JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 ファイナンス研究会 第9回「エクイティファイナンス」

Q&Aセションはここ

第9回「エクイティファイナンス」は次のようなⅠ~Ⅴの構成になっている。

Ⅰ 自己資本対負債の資本コスト-法人税制による差別化-

企業は元手である資本を調達して事業を行う。売上高から、資本以外の種々のステークホルダーに支払った費用を控除した残高を、ファイナンス理論では営業利益(NOI)と呼ぶ(自己資本つまり株主資本の利益の計算を目的とする財務会計にはこの概念がない)。そして、NOIから負債への利息を支払った残りが株主に対する利益-純利益(NI: Net Income)と呼ばれる-である。企業の事業を支える資金の源泉であるという意味では、自己資本も負債も資本としての役割は同じである。違いは、負債は営業利益から予め定められた金利を受け取り、自己資本は営業利益からその金利を差し引いた残額を受け取るという点である。営業利益にはビジネスリスクを反映してリスクがあるが、負債はリスクを負担せず、自己資本がリスクを負担するのである。このような営業利益の分配ルールの下で、法人税制は、株主の純利益だけに法人税が課す。これが支払利息の損金算入である。

資本として同じ貢献をする自己資本と負債であるにもかかわらず、資本に対する利益である営業利益の段階では課税されず、営業利益から支払利息を控除した純利益にのみ課税されるということは、法人税制が自己資本と負債に対して中立ではないということである。負債に対する分配には課税されず、もし法人税が課されていたら支払われたであろう税金部分が自己資本の利益になるということであれば、株主が自己資本調達よりも負債調達を選好するのは当然である。このことは、投資決定に用いられる資本コストが、自己資本調達より負債調達の方が低いということになって現れる。つまり、企業は、同じプロジェクトでも負債で調達する方が、資本コストが低いのである。このことから企業は自ずと負債調達に依存しようとする。つまり、法人税せいはなぜか負債促進的な性格を有している。ふしぎなことに、これは資本主義国に共通の制度のようである。

負債調達は他方でレバレッジ効果を有し、株主の収益性指標であるROEをハイリスク=ハイリターンにする。ハイリターンは株主にとって望ましいが、ハイリスクは会社に赤字倒産のリスクをもたらすので望ましくない。自ずと負債利用には抑制効果が働く。このセクションでは、企業の負債調達は、負債促進をもたらす節税効果と、ある限度を超えると負債抑制的であるレバレッジ効果とのバランスで最適資本構成(Optimal Capital Structure)が決まるというロジックを学ぶ。

Ⅱ エクイティファイナンス

このセクションは、自己資本およびエクイティの分類学である。本研究会では、狭義のエクイティファイナンスの概念を採用し、エクイティファイナンスとは株式発行であると整理するとともに、利益の内部留保をもう一つの自己資本調達として把握する。日本ではなぜか、内部留保は企業のものであり株主のものではないと考える人が多い。配当可能である利益を配当せずそのまま会社内に留保する内部留保はまさに自己資本調達つまり株主資本調達そのものである。

なお、自己資本という概念が、第二次大戦前日本が影響を受けたドイツ経営学の概念である。ドイツ経営学では自己資本をEigen Kapitalという。Eigenはmyという意味である。アイゲン・カピタルとはまさに自己資本という意味である。ところが、アメリカ経営学にはこのような概念はなく、自己資本はEquityと呼ばれ、総資本から負債価値を控除した残額であるという概念である。その観点から会計上はNet Worth(純資本)と呼ばれる。

Ⅲ 東証のプリンシプルズベースアプローチ

東証は、株式発行が本来の株主価値創造の観点から行われず、謝った精神で行われると認識し、株式発行はこうあるべきという原則を示している。これが東証の、株式発行(エクイティファイナンス)に関するプリンシプルズである。株式発行に関して法令や証券取引所規則があるが、それだけでは正しいエクイティファイナンスが行われないという事実認識からプリンシプルズ・アプローチを称して四つの原則を示し、株式発行をする企業に対して、この原則に合致しているかをチェックしてからエクイティファイナンスをすることを促している。
https://www.jpx.co.jp/regulation/listing/equity-finance/index.html
https://www.jpx.co.jp/news/detail/20141001-01.html

Ⅳ 株式発行と内部留保

株式発行と内部留保とは、理論的には資本コストが等しいが、両者は株価や企業利益やDPS(人株当たり配当)対する効果が異なるので、配当とキャピタルゲインとからなる株式投資収益に影響を与えることを明らかにする。税制や投資家行動の影響を受け、株式発行か内部留保かという自己資本調達が株主行動に微妙な影響を与えることを明らかにする。

