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2020 コーポレートガバナンス研究会 第10回「仏・独のコーポレートガバナンス改革」-その2:ドイツ-

ドイツの会社制度概観

 ドイツの会社制度は共同決定法制度の理解なしでは語れない。共同決定法制度とは、従業員代表が経営者とともに、取締役会や執行役会などの企業の最高意思決定機関に参加する制度を法的、公的に制度化したものである。1951年西ドイツで制定された共同決定法 Mitbestimmungsgesetz が最も有名で、その源流を第1次世界大戦後に求めることができるほど長い歴史をもっており、株式法、労働協約法、共同決定法、経営組織法、職員代表法といった各種の法律にまたがって規定されている。https://kotobank.jp/word/%E5%85%B1%E5%90%8C%E6%B1%BA%E5%AE%9A%E6%B3%95-52929

 第二次大戦後の西ドイツでは、労働者の意向を企業の経営決定に反映させることが共同決定制度(Mitbestimmungsgesetz)により法的に保証されている。ドイツの企業では、業務執行機関である執行役会(Vorstand)が企業を代表し、経営業務を執行しているが、企業の最高統治機関は、株主代表の取締役と従業員代表の取締役とから構成される取締役会(Aufsichtsrat)である。共同決定制度は、従業員代表は取締役会を通じて、取締役の選任と経営業務への意見 表明、そして経営計画への承認という権限を持つと規定している。ドイツのコーポレート・ガ バナンスでは、株主と経営者だけでなく、企業の所有権を持っていない従業員や従業員組合などの関係団体も、取締役会を通じて自らの利益を主張し、企業の意思決定に影響を与えている。

 他方で、ドイツの大企業の株式所有構造は、金融機関と政府が最大株主であることに特徴が ある。金融機関と政府は、株式の保有や役員の派遣でコーポレート・ガバナンスに深く関与している。株主の中で、もっとも注目されるのは、大銀行である。英米企業が株式市場で資金を調達しているのとは異なり、ドイツ企業は銀行からの借入れに依存している。資本の結合だけでなく、大銀行から派遣された役員は、いくつかの企業の取締役会または監査役会の役員を兼任し、長期的で安定した関係を維持している。大銀行から派遣された役員は、企業の執行役として経営に関わる一方、企業の取締役会議長を含む取締役に就任し、企業の意思決定も監視している。1990 年代に入ると、金融市場のグローバル化や構造変化により、ドイツにおける 企業の所有構造は大きな変化を見せる。とくに「機関化」現象、特に外国機関投資家の顕在化により、政府と大銀行が、それぞれ民営化や資産運用の効率化を狙い、保有する企業の株式を放出し、企業に派遣された役員も引き揚げるようになった。他方で、年金基金などの機関投資家が、積極的に株式を購入し、ドイツ企業の経営者に対して収益をより重視する株主価値最大化の圧力をかけるようになった。収益を向上させるために、経営者は生産の再編を進めた。

 しかし、収益向上に向けた生産の再編は従業員の利益に十分に適うとは限らない。生産拠点の移転や閉鎖、従業員間における収入格差の拡大などは、取締役会の従業員側からの反発を生む恐れがある。さらに、生産の再編も取締役会における従業員側内部の利害対立を発生させる。一方、生産の再編に伴い、監査役が世界市場の動きや競争に関する知識および変化への対応の能力を備えるべきとの要求も高まっているが、従業員代表はそのような要求を満たすかどうかが疑われる。それゆえ、経営参加権を握る従業員代表は企業の経営決定を厳しく審査し、収益向上に向けた経営戦略に対応する知識と能力を十分に習得していないことから、取締役会の監視効率性(Überwachungseffizienz) が低下するとの見方や、従業員ポストを取締役会から撤廃すべきとの意見も増えている。しかし、2008年の米国発のグローバルな金融危機を経て、ドイツ企業は他国の企業に比べ、業績がより急速に回復したことから、経営者に企業の長期的な発展を目指し、投資やイノベーションを重視させる共同決定制度が、再び脚光を浴びるようになっている。

