JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2022 コーポレートガバナンス研究会 第11回-1「英仏独のコーポレートガバナンス改革」

はじめに

英米のコーポレートガバナンスいわゆるアングロ・サクソン流のコーポレートガバナンスは概ね次のように整理することができる。今回の研究会は、米国では実務を通してこのような取締役会のガバナンスが確立されてきたことをたことを歴史的に展望する。それに対して、英国では民間委員会の報告を積み重ねてコーポレートガバナンスを概念化し体系化してきた。その出発点になったのがカドベリー委員会報告書(1992)である。講義では時間の関係で取り上げられないので、以下に、世界のコーポレートガバナンス改革をリードした英国のコーポレートガバナンスとその背景の顛末を紹介する。

1.会社法も判例・慣習に基づいて解釈される:法律を用いた規制強化より企業の自主性を尊重
2.コーポレート・ガバナンスにおいても社会の慣習に則して民間の自主規制機関(証券取引所)のルールが重視される a.実施されるべき望ましい慣行の特定・規範化:Best Practice b.規範の遵守についての勧告:Comply or Explain
3.発達した資本市場・活発なM&Aを通しての企業経営支配(ガバナンス)
 ①機関投資家を中心とする投資家の合理的な行動
 ②株主の積極的な投資家行動(議決権行使など)
 ③企業側のディスクロージャー対投資家の評価の対峙
 ④M&Aによるガバナンスの流動化
4.取締役会よるガバナンスと執行役員によるマネジメントの分離
 ①CEO等の執行役員には絶対的な執行権限を与える
 ②監督者である取締役と非監督者である執行役員とは別人にする
5.取締役会の監督機能の強化
 –独立取締役で構成される三委員会(指名、報酬、監査)による経営者の規律づけ

《参考》OECDのコーポレートガバナンス原則

OECDは、1999年にOECDコーポレートガバナンス原則―1999―を発表した。その意味では英国の統合規範と並んでコーポレートガバナンス原則の先駆者と言える。ただし、英国の統合規範はまさに株主(シェアホルダー)が中心にいるアングロ・サクソン的なプリンシプルズであるが、OECDのそれは企業の利害関係者(ステークホルダーズ)の調和を目指ものである。EUは欧州各国の共同体であるが、各国はそれぞれ会社法を定め企業を規整していた。また、EU各国の企業は、グローバリゼーションを見据えて、合併や統合を繰り返していた。政府にとっても企業にとっても、企業経営のヨーロッパ型標準を定めることは喫緊の課題であった。欧州委員会は統一的な会社制度の創出を早くから目指していたといわれる。このような時代の動きとともに英国の統合規範(1998)の影響もあり、OECDがOECD原則-1999を発表した。2002年を始めとしてその後何回か改訂され、世界各国に影響を与えている。わが国では、スチュワードシップ・コードは英国のそれに準拠しているが、コーポレートガバナンス・コードはOECDの原則とほぼ同様の構成になっている。

第1章 英国におけるガバナンス改革の進展

第1節 コーポレートガバナンス改革の背景

1 第2次大戦後の内閣の歴史:社会主義の労働党と資本主義の保守党が交互に政権を担った

- 労働党のアトリー内閣:1945年~1951年の間;石炭、電力、ガス、鉄鋼、鉄道、運輸などを国有化
- 保守党のチャーチル内閣、1951年、政権を奪回:1953年、鉄鋼や運輸などの産業を民営化
- 労働党のウィルソン内閣、1964年、政権を再奪回:1967年に鉄鋼や運輸などの産業を再び国有化
- 第2次ウィルソン内閣:1975年、自動車産業を国有化
- 労働党キャラハン内閣:-1977年、航空宇宙産業を国有化

2 英国病と鉄の女
2.1 「ゆりかごから墓場まで」
-労働党は、産業の国有化とともに社会保障制度を充実
 1946年 国民保健サービス法(国民が原則無料で医療を受けることが出来る)、国民保険法(国民が老齢年金と失業保険を受け取ることが出来る)
 1948年 国民扶助法(政府が生活困窮者を扶助)、児童法(政府が青少年を保護)を制定
 1960年代以降、イギリスの経済は停滞
・充実した社会保障制度や基幹産業の国有化等の政策によって社会保障負担の増加、国民の勤労意欲低下、既得権益の発生等の経済・社会的な問題が発生
 1960~70年代、労使紛争の頻発と経済不振・低成長のため、西欧諸国からヨーロッパの病人(Sick man of Europe)と呼ばれた ⇨ 日本では英国病と呼んだ