<成長モデルの導出> ここでは企業の成長が問題になっているので、成長のメカニズムを明らかにする。

 簡単のために株主資本100%の会社を想定する。初期の資本金およびそれで得た資産額をA0とし、ROA(総資産利益率)をπとする。株主資本100%であるから、πはROE(株主資本利益率)でもあり、NOI(営業利益)でありNI(純利益)でもある。なお、法人税もないとする。第0期の純利益はπA0である。そのうちb(0<b<1)だけを内部留保し、(1-b)を配当する。(1-b)は配当性向、bは留保率と呼ばれる。したがって、内部留保はb (πA0)で、翌期すなわち第1期の期首の資産A1はA0+b (π・A0)=(1+bπ)A0である。第1期末にはπ・A1の利益が計上され、そのうち(1-b)πA1が配当され、bπA1=gA1が内部留保され、再投資される。第2期以降、同様のことが繰り返される。記号が繰り返され煩雑になるのでbπ=gと置くと以上のプロセスは次のように表される。

期首 資産

期末 純利益

期末 内部留保

期末 配当

第0期

A0

πA0

gA0

(1-b)πA0

第1期

A1=(1+g)A0

π(1+g)A0

g(1+g)A0

(1-b)π(1+g)A0

第2期

A2=(1+g)A1

π(1+g)A1

g(1+g)A1

(1-b)π(1+g)A1

・・・

 

 

 

 

第t期

At=(1+g)At-1

π(1+g)At-1

g(1+g)At-1

(1-b)π(1+g)At-1

期首の資産、期末の純利益、内部留保および配当のすべてについて前期の値に(1+g)を乗じた形になっている。つまり、ここに現れたすべての変数が率gで成長していくのである。そこでgは成長率と呼ばれる。このように、毎期の純利益の一定割合が内部留保され、一定の利益率をあげていくと、企業は一定率で成長を続けるのである。

Ⅴ 内部留保100%(無配当)会社の株価

マイクロソフトのように配当を全然支払わない会社の株式が高い評価を得ている。ファイナンス理論の基盤である配当割引モデル(DDM)の観点からはあり得ない現実である。今回の研究会のむすびとしてこの問題が取り上げられる。

(若杉 敬明)

Q&Aセッション

Q01:エクイティファイナンスで第三者割当を行う場合の課題として、①既存株主の議決権の希薄化、②経営者が自分に都合の良い出資者を選ぶことが可能となり、結果として経営者に対するガバナンス機能の喪失の2点について説明がありました。
 第三者割り当ては、経営者の考える投資の効果が理解されない場合のエクイティファイナンスとしては有効な方法であることを理解しましたが、既存株主の立場から見ると確かに不利益を被るきっかけでもあります。
 講義で説明があった様に東証のプリンシプルアプローチでは既存株主へ十分な説明を行うように求めていますが第三者割当に対する既存株主の抵抗手段としては具体的にどのようなものがあるのでしょう。株主総会での決議で反対を表明することが考えられますが、それ以外に抵抗手段はあるのでしょうか。

A01:既存株主の損失(希薄化)は避けられません。したがって、公募はもちろん株主割当も見込みがなく、第三者の資本供給を受けなければ会社が倒産し、株主価値はゼロになってしまうというような場合にのみ許されるものです。株主としては、追加資金による事業立て直しが成功し、株価が戻るのを祈るのみです。逆に第三者からすれば、そこまで企業を追い込んだ(無能な)経営者と既存株主ですからガバナンスを得られなければ経営再建が見込めないと考えざるをえません。(若杉 敬明)

Q02:平成18年以降、我が国では大規模な第三者割当増資が増加し、中には割当先が不透明な第三者割当や行使価格修正条項付き新株予約権付社債(MSCB)の問題を含めた第三者割当増資等の問題が発生し、その対応として平成21年から施行された東証の上場規則改正で監査役等は有利発行該当性に関する適法性意見の開示を求められ、また大規模な第三者割当(希薄化率が25%以上又は支配株主の異動を伴う増資)に関する社外役員の意見の開示が求められコーポレートガバナンスの強化が図られているも、第三者割当増資の問題を既存株主の希薄化のリスクのみならず、債権者・取引先・従業員の保護の視点を加えたAll Stakeholderの観点から見る必要があると感じています。
 即ち、資金繰り破たんや上場廃止基準適用の回避のために行われる第三者割当増資の中には、割当先の実態が不明な海外ファンドや海外オフショア―金融センター在のSPCが存在し、実質見せ金出資や経営権取得による焦土化経営で資金の社外流失を進められ、財務内容の更なる悪化で民事再生法も適用されず倒産に追い込まれ、債権者の回収率の低下や従業員の失業のリスクが増大する可能性がある。
 従って、第三者割当の有利発行や大規模発行の適法性の意見を監査役及び社外役員が行う場合は、既存株主は単に希薄化リスクを負うだけで、新たなリスクを負担すること無くもう一度勝負が出来るのだから適法と判断するのでは無く、割当先の属性並びに投資目的を十分調査し、民事再生法を適用した場合の債権者の配当並びに従業員の雇用条件との比較検討や上場廃止になった場合の影響の分析を行った上での適法性・妥当性を総合的に判断することが、監査役等並びに社外役員に求められていると思いますが、如何でしょうか。

