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2022 ファイナンス研究会 第10回「デットファイナンス」

第10回 デットファイナンス

目次
Ⅰ.負債の基本的性格
Ⅱ.負債に関する基礎概念
Ⅲ.社債の財務制限条項(日本・米国)
Ⅳ.格付の基準

Ⅰ.負債 の基本的性格

1.負債と自己資本

負債(Debt;デット)と株主資本(Equity:エクイティ)は、企業が生産した付加価値の中から従業員に賃金が分配された残り、つまり営業利益利払い前利益-を分け合う。営業利益には変動リスクがあるが、負債には契約で定められた一定の金利が支払われ、元本が返済される。その意味では、負債投資にはリスクがないように見える。しかし、①将来の金利が変動するリスク、および株主の有限責任制ゆえにデフォルトリスク等の信用リスクがある。それゆえ、負債を提供するに当たり、投資家は信用リスクを推定し、リスクに見合った条件-高い金利、担保など-を求める。そして、債権者は株主に負債という資本を委ねる。ここにエージェンシー関係が成立し、エージェンシー問題が発生する。

2.負債のエージェンシー問題

負債には、①金融機関等と相対取引で調達する借入と、②証券市場で有価証券を発行する社債とがある。ここでは、負債を代表して社債により、エージェンシー問題を説明する。エージェンシー関係において、社債保有者には次のような懸念がある。①経営者は、社債を発行した後、さらに社債を発行し事業を拡大しようとするかも知れない。②逆に、自社株買いなどで自己資本を減らすかも知れない。このような場合、レバレッジが高まり倒産リスクが上昇する。その結果、デフォルトリスクも高まり、社債の価値は低下する。②経営者は株主に対する配当の支払いなどで負債返済のための原資を使ってしまうかも知れない。この場合も同様に負債のデフォルトリスクを増大する恐れがある。また、③社債発行後、発行会社が従来以上にリスクの大きい事業に乗り出せば、ビジネス・リスクが高まり社債がデフォルトするリスクが高まる。

3.エージェンシー問題の本質

①情報の非対称性(Asymmetry):株主から会社の経営を委任され株主を代表する経営者と債権者との間の情報格差である。企業経営にはタッチしないので、その意味では外部者である債権者が、貸倒リスクに関する完全情報を得るのは困難である。それゆえ、情報の観点から社債保有者を保護することが必要である。

②企業行動の変化:社債発行後、リスクの大きい新規投資等を行うと、企業のキャッシュフローの変動が大きくなり、社債への元利の支払が不安定になることが考えられる。そうすると社債保有者は予期せぬデフォルトリスクに直面することになる。それゆえ、既発行の社債の保有者の利益を守るために、経営行動を制限する必要もある。これらのことから、法律等により企業の行動を予防的に制限する措置が定められている。次の三法が法律上の債権者保護の代表である。

③金融商品取引法:投資家保護を目的として、投資判断に必要な経営成績や財政状態の開示の仕方を規定する開示制度-ディスクロージャ制度-が施行されている。

④会社法:株主および債権者保護を目的として、配当可能利益の算定の仕方を規定している。その際、すべての会社を対象に営業上の財産及び損益の状況を明かにすることを求め、毎決算期において計算書類の作成を要請している(ディスクロージャ)。

⑤法人税法:課税の公平を基本理念とする税法の規定に基づき、法人の課税所得の算定の仕方が規定されている。課税所得は、会社法が定める定める計算手続きによって確定した決算をもとに、税法特有の調整を行って算定する。

Ⅱ.負債に関する基礎概念

1.負債:負債とは、企業会計用語で、将来的に、他の経済主体に対して、金銭などの経済的資源を引き渡す義務、つまり企業が外部の第三者に対して負う総称である総称である。貸借対照表において、流動負債と固定負債に大別される。
 -流動負債 ①支払手形、買掛金、未払金、前受金,預かり金、1年未満の借入金などの流動負債、など
 -固定負債 ②普通社債、新株予約権付社債、長期借入金、退職給与引当金などの長期性の引当金、など