2.2 「鉄の女」の登場
-1979年総選挙、保守党が勝利
 ・5月、サッチャー内閣が成立⇒サッチャリズム
 ・マーガレット・サッチャ-:「ゆりかごから墓場まで」を打ち砕き自由主義の正統性を証明し、「鉄の女」と称された
 ・国有企業の民営化、金融引き締めによるインフレ抑制、財政支出の削減、税制改革、規制緩和、労働組合の弱体化などの政策を推進
 ・これらの政策により英国病の症状は次第に克服されていった。しかし、サッチャー在任中は、不況が改善されず、失業者数はむしろ増加、財政支出も減らなかった。さらに、反対派を排除する強硬な態度もとった。在任中も退任後も、英国内では、毀誉褒貶が相半ば

2.3 英国病の克服
・メージャー内閣(1990-1997):サッチャー辞任後の後継者
 ・労働党が政権を奪回しブレア内閣(1997-2007)が成立
  -サッチャー内閣の基本路線を踏襲しつつも、是正する政策を実行⇒第三の道
  -若さや活気などをイメージさせる「クール・ブリタニア」という標語でブランド戦略を推進
  -悪い・老いた印象の国⇒良い・若い印象の国へ脱却
  -イギリスのGDP:1992年~2008年、プラス成長に転換
  -1998年、サッチャー内閣が解消できなかった財政赤字を黒字に転換
 ・2001年、ブレア内閣(1997-2007)によって「英国病克服宣言」
 ・現在、イギリスは英国病を克服したと認識されている

2.4 英国企業の業績低迷と経営者不祥事(1980年代)
世界的に貿易の自由化や金融自由化が進む中、サッチャリズムのもと企業の民営化が進められた。厳しい競争環境に置かれた英国企業では、長引く経済不況の下で、業績不振とともに経営者の不正が頻発した。
①ギネス事件(1986)
 -イギリスのビール会社ギネス社がデステラーズ社に対する企業買収するに当たって、ギネス社は自社株の株価を上げて有利に進めようと自社株の買い集めに奔走したという事件
 -オリバー・ストーン監督の映画「ウォール街」のモデルとなった米国の投資家アイバン・ボウ スキーがギネス社と結託して暗躍した事件
②ブルーアロー事件(1987)
 -NWBの投資会社County NatWestの従業員がManpower社の買収資金を賄うための増資に失敗したことを隠蔽した事件
③ポリーペック・インターナショナル事件(1990)
 -中小の繊維会社であったが80年代に急成長しFTSE100銘柄入りを果たしたが、巨額の負債を抱えて倒産
④BCCI事件(1991) Bank of Credit and Commerce International
 -1972年に創立して20年足らずの間に世界78カ国に400以上の支店を擁し250億ドルもの資産を有していたが、1991年に経営破綻した事件
⑤マクスウェル事件(1992)
 -メディア大手のマックスウェル・コミュニケーション及びミラー・グループを所有していたロバート・マックスウェル氏が、自らが所有する企業の年金受託者理事長の地位を利用し、年金資産を投機に流用した事件。流用先が破綻したため、多くの従業員が年金を受領できない事態に陥った

第2節 コーポレートガバナンス改革始動
 ・1980年代の企業不祥事に加えて、法外な役員報酬やアカウンタビリティの欠如が指摘され、企業経営に対する批判が高まった。さらに、一般投資家の間でもCEOに対する取締役会の監督が不十分との不信感が高まった。こうした事態を受けコーポレートガバナンスに対する関心が高まり、キャドベリー委員会が誕生し、コーポレートガバナンス改革の道を歩むことになった。すなわち、1990年代に入るとシティの指導者らが3回にわたり下記委員会を設置し、コーポレートガバナンスのあり方について議論した。ロンドン証券取引所(LSE)、イギリス産業連盟(CBI)、イングランド銀行イギリス取締役協会などの民間団体が支援し、代表を送った。