A02:Q01に対する答えと同じですが少し詳しく説明します。有利発行(第三者割当)は必ず株価の希薄化を引き起こしますから、既存の株主の利益を毀損します。したがって、正常な投資(ROI>WACC)であれば、誰でも時価公募で資金を提供してくれるはずですから有利発行をすべきではありません。しかし、企業が財務破綻(Financial Distress)に陥っているような場合には、仮に正常な投資であっても株式市場はおいそれとは信じてくれません。したがって、それを信じてくれる第三者を見つけて株式発行を引き受けてもらいます。破綻状態の企業ですから正常な投資が成功しないリスクもあります。したがって、有利発行で甘み付け(sweetening)をするとともにガバナンスを明け渡し監督を受けることになります。これがうまく行けば企業は財務破綻から抜け出すことができ株価も戻るので、既存株主にとっても第三者にとってもwin-winということになります。しかし、不届きな第三者がガバナンスを得たことを良いことにしてハイエナに変身し、発行会社の優良資産等を売却するなどして発行会社を食べ尽くすというようなこともあり得ます。とんでもない第三者の場合もあるし、あるいは経営者が第三者と結託して会社を食い物にすることもあり得ます。したがって、経営者を監督する立場の独立社外取締役や監査役は第三者割当発行とくに有利発行については細心の注意を払わなければいけません。質問者の言われる通りです。

  なお、第三者割当増資はM&Aの時にも行われます。M&Aにおける第三者割当増資とは、売却企業が新たに株式を発行し、買収企業に引き受けてもらう方法です。会社に資金が注入されるため、会社の財務基盤が強化されます。これもM&Aのバリエーションと言えます。買収企業との関係は、出資比率により異なりますが、役員の派遣を伴うケースが中小企業M&Aでは多く見られるといいます。金も出すけれど口も出すというタイプの企業提携です。なお、第三者割当増資は、株式譲渡と同じく株式を取得する方法 (株式取得) ですが、第三者割当増資は既存の株主と買収企業の株主が共に経営をしていくため、100%の完全買収は出来ないことは言うまでもありません。(若杉 敬明)

Q03:時価発行増資について、希薄化(ダイリューション)の観点からも情報の非対称性(ペッキングオーダー理論)の観点からも最後の選択肢であると考えます。ダイリューションの典型的一例としては、2009年に実施された野村證券の2回にわたる大量時価発行があります。その後株価は低迷を続けています。ケーススタディとして、ここ10年間の2社の株価チャート(ソニーと野村)を比較すれば、コーポレートガバナンス(評価)の問題点が浮かび上がると思っています。いくら形が優れていても(指名委員会等設置会社他)、真に優れたグッドガバナンス会社はその結果として株価(長期的)にあらわれると確信するからです。極論(僭越)ですが、コーポレートガバナンスの評価は長期的株価(少なくも10年間)で計ることを第一優先すべきであります。なぜならば、企業(或いはCEO)は利益最大化こそが第一の使命であり、コーポレートガバナンスの要諦は、持続的株主価値創造にあると考えるからであります。当然、ESGあるいは他のステークホルダーに十分配慮した上での話ですが・・・。

A03:時価発行の前提は効率的な株式市場です。つまり、①株式発行企業は調達した資金の使途(投資対象)について適切な情報開示をするとともに、②投資家もその情報を正しく分析し株価に反映させることができることが不可欠です。当然、③時価発行を引き受ける証券会社も誠実に企業と投資家とのパイプ役にならなければなりません。この①~③が完備していれば時価発行はすべての関係者にとって好ましい株式発行方法です。発行企業が嘘をつくようなことができるとか、投資家が盲目的に発行企業を信じるとか、あるいは証券会社が自らの利益のために発行企業や投資家をミスリードするような情報を提供するなど、株式市場の効率性を歪めるような状況であれば、既存株主や公募に応ずる新株主が大きな損失を被ることになります。つまり、時価公募増資が株主に大きなマイナスを与えているとすれば、それは時価公募増資自体が悪いあるいは間違っているわけではなく、発行企業、投資家および証券会社が正常に行動していないからです。つまり間違った経営がなされているわけですから、それぞれの関係者においてコーポレートガバナンスに問題があると言うこともできると思います。そのような場合は株主割当発行をすべきです。(若杉 敬明)

 

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