2021 コーポレートガバナンス研究会 |
第6回 指名/コーポレートガバナンス委員会とCEO後継者問題 |
Q&Aセッション Q01:レジュメP17でナスダックのBoardDiversity Ruleについて紹介されていますが、女性と自認する個人1名以上。過小評価されている社会的少数者1名以上というcomply or explain要件は欧州のクオータ制に比べるとかなり控えめなものに見えますが、この控えめな要件ですらようやく今年の8月に導入されたということについて意外の感を持ちました。この要件が導入される前はナスダックにおいてダイバーシティについてのルールは存在しなかったのでしょうか?また、ナスダック以外の市場においてのアメリカの市場ではこのようなルールはないのでしょうか? A01:アメリカではもっぱら「独立取締役」に焦点が当てられており、取締役会の多様性は重視されてこなかったのだと思います。私の経験では、建前はともかく意外にもアメリカ人男性の心は女性蔑視そのものです。米国の伝統的な大会社はWASPの世界です。その取締役会は伝統的に男性中心であることは容易に想像できます。何年か前に、アメリカ企業の取締役会について多様性が議論されるようになったのは企業社会で給料等で女性差別が度を過ごしているからだという記事を読んだ記憶があります。以上は私の偏見かも知れませんが、Forbesの記事”New Policy Requires Diversity On Corporate Boards For Nasdaq-Listed Companies”を読むとアメリカでジェンダー・ダイバーシティが関心を呼ぶようになったのは、ヨーロッパよりはるかに最近のことであることが分ります。おそらくNASDAQのルールが嚆矢だと思います。(若杉敬明) Q02:レジュメ..20~21の「取締役会のスキルマトリックス」「取締役会の視点とコンピテンシー」の説明は大変印象深かったのですが、この部分の内容はブログでもふれられているオーストラリアのローファームの作成したウェブサイト”Board skills: building the right board”を要約したものだと理解しました。何故ここで特にオーストラリアのウェブサイトを取り上げられたのでしょうか?同様の論理をアメリカやイギリスのローファームは展開していないのでしょうか?またPPレジュメP22の「取締役に要求されるスキル/コンピテンシー」についてはとても分かりやすく、今後講演などで使わせていただければと思うのですが、この部分も上記”Board skills: building the right board”からとられたものでしょうか?ウェブサイトに行って読んでみた限りこの部分の記述が見つからなかったのですが? A02: ①PPT資料P.21の最後の4行はブログで引用として紹介している”Board skills: building the right board”の記述をそのまま引用していますが、P.20~21の全体は、いろいろなサイトを調べた結果の私なりのスキルマトリックスの考え方を述べたもので特定の記事の要約ではありません。なお、P.22のリストはほとんど引用ですので、P.21の青字「次頁の表」でリンクしたつもりでしたが、青色だけが残ってURLが消えてしまいました。元のPPTファイルをチェックしましたがそこでもリンク先URLが消えていました。他のページのリンクを示す青字はすべてURLが消えていました。何が起こったのか分りません。ブラウザーの履歴をチェックしましたが一ヶ月半以上前のアクセスのせいか、3時間ぐらい掛けても見つかりませんでした。申し訳ありませんが、今のところ出所不明としか説明しようがありません。②なぜオーストラリアか?の質問ですが、”Board skills: building the right board”についてはたまたまです。非常に多数のサイトを調べましたが、これが内容の点でサイズの点でもベストと判断した結果です。多様性に関してASXのコーポレートガバナンス原則を引用したのは、オーストラリアでも取引所が多様性を取り上げるようになったのかと、少し印象的だったからです。ただ、ジェンダーダイバーシティのみに触れられていることには、ダイバーシティの本質は、事業戦略に合ったダイバーシティというのが私の考え方ですので違和感を持っています。