注)以下に頻出するFRCはFinancial Reporting Council(財務報告評議会)である。ウエブサイトは、FRCについて「監査人、会計士、年金数理人を規制し、英国のコーポレート・ガバナンスとスチュワードシップ・コードを定めています。ビジネスにおける透明性と誠実性を促進します。FRCの活動は、投資家をはじめ、企業の報告書や監査、質の高いリスクマネジメントに信頼を置く人々を対象としています」と宣言している。

A.キャドベリー委員会報告(1992/12) Committee on the Financial Aspect of Corporate Governance

◆取締役会及び会計監査人のアカウンタビリティ強化、非業務執行取締役の登用による取締役会の実効性確保などを勧告

1991年 ロンドン証券取引所や会計士協会が中心となり、「コー ポレート・ガバナンスの企業財務的側面に関する検討委員会」を設置した。企業不祥事も取り上げることになるので,政府による介入を危惧した実務界が、政府の干渉を防ぐために民間主導で設置・運営された。なお、民間主導の流れはその後も受け継がれた。当初の目的は会計およびアカウンタビリティを中心とする議論であったが、途中、取締役会と会計監査機能に絡む企業不祥事が多発したことから、会計に加えて取締役会、会計監査人、株主等の役割を再定義することにより、幅広のコーポレート・ガバナンス体制について議論が行われた。目玉は、公開性、誠実性および説明責任の原則をベースにして作成された最終第9章の「The Code of Best Practice(最良の行動規範)」の内容と、”comply or explain”という試行方式であった。その内容:①取締役会の責任 ②非業務執行取締役の役割強化と監査・指名・報酬の三委員会設置 ③業務執行取締役の任期 ④取締役会の統制・報告機能、監査人の役割 

◆キャドベリー委員会報告の意義

a)多様な委員会構成;会計士、経営者、投資家、LSE(ロンドン証券取引所) b)取締役会による監督が機能するために何が必要不可欠か c)非業務執行取締役の過半数は独立でなければならない d)取締役会と業務執行取締役の業績評価を行う e)-業務執行取締役と会社の間に利益相反が生じた場合,業務執行取締役の専断行為を阻止する

-キャドベリー報告書が ①取締役会の監督機能の純化と②非業務執行取締役の役割の明確化を提言した功績は大きい。また、英国ガバナンス史上初めて、独立な非業務執行取締役の存在について言及した。さらに取締役会の監督機能がうまく機能するために,取締役会議長や三委員会が果たすべき役割についても言及

◆委員会報告に対するロンドン証券取引所 London Stock Exchangeの対応:1993年 ベストプラクティス・コードを上場規則に採用し、上場会社に対して、年次報告書でコードの遵守状況を 開示することを要請した。Comply or Explainという柔軟な試行で以来soft lawと呼ばれる。ベスト・プラクティスの遵守状況を年次報告で開示することを求め、「遵守していない場合はなぜ遵守していないかを説明することを求めた。LSEは加えて、上場会社はコードの遵守状況について開示しない場合、上場規則違反として制裁を受けたのでコー ド自体は、事実上、強制的に機能したと言われる。

B.グリーンベリー委員会報告(1995/7) Study Group on Directors’ Remuneration

◆役員報酬制度の開示および適正な運用を求めた

一部の民営化された公益企業における取締役報酬が、ストック・オプションを含め、法外に高額との批判されていた。CBI (Confederation of British Industries)の意向により、グリーンベリー卿を委員長とした役員報酬問題を検討する委員会が設置された。最終的に、1995年7月、全8章から成る報告書を発表した。そこでは、報酬についての情報開示を中心に据えた自主規制を重視する勧告が行われた。なお、報告書の第2章では、次の事項に関する「ベスト・プラクティス」を示した。報酬委員会  ②情報開示および承認手続き ③報酬方針 ④任用契約および補償

◆報告の骨子とロンドン証券取引所の対応

-報告書は、取締役報酬に関する Best Practiceを呈示

・取締役の報酬に関する決定および開示に関する基本方針を明確化すること

・非業務執行取締役のみの報酬委員会の設置すること

・株主総会招集通知に取締役の報酬明細を記載すること

-LSEの対応

・遵守状況の記載を上場規則化:報酬委員会、情報開示および承認のための条項、報酬方針、任用契約と保障

◆グリーンベリー委員会報告後の進展

-報酬の問題に関しては、上場規則による自主規制だけでは不十分で、必ずしも成果を上げることができなかった。貿易産業省は、会社法改正の一環として、1999年、取締役報酬についての諮問文書を公表し立法化を進めた。

