戦略的アライアンスあるいはアライアンスとは、2つ以上の企業が、相互に独立性を維持した上で、合意された目的を追求するための契約である。戦略的パートナーシップ(Strategic partnership)とも呼ばれる。アライアンスは、各企業がアライアンスから得られる利益が個々の努力から得られる利益よりも大きくなるシナジー効果を狙った協力関係である。アライアンスの内容は、技術移転(知識やノウハウへのアクセス)、分業、費用分担、リスク分担などである。
目次
Ⅰ.日本における近年のアライアンス事例
Ⅱ.ホールドアップ問題
Ⅰ.日本における近年のアライアンス事例
https://www.itmedia.co.jp/keywords/alliance.html
https://www.projectdesign.jp/articles/1a756407-6bcf-4b66-b299-c5df3ca93de1
1.ユニクロとビックカメラ、新型共同店舗「ビックロ」を新宿にオープン
ビックカメラとユニクロは11日、7月にオープンしたビックカメラ新宿東口新店を、両社共同の新店舗「ビックロ」と名称を変えて、新たに9月26日から開業すると発表した。ファッションと家電で培った両社のノウハウを重ね合わせることで、新しいタイプの店舗を目指すという。ビックロの敷地面積は約881坪、地下3階から地上8階まで占めており、ユニクロ銀座店に続く、国内2番目の売り場面積を持つという。店舗プロデュースには、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏(SAMURAI)が、建築・デザインディレクション、インテリアデザインは、これまでも多くのグローバル旗艦店を手掛けてきた、片山正通氏(Wonderwall)が担当した。480名のスタッフで、日英中韓の4カ国語に対応する。さらにお笑い芸人や劇団員、チアリーダーなどの店舗スタッフを約10名採用した。スタッフは佐藤氏監修の共同ユニフォームを着用する。
https://www.sbbit.jp/article/cont1/25411 2012/09/12
2.JR西日本の駅構内にセブンイレブンが新規出店 近畿地方を一気に開拓
JR西日本グループとセブン-イレブン・ジャパンの駅店舗事業における業務提携:西日本旅客鉄道株式会社及び同社100%子会社である株式会社ジェイアール西日本デイリーサービスネ ット(以下、JR西日本グループという)と株式会社セブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン-イレブ ンという)の3社は、JR西日本グループが駅を中心に運営するキヨスク店舗、コンビニエンス店舗の駅 店舗事業について、業務提携契約を締結いたしました。これにより、JR西日本グループとセブン-イレブンが連携のうえ、既存の駅店舗全店を提携店舗へとリニューアルしていくとともに、今後の駅店舗計画地においては提携店舗にて新規出店を推進してまいり ます。なお、セブン-イレブンは、これまでも鉄道事業者と業務提携を行ってまいりましたが、この度の 提携は、展開エリア・店舗数ともに、過去最大規模のものとなります。
https://www.7andi.com/library/dbps_data/_material_/localhost/pdf/20140411jrw.pdf 2014/03/27
3.NECとNTTが資本業務提携、「5G」などで共同研究・開発
[東京 25日 ロイター] – NECは25日、NTTと資本・業務提携すると発表:次世代通信網「5G」やその先の「6G」をにらみ、共同で研究・開発を進める。共同開発した技術を適用した製品の売上拡大を通じ、企業価値の向上を目指す。会見したNTTの澤田純社長は「両者の総力を結集し、日本発の革新的な技術・製品を創出し、グローバルに展開する」と述べた。NTTが提唱する光工学(フォトニクス)をネットワークに活用する「IOWN」構想の実現につながる技術や光・無線デバイスの開発も進め、5Gの先も見据える。NECは、自己株処分を含む第三者割当増資で約645億円(手取り概算額は約640億円)を調達する。発行・処分価額は1株4950円で、発行済株式総数の約5%。NTTは中長期の保有を前提にNEC株を取得する。NTTの澤田社長は、両社の連携による開発を円滑に進めるためだとし「出資をどんどん増やすのが目的ではない」とした。この上で「何年とは明らかにできないが、早い段階で出資分は回収できる」とした。NECの新野隆社長兼CEOは、NTTに出資しないことについて「政策保有株式は原則ゼロの方針なので、今回は投資しない」と述べた。
