JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 ファイナンス研究会:第10回「デットファイナンス:Q&A」

Q&Aセッションはここ

 負債とは企業の借金である。負債は、借金額と金利と期間が決まっており、キャッシュフローが確定している。それが基本契約である。したがって、負債調達はリスクに無縁であるかのように見えるが、実際には発行企業も社債保有者もさまざまなリスクに直面している。金融情勢の変化により、債務を負う企業(借り手)も、債権を有する投資家(貸し手)も大きな影響を受けることがある。また、契約を実行する企業においては、事業の成果いかんにより、あるいは事業の拡大・縮小により、債務履行能力が変化するので、貸し手の債権の価値に大きな影響を与える。今回の研究会では、デットファイナンスに伴うリスク管理に焦点を当てる。このブログでは、レクチャーでは時間の関係で説明を簡単に済ませている負債調達の基本的な側面を捕捉する。

Ⅰ 負債に関する基礎概念
 -負債とは、企業会計用語で、将来的に、他の経済主体に対して、金銭などの経済的資源を引き渡す義務のこと

1.利息の支払い
 -負債には、買入債務のような無利子のものもあるが、対価として利子(金利)を払う物を有利子負債という
  ・金融機関などからの長短借入金、普通社債や転換社債型新株予約権付社債、受取手形割引高など
2.満期
 -企業が負う負債には,支払いに関して有限の満期が存在する。満期とは、期限が来ることや一定の期日に達すること。つまり、義務を果たす最終期日のことを負債の満期という
3.有担保 vs. 無担保
 -返済ができなくなった場合に備えて、調達した金額と同程度の物を提供し、支払いを確保する場合を有担保という。そうでない場合を無担保という
4.変動金利 vs. 固定金利
 -変動金利:返済の途中、定期的に、市場の金利に連動して金利や返済額が見直される負債 -固定金利:当初から完済までの金利が変わらない負債
5.借り入れvs.社債
 -借り入れ:金融機関からお金を借りること、つまり融資を受けること
 -社債:株式会社が資金を得る方法の一つとして、証書を発行し、出資者に債務を負うこと、またはその証書
6.利息の支払いと元本の返済
 -社債の場合:通常年2回の利払い、元本は満期一括払い
  ・社債の保有者に額面金額を返すことを償還という。満期償還と、満期前の買入償還とがある
 -借入の場合:金利は日割り計算(利付日数/365)
  ・企業向け融資では元金均等返済が多い。ほかに、元利均等返済、元金一括返済
7.社債の種類
(1)普通社債(SB;Straight Bond)
 -一般にいわれる社債で、満期が設定されており、満期までの間、債券保有者に対してクーポンが支払われる社債。原則として信用格付が低い社債ほどクーポンレートは高くなる
(2)新株予約権付社債
 -転換社債型新株予約権付社債:いわゆる転換社債(CB;Convertible Bond)
  ・元本で一定の価格でその会社の「株式」と転換することができる権利(オプション)が付帯している社債
 -新株予約権付社債(WB; Bond with Warrant):一定の価格で発行会社の株式を購入できる権利(ワラント)が付帯している社債 ⇨ いわゆるワラント債
(3)公募債と私募債
 -公募債 Public Offering Bond:証券会社を通じて広く一般に募集される社債で、不特定多数の投資家を対象に販売される
 -私募債 Private Placement Bond:特定少数の投資者(金融機関等)との相対交渉に基づき、投資者が直接引受けする社債。私募債は有価証券であり、銀行借入による資金調達(間接金融)とは異なり、資本市場からの直接的な資金調達(直接金融)の一形態と位置づけられている
  【参考】 Private Debt:非上場会社が、金融機関から貸付(Loan)あるいは信用供与(Line of Credit、Credit Line)の形で調達する負債のこと
(4)利付債と割引債・邦貨建債/外貨建債
 -利付債:定期的に利息が払われる債券
 -割引債:利息は払われず償還日に元本が返済される。その代わり元本が償還日までの金利分だけ割り引かれて発行される
(5)邦貨建債・外貨建債
(6)有担保社債・無担保社債
(7)劣後債
 -債権者(投資家)に対する債務の弁済順位が低い債券のこと。投資家はその発行体の破綻時には高いリスクを負うので、その分一般債券と比較して高い金利(クーポン)を得ることができる。資本規制の都合で銀行が発行するケースが多い
(8)電力債・一般事業債
 -日本の電力会社が発行する社債。発電所や送電線といった電力会社が保有している資産全体が担保(一般担保)になっておりリスクが低い社債と見なされている
8.その他の社債用語
 -償還日:債券の元本支払日(満期日)
 -額面(Face Value):債券の元本。券面額
 -クーポン(Coupon):利息の引換券
  ・クーポンレート(Coupon Rate):元本に対する年間利息の利率