2002年7月 取締役報酬報告規制

a)年次報告書の一部として、取締役報酬報告書を作成すること、b)報酬政策および報酬委員会の役割を開示すること、c)株主総会で株主に報酬報告書を提出すること

・コーポレート・ガバナンス問題に、法律が関与するのは英国では例外的であった。米国もその点共通であるが、米国も2002年、連邦法としてSOX法を定めた。

C.ハンペル委員会報告(1998/6)-統合規範-

◆LSEの委託を受けた委員会 Committee on Corporate Governanceが発足した。前2委員会の後継委員会として発足し前2報告書を支持するとした上で、取締役会の第一の任務を事業の長期的な発展とし、事業の成功とアカウンタビリティのバランスが必要であるとした。企業の対応状況を見据えつつ、最終報告「統合規範」を発表したが、その後も委員会活動が継続され、最終的に統合規範(The Combined Code)に到達した。望ましいコーポレートガバナンス体制の確立のためには、企業の利益と、重要な株主である機関投資家の利益との一致が重要であり、機関投資家は長期的視野に立って投資に臨む姿勢が求められるとした。キャドベリー、グリーンベリー両報告書のCode of Best Practiceに、ハンペル報告書のPrinciples of Corporate Governance」を追加した形で統合規範The Combined Code)を発表した。これが英国の最初のコーポレートガバナンスコードであった。

D.その後のコーポレートガバナンス改革

1998年 LSE上場規則により経営者全員の個別報酬の開示が義務化された。

1999年9月 ターンバル委員会報告:「内部統制-統合規範に関する取締役のためのガイダンス」

2000年5月 統合規範改訂版とCode of Best Practice

2002年8月 経営者報酬報告規則(法令)

2002年   貿易産業省の規制としてSay-on-Pay開始

2003年1月 スミス委員会報告「監査委員会に関するガイダンス」

         ヒッグス報告書:社外取締役の役割と有効性

2003年6月 タイソン報告書:社外取締役の任命と教育(LBS)

2003年7月 改訂コーポレートガバナンス統合規範(新統合規範)

2004年8月 コーポレートガバナンス実践的ガイダンス(LSE)

2004年12月 米国SOX法404条の評価フレームワークとしてのターンバル・ガイダンス(FRC)

2005年10月 内部統制に関する、取締役のためのガイダンスの改訂版(FRC)

2006年1月 内部統制に関するターンバル報告書のレビュー:米国における404条の検討過程とその決定内容(FRC)

2008年6月 改訂コーポレートガバナンス統合規範(FRC)

2008年 2003年の統合規範改訂後、ヒッグス委員会、スミス委員会の報告を繁栄して再改訂統合規範が策定された

E.2008年統合規範改訂版

2008年6月、FRCが発表した統合規範改訂版により会社、機関投資家の責任が明確に定められた

◆構成

第1部 会社

A)取締役 (取締役会、会長とCEO、取締役会の構成と独立性、取締役会への任用、情報および専門能力向上措置、業績評価、取締役の再選)

B)取締役報酬       (報酬の水準と構成、手続き)

C)アカウンタビリティと監査 (財務報告、内部統制、監査委員会および監査人)

D)株主との関係(機関株主との対話、年次株主総会の建設的利用)

第2部 機関株主

A)機関株主(会社との対話、コーポレート・ガバナンス開示の評価、株主としての議決権行使)

F.統合規範の進化と分離独立

2010年規範:会社の部の独立

-2008年後半 サブプライムローン問題に端を発する世界的金融危機を背景に、会社と機関投資家のガバナンス構造を見直す機運が高まった

2009年 英国財務大臣の委託によりウォーカー報告書が提出された

2010年5月28日 これを踏まえFRCは、「統合規範」の内容を分離・再編成する形で2010年統合規範を発表

◆これまでは第一部 会社、第二部 機関株主との2部構成 であったが、2010年規範では会社に関する規範のみに限定しCorporate Governance Codeとし、機関投資家の果たすべき責任については分離独立しStewardship Codeと改称した。