https://diamond-rm.net/technology/58318/ 2020/06/26 10:27
4.連結子会社マイオバント社とファイザー社とのレルゴリクスに関する開発および販売提携のお知らせ
大日本住友製薬株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:野村 博)は、2020年12月28日(現地時間)、連結子会社であるマイオバント・サイエンシズ・リミテッド(米国ニューヨーク証券取引所(NYSE)上場、以下「マイオバント社」)が、Pfizer Inc.(NYSE上場、以下「ファイザー社」)との間で、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体阻害剤レルゴリクス(一般名)について、がん領域および婦人科領域における北米(米国およびカナダ)での共同開発および共同販売に関する契約(以下「本契約」)を締結したことを発表しましたので、お知らせします。また、マイオバント社はファイザー社に対し、がん領域における北米と一部のアジアを除く地域でのレルゴリクスの販売に関する独占的なオプション権を許諾します。
https://www.ds-pharma.co.jp/ir/news/2020/20201228-2.html 2020/12/28
5.ティビィシィ・スキヤツト、株式会社エム・エイチ・グループと資本業務提携-理美容業界向け「DX」と「SDGs」の推進で提携-
株式会社ティビィシィ・スキヤツト(東京本社:東京都中央区、代表取締役社長:長島秀夫 以下、「TBCSCAT」という。)は、株式会社エム・エイチ・グループ(本社:東京都渋谷区、代表取締役兼執行役員社長:朱峰玲子、以下「MHG」という。)と、業務資本提携いたしました。両社の有するノウハウを活用し、DX(データやテクノロジーを駆使し新たなニーズの発掘と顧客中心のサービスや製品を提供する仕組み)への取り組みによる新サービスの開発と提供を促進し、理美容業界における持続可能な環境経営支援(SDGs)への取り組みによる環境配慮型メニューの普及を進めて参ります。TBCSCATと、MHG及びRSが、両社グループの持つ経営資源を、相互に活用することにより、相互のお客様に対し、より付加価値の高く専門性に優れた商品・サービスの提供を行うことで、相互の企業価値向上が図れるものと確信し、資本業務提携契約を締結するに至りました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000068977.html 2021/02/12
Ⅱ.ホールドアップ問題
Wikipedia(英語版)は、次のように説明している。https://en.wikipedia.org/wiki/Hold-up_problem
経済学では、ホールドアップ問題は不完備契約の理論の中心であり、完全な契約を書くことの難しさを示すものである。ホールドアップ問題は、以下の2つの要因が存在する場合に発生する。①将来の取引の当事者が、その取引が行われる前に、契約不可能な関係固有の投資を行わなければならない。②最適な取引の具体的な形態(品質レベルの仕様、納期、どのような数量か等)が事前に確実に決定できないこと。ホールドアップ問題とは、二者が協力することで最も効率的に仕事ができるにもかかわらず、相手に交渉力を与えてしまい、結果的に自分の利益が減少することを懸念して、それを控える状況のことをいう。当事者Aが当事者Bとの関係を事前に約束した場合、当事者Bはその約束の価値を前者に「ホールドアップ」することができる。ホールドアップ問題は、深刻な経済的コストにつながり、また過小投資につながる可能性もある。
もう少し平易に説明するために、目代武史「戦略的提携(6):ホールドアップ」20/03/11 の全文を紹介する。https://qtnet-bs.jp/blog/2020/03/6-7.html
今日は戦略的提携における「ホールドアップ(hold-up)という問題についてお話したいと思います。戦略的提携が結ばれるためには、必要条件としてパートナーシップを組む企業同士に共通の利益なり目的がないといけません。とはいえ、パートナー同士の利害が完全に一致しなければならないというわけではありません。提携に携わる企業は、パートナーとの共通の目的や利益を尊重しつつ、自社にとって最も利益が大きくなるようにふるまうのは、合理的かつ自然な企業行動といえます。この戦略的提携を成功に導く上で障害となるのは、パートナー企業がそれぞれ合理的に行動しようとした結果として引き起こされることが多いです。今回紹介する「ホールドアップ」もそうした問題の一つです。
