JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 コーポレートガバナンス研究会 第9回「英米のコーポレートガバナンス改革」-その3 まとめ-

英米のAnglo-Saxon型コーポレートガバナンス

1.判例法主義におけるコーポレートガバナンス規整
 英国や米国の法の精神は、凡例を法源とする判例法主義であり、過去の同種の裁判の先例に拘束される。 会社法も判例・慣習に基づいて解釈される。会社に対する規整は、法律による統制より企業の自主性が尊重される。「民のことは民に委ねる」の精神である。コーポレートガバナンスも会社の慣習に則するという考えに基づいている。ベストプラクティスをお手本とするガバナンス規整にはこのようなベースがある。

2.現代社会におけるコーポレートガバナンスのベストプラクティス
2.1. ガバナンスとマネジメントの分離
 取締役会が業務意思決定を行い、業務執行取締役が業務執行を行い、その業務執行を取締役会が監督するという一層型取締役会の自己監督という矛盾を解決するために、「ガバナンスとマネジメントの分離」が現代の英米のガバナンス体制の基本である。つまり、取締役は、業務執行(マネジメント)にタッチせず、監督(ガバナンス)に専念するために、取締役と業務執行役員とが別人である人的構成である。
2.2. 独立取締役が支配的な取締役会
 業務執行役員に対する監督を強力に推し進めるためには、業務執行役員の利害から独立でなければならない。また、営利の追求という受託者責任を果たすためには、すべてのステークホルダーからも独立でなければならない。ただし、資本市場の大原則である市場原理には従わなければならない。市場原理遵守の下、自主独立な立場から業務執行役員を監督するのが独立取締役である。独立取締役が支配的(Dominant)な取締役会を構成し、その取締役会に業務執行役員の監督を委ねるのが英米流の「取締役会のガバナンス」である。
2.3 取引所の自主規制によるガバナンス規整
 「民のことは民に任せる」であるから、上場会社の規整は民間組織である取引所の自己規制に委ねられる。取引所はベストプラクティスを取り入れて上場会社規則を定める。民間組織であるから法律のような強制力が無いので、「Comply or Explain」で、規則通りやらなくても良いがその場合には市場(投資家)に説明してその是非の判断(株価)に委ね、事実上の強制力を持たせるという、いわゆる「Soft Law」方式による規整が行われている。
2.4. 情報開示と合理的投資家-ディスクロージャーと効率的市場-
 Comply or Explainが有効に働くためには、Explainに加えて会社の実情を性格に社会に知らせる情報開示が制度化されていなければならない。それとともに、伝えられた情報を適切に判断する投資家がいなければSoft Law方式は機能しない。適切な情報開示と合理的な市場がComply or Explain方式の大前提である。
2.5. コーポレートガバナンスの市場 
 株主が合理的な判断をせず拙劣な会社経営を放置している場合、賢明な投資家が現在の株主にとって代わり、取締役を代えるなり業務執行役員を代えるなりして、現在の経営を改善すれば企業の価値は上昇し株主も社会も恩恵を受ける。これはまさに、株式の売買によりガバナンスが愚かな株主から賢い株主に移動することである。したがって、株式市場は伝統的に「会社支配権の市場」と呼ばれて来た。現代風に言えばまさに「コーポレートガバナンスの市場」ということである。合理的・効率的市場であればコーポレートガバナンスの市場としての株式市場が機能し、社会全体として健全なコーポレートガバナンスが実現する。
2.6. 株主の責任
 毎年定期的に開催され株主の意思が決定される株主総会を通じて、株主から会社を預かり株主に代わって会社を運営する取締役が選任される。業務執行役員を正しく監督できる独立取締役を選任することが株主のもっとも基本的な役割である。議決権行使や経営者との対話(エンゲイジメント)が株主責任であるから、株主とくに機関投資家は株主として活発に行動しなければならない(Shareholder activism)。

3. Anglo-Saxon流のコーポレートガバナンス体制
 以上に述べたアングロサクソン流のコーポレートガバナンスを具体化したコーポレートガバナンス体制のベストプラクティスは具体的には次の通りである。
3.1. 独立取締役中心の取締役会
 取締役会において社内取締役はCEOとCFOだけにとどめ、他は社外独立取締役とする。そして、監督者である取締役と非監督者である業務執行役員とは別人にする。
3.2. 三委員会体制
 指名委員会、報酬委員会および監査委員会を取締役会のガバナンスの基本委員会とし、基本的な意思決定をこれらの下部委員会に委ね、取締役会はそれらの意思決定を承認し最終決定とする方式をとり、取締役会能を合理的・効率的に機能させる。なお、三委員会を構成する取締役は全員独立取締役であることが減速である。三委員会の役割は次の通りである。 3.2.1. 指名委員会
 取締役会がCEOはじめ主要な業務執行役員を選任する。したがって、賢明な独立取締役の選任が不可欠である。指名委員会は株主総会に提出する取締候補者を決定する。さらに、主要な業務執行役員も指名委員会が決定する。
3.2.2. 報酬委員会
 優れた人材がCEOはじめ業務執行役員として選任されていても、営利という会社目的に向けて動機づけられていなければ、会社目的は達成されない。動機づけるためのインセンティブとして現代企業で利用されるのは報酬であり、かつ業務執行役員の報酬を株価や株主利益と連動させるPay-for-Performanceである。インセンティブ報酬制度の決定が報酬委員会の基本責務である。
3.2.3. 監査委員会  会社の目的を達成するために、企業内のあらゆる職務が職務規程に従いつつ効率的に行わなければならない。それに失敗すれば、会社目的の達成が危ぶまれるので、それを防ぐためにリスクマネジメントにも特別の注意が払われなければならない。そのための職務規程の体系が内部統制システムである。内部統制システムが機能しているかどうかは、内部監査人および財務報告に関する外部監査人(会計監査人)によって検証され、改善のために問題点が提起される。この際、内部監査人および外部監査人が監査対象から独立であることが要求される。これら両監査人の独立性を検証するのが監査委員会の責務である。

4.サジェスチョン
 キャドベリー委員会報告(1992)が示した「独立取締役中心の取締役会」+「指名・報酬・監査の三委員会」というガバナンス体制が、現在、世界の標準になっている。この体制の精神をベースに、各国の事情に合わせたコーポレートガバナンス体制の整備が、世界各国の株式会社の課題である。

(若杉 敬明)

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