JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

ブログ

2022ファイナンス研究会 第9回「エクイティファイナス」

エクイティファイナンス-Equity Finance-

Ⅰ. 会社設立からエクイティファイナンスまで

1.株式会社の設立

 ① 発起人を募り、会社概要を定める ② 定款を作成し認証を受ける ③ 発起人が資本金を払い込む。発起人は株主と呼ばれる (注:資本金は1円から認められるが、金融機関から借り入れなどを行う場合には信用力が不足するので、会社規模に応じた金額とする) ④ 登記申請書類を提出し会社設立を申請する ⑤ 申請が受理されると事業の準備を始める ⑥ 銀行等からの借り入れにより、資本金では不足する資金を調達する ⑦ 資本金を自己資本または純資産(Equity)、借入金を負債(Debt)という ⑧ 事業に必要な資材・設備等々を調達する:当初の資金がこれらの資産に形を変える。また、買掛金のような買入債務が生ずる ⑨ 製品やサービスが販売されると、売上債権などが資産を構成する ⑩ 事業から利益が上がり、配当だけでなく内部留保ができるようになると、資本金だけであった自己資本に内部留保が加わる ⑪ 順調に進み、事業の拡大などで資金が必要になると、新たに借り入れをしたり、設立株主や他の投資家から資本金を受け入れるなどする ⑫ さらに事業が順調に成長すると、株式が株式市場に上場され自己資本が株価で取引されるようになり、増資も可能になる ⑬ あるいは、負債に関しては、借り入れだけでなく社債の発行もできるようになる。なお、以下で企業というときは株式会社のことを指している。

2.自己資本と負債:ファイナンス vs. 会計

(1)貸借対照表の構成要素 ◆ 負債の部 ①流動負債 ② 固定負債 ◆ 純資産の部 ①株主資本 ②評価・換算差額等 (保有する有価証券や土地などの購入価格と現在の時価の評価損益)③新株予約権

(2)2006年 改正会社法の施行 ① 改正以前の会計では、ファイナンスでいう自己資本と会計でいう株主資本とは同じものであった ② 改正以後の会計では ファイナンスでは、会計でいう純資産を自己資本と呼んでいる。なお、ファイナンス理論で自己資本という時には、通常、資本金+内部留保(剰余金等)である。したがって,会計の株主資本に等しい(評価・換算差額等および新株予約権がない企業を想定している)。

3.自己資本(株主資本)の性格・特徴

 ① 満期がないので企業には返済義務がない。その代わり投資家は株式市場で自由に売却できる。② 自己資本には、企業が生産した付加価値の残余部分が利益として分配される。ここで残余とは、付加価値から従業員(労働)への支払および負債への元利支払を控除した残額という意味である。企業が生産する付加価値はビジネスリスクに晒されているが、従業員の給与および負債への元本返済・金利支払いはあらかじめ決められているので、残余には当然リスクがある。したがって、自己資本の取り分にはリスクがともなう。③ このことを、「自己資本はビジネスリスクを負担する」という。

4.負債の性格・特徴

 ① 返済期限があり、企業は契約に従って元利の支払義務を負う。② このことは、企業は、業績-付加価値-に関わらず、元利を既定のスケジュールにしたがって支払わなければならないことを意味する。③ このことを、「負債はビジネスリスクを負担しない」という。

3.資本の構造と事業との関係

 資本にはこのように、① ビジネスリスク負担の有無、および② 満期・返済期間の有無・相違という二つの要素がある。それに応じて、調達した資本の構造には、リスクの負担構造という側面と、満期構造という二つの側面がある。
 株式会社は、株主価値創造のために様々な事業を行うが、事業を行うということは当初に資本を調達し、その後、事業から得たキャッシュフローで減価償却引当を計上し投下資金を回収し、さらに負債には元利を払い、最終的な残余を株主の利益とする。キャッシュフローの継続期間は事業によって異なる。またキャッシュフローは期間ごとに変動するがその変動の激しさは事業によって異なる。資本調達はキャッシュフローの特性に対応していなければならない。