2013年 役員報酬に関する規制などが強化された。役員報酬は最低でも3年に一回株主総会で承認されること(Say-on-Pay)や取締役の個別報酬の開示が義務化された。

G.改訂コーポレートガバナンスコード

2016年11月 英国政府:コーポレートガバナンス改革に関する方針(グリーンペーパー)を発表した。その内容は:①役員報酬 報酬/賃金倍率(Pay Ratio)の公表 ②固定株比率の高い(流動性が低い)企業のコーポレートガバナンス ③従業員やサプライヤー等ステークホルダーの声を取締役会の意思決定に反映させるプロセス

2018年7月16日 FRCはコーポレートガバナンスコードを改訂し、2019年1月1日以降に始まる年度から適用することを発表した 構成:⑴取締役会のリーダーシップと会社の目的 ⑵責任の分担 ⑶構成、サクセション、評価 ⑷監査、リスク、内部統制 ⑸報酬

2018年版 改訂コーポレートガバナンスコード

1.従業員に関するエンゲージメント

a)取締役会は、従業員向けの制度やその取り扱いが、企業価値と一致し、企業の長期的かつ継続的な成長を支えるものであるようにすべき

b)従業員が何らかの懸念を抱えている場合、従業員側から声を上げられるようになっていることが望ましい

c)アニュアルレポートで、従業員への投資と処遇の方針ついて説明すべき

d)従業員とのエンゲージメントの観点から、取締役会は以下の施策から少なくとも一つ以上を選択することが求められる ①従業員から取締役を選任 ②自社の正式な組織として、従業員諮問委員会を設立 ③従業員とのエンゲージメントを担当する社外取締役の設置

e)上記の施策を全く取らない場合、自社が行っている施策およびその有効性について説明する

f)報酬委員会は、従業員の報酬制度や関連するポリシー等をレビューし、念頭に置いた上で、経営者報酬ポリシーを策定するべきである     

g)報酬委員会は、ペイレシオ等の指標を用いて経営者報酬の説明すべき

2.企業文化

a)取締役会は企業の目的や価値・戦略を策定するとともに、それらが企業文化と整合するように図るべき

b)全ての取締役は、取締役としての品位ある行動と規範を示し、健全な企業文化の確立を推し進めるべき

c)取締役会は自社の企業文化をモニターし評価する

d)その上で、事業のポリシーやプラクティス・行動が会社の目的や価値・戦略と一致していない場合は、経営陣に適切な改善策を講じさせるべき

e)報酬委員会は、経営者報酬ポリシーの策定において、インセンティブ制度や処遇の内容と企業文化との整合性もレビューするべき

3.取締役の後継者育成と多様性

a)取締役会が、スキルと経験の適切な組み合わせと建設的な問題意識を持っていることを保証するとともに、多様性を促進するために、新鮮な取締役会を保つことが重要である。そのためには、取締役の後継者育成が計画的に行わなければならない