これに関してはブログに書き足します。(若杉敬明) 第6回研究会について 今月から研究会は取締役会のガバナンスの各論に入ります。その第1回は指名/コーポレートガバナンス委員会です。NYSEの上場会社マニュアルは指名/コーポレートガバナンス委員会の憲章を作成することを求めています。その事例としてネオジェノミクス株式会社の委員会憲章を紹介します(最後尾)。後半では21世紀に入ってから注目を浴びているCEO Succession PLanningについて紹介しますので、個々ではなぜCEOの後継者問題が注目を浴びているかを紹介します。 《A》取締役会における多様性の必要性 ASX(オーストラリア証券取引所)も、NASDAQに先立ち「コーポレートガバナンス原則と勧告」第4版(2019)で取締役会の多様性を強調しています。ここではジェンダーダイバーシティが強調されていますが、ジェンダーやマイノリティの問題は社会的には重要ですが、ガバナンスの観点からは本質的な問題ではありません。会社の事業を将来に向けて牽引していくガバナンスの観点からは、将来の事業経営を監督できる事業経営にあった多様性でなければならないからです。その点に注意しながら次の引用文を読んでください。 「多様性は、特に競争の激しい労働市場において、上場企業の資産であり、総合的なパフォーマンスの向上に寄与するものと考えられるようになってきています。取締役会又は取締役会の委員会が設定する多様性の目標は、監視及び測定が可能であり、かつ、測定される、適切かつ意味のあるベンチマークを含むべきである。これには、例えば以下のようなものが含まれます。 《B》取締役会のスキルマトリックス(コンピテンシーマトリックス) 1.スキルとコンピテンシー ◆スキルとは、与えられた仕事をうまくこなすために必要な、具体的な学習能力のことです。例えば、会計処理やコーディング、溶接や入札書の作成など、職種によってさまざまです。しかし、ハードスキルとソフトスキルには違いがあります。ハードスキルは、専門家が特定の資格や専門的な経験を通じて示すことのできる、技術的で定量化可能なスキルであるのに対し、ソフトスキルは、特定の職業にあまり根ざしていない、非技術的なスキルである。例えば、ハードスキルの例としては、コンピュータプログラミングや外国語の能力などがあり、ソフトスキルの例としては、時間管理や言葉によるコミュニケーションなどが挙げられます。
https://social.hays.com/2019/10/04/skills-competencies-whats-the-difference/ 2.スキルマトリックスvsコンピテンシーマトリックス 上述のようにコンピテンシーは能力であり、スキルは通常、学習されたタスクのことである。例えば、コンピテンシーは才能や習慣から発展する場合もあれば、1つまたは複数のスキルから構成される場合もある。一方、スキルとは、学習された能力のことです。スキルは、才能や興味によって高められることもあります。コンピテンシーは、スキルやスキルセットを含むカテゴリーと考えるとよいかもしれません。 3.取締役会のスキルマトリックス 「他の人のスキル/コンピテンシーが不足していることを批判するためのものではない。重要なのは、他の人のスキル/コンピテンシーの価値と有効性を認識し、集団の目的を達成するために必要なスキル/コンピテンシーを持つ人を組み合わせることである。」J.B. Reid, Commonsense Corporate Governance, Sydney: AICD, 2002 スキルマトリックスは開示するために作成されるものではない。ある部門の目的を効率的・効果的に達成するためには、それに相応しい人的構成を実現することが望ましい。部門をとりまく環境が変化すれば人的構成も替えなければならない。その際に利用されるのがスキルマトリックスである。取締役会に関しても同様である。マネジメントのパフォーマンスを最大化するためには取締役会の能力を変えることが必要なこともある。そのような場合、取締役の入れ替えや取締役の新規採用が必要になるであろう。取締役会のスキルマトリックスが活用される所以である。 スキルマトリックスは投資家に開示されるために作成されるものではない。取締役会の自己評価、実効性評価には生かされ開示につながるであろうが、あくまでもその本来の目的は取締役会構成の最適化という取締役会の内部管理が目的である。スキルマトリックスは特に取締役の選任の際に利用される。 以下は”Board skills: building the right board”からの引用である。https://www.effectivegovernance.com.au/page/knowledge-centre/news-articles/board-skills-building-the-right-board