資本構成の原則-その1- 事業リスクが大きい企業ほど、資本の構成において、リスクを負担する自己資本をより多く持つことが望ましい。具体的には、リスクを負担する自己資本の割合つまり自己資本比率が高いことが望ましい。企業間で見れば、ビジネスリスクと自己資本比率は反比例する傾向があると推定できる。ここで、自己資本比率=自己資本/短期・長期負債+自己資本 である

資本構成の原則-その2- 回転率が低い(減価償却期間が長い)事業資産に対しては、満期・返済期間の長い資本を対応させることが望ましい。経営比率分析では、固定長期適合率が指標として用いられる。固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100 固定比率は100%を少し下回るのが望ましいとされている。

4.自己資本調達の種類

1.株式発行 ①公募増資:通常、時価公募発行がなされる ②割当増資:株主割当、第三者割当→割当発行:通常、割引発行 ③ライツオファリング(貸借対照表の新株予約権)2.内部留保:利益の一部を配当しないで、企業内に留めること→用途:事業資金、設備投資・企業買収等の原資、予備の資金、等々。東証は、株式をエクイティファイナンスとしている。詳細は、次節で説明する。

 

Ⅱ.エクイティファイナンス:東証の定義

日本ではエクイティファイナンスという語が広く用いられているが、英語ではエクイティファイナンシングの方が多く用いられる。東証はエクイティファイナンスを次のように定義している。
「エクイティ・ファイナンスは、新株発行等によって企業の株主資本の増加をもたらす 資金調達手法です。かかる手法によって事業の発展を実現し、企業価値の向上 に努 めることは、企業にとって経営上の重要な選択肢といえます。 我が国では現在、その主な手法として、公募、第三者割当及びライツ・オファリング があります。

1) 公募:株式の発行に際し証券会社が引き受け、不特定多数の投資者を対象に募集する方法です。

2) 第三者割当は、株式や新株予約権等を特定の第三者 に対して割り当てる方法です。

3) ライツ・オファリングは、株主に対する新株予約権無償割当てを利用した方法で、その新株予約権が証券取引所において売買されるものです。」

「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」日本取引所自主規制法人平成26年10月1日より

ライ Stock Acquisition Rights 略してRights のことで、日本では新株予約権として制度化されている。株式会社に対して、この権利を行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利のことをいう。日本における「新株予約権」の概念は2000年代に入り商法改正によって導入されたもので、従来の ① 転換社債の転換請求権、② ワラント債の新株引受権、③ ストックオプション が併せて「新株予約権」として再構成された。(若杉 敬明)

 

Ⅲ.資本コストが高いエクイティがなぜ利用されるのか

◆ 企業は、株主価値を創造するために、あるいは時に株主価値を守るために自己資本調達(エクイティファイナンシング)を行う。しかし、第5回研究会で明らかにしたように、支払利息の損金算入という法人税制の下では、自己資本の資本コストは負債のそれより高い。それにもかかわらず、自己資本調達を行うのはなぜであろうか。そこにはそれなりの合理的な理由がある。

