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研究会ブログ
2021 ファイナンス研究会
第12回 資本政策

Ⅰ エクイティファイナンス―転換社債型新株予約権付社債―

 日本語では設立者が提供した資金つまり出資を自己資本という。英語ではequityである。株式会社では株主が出資者であることを強調するために最近では株主資本と呼ばれる。会計上は、資産から負債を控除したものという概念で純資産net worthと呼ばれる。

 自己資本の源泉は、①株式発行によるもの(会計上は資本金および資本剰余金)および②配当可能利益のうち配当されなかった残余である留保利益(会計上は利益剰余金)である。自己資本調達というと、日本では内部留保と株式発行が論じられるが、英語ではequity financingというと株式発行をいう。内部留保は配当政策との表裏であるので、むしろ配当政策として論じられるからと推測している。

 今回の研究会ではエクイティファイナンスとして、アメリカ流に株式発行を取りあげている。レクチャーしたように、株式発行には、①時価公募、②株主割当(割引発行)および③有利発行(第三者割当)の三つのタイプがある。しかし、エクイティファイナンスには第4のタイプがある。転換社債型新株予約権付社債の発行である。いわゆる転換社債(Convertible BondCB)である。

 転換社債型新株予約権付社債とは、新株予約権という新株を購入するコールオプションが付与されている社債である。社債発行であるのになぜエクイティファイナンスに分類されるかというと、一定の期間内であれば額面の金額で予め定められた価格(転換価格)で発行会社の株式を購入でき、社債が株式に転換するからである。このコールオプションが付いているので、その分だけクーポンレートが低い.

 会社が計画している投資は、長期的には高い収益性が期待されるが、その成果が出るまでに比較的長い年数がかかるものであるとする。したがって、会社が投資を発表しても株式市場がその成果を正しく評価して株価に反映させくれない可能性が大きい。したがって、時価公募をすると低い株価で大量の株式を発行しなければならない。またキャッシュフローが十分に期待できないのに配当を支払わなければならない。転換社債であれば転換されるまで通常より低いクーポンレートで負債として利用することが出来る。時間が経過し投資の成果が順調に現れてくれば株価が上昇する。株価が転換価格を超えれば、転換社債の保有者は転換を進めるので、負債は順調に株主資本に変身する。ここで述べたような特定の時間パターンのキャッシュフローを有無投資には適した資本調達方法である。

 投資家にとっても、①債券としての魅力がある上に、②株価が上がれば転換社債型新株予約権付社債の価格も株価に連動して上昇し、しかも③株価が下がっても債権としての価値が下支えしてくれるというメリットがある。わが国でも、発行制度の歪みにも助けられて(転換価格の硬直性)、1980年代には転換社債が一種の流行になった。

Ⅱ デットファイナンス-負債に関する基礎概念-
-負債とは、企業会計用語で、将来的に、他の経済主体に対して、金銭などの経済的資源を引き渡す義務のこと

1.負債と債務
1-1 負債(企業会計用語)
-企業が外部の第三者に対して負う支払い義務の総称
  ・流動負債 ①支払手形、買掛金、未払金、前受金,預かり金、1年未満の借入金などの流動負債、など
  ・固定負債 ②普通社債、新株予約権付社債、長期借入金、退職給与引当金などの長期性の引当金、など
1-2 債務(法律上の用語)
-「法的に物を渡したり、お金を払ったり、何かをする義務が発生しているもの」を総称して債務という。債務は負債の一部
1-3 弁済:債務を弁償すること。特に法律で、債務を履行して、債権を消滅させること

2.利子の支払い
-負債には、買入債務のような無利子のものもあるが、対価として利子(金利)を払う物を有利子負債という
  ・金融機関などからの長短借入金、普通社債や転換社債型新株予約権付社債、受取手形割引高など
-企業が負う負債には,支払いに関して有限の満期が存在する
  ・満期とは、期限が来ることや一定の期日に達することをいう
  ・負債には支払い義務があり、義務を果たす最終期日のことを負債の満期という

3.有担保 vs. 無担保
-返済ができなくなった場合に備えて、調達した金額と同程度の物を提供し、支払いを確保する場合を有担保という
-そうでない場合を無担保という

4.変動金利 vs. 固定金利
-変動金利
  ・返済の途中、定期的に、市場の金利に連動して金利や返済額が見直される負債
-固定金利
  ・当初から完済までの金利が変わらない負債