2.債務(法律上の用語):「法的に物を渡したり、お金を払ったり、何かをする義務が発生しているもの」を総称して債務という。債務は負債の一部である。なお、債務を弁償することを「弁済」というが、特に法律では債務を履行して、債権を消滅させることを弁済という。

3.利子:負債には買入債務のように無利子のものがある。これに対して、負債を受けた対価として利子(金利)を払う物を有利子負債という。金融機関などからの長短借入金、普通社債や転換社債型新株予約権付社債、受取手形割引高などが有利子負債である。

4.満期:企業が負う負債には支払い義務があり、義務を果たす最終期日つまり返済期限のことを負債の満期という。

5.有担保無担保:返済ができなくなった場合に備えて、調達した金額と同程度の物を提供し、支払いを確保する場合を有担保という。そしてそうでない場合を無担保という。

6.変動金利・固定金利:返済の途中、定期的に、市場の金利に連動して金利や返済額が見直される金利条件を変動金利といい、当初から完済までの金利が変わらない金利条件を固定金利という。

7.借り入れ・社債:金融機関からお金を借りること、つまり融資を受けることを借り入れという。株式会社が資金を得る方法の一つとして、証書を発行し、出資者に債務を負うこと、またはその証書をしゃさいという。

8.元利の支払い:①社債の場合:通常年2回の利払いで元本は満期一括払いという。社債の保有者に額面金額を返すことを償還といい、満期償還と満期前の買入償還とがある。②借入の場合:金利は日割り計算(利付日数/365)される。企業向け融資では元金均等返済が多いが、ほかに元利均等返済、元金一括返済などがある

9.社債の種類

普通社債SB ; Straight Bond):一般にいわれる社債で、満期が設定されており、満期までの間、債券保有者に対してクーポンが支払われる社債である。原則として信用格付が低い社債ほどクーポンレートは高くなる。

転換社債型新株予約権付社債:いわゆる転換社債(CB ; Convertible Bond)の正式の名称である。元本で一定の価格でその会社の「株式」と転換することができる権利が付帯している社債

新株予約権付社債(WB ; Bond with Warrant):一定の価格で発行会社の株式を購入できる権利(ワラント)が付帯している社債。いわゆるワラント債である。

公募債 Public Offering Bond:₋証券会社を通じて広く一般に募集される社債で、不特定多数の投資家を対象に販売される。

私募債 Private Placement Bond:特定少数の投資者(金融機関等)との相対交渉に基づき、投資者が直接引受けする社債。私募債は有価証券であり、銀行借入による資金調達(間接金融)とは異なり、資本市場からの直接的な資金調達(直接金融)の一形態と位置づけられている。

Private Debt:非上場会社が、金融機関等から貸付(Loan)あるいは信用供与(Line of Credit, Credit Line)の形で調達する負債のこと。

利付債:定期的に利息が払われる債券

割引債:利息は払われず償還日に元本が返済される。元本が償還日までの金利分だけ割り引かれて発行される

邦貨建債・外貨建債

有担保社債・無担保社債

劣後債:債権者(投資家)に対する債務の弁済順位が低い債券のこと。投資家はその発行体の破綻時には高いリスクを負うので、その分一般債券と比較して高い金利(クーポン)を得ることができる。資本規制の都合で銀行が発行するケースが多い。

電力債:日本の電力会社が発行する社債。電所や送電線といった電力会社が保有している資産全体が担保-一般担保-になっている対象となっている。それゆえリスクが低い社債と見なされる

償還日:債券の元本支払日(満期日)

額面 (Face Value):債券の元本。券面額

クーポン (Coupon):利息の引換券。

クーポン・レート(Coupon Rate):元本に対する年間利息の利率。クーポンは債券に付属している利息の引換券のことであるが、現在は債券自体が電子化されているんでクーポン自体はない。

