JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 コーポレートガバナンス研究会 第9回「英米のコーポレートガバナンス改革」-Q&Aセッション-

Q01:英米の歴史的変遷とコーポレートガバナンス改革の網羅的概説が私の断片的知識と経験を結び付け網羅的に理解することができました。誠にありがとうございます。この中で、英国の2018年コーポレートガバナンス・コードの改訂の目的が、コードや法規則をどれだけ強化しても企業不祥事発生のリスクを排除できないことから、従業員に配慮したコーポレートガバナンス・コードを策定し、企業の強力なコーポレートガバナンスにより強固な企業文化を創出させるためと聞いています。

日本では、風通しの良い企業風土・コンプライアンス優先の企業文化が適切な内部統制環境を産み、企業不祥事防止並びに持続的成長に資することから、従業員を含めた良質な企業風土並びに企業文化の創造と維持が経営トップの重要な職務であり、その職務執行を適切に遂行しているかの監査が監査役等の重要な職務と長らく言われ実施してきています。強力なコーポレートガバナンスが良質の企業文化を生むのか、良質の企業文化が良質のコーポレートガバナンスを生むのかのアップローチの相違はありますが、軌を一にしている処もあるように思われ、この面では日本が先行しているようにも見えます。

 業績の短期主義から長期主義、格差社会の改善と高額報酬の是正、株主第一主義からステークホルダー主義、ダイバーシティの進展、ESG投資の拡大等、世の中は大きく変わりつつある時に、日本は単に英米のコーポレートガバナンスを画一的に真似る(後追いする)のでは無く、日本の文化・国民性・環境・経営資源を考慮して、優れている面は残し、遅れている面は果敢に是正し、国際競争力のあるコーポレートガバナンスの構築を目指して行くべきと思いますが如何でしょうか。

A01:<最初に、この研究会のベースとなるコーポレートガバナンス理論をあらためて整理しておきます。> コーポレートガバナンスの目的は、企業経営者から良質の事業経営を引き出すことが目的です。会社法が定める会社の目的は事業から得た利益を出資者に分配することにあります。これを営利といいます。出資者にとって、利益は多い方が良いので事業を行う以上は、最大限の利益を追求しようします。合資会社・合名会社・合同会社などの小規模な事業を行う会社は、出資者が経営者になり利益を追求します。大規模な事業を想定している株式会社では、出資者である株主は、自らは経営を行わず株主総会で取締役を選任して取締役会に経営を委ねます。株主は当然、取締役会に利益最大化の経営を期待しまから、自ずと取締役会の使命は利益最大化の経営を実現すること、ということになります。

利益最大化について補足します。まず、会社の目的は営利であるということは、財務諸表の構造に端的に表れています。損益計算書の最終項目は当期純利益です。これは株主に帰属する利益で(会計上の制約がありますが原則として)配当として株主に分配することができる利益です。つまり、損益計算書の目的は株主利益の決定にあるのです。それは、会社の目的が営利であり、株主に利益を分配することが目的だからです。現代の大規模な株式会社の多くでは、大規模な資産を保有して多期間にわたる事業を行い、かつ株式は株式市場に上場されており、株式の流通により株主の多くが頻繁に交代します。したがって、株式会社の経営は長期的な観点からなされなければなりません。したがって、会社会計では、企業はゴーイングコンサーンであると前提され、利益が一時期の株主に集中しないように配慮されています(利益平準化の原則)。企業には株主だけでなく、従業員、顧客、供給業者などさまざまなステークホルダーがいますからゴーイングコンサーンの概念は重要です。現代の企業においては持続性が重視されますが、これは従来からあるゴーイングコンサーンを言い換えた概念に過ぎません。

 さて、株主は、自らの代わりに会社を経営する取締役を選任することができますから、株主の利益に忠実な取締役を選任すれば会社の経営を支配することができます。これを株主のガバナンスといいます。しかし、20世紀も終わり近くなりグローバリゼーション始まり企業間の競争が厳しくなると、業績悪化や経営者の不始末で株主利益が損なわれる現象が頻発するようになりました。そのような事実を通してベストプラクティスとして、業務執行(マネジメント)とそれに対する監督(ガバナンス)分離するガバナンス体制が確立してきた。

その体制の要点は、①独立取締役を中心とする取締役会、②取締役会による業務(営利)に関する意思決定、③取締役会が選任する非取締役最高経営責任者(CEO)等による業務執行、④独立取締役から構成される三委員会によるCEO以下の業務執行役員に対する監督である。ここで三委員会とは、⑤優秀なCEOを選任する取締役会のメンバーである取締役の候補者を決定する指名委員会、⑥優秀なCEOを営利に向けて動機づけるインセンティブ報酬を決定する報酬委員会、⑦CEO以下の業務執行従事者が、内部統制を遵守し効率的で適法に職務を執行しているか否かを確認する内部監査人・外部監査人の独立性の検証を行う監査委員会である。(詳細はコラムhttps://jcgr.org/column/2345/ 参照のこと)

 企業の内部でどのように業務執行―マネジメント―を行っていくかは、企業が置かれた社会・文化そして環境によって異なるであろう。しかし、グローバリゼーションの進行によって、社会も文化も環境も同質化していく傾向がある。ガバナンスは、基本的には、マネジメントが、社会や文化や環境を適切に理解して、忠実に営利を追求してくれればマネジメントには関心を持たない。本研究会でもそのようなガバナンスを理想としている。

 しかし、1980年代は経済およびビジネスの諸分野でトップクラスにいた日本が、現在は二等国に落ちぶれている。私としては、日本のマネジメントの現状を海外の先進国と異なるからと批判的に見るのでなく、評価は慎重に行わなければならないと思う。質問者の「日本は単に英米のコーポレートガバナンスを画一的に真似る(後追いする)のでは無く、日本の文化・国民性・環境・経営資源を考慮して、優れている面は残し、遅れている面は果敢に是正し、国際競争力のあるコーポレートガバナンスの構築を目指して行くべき」という意見に賛成です。ただし、①から⑦までのコーポレートガバナンスの基本モデルは共通であると考える。

(若杉 敬明)

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