5.借り入れvs.社債
-借り入れ
  ・金融機関からお金を借りること、つまり融資を受けること
-社債
  ・株式会社が資金を得る方法の一つとして、証書を発行し、出資者に債務を負うこと、またはその証書

6.元本の返済と金利の支払い
-社債の場合
  ・通常年2回の利払い
  ・元本は満期一括払い
    -社債の保有者に額面金額を返すことを償還という
      ・満期償還と、満期前の買入償還とがある
-借入の場合
  ・金利は日割り計算(利付日数/365)
  ・企業向け融資では元金均等返済が多い
    ーほかに、元利均等返済、元金一括返済

7.社債の種類
7-1.普通社債と新株予約権付社債

-普通社債(SB;Straight Bond)
  ・一般のいわゆる社債
  ・満期が設定されており、満期までの間、債券保有者に対してクーポンが支払われる社債
  ・原則として信用格付が低い社債ほどクーポンレートは高くなる
-新株予約権付社債
  ・転換社債型新株予約権付社債;いわゆる転換社債(CB;Convertible Bond)
    ー元本で一定の価格でその会社の「株式」と転換することができる権利が付帯している社債
  ・新株予約権付社債(WB;Bond with Warrant);いわゆるワラント債
    -一定の価格で発行会社の株式を購入できる権利(ワラント)が付帯している社債

7-2.募集方法による分類
-公募債 Public Offering Bond
  ・証券会社を通じて広く一般に募集される社債で、不特定多数の投資家を対象に販売される
-私募債 Private Placement Bond
  ・特定少数の投資者(金融機関等)との相対交渉に基づき、投資者が直接引受けする社債
  ・私募債も有価証券である
  ・銀行借入による資金調達(間接金融)とは異なり、資本市場からの直接的な資金調達(直接金融)の一形態と位置づけられている

【参考】 Private Debt:非上場会社が、金融機関から貸付(Loan)あるいは信用供与(Line of Credit、Credit Line)の形で調達する負債のこと

7-3.利付債と割引債
-利付債:定期的に利息が払われる債券
-割引債:利息は払われず償還日に元本が返済される
    :元本が償還日までの金利分だけ割り引かれて発行される
-有担保社債・無担保社債

7-4.通貨による分類
-邦貨建債
-外貨建債

7-5.優先社債・劣後債
-一般無担保社債・優先社債(シニア債):発行企業が破綻するなど「劣後事由」が発生した場合、企業の残余財産が優先的にに支払われる社債
-劣後債:優先社債への弁済が完了した後に残余財産が支払われる社債
  ・投資家はその発行体の破綻時には高いリスクを負う
    -その分一般債券と比較して高い金利(クーポン)を得ることができる
  ・資本規制の都合で銀行が発行するケースが多い

7-6.発行体による分類
-事業債:金融機関を除く株式会社などの一般法人が資金調達のために発行する債券。
-電力債
  ・事業債のうち日本の電力会社が発行する社債。
  ・発電所や送電線といった電力会社が保有している資産全体が担保-一般担保-になっている
  ・リスクが低い社債と見なされる
-金融債:社債と同様民間企業が発行する「民間債」であるが、普通社債が株式会社の発行するものであるのに対して、金融債は特定の銀行や金庫が発行するものである

8.社債の特性を表す用語
-償還日
  ・債券の元本支払日(満期日)
-額面(Face Value)
  ・債券の元本。券面額
ークーポン(Coupon)
  ・利息の引換券
-クーポン・レート(Coupon Rate)
  ・元本に対する年間利息の利率

9.社債の価格
-社債は有価証券であり、上場されると市場で評価される
  F:額面価額、r:市場金利
-利付債の理論価格(クーポンレートc)
   cF         cF              cF+F
V=--------+---------+・・・+-----------
   (1+r)     (1+r)2            (1+r)N
ー割引債(ゼロ・クーポン債)の理論価格
   F
V=----------
  (1+r)N
-利付債、割引債いずれの場合も c=r のとき V=F
  ・c>r ➡ V>F オーバーパー 
  ・c<r ➡ V<F アンダーパー

Ⅱ.社債のリスク
1.社債保有者(債権者)のリスク

-企業が社債保有者に対して支払うキャッシュフロー(元利)は確定している
-変動金利の場合も、対象の期間については確定している
-しかし、
 ①貨幣の時間価値により、将来のキャッシュフローの現在価値は金利によって変動するので、社債価格もそれに応じて変動する
 ②株主の有限責任により、負債の金利and/or元本が確実に支払われるとは限らない。社債の場合には、とくに満期までの期間が長いので、企業の変質-有限責任の影響度の変化-が問題になる