<前提>
a.法人税の節税効果により負債の資本コストの方が低い
b.最適資本構成は、レバレッジにおける、節税効果と倒産リスクの兼ね合いで決まる。
<エクイティファイナンスが合理的である状況>
Case1.企業の現在の資本構成において最適負債比率を大きく超えている
現在検討中の投資案件は、投資利益率>自己資本コストであり、株主価値を創造する投資であるが、資本構成が最適負債比率をかなり超えているので、負債調達は好ましくないと判断するのが合理的な場合
Case2.Financial Restructuri-財務リストラクチャリング-
現在の負債比率が最適負債比率を越えて高過ぎるので、負債比率を下げるために、株式発行などで資本を調達し負債を返済する。
Case3.市場における自社株の過大評価
株式が過大評価により本来の価格より高く売れることは、既存株主には株主価値創造になるので株式発行を行う。そうすれば、将来の設備投資やM&Aなどに備えて余裕資金をもつことができる。
この場合、過大評価が治まると新株主は株価低下でキャピタルロスを被る。過去の経験から、投資家は株価の過大評価は経営者の株式発行を誘うということを知っている。したがって、良い投資機会が無いにも関わらず、経営者がエクイティファイナンスを示唆するとそれだけで株価が下がる。株式発行は、株価が高すぎることを示唆する経営者から株式市場へのシグナルなのである。なお、経営者にとっても、株価の過大評価は、役員報酬であるストックオプションの権利行使価格が高くするので好ましくない。適正な価格こそ望ましいのである。したがって、経営者は過大評価を解消するために、時価発行を匂わせるのである。

 

Ⅳ 東証のエクイティファイナンス規制

エクイティファイナンスは公募の場合、既存株主に新株主が加わるので、2つの意味で希薄化が問題になる。それは既存株主の利益の希薄化と議決権の希薄化である。東証は既存株主のガバナンスに関わる議決権希薄化問題を恐れて規制をしいている。日本では、一般に株主の権利の保護に関して企業-経営者-や投資家の意識が希薄であるからと推測できる。

1.東証のエクイティファイナンスに関する問題意識

(1)公募に関して
平成21年以降、株価が低迷する中で、上場会社が大規模な希薄化を伴う公募増資を相次いで実施しており、結果として既存株主の利益を損なうこ とになった事例もあるのではないかとの批判があります。
(2)第三者割当に関して
第三者割当に関しては、既存株主の議決権の希薄化が生じることに加え、経営者による大株主の選択といった問題があります。これに対応するため、平成21年8月に、第三者割当に係る上場制度が整備2 されました。しかし残念ながら、そのルールの趣 旨を潜脱する意図が疑われる事例も散見されています。また、株式の発行過程における不適切な行為と流通市場における不適切な行為を要素として構成される「不公正ファイナンス」の典型的な手法として、第三者割当が悪用されているという実態もあります。
(3)ライツ・オファリングに関して
平成25年に入って件数が増加していますが、そのほとんどは、引受証券会社による審査の仕組みがないノンコミットメント型です。これらの中には、業績が悪く公募や第三者割当等での資本調達が困難な会社が、最後に残された手段として利用していると懸念される例や、資金使途の合理性について疑問を呈さざるを得ないような例が散見されるなど、資本調達が企業価値の向上に繋がっていないとの批判もあります。
《ライツオファリングの種類》
コミットメント型:権利行使されなかった新株予約権は、発行会社が買取り、その対価として「配当金領収書方式」で交付財産が支払われる。
ノンコミットメント型:権利行使されなかった新株予約権は失権(消滅)する

2.エクイティファイナンスに対するプリンシプルズ・アプローチ

・上場会社が、エクイティ・ファイナンスにより資金調達を行うことは、資本市場の本来的機能を活用するものであり、尊重されるべきものであるが、法令や取引所規則等のルールに違反しない限り何をしても構わないという安易な考え方は適切ではない。
・上場会社や市場関係者が、尊重すべき原理・原則(プリンシプル)を確認し、共有することで、各々がその持ち場に即した規範意識を働かせ、自主的に行動していくことにより、資本市場全体の質的向上の実現を目指す。
・法令・取引所規則等のルールで定められている最低限の規律にとどまらず、資本市場を利用して資金調達を行う場合に依拠すべき基本的な考え方を示すものであり、ルールのように上場会社や市場関係者の行動を一律に拘束するものではない。

エクイティ・ファイナンスのプリンシプル-事例と解説-』JPXより抜粋

 

 

page top

サインイン

新規登録

パスワードをリセット

ユーザー名またはメールアドレスを入力してください。新規パスワードを発行するためのリンクをメールで送ります。