b)委員会は、取締役会議長の在任期間について慎重に検討しなければならない。9年が一つの節目である

c)指名委員会は、委員会の多様性を促進するために、計画的な後継者育成を強化しなければならない

d)以上の取締役会のミッションを考慮すると、社外取締役による監視と評価が重要である

e)指名委員会は、社外取締役が①取締役会に行った報告および②個々の取締役と行った対話の詳細を取締役会に報告する

4.ダイバーシティとサクセッション

a)取締役および上級役員のサクセッションは、厳格かつ透明性の高い制度運営のもと、実績や客観的な基準に基づいて行われなければならない

運営においては、ジェンダーや社会的・民族的背景、知識や個人的長所等におけるダイバーシティを促進しなければならない

b)指名委員会は、計画的なサクセッションプランの運営、多様な人材パイプラインの開発等を担い、取締役および経営陣の選任において積極的役割を果たすべきである

c)年次報告では、指名委員会の下記活動内容を報告するべきである

-取締役選任のプロセスやサクセッション計画の運営状況、またそれらが多様な人材パイプラインの開発をどのように貢献しているか

-外部コンサルタントによる、取締役会の実効性評価の方法と結果

-ダイバーシティ・ポリシーと企業戦略との関係、およびポリシーに基づく施策の実施状況

-経営幹部の男女比率

5.報酬

a)報酬を決定する際には、広範な環境要因を考慮しつつ、会社の業績や個人のパフォーマンス、取締役の独立した判断と裁量を働かせるべき

b)長期インセンティブの権利行使期間及び譲渡制限期間の合計は5年以上とする

経営者報酬ポリシーや報酬プランを策定する際には、報酬委員会は以下の観点を踏まえるべき

-明瞭性:高い透明性を持ち、株主や従業員との効果的なエンゲージメントを促進すること

-簡潔性:複雑な設計は避け、金額決定プロセスが分かりやすいこと

c)リスク:過大な報酬への社会の批判や、ターゲット型のインセンティブが不適切な経営判断を誘発しうるリスク等を把握し、リスク低減に努力すること             

d)予測可能性:ポリシー策定時点つまり事前に、報酬の変動幅や制限・裁量の余地等が定められていること

e)業績とバランス:報酬と業績の関係が明確であること、また業績不振時は報酬を支払わないあるいは引き下げること

f)企業文化との整合性:企業文化と一致した行動を後押しするインセンティブ設計であること

H.改訂スチュワードシップコード

2020年1月1日FRCによる大幅で野心的な改訂スチュワードシップコード2020が発効した。ただし、株主を最重要のステークホルダーとする考え方にいささかの変更もない。①アセット・オーナー&アセットマネージャーおよび②サービスプロバイダーに分類し異なる原則を定めている。後者②は議決権行使助言会社・運用コンサルタント・データ提供者等である。各機関はコードの受け容れを表明すると署名機関とされ、コードの原則について Apply and Explainを遵守する義務を負う。

◆アセットオーナー&アセットマネージャーの義務-その1-

-署名機関の使命として、スチュワードシップ責任を果たすべく自身の企業目的、運用哲学、戦略、企業文化を確立するとともに、適切なガバナンス、資源調達、およびスタッフのインセンティブにも配慮しなければならない。かつ、クライアント(貯蓄者/年金受給者等の最終受益者)に長期的価値をもたらすようにスチュワードシップ責任を果たす義務を負う。その意義は、経済、環境、社会に対する持続可能な利益を確保することである。

-運用(資産配分、管理、監視)における署名機関の義務は、資産運用がクライアントのニーズに応えられるようにESG要素を考慮すること、およびシステミック・リスクに対応することである。なお、システミック・リスクには気候変動を含む。

◆アセットオーナー&アセットマネージャーの義務-その2-

-報告義務:①スチュワードシップ活動とその成果について毎年報告する。②すなわち、機関投資家として、資産運用や議決権行使により、結果として投資価値をどれだけ高めたかを説明する。透明性の向上が明白にされる中で、クライアントは自分の関心がどれだけ反映されているかを見ることができる③英国国外の資産運用においてスチュワードシップをどのように行使したかを説明する。④伝統的な運用対象である上場株式だけでなく、PE(プライベートエクィティ)、不動産、インフラストラクチャなどの代替的資産への運用(alternative investment)についての考え方を説明する

《参考》英国会社法の会社機関

・株式会社の起源はオランダと並び英国にあるが、それがゆえに制度は原始的でわが国会社法の機関構成とは異なる。以下簡単に特徴を紹介する。歴史的に英国では会社の多様性を容認するとともに重視し、機関構成に関しては会社の定款自治に委ねている。以下は公開会社についての紹介である。
 ・株主総会および取締役会は定款の定めによる
 ・公開会社は、役員として取締役1名以上と総務役( a company secretary)を置かなければならない。
 ・社員総会(株主総会)と取締役会
  -社員総会:あらゆる権限を有している
  -取締役会:法定機関ではなく附属定款に基づいて設置される任意機関である。取締役の中から業務執行取締役が選任され、附属定款に基づき社員総会から経営権を移譲される。その他の取締役は非業務執行取締役( Non-executive Director)である。
 ・単層型取締役会制度 Unitary Board
  -取締役会は業務執行を監督する機関として位置づけられているが、取締役会内部に業務執行機能(業務執行取締役)と監督機能(非業務執行取締役)の双方を持っているので、自己監査の構造になっている。それゆえ、業務執行に対する監督が形骸化する恐れを内包している。会社法も、業務執行取締役と非業務執行取締役の義務・責任を明確に定めていない。会社法は、非業務執行取締役を「業務執行に携わらない取締役」と定義しているだけである。
 ・独立取締役 (independent director)
  -現代のコーポレートガバナンスにおいて独立取締役は鍵となる存在であるが、英米あるいは独仏においても会社法で定められているわけではなく事実上の存在である。その起源は信託制度にあると言われている。
(若杉 敬明)