2.社債保有者のリスク対策
-上記①の金利変動にともなうリスクに関しては、原因が市場にあるのでリスク発生を防ぐ対策を、企業としてとることは難しい。ただし、発生したリスクへの対処は可能である。
-買取請求権付社債 Puttable Bond
  ・発行後金利が大きく下がった場合、債券保有者は発行会社に債券の買い取りを求めることができる社債
  ・つまり、プットオプションが付いた社債で、その分クーポンレートが低い
-上記②への対抗策はいくつかある
  A.信用リスク分のプレミアムを金利に付加する
  B.担保の設定
  C.財務制限条項(Covenants)により企業行動を制約する
  D.格付け情報を利用する
  E.減債基金積立制度を要する
-B~Dのリスク対策がなされた社債は、リスクが減少する分、クーポンレートが低い
-以下、A~Eのケースについて詳細を説明する。

ケース A:無担保貸付に対する金利プレミアム
-担保の付かない負債の場合、貸し手は貸倒リスクの分だけ高い金利を付けようとする
【簡単な事例】貸倒リスクがほぼ等しい貸出先がN件ある。そのうち貸し倒れを起こす貸出先の件数の比率、つまり貸し倒れ率はδである。貸倒れリスクがない場合の金利はrである
 ・1件あたりの平均貸出額をX億円とする。貸倒が生ずると回収金額はゼロである
 ・貸倒を見込んだ後の実効金利で金利rを確保するためには、貸倒リスク・プレミアムとしていくらの金利を上乗せしたらよいか?
 ・貸し倒れリスクのプレミアムをαとする
   X・N(1-δ)(1+r+α)/X・N=1+r
      (1+r)δ
   α =-------------
      (1-δ)
 ・無担保債における情報の重要性
   -債権者は、貸倒リスクを正確に見積もることができれば、正当なリスク・プレミアムを課すことにより、貸倒リスクに合理的に対処できる
-ここで次のような問題が生ずる
  ・貸倒リスクを正確に見積もることができるか?
  ・負債の契約をした後の企業の行動によっては貸倒リスクが変化するのではないか?
  ・企業はダイナミックに変化しているので特に②の点が問題である

ケース B:社債の財務制限条項
-社債権者を保護するために社債の発行に際して発行会社に課される配当の制限、負債の制限などの特約条項のこと
-条項違反の場合、期限の利益を喪失させ、繰上償還させることで債権の回収を図るなどする
-財務制限の厳しさは、発行会社の信用力や社債の種類により異なる
 ・具体的には、担保提供制限や配当制限等があげられる
 ・これによって発行会社が利益水準からは考えられない配当を行うことや、過大な借入金を増やすことを防ぐことができる
 ・無担保の普通社債・転換社債を発行するときにこの条項がつけられることが多い
-1996年1月、適債基準の撤廃とともに原則自由化されて、現在では「財務上の特約」という形で同様のことが定められている。
【参考1】社債の適債基準
-債券保有者の保護を主旨として、起債関係者(金融機関と証券会社)が定めた社債発行の資格要件。事業債、転換社債、ワラント債、無担保事業債、無担保ワラント債、無担保転換事業債など、債券の種類ごとに基準が設けられていた
-1987年に証券取引審議会が競争制限的な規制、慣行の見直しの一環として、担保付社債を原則とする有担保原則の緩和と、格付けの活用を提言したのを契機として、無担保社債と無担保転換社債の適債基準緩和が本格化-その体系も以前の「数値基準」(純資産額、配当率、純資産倍率、自己資本比率、使用総資本事業利益率、インタレストカバレッジの6指標)だけではなく、少しずつ格付け基準ヘの転換が進められていった
-1988年の全面改定では、適債基準のいっそうの緩和が図られるとともに、格付け基準への大幅な移行が実現した。1996年1月撤廃
【参考2】貸付の財務制限条項
-金融機関が債務者に対して貸付を行う際に付与する条件のひとつ
  ・融資先の倒産による貸し倒れリスクを予め軽減するための対策
-債務者の財政状況が、その契約において定められた基準条件を下まわった場合
  ・債務者は期限の利益を喪失し、金融機関に対して即座に貸付金の返済を行うことと定められている
《財務制限条項の例》
  ・経常利益が2期連続して赤字にならないこと(P/L条項)
  ・純資産が前期比75%を下回らないこと(B/S条項)
【参考3】米国の財務制限条項の例
-Negative Covenants
  ・配当額の制限
  ・抵当権設定への制限
  ・他社との合併の禁止
  ・大規模な資産売却の制限
  ・長期負債の追加調達の禁止
-Positive Covenants
  ・正味運転資本の最低水準維持
  ・財務諸表の定期的開示(ディスクロージャー)

