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研究会ブログ
2021 ファイナンス研究会
第8回 株主価値創造の役員報酬
税法と役員報酬

 株式会社の経営は、取締役、執行役、執行役員、監査役といった役員によって行われる。役員の名称は取締役会のタイプによって異なる。一般社員の労働の対価は「給与」として支払われるが、役員の場合は「役員報酬」として支払われる。役員報酬を支払うことになる法人税法上の役員は、取締役、執行役、会計参与、監査役である。

 役員報酬はどのように決定されるのか。会社法は、役員報酬について「定款または株主総会の決議によって定める」としている。したがって、役員報酬の総枠を株主総会で承認を得なければならない。役員報酬は不相当に高すぎると税務署から否認される可能性があるので、適正金額を設定しなければならない。役員が担っている職務内容、一般従業員への給与支給状況、同業他社の給与支給状況のほか、今後の事業計画や法人税と個人税のバランスなどを、多角的に検討した上で決定しなければならない。

役員報酬と給与の違い

会社が自社で働く人に対して行う支払いには、「給与」と「役員報酬」がある。雇用関係にある従業員に労働の対価として支払うものが給与である。役員報酬とはどのようなものであるのだろうか。また、なぜ給与と役員報酬という区別があるのか。

 役員報酬と給与には、税務上の取り扱いに大きな違いがある。従業員に支払う給与は、不相当に高額でない限り、全額損金に算入できるのに対し、役員報酬を損金に算入するには一定の条件がある。例えば、毎月同じ金額を支払っていない限り、損金に算入することはできない。損金算入できれば、課税対象の金額が減ることになるので、法人税を減らすことになる。なぜ条件があるのかというと、オーナー企業の役員が自身で報酬を決めることができるという仕組を利用して、決算に大きな利益が見込まれると、決算の前に役員報酬を増やし、法人税を減らすという調整が行われることがあるからと言われる。

第361条(取締役の報酬等)
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

2 (略)
3 (略)
4 第一項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。(以下略)


 役員報酬が損金算入を認められる給与として次の三つがある。


(1)定期同額給与
 講義資料P.37 の「基本報酬」である。
 役員報酬は、原則として「定期同額給与」で支払うこととされている。定期同額給与は、事業年度開始から3ヵ月以内に役員報酬の金額を決定する必要がある。株式会社なら、「株主総会議事録」または「取締役会議事録」を作成・保管した後、年度中は毎月同じ額の給与を「定期同額給与」として支給し続けなければならない。逆に、役員報酬は、毎月一定額を払い続けることによって損金に算入することができる。

(2)事前確定届出給与

 講義資料P.37 の「年次インセンティブ報酬」である。
 役員には、一般従業員に対して支払われるような賞与(ボーナス)はない。しかし、賞与に似た形で支払いをして、損金に計上することができる。それが「事前確定届出給与」である。
 事前確定届出給与として支払うには、事前に「支払いの時期」と「金額」を税務署に申告する。届け出た金額を役員報酬として支払うことで、損金として認められる。

(3)利益連動給与


 講義資料P.37 の「長期インセンティブ報酬」である。
 利益連動給与とは、国内の法人が、その事業年度の利益に関する指標を基準にして、支給する役員報酬である。利益連動給与を支給するには、次の要件を満たす必要がある。

 ・その事業年度の利益に関する指標(有価証券報告書に記載されるものに限る)を基礎とした客観的な算定がなされていること
・利益が確定した後、1ヵ月以内に支払われた、または支払われる見込みであること


 (若杉敬明)

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