Q&Aセッション
Q01 pp.1-3にモニタリングボード、マネジメントボード、アドバイザリーボードの3つの定義・説明がございますが、マネジメントボードとアドバイザリーボードというのは、日本の取締役会の状況を説明するための言葉なのでしょうか。(p.13以降の過去の米国におけるCEO中心としたガバナンスモデルは、マネジメントボードとも言えるかもしれないとも思いつつも、、)
A01 どこで使われ始めたの分かりませんが(コーポレートガバナンス・コード関係だと思われますが・・・)、日本の取締役会を叙述するための近年の語だと思います。なおモニタリングボードは、米国の色々なNPOなどで設置されており、株式会社のコーポレートガバナンスに固有の言葉ではありません。(若杉敬明)
Q02 p.30、議論の発端である「企業不祥事」をゼロにすることは不可能と考えています。一方、米国では20年前にモニタリングボードの形が上場規則として導入されたようですが、米国では現在、取締役会の役割・体制としてどのような点が議論されているのでしょうか。(日本では20年程度遅れて、体制の議論を行っているなか、世界(米国)は現状どのようなことが論点になっているのか伺いたく)
A02 企業において不祥事は不可避ですが、IT化などにより防ぐことができるようになりました。企業における全ての仕事をシステムに入力するようにすれば、たいていの間違いや不正は防止することができます。しかし、経営トップが数人で組んで不正をすることは可能です。この場合も、会計処理をともなう場合が多いので経理の担当者が抱き込まれたりします。そのような場合のためアメリカでは内部通報制度が重視されています。日本でも制度化されていますが、日本人は「内部通報は卑怯」「明るみなれば会社のステークホルダー皆の迷惑になる」などと考えられているのでしょうか活用されていません。アメリカでは、「会社の不正を知っていて黙っていることこそ不正だ」というような考え方があるようで、よく利用されているようです。それに内部通報者には不正の大きさに比例した報酬が与えられます。「不正が行われている会社に居続けるよりも報酬をもらってほかの会社に移る方が得策だ」と考える傾向があるようです。人間が絡む以上、不正も間違いもあり得ます。それが外に出る前に社内できちんと処理することが重要です。その仕組みが内部統制であり、内部統制が機能しているかをチェックする内部監査です。取締役会がなすべきことは内部監査が機能している会社を実現させる事です。その役割を負うのが監査委員会です。米国の会社では、日本と異なり一般に、内部監査が非常に重視されています。(若杉敬明)
Q03 すごく素朴な疑問になりますが、米国ではなぜ、デラウェア州の会社設立が多いのでしょうか。p.24のご説明のとおり、シンプルな会社法であるため、企業にとってなにかと都合が良いということなのでしょうか。
A03 その通りです。会社法の縛りが緩いほど経営者にとっては好都合です。その点、デラウエア州会社法は経営者にとってベストだと言われています。デラウエア州がそのような会社法を維持しているんは、講義でも説明したように、州としては沢山の会社に登録して貰い、税金を納めてもらいたいからです。それにともない、弁護士など法曹関係者の仕事が増え、その面でも州が活気づくからです。さらに、大会社がたくさん登録している州は、何となく(とくに理由もなく)、ステイタスが高いと自ら考えているからだと言われています。(若杉敬明)
取締役会のモニタリングボードとしての職責 -ALIおよびABAの提言-
Ⅰ アメリカ法律協会 ALI
アメリカ法律協会は、1923年に設立された裁判官、弁護士、法学者の研究および擁護団体であり、米国のコモンローの明確化と簡素化、および変化する社会的ニーズへの適応を促進している。 ALIのメンバーには、法学教授、弁護士、裁判官、その他の法務業界の専門家が含まれる。 (ウィキペディア)
American Law Institute, The Principles Of Corporate Governance -Analysis and Recommendations- (1994) より
第3.02条 取締役会は制定法により別段の定めがある場合を除いて、以下の職務と権限を有する。
(a) 公開会社の取締役会は、以下の職務を遂行しなければならない。
(1) 主要上級執行役員の選任、定期的な評価、報酬の決定、かつ必要な場合にはその解任
(2) 会社の業務が適切に行われているか否かを評価するための会社の事業活動の監督
(3) 会社の財務事項、主要な計画および行動について審査並びに、必要な場合にはそれらについて同意を与えること
(4) 会社の財務諸表の作成において用いられるべき適切な監督及び会計の原則及び慣行の主要な変更及び他の適切な選択に関する主要な問題の決定の審査、かつ必要な場合には、それらに対して同意を与えること
(5) 法に定められ、又は会社の基準により取締役会に与えられた他の職務の遂行
(b) 取締役会は、さらに以下の権限も有する。
(1) 会社の計画、関与及び行動の発案並びに採用
(2) 会計原則及び慣行の変更の発案並びに採用
