JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2022 ファイナンス研究会 第7回「経営者と株式報酬」

Q&Aセッション

Q01:(1)「自社株保有による経営者のリスク負担」(p.38、p.39)のスライドについて、RSおよびRSUのケースはどのように表すことができるのか? ⇨ PSUやストックオプションの場合は手に入れられる株式数の増加や行使価格と実勢額との差額等わかりやすいのですが、RSおよびRSUでは譲渡制限(=条件を満たさない限り売却して利益が得られない)があり、かつ株式数の変動がないのでどのように表現されるのかご教示いただきたいです(単に0から単調増加するだけなのかもしれませんが)。
(2)「自社株保有による経営者のリスク負担-その2-」のスライドの解説をお願いしたいです。動画はその1の解説で終わっていると思います。スライドは見て大体理解したつもりなのですが、ズームのQ&Aセッションで時間がありましたら解説いただけますと幸いです。

A01:質問の部分は予定していたレクチャーの後尾に割り当てたので、資料のスペースも動画の説明も不十分になり申し訳ありません。米国のCEO報酬を見ると、ストックオプションならびに株式報酬が大きなウエートを占めていますが、報酬とは別に自社株式の持ち分が非常に大きいことが目立ちます。発行済み株式の1%以上というCEOが多数います。時価総額1兆円の会社であれば持ち株の価値は100億円以上ということです。米国企業はそれを自己資金で保有することを求めています。CEOは、必ずしも自己資金で購入するわけではなく、ストックオプションの権利行使やRS・PSやそのUnitで得た株式を売却せずに保有しています。大企業のCEOでも、自社株の1%どころか数%を保有しているCEOが多数います。
(1)CEOは、自社株を保有している現在、ストックオプションやRSやPSを付与されたとします。(何時取得したにせよ)現在保有している自社株の取得価格が、株式報酬の権利行使が可能になる価格 Xと等しい場合を表しているのがp.38のグラフです。ここでは、保有自社株が1株、付与された株式報酬が1株分と仮定されています。株式報酬がそれより多ければ、株式報酬の価値を表す直線の傾きは大きくなります。ここで注意しなければならないことは。この図が表しているのは、権利行使が可能になった以降の期間において、権利を行使(現金化)した時点における現金評価額を表しているということです。売却すればそれが現金収入になりますが、そのまま売却せずに保有すれば、その現金収入額を基準として評価益や評価損が発生するわけです。
(2)p.39のグラフは、株式報酬付与時に保有している自社株の取得価格が、権利発生の条件より低い場合の、自社株保有と株式報酬のポートフォリオの(株式報酬の権利行使時)の現金評価額を表しています。そのグラフは p.38より左方になります。逆に、保有株式の取得価格が株式報酬の権利行使価格より高いときには右方になります。保有自社株の取得価格S
0が低いほど、株価上昇によるキャピタルゲインが大きいからです。

現実には、毎年あるいは数年おきに新しい報酬プランが実行されるので、自社株保有にせよ株式報酬にせよ複数のものが並行して存在することになります。なお、自社株を自己資金で購入せず、RSやPSで得た株式で保有する場合には、取得価額は0ですから、自社株式の直線は、質問にある通り減反から出発する事になります。しかし、株式報酬の権利が確定した時点でCEOの報酬が確定し、直ちに自社株を購入したと考えるのが自然であろう.そうであれば、その時の株価が新たに保有した自社株の取得価格となる。  (若杉 敬明)

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株式報酬の意義

 経営者の経営行動は企業業績を左右し、株式の所有者である株主の株式価値に重大な影響を与える。それゆえ、経営を監督する取締役会は、経営者報酬を通じて株主価値創造を刺激するために、報酬にインセンティブ性をもたせるべく、さまざまな工夫を凝らす。インセンティブ報酬として最も重要な工夫は、報酬の額を企業の短期・長期の業績に関連付ける業績連動報酬である。