ケース C:社債の格付け
-すべての投資家があらゆる債券の信用リスクを個別に調査することは困難であり、また非効率である
-そのため、専門の格付機関(Rating House)が債券の信用度を評価し、その情報を投資家が利用できるようにしている
-格付情報があることにより、広範囲の投資家が社債投資に参加でき、流動性の高い債権市場が形成される
◆世界的には二つの格付け会社が有名
-Standard & Poor‘s
-Moody‘s
-Fitch
【参考4】
-米国の格付け:20世紀初頭に始まり、1929大恐慌を契機に本格化
-日本の格付け:1984年、日米円ドル委員会が有担原則の廃止および格付機関の設立を促す
  ・日本格付研究所(JCR)
  ・格付投資情報センター(R&I)
◆社債格付の例
---------------------------------------------------------------------
    JCR
   Moody's             S&P's                   内容
---------------------------------------------------------------------
   Aaa     AAA      最上級
   Aa      AA       上級
   A       A        中級の上
   Baa     BBB      中級
   Ba      BB       やや投機性あり
   B       B        問題あり
   Caa     CCC        大いに問題あり
   Ca      CC       非常に危険
   C       C        事実上デフォルト
   D       D        デフォールト
--------------------------------------------------------------------
◆社債格付の基準(推定)
  ー短期的評価
    a.レバレッジ:インタレスト・カバレッジ・レシオ、自己資本比率
    b.キャッシュフローの安定性
    c.担保資産
  -長期的評価
    a.産業動向
    b.産業内の位置
    c.人的資源:経営者・従業員
    d.収益性:売上高キャッシュフロー比率、総資本利払前利益率

ケース D:減債基金 Sinking Fund
-発行会社は、満期日に元本の全額を返済する代わりに、債券の満期日までの期間にわたって、信託銀行の管理のもとで、積立減債基金に定期的な積立を行う社債
  ・減債基金債(Sinking-Fund Bond )
  ・定時償還債(Serial Call Provision Bond)
    -減債基金をもとに社債の市場からの買い戻しや抽選による償還を定期的に行う社債
  -現在では最終償還日に一括して償還する満期償還が一般的となっている
  -日本では社債については借換え発行が一般化しているため,減債基金を積立てることは少い

ケース E:担保
-担保 Collateral:債務不履行に対する保証
  ・物的担保(物上担保、対物担保)
   -特定の物や権利といった財産によって債権を担保(保全)するもの
    ・Open-end mortgage:設定された担保で追加の借入ができる担保
    ・Closed-end mortgage:追加の借入ができない担保
  ・一般担保 General mortgage
    ・債券発行者の全財産から、他の債権者に優先して弁済を受けられる一種の先取特権
-担保付社債・無担保社債
  ・担保付社債
  ・一般担保付社債
    -会社のすべての財産に対し、会社が倒産した際に他の債権者よりも優先的に弁済を受けることが出来る :電力債(電気事業法)、NTT債(日本電信電話会社法)
  ・物上担保社債
    -発行会社が保有する土地、工場、機械設備、船舶などの特定の物的財産に担保が付けられている債券  ・無担保社債
    -わが国では、かつては有担原則であったが、現在は無担保が原則
    -現在は無担保社債が広く普及・流通
-発行会社にとっての担保付社債
  ・メリット
    -負債の信用リスクを、事実上、なくすことができる
    -それだけ、有利な条件(低クーポンレート)で負債調達ができる
  ・デメリット
    -資産処分等の自由度がなくなる
    -事業からの撤退ができないなど、経営が制約されることになる

2.社債発行者のリスク
-利付社債の場合
  ・
繰上償還条項を発行条件とする
  ・
繰上償還条項とは満期償還期限前の特定の日に繰上償還する権利を記した条項のこと
  ・
発行体がコールオプション(社債を買い取る権利)を持つことになるので、コールオプションのプレミアム(代金)の分だけ、クーポンレートが高くなる

 (若杉敬明)

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