(3) 主要執行役員に対する助言及びこれらの者との狭義
(4) 委員会、主要執行役員、又は他の役員に対する指図及び委員会、主要執行役員、又は他の役員の行動の審査
(5) 株主に対する勧告
(6) 会社の業務の執行
(7) その他、株主の同意を必要としない全ての会社に関する事項の決定
(c) (a)項第2号による業務に対する監督についての取締役会の最終的な責任によるかぎり、取締役会はその職務の一部を遂行し、かつその権限の一部を執行することを取締役会における委員会に授権しうる。
(翻訳は、証券取引法研究会国際部会役編「コーポレート・ガバナンス―アメリカ法律協会「コーポレート・ガバナンスの原理:分析と勧告」の研究―」財団法人日本証券経済研究所1994.12.10より引用)
Ⅱ アメリカ法曹協会 ABA
アメリカ法曹協会は、アメリカ合衆国の弁護士等法曹の全国団体である。米国弁護士会、米国弁護士協会との訳もあるが判検事、軍法務官などの在朝法曹も加入する団体のため適訳ではない。 なお、アメリカ法律協会 とは別の団体である。( ウィキペディア)
Corporate Laws Committee, Corporate Director’s Guidebook, 7th ed より
CHAPTER 3: DUTIES OF A CORPORATE DIRECTOR
A. BOARD DUTIES
1.Responsibilities
a.Principal Board Functions
州法は、取締役会が会社を代表して主要な決定を下し、会社の経営を監督する責任を強調する。主要な決定には、適用される法律の下で、取締役会が行わなければならないもの(細則の採択や役員の選出など)、及び行うことができるもの(配当の許可など)が含まれる。また、取締役会の決定には、戦略の承認や新しい製品やサービスの開発など、必ずしも法令に含まれていない幅広い事項が含まれる場合がある。取締役会の責任の範囲は、会社やその事業の性質によって異なる。取締役会の主な責務は、会社の上級管理職を選定し、後継者を計画し、会社の戦略的計画と経営陣の業務遂行を監督することである。監視の役割を果たすにあたり、取締役会は、潜在的な機会、問題、リスクを特定し、それに対処するために積極的であるべきである。また、取締役会は、経営陣のアドバイザーとして、戦略的計画の策定と見直しにおいて、継続的な指示と指導を行うべきである。すべての行動において、取締役会は、特に、財務および事業目標を含む会社の戦略、物理的および管理能力、競争環境、リスクプロファイルおよび許容範囲について、重要な検討を行うべきである。競争環境、リスクプロファイルとその許容度などである。
州法は、一般に、取締役会の責任を明確に定義したり、列挙したりはしないが、取締役会とその委員会は、通常、以下の業務を行うべきである。
(1) 営業、財務、その他の重要な企業計画、戦略、目標に照らして、会社のパフォーマンスを監視する。計画や戦略の主要な変更を承認すること。
(2) 最高経営責任者(CEO)の選任、CEO及びその他の上級管理職の目標設定、業績評価及び 最高経営責任者(CEO)の選定、CEOおよびその他の上級管理職の目標の設定、業績評価、報酬の設定、および適切な場合の変更。最高経営責任者(CEO)の選定、CEOおよびその他の上級管理職の目標の設定、業績評価、報酬の設定、および適切な場合の変更。
(3) CEOおよび上級管理職の後継者計画の策定、承認、および実施
(4) 取締役会のリーダーシップ、委員会構成および構成を定期的に評価する。これには、独立性、在任期間、多様性などの他の要素とともに、取締役会に必要な専門知識や技能を考慮した取締役刷新プロセスを開発することが含まれる。
(5) 取締役会及び会社のために、その他の適切なコーポレート・ガバナンス方針及びプロセスを実施し、会社の状況の変化に応じてそれらを更新すること。
(6) 会社の事業に影響を与えるリスクを理解し、会社のリスクに対する許容度と管理方法を検討し評価すること。
(7) 会社の財務諸表およびその他の財務情報を理解し、その適切性を評価すること。会社の財務諸表およびその他の財務情報を理解し、財務およびその他の内部統制、ならびに開示統制の適切性を評価すること。財務およびその他の内部統制、ならびに開示統制および手続の適切性を評価すること。
(8) 合併、買収などの重要な取引の評価と承認。合併、買収、重要な支出および主要な資産の処分などの主要な取引の評価および承認
(9) 会社のコンプライアンスに関する情報の受領および報告のためのシステムの有効性の確立および監視 会社が法律上および倫理上の義務を遵守していることに関する情報および会社に影響を及ぼすリスクに関する情報を受領し報告するためのシステムの有効性を確立し監視すること。また、不正行為を監視・発見し、その防止を奨励する。
(10) 不正行為の監視及び発見、並びに従業員による不正行為の報告の奨励 不祥事の報告を奨励する。
(11) 経営陣と連携し、株主との対話に応じること。
(12) 取締役会自身のパフォーマンスを定期的に評価すること。
以上