経営者を動機付けるインセンティブ報酬は、金銭で支払われる現金報酬と株式で支払われる株式報酬とに分けられるが、現代の株式会社で特に好まれるのが、株主の目的である株式価値と直接連結された株式報酬である。ここでは経営者報酬が、株主価値創造のドライバーとして期待されている。第7回ファイナンス研究会は、株式報酬のファイナンス的特性の解明とともに、金融におけるデリバティブズ資産への導入を行う。

株式報酬プランはさまざまな特徴を持っているので、分類法も多様であるが、ここでは株式報酬を支給するタイミングの観点から、事前交付型と事後交付型の分類を紹介する。事前交付型は、報酬対象期間の始めに株式報酬を支給するものであり、事後交付型は期間が終了した後に支給するものである。冒頭に述べたように、インセンティブ報酬とは実現した業績に連動する報酬である。事前型にせよ事後型にせよ、報酬は事後的な業績に連動する。業績の基準は当然事前に決まっている。事前型の場合には、業績が基準に達していなければ既に支給された報酬が没収され、事後型の場合には、業績が基準に達した場合にのみ報酬が支払われる。

Ⅰ アメリカの株式報酬

A. 事前交付型の株式報酬には次の3つの種類がある。

(1)業績連動型株式(Performance Share)
 パフォーマンスシェア(PS)とは譲渡制限が付いた株式が付与される報酬制度で、付与時(事前)に設定された業績目標の達成度合いに応じて制限が解除されるという報酬プランである。目標が達成されなければ、事前に付与された株式は会社に没収されるので、株式の所有者に対して目標を達成する強い動機づけになる。

(2)譲渡制限付株式(Restricted Stock)
 譲渡制限付株式(RS)とは定められた期間勤務することを条件に付与される報酬プランで、期間を超えずに退職すると株式が没収されるので、主として優秀な人材を確保する目的で付与される報酬である。

(3)ストックオプション(Stock Option)
 ストックオプション(SO)とは予め定められた金額で会社から株式を購入できる権利で、株価が上昇した後にも値上がり前の株価で購入できるので、SOの保有者を株価上昇に向けて動機付けるインセンティブ性が強い。しかも、株価が上昇しなくても、SOの価値がゼロになるだけで、損失はともなわない。その意味でリスクが比較的緩やかであるという特徴がある。なお、事後型株式報酬は慣習的にユニット呼ばれる。

B. 事後交付型の株式報酬には次の4種類がある。

(4)業績連動型株式ユニット(Performance Share Unit)
 績連動型株式ユニット(PSU)とは、職責・役職に応じたポイントを事前に付与ししておき、業績が確定した後、株式を支給する報酬プランである。PSの事後交付プランである。事前に設定した業績目標の達成度合いに応じて算出された株式が付与される。なお、現金で支給するプランもあるが、当然、これは株式報酬ではない。

(5)譲渡制限付株式ユニット(Restricted Share Unit)
 譲渡制限付株式ユニット(RSU)とは、一定期間の勤続勤務などの条件を満たした後に株式が交付されるプランである。PSUと同様に、保有するポイントに応じた株式が支給される。

(6)ストックアプリシエーション・ライト(Stock Appreciation Right)
 ストックアプリシエーション・ライト(SAR;株式報酬型新株予約権)とは、あらかじめ決められた株価を上回った場合に、その差額分の現金を受け取る報酬プランである。株価が下回った場合には、報酬は発生しない。その意味では、リスクが限定された報酬プランであるので、株価上昇を促す行動を促進する効果がある報酬プランであると考えられる。

(7)ファントムストック(Phantom Stock)
 ファントムストックはストックアプリシエーション・ライトと同様に、業績―株価―に連動して報酬が支払われるプランである。株式を付与し一定期間経過後に売却したとみなして、株価と同額の現金を受け取れる仕組みである。SARが株価の値上がり分を報酬州として受け取るのに対して、ファントムストックでは株価に相当する部分を報酬として受け取る点に違いがある。

