報酬と言ってもさまざまな類型があり、所得金額の計算や所得税課税のタイミングが異なる。第8回ファイナンス研究会においては、ストックオプションをとりあげ、現代ファイナンスの主要コンセプトであるオプションについて検討する。

Q&Aセッション

Q01:ストックオプション制度の導入は株主の利益と経営者の利益をすり合わせる効果や制度を導入することで結果的に企業価値を最大化するコーポレートガバナンスにも貢献することを理解しました。一方で、ストックオプションは過剰なリスクテイキングとなることや大量に市場に売却することが株価を下げる要因になることからから経営者に自社株保有を義務付ける傾向(経営者の株主化)もあるようです。ストックオプションのインセンティブは安く取得して高く売却できる点であれば、自社株保有義務付けは経営者の利害を損ねる、またはモチベーションの低下につながると思います。正解は無いと思いますがこのあたりのバランスはどの様にとればよいのでしょうか。

A01:自社株を保有してもらい、株価を下げないような経営をしてもらう、それが自社株保有義務づけの目的です。それでも、経営者が積極的にリスクを取れば、リスクが裏目に出て株価下落で損失を被るリスクがあります。それを埋め合わせるのが、リスクテイキングが成功して株価が上昇し、自社株保有とオプション保有から巨額の利益を得られることです。それではストックオプションと自社株をどういう比率で保有したら良いのかというのが当然の疑問です。しかし、将来、どのようなリスクテイクの機会があるかは全く予想が付かないわけですから、客観的にあるいは合理的に自社株保有とストックオプション保有の比率を決定することはできません。「正解は無い」が正解です。ただ米国では、CEOに基本給の5倍から10倍の時価総額の自社株を保有させるのが平均的であると読んだことがあります。

Q02:コーポレートガバナンスの観点から、役員に付与する1円ストックオプションというのは問題ないのでしょうか。一般株主からみて、利益相反ではないかと疑える部分があるように思えるのですが・・。

A01:権利行使価額が1円である、いわゆる1円ストックオプションの保有は事実上株式を持っているのと同じですから、権利行使価額が付与時の株価以上であるISO型のストックオプションとは異なり、リスクテイキングによる株主価値創造に対するインセンティブ性はありません。しかし、株式保有と同じですから、株価を下げないというブレーキ役を果たすという役割は持っています。したがって、コーポレートガバナンスの観点からも一定の意味を持っていると言えます。なお1円ストックオプションは最近退職慰労金として利用されることが多いようですが、これは退職した従業員が株主になるということですから、善いか悪いかは別にしてコーポレートガバナンス上の意味はあり得ると思います。ある社長さんは、退職した役員や従業員は現経営陣の経営に対して非常に厳しい見方をすると言っておられました。

(若杉 敬明)

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