Ⅱ 社債価格
 -社債は有価証券であり、上場されると市場で評価される。利付債の場合、毎年受け取るクーポンcFと満期時に償還される元本の、市場金利rで割り引いた現在価値の合計が社債の理論価格である。なお、ゼロクーポン債の場合は、N年後の満期に償還される額面金額の、市場金利rで割り引いた現在価値がゼロクーポン債の発行価格である。いずれも将来のキャッシュフローの現在価値が現在の市場価格であるから、社債価格は金利とは逆の動きをし、金利が上昇すれば社債価格は低下し、金利が低下すれば社債価格は上昇する。
  ・F:額面価額、r:市場金利
 -利付債(クーポンレートc)の価格V
  V={cF/(1+r)}+{cF/ (1+r)}+・・・+{( cF+F)/ (1+r)}
 -割引債(ゼロ・クーポン債)の価格V
  V=F/(1+r)
 -利付債、割引債いずれの場合も c=r のとき V=F
  ・c>r  ⇨ V > F オーバーパーという
  ・c<r  ⇨ V < F アンダーパーという

Ⅲ 適債基準
 債券保有者の保護を主旨として、企業が社債を公募方式で発行するために起債関係者(金融機関と証券会社)が定めた社債発行の資格要件。事業債、転換社債、ワラント債、無担保事業債、無担保ワラント債、無担保転換事業債など、債券の種類ごとに基準が設けられていた。1987年に証券取引審議会が競争制限的な規制、慣行の見直しの一環として、担保付社債を原則とする有担保原則の緩和と、格付けの活用を提言したのを契機として、無担保社債と無担保転換社債の適債基準緩和が本格化した。その体系も以前の「数値基準」(純資産額、配当率、純資産倍率、自己資本比率、使用総資本事業利益率、インタレストカバレッジの6指標)だけではなく、少しずつ格付け基準ヘの転換が進められていった。1988年の全面改定では、適債基準のいっそうの緩和が図られるとともに、格付け基準への大幅な移行が実現した。96年元旦をもって、社債発行に際して発行企業に義務づけられてきた「適債基準」の充足と「財務制限条項」の設定という、2つの規制が撤廃された。

Ⅳ 財務制限条項(Covenants)
 財務制限条項とは、金融機関が債務者に対して融資を行う際に付帯させる条件の一つで、債務者の財政状況が契約書で定めた基準条件を下まわった場合に、債務者は期限の利益を喪失し、金融機関に対して即座に貸付金の返済を行うことと定ている。金融機関にとっても社債権者にとっても、融資先の倒産による貸し倒れリスクを予め軽減するための対策である。財務制限条項の撤廃の代わりに金融機関では「財務上の特約」が定められる。これについてはプレゼン資料に述べられている。
そこで、次に米国の社債における一般的な財務制限条項を紹介する。
◆Negative Covenants
 ・配当額の制限
 ・抵当権設定への制限
 ・他社との合併の禁止
 ・大規模な資産売却の制限
 ・長期負債の追加調達の禁止
◆Positive Covenants
 ・正味運転資本の最低水準維持
 ・財務諸表の定期的提供(ディスクロージャー)

Ⅴ 格付けの基準
1.短期的評価
 a.レバレッジ
   -インタレスト・カバレッジ・レシオ、自己資本比率
 b.キャッシュフローの安定性
 c.担保資産
2.長期的評価
 a.産業動向
 b.産業内の位置
 c.人的資源:経営者・従業員
 d.収益性
   -売上高キャッシュフロー比率、総資本利払前利益率

Q&Aセッション

Q01:実務の中では会社の借入金の適正水準について議論がされます。また経営者もそれを知りたいと考えています。借入金の適正水準は将来の会社の状況により様々なバリエーションが考えられると思います。ファイナンス理論ではこの課題について回答が出ているのでしょうか。
 私としては実際計算したことは無いですが、例えば10年~15年程度の予想PLと設備投資計画を作成した上で、予想キャシュフロー計算書を作成し、財務活動によるキャッシュフローがマイナスにならない水準までが適正なのではと考えています。
 この課題についてアプローチするファイナンス理論による視点があれば教えてください。

