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2021 ファイナンス研究会 第4回「バリュエーション」

バリュエーションとそのアプローチ

一般にValueとは価値とか価格のことであり、valuation(バリュエーション)とは価値を算定すること見積もること、あるいは市場で価格が決まることを言う。企業におけるファイナンスとは、資本を調達し、その資金で購入した財やサービスを駆使して製品を生産し・販売して投下した資金を回収するとともに利益を上げることである。その過程で、さまざまな財・サービスの購入・売却が繰り替えされる。その1年間の集約が企業の業績でありその最終結果が利益である。その成果が財務諸表に総括され、課税等の基礎データとなる。そこに至るまでには無数のバリュエーションが繰り返される。

1.ファイナンス論が対象とするバリュエーション
(1) 株式、債券への投資を行う際の金融資産の価値の計算
(2) 資本を調達し事業を行う際の「投資の経済計算」
(3) M&A(企業や事業の取得あるいは売却)の際の企業価値・事業価値の推定
(4) 財務会計、税務会計に、貸借対照表を作成する際の資産価値および負債価値の決定 
(5) 債権証券化の際の債権価値の推定、等々

2. M&Aにおける企業評価-バリュエーション-の方法
 M&Aにおいては企業評価-バリュエーション-が最も重要なプロセスになる。上記の3)である。しかし、最も難しいプロセスであり、いろいろな方法が提唱され利用されているが、次の三つに大別できる。

(1) コストアプローチ(ネットアセット・アプローチ)主として評価対象会社の貸借対照表記載の純資産(=総資産-負債)に着目して価値を評価する方法である。①簿価純資産法、②時価純資産法(資産・負債をすべて時価評価し自己資本価値を推定)が代表的である。

(2) マーケットアプローチ M&Aにおいて買収・合併対象の企業を評価する際に、コストアプローチと並んで採用される方法で、他の企業や業界との比較で評価する方法である。しばしば利用されるが、現代のように企業が多角化している時代には、比較対象の企業や業界を見付けるのが困難であり、容易そうに見えて客観的な評価が難しい方法である。①市場株価法 ②マルチプル法(倍率法、乗数法)とも呼ばれる類似企業比較法 ③類似取引比較法・類似業種比較法などがある。(https://www.ycg-advisory.jp/learning/valuation/market/

市場株価法 市場株価法は、評価対象企業が上場会社である場合に利用される。市場株価は、長期的には会社の収益力等に基づく企業価値を適正に反映して形成されると考えられているが、短期的には企業価値と無関係に変動することもある。そのため、一時的な株価の騰落といったマーケットの影響を排除するため、毎日の終値を1~3ヵ月程度の期間で平均を取り、これを評価額とするのが一般的である。

②類似会社比較法(マルチプル法) 類似会社比較法(マルチプル法:倍率法、乗数法ともいう)は、評価対象企業の類似会社にあたる上場会社の市場株価と、利益やEBITDA、純資産といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで企業価値を算定する手法であり、マーケットアプローチの1つである。評価対象が非上場会社である場合、市場株価が存在しないため、市場株価法に代替する手段として利用されることが多い。この場合、評価対象企業の流動性欠如について一定の割引(非流動性ディスカウント)を考慮する必要がある。DCF法などと比べれば客観性が担保されているとされるが、この評価の妥当性は選定した類似会社の妥当性に依存している。一般的には、類似会社は以下のプロセスによって選定する。
 1) 所属する業界、類似する業種の上場会社をリストアップする。
 2)同業種の上場会社がない場合、顧客属性や、事業構造、製品サービスの補完性などの観点から、類似会社を選択する。
 3) 事業戦略、ビジネスモデル、地域性、顧客層、製品構成、事業ライン、免許・許認可、規模、国際性などの観点から類似度を判別する。

③類似取引比較法 その他のマーケットアプローチの手法として、類似する企業あるいは業種のM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法がある。しかし、取引対象となった企業が非上場である場合、財務数値は、限定的にしか開示されていないため、類似度の判定が難しく、中小企業のM&Aで利用されることは少ない。

④類似業種比準方式 評価対象の会社に対して、類似している業種の会社を比較対象としながら株価を評価する方法である。

(3) インカムアプローチ 評価対象会社から将来期待される利益やキャッシュフローを、リスク等を考慮した割引率で割引くことにより企業価値を評価する方法 ⇨ ①DCF法 ②収益還元法 ③配当還元法など

3.社債のバリュエーション

レクチャーで取り上げる社債は普通社債(Straight Bond)と呼ばれる。通常は固定金利で、定期的に金利が支払われ、満期が来ると額面価額が償還される社債である。社債の金利は固定されているので、一見リスクがなさそうに見えるが、発行後の市場金利の動向によって社債の価値は変化する。つまり、社債にもリスクがある。