Ⅱ アメリカの経営者報酬

1)AFL-CIOの調査 

AFL-CIO:アメリカ最大の労働組合の連合組織。1955 年職業別同盟体である AFL(1881 年設立)と産業別同盟体である CIO(1938 年 AFL から分裂)が合併して結成された。アメリカ労働総同盟産業別組合会議。

要約:CEOの給与は、全米の勤労者の給与を上回り続けています。過去10年間で、S&P500企業のCEOの給与は年間54万ドル以上増加し、2021年には平均1830万ドルに達します。一方、米国の平均的な労働者の賃金は過去10年間で年間1,303ドル上昇し、2021年には平均58,260ドルの収入にとどまります。

https://aflcio.org/paywatch/highest-paid-ceos

2)Bloombergの調査

イーロン・マスクは、CEO(最高経営責任者)たちの羨望の的だ。彼の宇宙船や「サタデー・ナイト・ライブ」への出演、Twitterの名声などではなく、3年前に彼が手にした、史上最高額のCEO報酬のためである。

今日のアメリカを見渡せば、同じようなことが繰り返されている。

昨年、少なくとも15社の企業トップが1億ドル以上のマスク賞のようなものを受賞し、テスラ社の創業者が受賞した時の3倍に増えた。ムーンショットの模倣は、レストレーション・ハードウェア社、ペイコム・ソフトウェア社、JPモルガン・チェース社など、かなり地味なところにも現れている。

批評家は非難し、投資家はさまざまな意見を述べましたが、結果は明らかです。アメリカの富の格差がここ100年ほどの間に広がったと言われる中で、巨大な報酬は、一人の人間の仕事が他の人と比べてどれだけの価値があるかという、企業社会のすでに引き伸ばされた限界を押し上げるものだ。

進歩的なシンクタンクであるInstitute for Policy StudiesでGlobal Economy Projectを率いるサラ・アンダーソン氏は、「Great Man Theoryを強化するものです」と言う。「隅のオフィスにいる人がすべてで、他の人は小さなお手伝いさんに過ぎないのです」。

富裕層とそれ以外の人々の間に広がる格差について激しい議論が交わされているにもかかわらず、役員室ではこの傾向が続いている。CEOの中にも、経済はすべての人のために働かなければならないと、眉をひそめるような発言をする人がいる。

給与の上昇を単純な結論に帰結させる批評家もいる。CEO、取締役、機関投資家、アドバイザーなど、意思決定に関わる人々は、天文学的な給与水準を、資本主義が道を踏み外した兆候ではなく、アメリカの実力主義の縮図とみなしているのである。

2020年、最も高い報酬を得たCEOと経営陣

https://www.bloomberg.com/graphics/2021-highest-paid-ceos/?leadSource=uverify%20wall

3)ニューヨークタイムズ

ニューヨーク・タイムズ紙はこのほど、2021年度中に米国上場企業のCEOに支給された最高額の給与を紹介する年次調査「Equilar 200」の報道を掲載しました。2022年版は、Equilarがニューヨーク・タイムズと提携し、売上高10億ドル以上の米国上場企業のCEO給与を分析するようになって15年目*にあたります。

2022年版では、9桁の報酬を授与されたCEOの数が過去最高となりました。2021年版では、トレードデスクのジェフ・T・グリーンCEOが、約8億3500万ドルという最大の報酬を受け取りました。本特集の紹介ページでは、SECに提出した委任状の報酬概要表に記載されている、2021年度の最高報酬額CEOのトップ10を紹介しています。Top10の表の下には、報酬総額、報酬額の前年比変化、CEO Pay Ratioなどでソートできるインタラクティブなチャートで、200人のCEOの全リストへのリンクが掲載されています。

https://www.equilar.com/reports/95-equilar-new-york-times-top-200-highest-paid-ceos-2022

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