 取締役会の監督効率を高めるために、ドイツ使用者団体連合(BDA)とドイツ工業全国連盟(BDI)、そしてドイツ国際商業会議所(ICC Deutschland)は資本側を代表し、またベルリン工科大学教授の Axel v. Werder は民間の委員会を代表して、取締役会に関する改革案を出している。提出された改革案は多様であるが、取締役会の規模を縮小し、従業員の経営参加権を制限あるいは中止し、企業経営への従業員組合の参加を排除することで一致している。それに対して、従業員側とくに従業員組合は、監査役会の監督効率を高めるべきとの認識は持っているものの、従業員の影響力を企業経営から排除すべきという提案には断固反対している。同時に、従業員組合は、より多くの企業に共同決定制度を適用させ、従業員の経営参加権を法的に強化すべきとの要求を打ち出している。

注)以上は陳 浩「ドイツのコーポレート・ガバナンスの変容と 監査役会改革の課題」の冒頭部分を引用するとともに、本資料の表現と整合性を保つために加筆・修正したものである。 http://www.ritsumei.ac.jp/ir/isaru/assets/file/journal/24-2_10Chen.pdf

Ⅰ ドイツの伝統的会社法制-共同決定法-

-共同決定法の下で労使(株主と従業員)双方が企業の統治主体
-産業界では。ユニバーサルバンキングの下、銀行が資本的にも人的にも企業を支配していた

(1)ドイツのコーポレート・ガバナンスの出発点 共同決定法 (Mitbestimmungsgesetz) 1976/5/4
- 従業員が2000人を超える大企業では、①株主が取締役の半数を社外から選出、②従業員(労働者)が残り半数を選出する
-従業員が500人以上の企業の場合は、取締役会の3分の1が従業員によって構成される

(2)ドイツの二層型ガバナンスシステム
-ドイツのガバナンス・マネジメント体制
◆二層式の統治委員会:取締役会と執行役会とで構成される
①取締役会
-経営監督:執行役の選・解任、報酬の決定、監督・助言、執行役の業務規定の策定、その他一部事項への「同意権」
・報酬委員会、監査委員会、投資委員会等各種の専門委員会を設置して、専門的知見に基づく意思決定を行う。ただし具体的な業務意思決定には直接関与しない
②執行役会
-業務執行:取締役会の監督の下に、取締役会の利害や考え方を尊重して業務の意思決定を行い、業務を執行する

(3)共同決定法
-石炭・鉄鋼業のモンタン共同決定法(1951)、共同決定補足法(1956)、共同決定法(1976)、三分の一参加法(2004)、経営組織法(1972)、管理職代表委員会法(1989)等による
-従業員の参加は、①取締役会における企業レベルの共同決定および②経営協議会における経営レベルでの共同決定により、企業の意思決定過程に影響を及ぼすことができる
-とくに企業レベルの共同決定においては、従業員が、①企業政策の決定に影響を及ぼすことができ、かつ②企業政策の意思決定に対してモニタリング機能を持つ

【参考】共同決定法とは
-企業の意思決定への労働者の参加を定めたドイツの法律。沿革的には1920年の経営協議会法を先駆とするが、本格的なものとしては1951年の西ドイツ時代に、石炭・鉄鋼業についてモンタン共同決定法 Montan-Mitbestimmungsgesetz が制定され、重役の任免、投資・生産計画などについての最高の意思決定機関である取締役会の構成を労使同数とした
-その他の業種については取締役会への労働者の参加比率は3分の1とされていた(1952年経営組織法)が、1976年に新法が制定され、従業員2000人以上の民間企業において前記比率は2分の1になった
-しかし、可否同数の場合、経営者代表が選出する議長に二重投票を認めるなど、完全な対等参加とはいえない。また、従業員が2、000人未満の企業では参加比率は3分の1のままである (日本大百科全書)