1)期限前償還条項付債券 社債の市場価値は、金利を将来の金利で割り引いたものである。金利が下がれば社債の価値は上昇し、債権保有者(Bondholder)は利益を得るが、発行体は逆に損をする。市場金利が下がったのに、高い金利を払い続けなければならないからである。発行体は、このような場合に備えて、満期前に償還できる契約をしておくことが望ましい。このような社債を期限前償還条項付債券(Callable Bond)という。発行体に有利であるので、発行体は市場金利より高いクーポンレートを設定しなければならない。

2)買取請求権付債券 逆に、金利が上がった場合は、発行体にとっては金利が低いときに調達しておいてよかったということになるが、債権者にとっては逆であるから、満期前にもかかわらず発行体に買い取って欲しいと思うはずである。このような条件が付いている社債を買取請求権付債券(Puttable Bond)という。この場合、債権保有者は市場金利で低い金利で我慢しなければならない。 このように、確定利付きの債権は元利のキャッシュフローを変えられないので、このようにリスク対策として選択権(オプション)が付与されるのである。そのほかに次のような債券がある。

3)新株予約権付社債(ワラント債) 発行会社の新株を一定価格で購入する権利(ワラント)がついている社債。その権利が付いている分だけクーポンレートは低い。将来株価が上昇する可能性が高ければ、投資家は低いクーポンレートを許容する。現在行う投資の効果が出るのが遅いので、当分利払いを低く抑えたい企業が発行する。

4)転換社債型新株予約権付社債(コンバーティブルボンド) 発行会社の新株を購入する権利が付いているが、権利を行使する社債は消滅する。ワラント債と同様であるが、資金に余裕のない投資家に向いている。

5)仕組み債 上記の1)~4)にもオプションが組み入れられているが、さらに複雑な条件の下でのオプションやスワップなどのデリバティブを組み込むことで、通常の債券のキャッシュ・フローとは異なるキャッシュ・フローを持つようにした債券である。

6)担保付社債 社債の債務に対して担保が設定されていない社債で、債務不履行時の保証がなく、デフォルトリスクがある。リスクを負担する分だけクーポンレートは高い。

 そのほかにもさまざまはバリエーションがある。

4.債券価格:オーバーパーとアンダーパー(P.6)
 債券の価格が、額面金額と同じである状態を「パー」という。債券価格が額面を下回る場合は「アンダーパー」、額面を上回る場合は「オーバーパー」という。ただし、これは日本だけの用語で、英語ではabove parまたはat a premium, premium bondなどと呼ばれ、後者はbelow par, at a discount, discount bondなどと呼ばれる。

5.債券価格:価格弾力性としてのデュレーションと修正デュレーション(p.8)
 債券の価格弾力性とは、金利の変化に対する債券価格の変化の割合のことをいう。例えば、金利が2%動いた時に債券価格が4%動いたとすると、価格弾力性は、2(0.04÷0.02=2)である。価格弾力性Dは、価格Bの変化率(ΔB/B)を金利(1+r)の変化Δrを1+rで割ったもの(Δr/1+r)として表される。このとき債券価格の変化額ΔBは次のように表される。ΔB=-B・{D/(1+r)}・Δr。Dを加工して、{D/(1+r)}=D*とすると、ΔB=-B・D*・Δrとなるので債券価格Bの変化額ΔBを表す式が簡略化される。そこでD*が修正デュレーションとして実務的には多用される。

6.株価指標の見方

配当利回りDY(p.36):株式投資収益率は、配当利回り+株価上昇率と定義される。個々の企業の期待収益率つまり要求収益率は、株式市場において金利+リスク・プレミアムで決まるが、リスク・プレミアムはベータリスク(システマティック・リスクあるいは市場リスク)によって決まり、ある意味ではこれは企業に固有の値である。したがって、企業の成長率我高いときには配当利回りは低く、株価値上がり率が高い。そこに注意が必要である。配当利回りは配当だけに着目する投資家の株価指標であり、利用するときには注意が必要である。

株価収益率PER(p.37):PERは、株価が1株当たり純利益の何倍まで買われているか、すなわち1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかを見る投資尺度である。現在の株価が企業の利益水準に対して割高か割安かを判断する目安として利用される。PERの数値は、低いほうが株価は割安と判断されます。p.37で分析されているように、一般的に利益成長の高い会社ほど、将来の収益拡大の期待が株価に織り込まれるため、PERは高くなる傾向がる。しかし、PERが何倍だから割安、割高という絶対基準はなく、業種によってPERの水準は異なるので、同業種間、経営内容の似ている企業間での比較に用いるのが一般的である。

株価純資産倍率PBR(p.38):PBR1倍は株価と資産価値(株式発行と利益の内部留保による株主の出資)が同じであることを意味する。PBRが1を下回ると株価が資産価値よりも低くなっているわけであるから、言い方によっては割安だと判断される。しかし、P.38によると、PBRが1より低くなるのは、企業のROEが株主の要求収益率kより低いときである。つまり、株主が期待しているだけの利益率(要求収益率)kを企業があげることができないでいることを意味する。この数ヶ月の日経平均企業のPBRは1.25前後である。https://nikkeiyosoku.com/nikkeipbr/ (若杉敬明)

 

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