第2章 仏・独のコーポレートガバナンス改革

英国のコーポレートガバナンス改革、特に2010年のコーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードが、米国におけるコーポレートガバナンスと並行して仏独のコーポレートガバナンス改革に影響を与えた。その有様を経済産業省委員会会合の資料を引用紹介することにより確認する。英国をモデルにして対比する。以下、次の資料の引用であるが、フランス、ドイツに関する◆の節は若杉の加筆である。

『欧州における Code of Best Practice の制定と Comply or Explain 原則の広がり』 コーポレート・プラクティス・パートナーズ  関 孝哉

https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/corporate_gov_sys/pdf/005_03_00.pdf

英国

きっかけ 80年代後半の英国における企業破たん(注)から、イングランド銀行に対する支援要請 が相次ぎ、シティとして企業の財務報告の信頼向上および資産に対する責任強化を目指す 取り組みが認識され、Financial Reporting Council (FRC)、証券取引所等により、検討委 員会が設置された。委員長は、Sir Adrian Cadbury(1929~ Cadbury Schweppes 社当主、 イングランド銀行理事)

(注)例としてマクスウェル事件、多額の借金を負い破たんに追い込まれたマクスウェル社が、年金を利用した会計操作を行った事実が92年に発覚した事件。

委員会の運営 検討期間は約1年、毎月1回委員会開催、政府もオブザーバー参加

制定された Code of Best Practice:1992 年 12 月に ‘Code of Best Practice’として制定。企業トップにおける明確な責任分担とバランスおよびチェック機能の強化を目指すこと、および十分な資質と資格や経験を備えた非執行取締役の任命およびその役割に期待することが主なポイント。

実効性に向けた工夫  ロンドン証券取引所上場規則の添付資料とされる。上場会社は Code に対する遵守を記述するか、あるいは遵守しない部分について説明を行うことが上場規則の添付書類に従って行うこととされた。Sir Adrian Cadbury は、これが Code の実効性を高めたと評価。

現在の状況 1998 年にはその後の検討委員会の勧告をあわせ、Combined Code として取りまとめられた。 その後の改正(2003 年)では、非執行取締役の独立性強化や、内部統制に向けた責任など が追加された。現在は、UK Corporate Governance Code として FRC が管轄。また、2010 年には並行して進められた機関投資家向けの規範も制定、会社と資本市場双方からの実効 性強化を目指している。

フランス

◆フランスの企業の特徴とコーポレートガバナンス
フランスにおけるコーポレートガバナンス・システムの特徴は、取締役会のみを持つ一層型構造とドイツ流の二層型の取締役会の選択制であることである。だが後者はごく少数である。第二の特徴は、取締役会長と社長(米国のCEO)を兼任するPDG(President – Directeur General)に権限が集中していることである。このことは長年問題とされておりフランスの企業改革の要点はこれを改めることにあったと言っても過言ではない。しかし、なかなか進んでないと言われる。第三の特徴は、株主総会によって選任された取締役が株主に代わって業務・会計を監査を行うことである。このような体制を、いかに英米流すなわちアングロ=サクソン型のガバナンスシステムに調和させていくかがフランスのコーポレートガバナンス改革の課題であった。ヴィエノ報告書とブトン報告書等の作成にも関わったフランス民間企業協会(AFEP)とフランス企業連合会(MEDEF)が、政府が組織した委員会の報告書をベースに作成したフランス版コーポレートガバナンス・コードが2008年AFEP-MEDEF コードを作成である。なお2018年にAFEP-MEDEF コード改訂版が発表された。(若杉 敬明)

きっかけ 海外機関投資家の増加や、英国キャドバリーの影響を受けた。一連の企業不祥事も背景に あり、経済団体であるConseil National du Patronat Francais (CNPF), およびAssociation des Entreprises Privees (AFEP)の主導のもと、Marc Vienot(1928~ Societe Genrale 会 長)の委員長のもとで検討委員会が設置された。

