JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2020 コーポレートガバナンス研究会:第10回 「Q&Aセッション」

Q01:独仏のコーポレートガバナンス改革の包括的説明ありがとうございます。日本のコーポレートガバナンス形態の説明に対し、以下質問をさせて頂きます。

1)日本のコーポレートガバナンス形態を一層型取締役会と捉えて、非業務執行取締役が業務執行取締役を監督するとありますが、日本の会社法は、取締役は業務を執行すると定め(会348)非業務執行取締役を想定していないと見られ、取締役会が業務執行の決定と取締役の職務の執行の監督を行うと定めております(会362)関係から、将来のあり方論は別にして、現状は上述の一層型取締役会と考えることは無理があるのではないかと思いますが如何でしょうか。

 ご指摘の通り日本には3つの機関設計があり、英米型のコーポレートガバナンス形態に近い指名委員会等設置会社においても、三委員会の構成委員は3人以上の取締役とし委員の過半数は社外取締役と定められています。(社外取締役とありますが非業務執行取締役とはなっていません)。また三委員会を通して監督業務が遂行されることを期待しておりますが、社外取締役が社内取締役を監督するとは定められていません。

(東証に「独立役員届出制度」が有りますが、独立役員制度は、一般株主保護の観点か ら、経営陣から独立した役員を1名以上確保することを上場会社に義務付けていますが独立役員の法的地位及び責任範囲は会社法の定めと変わらないとされています。)

 英米型のコーポレートガバナンス形態において、三委員会を通して取締役を監督すると理解しておりますが、非業務執行取締役が業務執行取締役を監督すると法律上明文化されているのでしょうか。

2)日本のコーポレートガバナンスを考えた場合、実効性の問題や企業価値向上のための議論は別として、監査役等(監査役設置会社・監査委員会等設置会社を含め)の存在を抜きにして語れないのではないでしょうか。会社法は監査役等は取締役の職務の執行を監査すると定め(会381)、監査役に広範な調査権と取締役等に報告義務を課し、取締役に対する勧告、取締役会・株主総会への報告更には取締役の業務執行の差し止め請求権や会計監査人の選解任権等が会社法で定められ、取締役の規律付けには十分な法の整備はされていると思いますが・・・・

A01:
(1)取締役会:一層型vs二層型  この研究会の冒頭で説明したように、コーポレートガバナンスとはコーポレーション(法人)のガバナンスという意味です。法人は法律によって人格が与えられ、自然人と同様に権利を有し義務を負い行動する存在です。しかし、所詮は法律上のバーチュアルな存在ですから、自然人が関わらなければ行動ができません。それでは誰がその自然人を選任するのでしょうか。ここで資本主義とその大前提である私有財産制度が重要な役割を果たします。私有財産制度とは、「もの」(財・サービス)には所有者が存在し、所有者がものを支配する権限を有するが、支配の結果はすべて引き受ける義務(結果責任)を負うという制度です。それでは誰が所有者かというと、「もの」を取得するお金(資金)を出した者というのが資本主義の考え方です。したがって、物はお金を出して買った人の所有物という日常生活の常識と同じです。企業も、事業を行うために不可欠な自己資本を出した出資者の所有物、私有財産ということです。株式会社の出資者は株主ですから、株式会社は株主の私有財産であり、株主が支配する権利を有しています。それが株主のガバナンスです。株式会社は大きな資金を要する大会社を前提としていますから、多数の株主を想定しています。株主が自ら支配して経営することは現実的ではありませんから、株主の代わりに会社を経営する自然人を選任して会社経営を委ねます。その自然人が取締役です。大きな会社ですから、取締役を複数選任し相互牽制が働くように取締役会に経営を委ねるのが現代の株式会社です。その時に、法律上、取締役会だけを規定し経営を委ねるように定めるのが一層型の取締役会制度です。英米そして現代の日本の取締役会です。それに対して、取締役会を意思決定・監督機関とすると同時に執行機関を法律上定めた取締役会制度がドイツの二層型である。日本は明治時代に株式会社制度を導入したが、その時に定めたのが取締役会と監査役会を持つ二層型の取締役会制度であった。(日本の監査役制度の歴史については私のコラムを読んでください(https://jcgr.org/column/2243/)。その後、第二次大戦後に英米流の一層型の取締役会制度が導入されたが、監査役制度は温存され、一層型と二層型の折衷型であった。しかし、監査役の選任等が執行から独立でなくなり形骸化したことから、21世紀に入りあらためて英米流の一層型が指名委員会等設置会社として導入されたという経緯である。その意味で、質問者の「現状は上述の一層型取締役会と考えることは無理があるのではないかと思いますが如何でしょうか」という疑問は正しいと言える。正確には「一層型と二層型の両立・選択制である」というべきだと思います。

(2)業務執行 取締役会設置会社においては、基本事項の決定は取締役会で行われるが、その執行を誰が行うかは、取締役会のタイプによって異なります(神田秀樹「会社法」第21版 弘文堂)。

a)取締役会設置会社の場合 取締役はその全員で取締役会を構成し、取締役会が会社の業務執行等の事項について会社の意思を決定する。そして、取締役会は取締役の中から代表取締役を選定する。代表取締役は、業務の執行をし、対外的に会社を代表する。取締役会は、一般の取締役に業務執行を委ねることもできる

b)指名委員会等設置会社の場合 指名委員会等設置会社も取締役会設置会社であるが、(1)の場合と異なり、取締役は、取締役の資格では業務執行をすることはできない(監督と執行を制度的に分離する趣旨)。ただし、取締役が執行役を兼任することは認められる。取締役会の権限は、原則として。①基本事項の決定②委員会メンバーの選定監督③執行役の選任監督に限定される。要するに、取締役会は基本的事項の決定と業務執行の監督を行い、執行役が業務を執行し、代表執行役が会社を代表する。

c)監査等委員会設置会社の場合 監査等委員会設置会社も取締役会設置会社であり、取締役会が会社の業務執行等について会社の意思を決定するのが原則であり、指名委員会等設置会社とは異なり、代表取締役が業務を執行し、対外的に会社を代表する。ただし、社外取締役が過半数である場合(または定款で定めた場合)には、監督と執行を分離することが認められる。

(3)社外取締役 会社法の定める「株式会社の社外取締役」の要件はいくつかあるが、その第一は、当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他使用人でないことである。指名委員会等設置会社における三委員会の構成員たる社外取締役が業務執行取締役ということはありえません。

(4)取締役会の監督 会社法上、業務執行に対する監督は取締役会が行うものと定められており、個別の取締役が行うものではない。「非業務執行取締役が業務執行取締役を監督する」ということはありえません。

(5)監査役制度のガバナンス上の限界 理論および経験に基づき、指名・報酬(インセンティブ)・監査を監督の基本機能とするのが現代のコーポレートガバナンスのベストプラクティスです。日本の従来の監査役制度ではそのようなコーポレートガバナンスを担えないのではないでしょうか。日本では第二次大戦後、監査役制度を維持しさまざまな企業不祥事が問題になるたびに監査役制度の強化が行われてきました。それにも関わらず、21世紀になると三委員会を持つ取締役会を導入せざるを得ませんでした。それはまさに監査役制度の限界を意味しているのではないでしょうか。行政より財界の方が強いわが国では、政府にできるのはそこまでで監査役制度を廃止することはできませんでした。依然として監査役会設置会社およびそのバリエーションの監査等委員会設置会社が主流を占めています。

(若杉 敬明)

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