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研究会ブログ
2021 ファイナンス研究会
第7回 株主価値創造のリスクマネジメント
 Financial Risk Managementをリスクマネジメントの遺憾として捉えるため、講義の冒頭ではリスクマネジメントの体系を説明しようと計画しましたが、時間が足りないので「リスクマネジメントとは何か」「ERMの特徴」と「リスク対策」の概略しか説明することができませんでした。ここではリスクマネジメントのプロセスを捕捉します。

目次:リスクマネジメントのステップ
◆Risk Appetite(リスクアペタイト)
<ステップ1>潜在的リスク(エクスポージャー)の把握
<ステップ2>被害の頻度と重大性の測定
<ステップ3>リスク対策の検討
<ステップ4>リスク対策案の決定・実行
<ステップ5>リスク対策状況の監視

リスクアペタイト:一概に定義することは難しいがリスクアペタイトは次のような要因によって決まるという例示もある
①業界 ②企業文化 ③競合他社 ④追求する目標の性質(例:どれだけ積極的か)⑤組織の財務力と能力(例:資源が豊富な企業ほど、リスクとそれに伴うコストを喜んで受け入れる可能性がある)
-リスク選好度は時間の経過とともに変化することあるので留意すべきであり、可能であれば、状況、利用可能なリソース、スキル、技術、システムに応じて定期的または継続的にリスク基準に照らしてリスクを評価することが望ましい。例えば、通常で年に1~2回、特定のリスクシナリオでは毎日と言われている。


<ステップ1> 潜在的なリスクの洗い出し

1.企業のリスク・エクスポージャー(*)を把握する。リスクマネジメントを行う上で、どのような種類のリスクがあるのかを捉えることが重要
 ①火災や怪我などのハザードリスク
 ②離職率上昇やサプライヤーの倒産などのオペレーショナルリスク
 ③景気後退などのファイナンシャルリスク
 ④新規競合企業やブランドの評判などのストラテジックリスク、等々。
2.企業は、経験や記録(内部情報)、業界の専門家への相談、外部調査(外部情報)などを通じて自社のリスクを特定することができる
-インタビューやグループでのブレーンストーミングも有効
3.リスクの環境は常に変化しているので、このステップは定期的に見直す必要がある!
(*) 企業がリスクに曝されていること。リスクに曝されている資産やその金額


<ステップ2> リスク実現の頻度とその影響度の測定

-あるリスクが発生する可能性はどの程度か、発生した場合の影響の重大さはどの程度か
 ・ヒートマップが最近多用されていると言われる
-ヒートマップとは、エリアごとにデータの数値を強弱で色分けしたグラフ

リスクマップ
-どのリスクが頻繁に発生し、どのリスクが深刻であるか(したがって、多くのリソースを必要とするか)を詳細に示す視覚的なツール
-①や②により、どのリスクの可能性が大きいか小さいか、または影響が大きいか小さいかを特定することができる
-リスクの頻度と重大度を知ることで、どこに時間と資金を使うべきかがわかり、リスクマネジメント・チームは資源配分の優先順位を決め易くなる
ヒートマップの例1 リスクマップの例1

<ステップ3> リスク対策案の検討

・リスクを処理する方法にはどのようなものがあるか、問題は、どの方法がコストと効果の観点からバランスが最適であるか?
・企業には通常、①リスクを受容する ②回避する ③-リスクコントロール策をとる ④移転する という選択肢がある
リスクマップの例2


<ステップ4> どの対策を取るかの決定および実行

1.合理的な解決策をすべてリストアップする
-望ましい結果を達成できる可能性が最も高いものを選択する
2.人材や資金など、リスクマネジメントに必要なリソースを確定し、関係部署の承認を得る
-通常、シニアマネジメントの計画承認が必要である
-その後、チームメンバーに情報を提供する
・関係者は、必要に応じてトレーニングを受ける
3.リスク対策を、論理的かつ一貫性を持って企業全体で実行するために正式なプロセスと手続きを設定する
-リスクマネジメントに関わる全従業員に手続きの遵守を奨励する。


<ステップ5> 結果の監視

1.リスクマネジメントはプロセスであり、「終わった」ら忘れてしまうようなプロジェクトではない
-企業、環境、リスクは常に変化しているので、リスクマネジメントのプロセス全体を常に見直されなければならない
2.リスクへの取り組みが効果的であったかどうか、変更や更新が必要であるかどうかを判断する
-実施した戦略が効果的でない場合、チームは新しいプロセスからやり直さなければならないことになることを覚悟しておく
3.企業がリスクマネジメントのプロセスを徐々に公式化し、リスク文化を醸成していけば、変化に直面したときの回復力と適応力が高まる
4.これは、事業環境の全体像に基づいて、より多くの情報に基づいた意思決定を行い、長期的にはより強力なボトムラインを生み出すことになる
。             (若杉敬明)

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