要約 資本資産評価モデルと投資政策
1)現実の株式市場では、ポートフォリオサイズを増すとリスクが減少するので、分散投資が賢明かつ合理的な策である
2)各銘柄の持つ収益率のリスクにはシステマティックな部分とアンシステマティックな部分とがある。
3)後者のリスクは、分散投資により相互に相殺されて消滅するリスクであるが、前者は分散投資をしても消滅されないリスクである
4)究極の分散投資は上場銘柄を全て保有する市場ポートフォリオであるが、これは市場の大小に関わらず事実上分散ポートフォリオである
5)市場ポートフォリオにはリスクプレミアムが与えられる
6)分散投資によって消去できないリスクは、市場ポートフォリオとの連動性で測定される
7)市場ポートフォリオとの連動性を表す指標をベータ係数という
8)各銘柄には、ベータ係数に応じて市場ポートフォリオのリスクプレミアムが分配される
9)それがCAPMである μi=RF+βi(μMーRF)
10)上場銘柄数が多い株式市場では、市場ポートフォリオを所有しなくても、分散ポートフォリオを組成することが可能である
11)分散ポートフォリオのベータ係数は個別銘柄のそれの加重平均であ12)12)したがって、ハイベータの銘柄を多く集めてハイベータの分散ポートフォリオ組成すれば、ハイリスク=ハイリターンのポートフォリオを作ることができる
13)逆に、ローベータの分散ポートフォリオを組成すれば、ローリスク=ローリターンの分散ポートフォリオを作ることが可能である
1.資本資産評価モデル-分散投資と市場均衡-
アンシステマティックリスクが消去されている市場ポートフォリオのリスクは,すべての銘柄の,究極の分散投資でも相殺できないシステマティックリスクを総計したもので,システマティックリスクそのものを表しています。市場ポートフォリオにはそれなりの投資収益率があります。これを市場収益率という。
現代の投資理論の世界では市場ポートフォリオが基準になり,市場収益率の期待値(平均)μMとリスク―分散σM 2で表される―が,投資成果の基準となる。また,アンシステマティックリスクが消去されている市場ポートフォリオを持つという分散投資行動が前提になるので,アンシステマティックリスクはリスクとして認知されない。株式の要求収益率は金利にリスクプレミアムを加えたものであるが,リスクプレミアムを決める際にはアンシステマティックリスクは無視され,システマティックリスクだけが考慮されるということである。
個々の銘柄iのシステマティックリスクは,システマティックリスクの代表である市場ポートフォリオのリスクとの連動性を表す共分散σMiで測定される。ここで,市場ポートフォリオのリスクσM 2を1として基準化すると,個々の銘柄iのシステマティックリスクはσMi/σM2と表される。これはベータ係数と呼ばれβiと表される。
金利をRFとするとき市場収益率のリスクプレミアムは(μM-RF),リスクは1である。銘柄iの期待収益率をμiとするとき,そのリスクプレミアムは(μi-RF)であるが,システマティックリスクがβiであるから,それは市場収益率のリスクプレミアムのβi倍が適当ということになる。したがって次の関係が成立する。
μi-RF=βi (μM-RF)
μi=RF+βi (μM-RF) (1)
これがポートフォリオ理論における市場均衡の考え方で,(1)式を資本資産評価モデル(capital asset pricing model : CAPM)という。
現代投資理論によれば,株式市場においては,個々の銘柄の期待収益率に関して(1)式が成立するところで市場が均衡する。既に述べてきたように,市場均衡では要求収益率と期待収益率が等しくなる。したがって,(1)式の資本資産評価モデルは,要求収益率がどのように決まるかも表していることになる。
2.リスクの市場価格
CAPMは,株式のベータ係数が大きいほどその期待収益率が高いことを表している。そこで(1)式をベータ係数βiの関数としてグラフを描くと、点(0,RF)と点(1,μM)を通る右上がりの直線となる。これを証券市場線(securities market line : SML)という。
ベータ係数は次のように定義されている。
βi=σMi/σM2
ここで市場収益率と株式iの収益率の共分散σMiを,両者の相関係数ρMiを用いて書き換える。つまり,
βi=ρMiσMσi/σM 2=ρMiσi/σM
となる。これを(6-??)式に代入すると次式が得られる。
μi=RF+θ(ρMiσi)
ここのθは次のように表される係数である。
θ=(μM-RF)/σM
この式の右辺の第2項はリスクプレミアムを表している。θは,だれもが保有しようとするもっとも効率的なポートフォリオである市場ポートフォリオのリスクプレミアム(μM-RF)をリスクσMで割ったものであるので,市場で,リスク1単位当たりどれだけのリスクプレミアムがもらえるのかを表している。そのことから,リスクの市場価格(market price of risk : MPR)と呼ばれる。
株式iのリスクプレミアムは,投資収益率のリスクσiのうち市場収益率と相関がある部分(ρMiσi)にリスクの市場価格θを掛けたものである。この式から,分散投資の世界では,株式iのリスク全体σi ―総リスク(total risk)―ではなく,市場収益率と連動しているリスク(ρMiσi)のみがリスクとして,リスクプレミアムの決定のさいに認知される。これが分散投資によって相殺されないシステマティックリスクを表している。その他の部分(1-ρMi)σiは分散投資によって相殺されるアンシステマティックリスクであるので,リスクとして計算に入れられない。つまり分散投資によって相殺されるアンシステマティックリスクにはリスクプレミアムが与えられない。合理的な投資家が支配的な株式市場では,分散投資をするのが大前提であり,分散投資を行わないのは愚かなことである。株式投資をするのであるなら、分散投資によりアンシステマティックリスクを相殺することが出発点なのである。