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2021ファイナンス研究会 第6回「株主価値創造の投資決定理論」

今回のファイナンス研究会においては、株主価値創造のための投資の経済計算の基本指標として、正味現在価値法(NPV)と内部利益率法(IRR)を取り上げる。ここではその背景にある思想を紹介する。

そこには18世紀の産業革命による資本主義の成立と20世紀後半の資本市場の発展という背景がある。

1.18世紀後半に英国で始まった産業革命が製造業を一変させた。大規模な生産設備を用いた大量生産そして大量販売の時代が到来した。大規模な生産設備を持つには大きな資金が必要であるのでファイナンスが発達した。同時に大量販売のためのマーケティングが発達した。時代は下るが、第二次大戦終了後、戦争による技術革新の成果が波及し、米国経済は生産性の向上により急成長し、国民は豊かになり資本の蓄積が急速に須進んだ。その結果、資本に関する経済学が発達した。

2.それがファイナンスである。資本コスト論を中心に資本の「調達」に関する経済理論が発展するとともに、それに対応して資本の運用に関する経済理論が発展した。企業が生産活動の拡大に資本を投下する際の資本予算(capital  budgeting )および貯蓄を株式や債券などの金融資産に運用するための資産運用理論(portfolio theory)等である。

3.株式会社の目的は営利であり、事業を行うことにより、付加価値を生産し、付加価値から賃金・利息を支払った残りである純利益を株主に分配する事である。既存製品の拡大投資にせよ新製品投資にせよ、新規投資は事業を拡大させ付加価値生産を増加させ株主への純利益を長期的に増殖させる。それを株主価値の創造という。

4.投資とは、①最初に資本を調達して設備などへの投資を行い、②その後複数期間にわたって行われる事業から販売収益(売上高)を得て、③そこから投下資本を回収するとともに(企業会計的には減価償却費の計上)、資本に分配する利益を獲得することである。

5.ゴーイングコンサーンと想定される株式会社が、将来、稼得すると予想される純利益の現在価値が株主価値である。株主の資本を自己資本として設立され営利を追求する株式会社は、新規投資を行うことにより、将来の純利益を増加させ株主価値創造を目指す。そのための、経済性計算-新規投資は株主価値を創造するか否かの判断-が、資本予算Capital Budgetingあるいは投資の経済計算Investment Appraisalと呼ばれる。前者は、企業において希少な資本をどの投資案に配分するかという予算編成(Budgeting)のプロセスから派生した呼び名であり、後者は投資の採算性評価を中心として呼称である。

6.米国では、投資プロジェクトの評価尺度として会計的利益率(ARR:Accounting Rate of Return)または投資利益率(ROI:Return on Investment)あるいは回収期間(PB:Payback Period)が実務では普及していた。前者は投資期間中の年間平均会計利益を投資額で割った利益率であり、後者は年間キャッシュフロー(利益+減価償却費)により投資額を回収するのに要する期間を表す。

7.第二次大戦後、資本市場の発達を背景に、①キャッシュフロー概念、および②貨幣の時間価値概念が実務界に浸透し、③割引現在価値の合理性が認識され用いられるようになった。その結果、正味現在価値NPVおよび内部利益率法IRRが正当な投資の経済性評価指標として認知され、DCF法と呼ばれるようになった。ただし、欠点が指摘されているが、依然として、伝統的なARRもPBも広く利用されている。しかし、資本市場における資本のコストを認識する立場からは、①ARRの欠点としては貨幣の時間価値を考慮していないこと、および②PBの欠点としては投資の全期間のキャッシュフローを考慮していないことが指摘されている。それぞれ実務的には実感に合うことは理解できるので、現代ファイナンスの観点からは、DCF法をサポートする補助的な方法として利用することが推奨されている。

(若杉敬明)

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