委員会の運営  2 ヶ月間、毎週開催。ほぼ全員がグランゼコールの出身者であり、かつ、ヴィエノ氏は欠席 メンバーの代理出席を認めないとしたことで、エクスクルーシブな委員会という位置づけ がその権威を高めたのではないかとされる。

制定された Code of Best Practice 1995 年 7 月、Le Rapport Viénot sur le conseil d’administration des sociétés cotées と して公表。市場に対する情報開示などの取締役機能強化、社外取締役の任命、取締役会運 営プロセスの明確化などを要請。

実効性に向けた工夫 ヴィエノ氏によると、当初、証券取引所や当局による実効性強化は考えていなかった。し かし、既述のとおり、エリート組織によるトップダウンの方針が示されたことがあって、 これが実効性を伴ったと評価。

現在の状況  2003 年に Mouvement des Entreprises de France (MEDEF) および AFEP により Principes de gouvernement d’entreprise として体系化。また、上場会社には Autorité des marchés financiers (AMF)に提出する Annual Report への記述が求められたことが事実上 の規制として機能。規範はその後の改正を経て現在では独立取締役、委員会、報酬、任期 など多岐にわたり、女性取締役の比率強化も含まれる。

ドイツ

ドイツの株式会社の特徴とコーポレートガバナンス原則 
ドイツの会社制度の第一の特徴は共同決定法制度である。共同決定法制度とは、従業員代表が経営者とともに、取締役会や執行役員会などの企業の最高意思決定機関に参加する制度を法的、公的に制度化したものである。第二の特徴は、二層式統治委員会である。英米流の一層式統治組織では、株主は取締役を選任して、取締役会に経営を委ねる。取締役は執行役員を選任して、取締役会が決定した業務を執行する。ドイツの二層式組織では、株主総会が選んだ株主代表と従業員組合が選んだ従業員代表から構成される取締役会が選んだ執行役が執行役会を構成し、重要な意思決定をおこないそれを執行する。ドイツ企業の第三の特徴は、銀行が銀行・証券を兼業し資金面を、そして取締役を派遣し人事面を掌握していることである。これらの特性の下で、これを英米型と整合的な経営をの実現を期待するのがドイツのガバナンス改革の特徴である。
2002年 国内第2位の建設会社フィリップ・ホルツマンが企業スキャンダルを起こし破産した後、政府主導でDCG Kodexが決定され発表された(Deutscher Corporate Governance Kodex)。コードには、株主総会、取締役会、執行役会、情報開示、年次報告書等に関 するルールをが包括的に記載されている。勧告と推奨として、企業には、株主の権利・平等性の確保、取締役会・執行役会の機能の明確化、取締役・執行役の基準の明確化等が要請されている。方式は、英国同様、Comply or Explainであり、法的拘束力を有するものではない。(若杉 敬明)

きっかけ 英国、フランス(およびオランダ)の自主規範の拡がりを受け、ドイツにおける民間の取 り組みが活発化、うち、ベルリン工科大学およびフランクフルト大学の作業をベースに政 府が後押しする形で検討委員会が設置された。委員長は、Gerhard Cromme(1943 ThyssenKrupp 社監査役会会長)

委員会の運営 委員会は、4小委員会(執行役会、監査役会、会計監査、株主および株主総会)で行われ た議論を全体会議でとりまとめ。労働組合代表とは、二層制度と従業員参加には触れない との約束のもとで議論が進められた。

制定された Code of Best Practice  2002 年 2 月に Deutscher Corporate Governance Kodex として制定。監査役会と執行役会 のコミュニケーション促進、各役員会の役割明確化、情報開示の促進と透明性の向上など。 外枠よりもガバナンスの運用面やアカウンタビリティに焦点があてられる。

実効性に向けた工夫 ドイツでは、民間の取り組みに対して当局が強くバックアップしたこと、あわせて遵守ス テートメントの記述を株式法の条文(第 161 条)として義務化されたことがポイント。

現在の状況 その後数次にわたる比較的小規模の改正を経て現在に至る。なお、ドイツでは引き続き、 一次的には法律による規制強化が先行し、KODEX がこれを受けて運用面での実効性を高 める役割を果たす、という位置づけになっている。

以上

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