では、ホールドアップとは何か、直訳すると「手をあげろ」、つまり銃口を突き付けられて犯人の要求を受け入れるように脅されている状況です。ビジネスの現場では、ホールドアップ問題というのはしばしば発生します。それを企業戦略論の大家であるアメリカ・ユタ大学教授のJay Barneyは次のような例を挙げています。
今ここに、製油所と石油採掘場を所有する石油の精製会社と、パイプライン事業を有する石油運搬会社の2つの会社があるとします。この石油精製会社は、タンカーが接岸出来るような港の近くに製油所を持っています。原油は10キロぐらい離れた場所にある石油採掘場から運んでいます。現在はその石油採掘場から石油の精製所へはタンクローリーなどを使ってトラック輸送をしています。ただこれはとてもコストがかかっているという状況です。そこで石油の運搬会社が来て、「ある一定期間、例えば5年間、我が社のパイプラインを独占的に使い、前もって取り決めた価格で原油を輸送してくれるなら、喜んで産油地と製油所の間にパイプラインを建設しましょう」という取引を提案します。当然、パイプラインによる原油の輸送はトラック輸送に比べればはるかに効率的で、石油精製会社もメリットがあるし、運搬会社もビジネスチャンスになるので、晴れて合意に至り、5年間無事に契約が履行されました。問題は5年後、契約を再交渉する時です。この戦略的提携は元々お互いにとってWin-winの状況だから、そのまま契約更改になるかと思いますが、実際には石油運搬会社は深刻なホールドアップの危機に晒されています。
どういうことかというと、まず石油の精製会社の場合、彼らからするとパイプラインが一番良いですが、効率が落ちるとはいえ、トラック輸送という代替的な手段があります。ところが石油の運搬会社の場合、今回敷設したパイプラインは、採掘場と製油所の間で原油を輸送している限り価値があるものの、そうでなければこの巨大なパイプラインは単なる鉄くず以外の何物でもないということになるわけです。このような状況では、石油の精製会社と運搬会社の間で、非常に大きな交渉上のアンバランスが生まれます。石油精製会社からすると、パイプラインが他の用途に転用出来ないことは知っているので、石油運搬料金の引き下げを強力に進めることが出来ます。「この条件を飲まなければ、契約を打ち切るぞ」と、まさに銃を突きつけるような交渉が出来るわけです。
一方で石油運搬会社の方は、契約を打ち切られてしまえば、パイプラインの価値はほぼ0ですから、石油精製会社の条件を飲まざるを得ないわけです。この提携によって生まれた成果自体はお互いにとってWin-winだけど、この提携をもたらすために行った投資の在り方には、2つの会社の間で差があったのです。こうした投資のことを経営学では「取引特殊的投資」といいます。こうした取引特殊的投資をした側は、その投資が他の用途に転用出来ないがゆえに相手の言いなりにならざるを得ず、ホールドアップの状況に追い詰められる可能性がかなり高くなってしまいます。
ホールドアップ対策として、①取引特殊的投資を避け、出来る限り投資内容を汎用性の高いものにすることがあります。投資が取引特殊であるからこそ、ホールドアップが発生するわけですから、投資やスキルの汎用性を高めるということになります。②不測の事態に対する予見可能性を高めておくことです。ある種、どうしても取引特殊的な投資をせざるを得ない場合に、出来る限り将来何が起こり得るかを綿密に分析し、契約の中に織り込んでいくことが重要になります。取引をするから逆に脅される可能性が出るので、そういった場合には、③自社で内製化してしまう、内部に取り込んでしまうということも1つの解決策になります。
今日のまとめ:
今回は戦略的提携を脅かすリスクとしてホールドアップを取り上げました。ホールドアップというのは提携パートナーの一方が取引特殊的な投資を行った場合に、もう一方が取引特殊的投資が他に転用が効かない、つまり潰しがきかないことに付け込んでくるという、機会主義的な行動を意味します。その対策には①締結時に様々な事態を織り込んだ契約としておくこと、②取引特殊的な投資を避けること、あるいは③自社で内製化することがあげられます。以上