(4)経営協議会
-従業員5人以上の会社には、社内において従業員を代表する委員会である経営協議会の設置が認められる
・経営協議委員会を設置する権利は、ドイツ事務所組織法によるもので、協議委員会のメンバー(協議委員)は従業員の直接秘密選挙(定足数なし)によって選出され任期は4年とされる
-経営協議会の活動内容は、情報公開の請求や協議から人事や社会福祉に関する共同決定までの範囲に限られており、営協議会が会社経営に介入することは禁止されている

(5)共同決定の仕組み
-企業レベルの共同決定は取締役会が行い、経営レベルの共同決定は経営協議会が行う

◆共同決定:大規模会社の場合
1.取締役会のメンバーと共同決定
・資本側メンバーは株主総会で選任され、労働側メンバーについては一部は企業内部から、他は企業外部の産業別労働組合から選出される
・同権的と言われるが、取締役会における議決が可否同数の場合は、資本側代表である取締役会会長が第2票目を投ずる。その意味では、最終的な意思決定権は株主側が確保している
2.共同決定の執行
-法的に重要な株式会社の機関は執行役であり、執行役が自己の責任において共同決定を合議制原則に基づいて執行する。この際、取締役会の指示を受けることはない
-「企業の利害」に基づいて業務執行を行うので、株主利益は執行役員の意思決定において重要な視点であるが、法的には株主利益にのみ基づいて行動する必要なない。要するに、株主価値最大化は–法的に拘束された企業目標ではない
-執行役員にはさまざまなステークホルダーの利害を適切に比較考慮して戦略や政策の展開が求められている
注)日本や米国の場合にも法的には会社の目的は株主価値最大化と定められていないが、取締役は株主によって選任されるのであり、大多数の株主の目的は株主価値最大化であると考えられるので、論理的にあるいは実質的に株式会社の目的は株主価値最大化であると推論できる。

Ⅱ ドイツの銀行改革-ドイツ金融機関の戦略転換-

1.M&Aによる競争力強化
–金融のグローバル化による国際的な競争圧力の増大から、ドイツ銀行やアリアンツなどの大手金融機関は、①それまでの国内企業の安定株主としての役割を見直し、②事業の収益性や効率性を重視する戦略へと転換せざるを得なくなった。ドイツ銀行による米国バンカーズトラスト買収(In-OUT)やアリアンツによるドレスナー銀行買収(IN-IN)などのM&Aが行われた

2.持合構造の解消-株式売却・取締役派遣削減
-ドイツでは国内大手金融機関同士が株式を持ち合い、かつ個々の金融機関が複数の上場事業会社の大口株主であった時代が長く続いたが、1990年代後半にこうした状況に変化が生じた
-また、バーゼル規制をクリアするために自己資本充実が急務となったため、その資金作りに保有株式を売却した
-株式保有と取締役役派遣を通じた金融機関と事業会社の結びつきは、活発になったM&Aのアドバイザリー業務における利益相反など、投資銀行業務強化戦略の足かせになるというケースも出てきたため、持株売却等を迫られた

3.企業の株主利益追求への経営転換
-金融機関の株式保有比率が低下し、代わって外国人を中心とする機関投資家が台頭し、ドイツ企業全体に対して株主価値追求のプレッシャーが強まった
◆2010年の株式保有構造(括弧内は1996年)
・事業会社 36%(39%) ・外人投資家 33% ・保険・年金 10%(6%) ・個人 10%(15%)  ・銀行 5%(19%)
◆100大企業への金融機関の取締役派遣数の推移
–1996年 100人 ⇨ 2008年 21人
4.コーポレートガバナンス改革を意識した企業改革
-株主価値をより意識した経営が、ドイツ企業の事業構造転換を促進した。金融機関に株式を売却された大手上場会社の中には、①コアビジネスに集中することにより企業価値向上を図ったり、②同業他社を安定株主に迎えることによりアライアンスを強化し◆1990年代後半から内外とも急速にM&Aが増加
-1990年代前半 IN-OUT  212件   IN-IN      556件
-2000年代後半   IN-OUT 493件       IN-IN  1,050件

(若杉 敬明)

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