社債価格
社債は有価証券であり、上場されると債券市場で売買され、市場金利との比較で社債価格が決まる。
V:社債の市場価格 F:額面価額、r:市場金利
1)利付債(クーポンレートc)
 V= cF/(1+r)  + cF/ (1+r) + (cF+F)/(1+r)
社債価格は将来の利息および額面金額(満期時)を市場金利で割り引いたの現在価値の合計額である。c=r のときV=Fc>rのときV>Fであるので「オーバーパー」といい、c<r のときV<F であるので「アンダーパー」という。
2)割引債(ゼロ・クーポン債)
V=F/(1+r)

Ⅲ.財務制限条項(Covenants)
 財務制限条項とは、一般に、金融機関が債務者に対して融資を行う際に付帯させる条件の一つで、債務者の財政状況が契約書で定めた基準条件を下まわった場合に、債務者は期限の利益を喪失し、金融機関に対して即座に貸付金の返済を行うことと定ている。金融機関にとっても社債権者にとっても、融資先の倒産による貸し倒れリスクを予め軽減するための対策である。財務制限条項の撤廃の代わりに金融機関では「財務上の特約」が定められる。これについてはプレゼン資料に述べられている。

(米国)社債管理約款(財務制限条項)は、社債発行者と社債権者との間の契約において、両当事者の利益を保護するために設けられた法的拘束力を有する条項である。米国の社債における一般的な財務制限条項を紹介する。これには、Affirmative typeとNegative typeとがある。肯定的財務制限条項とは、当事者に特定の条件を遵守するよう求める約束や契約の一種であり、消極的財務制限条項とは、社債権者が同意しない限り、特定の活動を防止する契約である。
◆ Negative Covenants(消極的特約)
 ・配当額の制限
 ・抵当権設定への制限
 ・他社との合併の禁止
 ・大規模な資産売却の制限
 ・長期負債の追加調達の禁止
◆ Positive (affirmative)Covenants(肯定的特約)
 ・正味運転資本の最低水準維持
 ・財務諸表の定期的提供(ディスクロージャー)

(日本)社債権者の地位を保全すること、および発行者の財務体質が弱くなった時に警告を発し社債の健全性を高めることを目的として、発行者の財務面を社債契約の中で拘束する特約が認められており、財務上の特約と呼ばれる。「担保提供制限条項」「純資産額維持条項」「配当制限条項」「利益維持条項」等がある。一般的には財務上の特約が厳しいか否かにより社債の信用力も変わりうることから、発行条件の一部であると考えられ、社債の格付けや表面利率等の条件にも反映されることが多い。

Ⅳ.格付と格付け基準

一般的に、格付けの高い債券ほど利回りは低く、格付けの低い債券ほど利回りは高くなり、BBB以上の格付けを信用度が比較的良好だと考えられる「投資適格格付け」、BB以下を信用度が低いと考えられる「投機的格付け」という。ただし、「投資適格格付け」は、発行体が経営破たんする可能性がないことを保証するものではなく、また、「投機的格付け」の債券に投資してはいけないということでもない。格付けとはあくまで「信用度の相対的な位置づけ」を示すものであり、民間の格付け会社の意見です。したがって同じ債券であっても格付け会社により評価が異なることがある。

格付は次のような指標をベースとして行われるが、具体的な指標は格付会社によって異なる。格付機関によっては産業ごとに異なる指標を採用している。また、債券の満期によっても指標を買える機関もある。

1.短期的評価
 a.レバレッジ
   -インタレスト・カバレッジ・レシオ、自己資本比率
 b.キャッシュフローの安定性
 c.担保資産
2.長期的評価
 a.産業動向
 b.産業内の位置
 c.人的資源:経営者・従業員
 d.収益性
   -売上高キャッシュフロー比率、総資本利払前利益率、等々

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