A01:事業にはリスクをともなうので企業はリスクを負担する自己資本を元手に事業を展開します。事業の収益性が高い場合には負債を利用することにより利ざや稼ぎ(事業の利益率ROA-金利)ができるので、負債の利用により自己資本利益率(ROE)をROAより高めることができます。しかし、事業にはリスクがあるのでROAが著しく低く金利より低いこともあり得ます。この場合には逆ざやになり、ROEはROAより低くなります。非道いときにはROEがマイナスにすらなります。つまり、赤字の状態です。このような状態が長く続けば、債務超過になり企業は倒産の危機に瀕します。つまり、負債を利用することにより、ROEは、負債を利用することにより、ROAより高水準になる代わりにその変動リスクも大きくなります。つまり、ハイリスク=ハイリターンになります。これが第5回研究会で勉強したレバレッジ効果(Leverage Effects)です。これにはプラス面とマイナス面があるのでEffectsは複数形になっています。
もう一方で、第7回研究会で勉強したように、負債には節税効果(Tax Shield Effect)があります。利息を支払うとその分、税引き前利益が小さくなるので法人税の支払いが少なくなり株主にはメリットがあります。その意味で、負債は資本コストが自己資本より低いことになります。
負債はこのように諸刃の剣です。企業としては資本コストを下げるためにできるだけ負債を利用するのが望ましいのですが、負債利用つまりレバレッジが上昇するとそれにつれて倒産リスクも上昇します。倒産リスクはビジネスリスクがある限り避けることができません。負債利用による倒産リスクの上昇をどこまで許容するかは経営者の判断、価値観です。いずれにせよ許容の限界がクリティカルポイントになります。したがって、企業としては、クリティカルポイントまで負債を利用するのがベストだということになります。この点をファイナンスでは最適資本構成(Optimal Capital Structure)と呼びます。このように考えると最適資本構成を決める要因は次の二つになります。
     ① ROAの変動つまりビジネスリスク
     ② 経営者の倒産リスク許容度、あるいは倒産リスクまでは行かなくてもROEの変動をどの程度まで負担するかという許容度、ということになります。
 一般的には、ビジネスリスクが小さい会社は負債を利用してもリスクの上昇が緩やかなのでレバレッジが高い傾向があります。別の見方をすると、経済原理により、ビジネスリスクが小さい業種・企業はROAが低水準(ローリスク=ローリターン)ですから、レバレッジをフルに利用しないと他業種・他企業並みのROEをあげられないということでもあります。他方、経営者のリスク許容度の観点からすると、ROEの変動が大きくなっても平均的な水準が高い方が良いと考える経営者の下では、他企業よりレバレッジが高い傾向があります。その点は、経営者は「借入金はどの程度にしたら良いのか」を部下に聞くことではなく自分で判断することです。この理論をご存じない経営者には、番場さんが理論教えてあげ、決断してもらうことになるわけです。
 以上の考え方は重要で、経営者も財務担当者も正しく理解していなければなりません。逆に正しく理解していれば、応用が利き財務上のいろいろな実務・現象を理解することができます。実際には、ビジネスリスクなどは理論で取り扱うようには標準偏差などできれいに計算することができません。
以上の理論に基づき、実用段階では次のような考え方をします。まず、利息をきちんと支払うことが必要ですから、①過去の財務データからインタレストカバレッジ・レシオ(Interest coverage ratio=利払い前利益÷支払利息)を観察し、利払い前利益から利息を払う能力をチェックして、自社の借入能力を判断します。次に、いざという時に(金融機関から急に元本の返済などを迫られたときなど)も返済が可能であるように、②負債比率(Debt-to-Equity ratio=負債÷自己資本)の確認が必要です。銀行などと良い関係を築いておけば、自社が窮地に陥っても、この会社は真に価値がある会社だと判断してくれれば、銀行は返済を待ったり、追加の融資をしてくれたりします。銀行との関係を考慮に入れて、負債比率をどこまで高められるか判断をします。しかし、これらは過去の経験に基づく判断ですから、さらに自社の業績や金融情勢の将来見通しなどを考慮して、自社の借入れ能力を判断します。実際にはさらに考慮しなければならないことがあると思いますが、理論を理解していれば考えるべきことを判断することが比較的容易にできます。

(若杉 敬明)

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