取締役選任
ますます多くの取締役会が、より構造化された専門的な取締役選定プロセスに取り組んでいます。そのようなプロセスでは、一般的に以下の点が考慮されます。
-戦略的方向性とスキルの整合性。
-現在の取締役会の構成に付加価値があるかどうか
-取締役会との文化的適合性
-効果的な貢献者となるために必要な時間、および
-サクセッションプランニング。
適切な取締役会を構築するには、取締役の経験、スキル、属性、能力を考慮した上で、取締役のコンピテンシーを理解する必要があります。取締役のコンピテンシーには、技術的コンピテンシーと行動的コンピテンシーという2つの異なる領域があります。技術的コンピテンシーとは、会計や法律のスキル、業界知識、戦略立案やコーポレート・ガバナンスの経験など、ディレクターの技術的なスキルや経験(「知っておくべきこと、できること」)を指します。行動的コンピテンシーとは、ディレクターの能力と個人的特性(「知っていることをどのように適用するか、個人的・対人的スキル」)であり、例えば、「オーナーシップ」との関連性、人や状況に積極的に影響を与える能力、複雑な情報を吸収・統合する能力、時間的余裕、正直さと誠実さ、高い倫理基準などが含まれます。(若杉注:第三のコンピテンシーとしてリーダーシップが挙げられることがある)
取締役会は、取締役の資格や経験を記載した履歴書では明らかにならない取締役の能力にあまり注意を払わないことが多い。そのため、取締役会は以下のような能力を持つ取締役の組み合わせを必要としているかどうかを検討する必要があります。
-複雑な情報を素早く吸収し、総合的に判断することができる。
-説得力のある議論を展開し、提供する。
-革新的であり、枠にとらわれない考え方をする。
-問題を詳細なレベルと「大局的な」レベルの両方で理解する。
-すべての取締役は、取締役会で簡潔かつ効果的に主張する能力を持つ必要があり、決して話さない「サイレント」な取締役や、すべての議論を支配しようとする「ラウドマウス」な取締役になることはありません。
-個人を取締役として再任、指名、任命する前に、取締役会は以下を行うべきである。
-ある取締役会に必要とされる特定の能力やスキルは、他の取締役会に必要とされるものとは異なる可能性があることを認識した上で、取締役会全体としてどのような能力やスキルを持つべきかを検討する。
-現職の取締役がどのような能力とスキルを持っているかを評価する。一人の取締役が必要とされる能力やスキルをすべて持っていることはあり得ないので、各個人がそれぞれ貢献するグループとして取締役会を考えるべきである。
-取締役の性格と、現在の取締役会の文化との適合性を検討する。検討に値する属性としては、自己認識、誠実さ、高い倫理基準などが挙げられます。ボードルームのダイナミクスは、存在するパーソナリティや行動タイプによって影響を受けるため、これらの資質にも注意を払う必要があります。(翻訳はDeepLによる)
《C》CEO後継者育成計画 CEO Succession Planning Ⅰ 米国企業ではなぜCEO後継者育成が関心を集めているのか 6.企業の変容 Ⅱ 将来のCEO育成における現在のCEOの役割:現在の利益と将来の利益 -CEOは現在の事業から利益を上げると共に、将来の利益のために手を打って置かなければならない -将来の利益のためには、経済・社会・業界そして自社の将来を見通して5年後、10年後、20年後の事業ドメインを想定し、ビジョンを描き、それを実現する戦略を策定する。同時に、将来の事業に相応しいCEO像に向けて部下を育成する。その意味ではCEOには「先見性」と「リーダーシップ」が不可欠である。 ⇨「自社を差別化する最重要な経営資源は、経営の担い手であるCEOである」 -技術・モノ・カネも重要であるが、金余りの現代は、優れた事業にはカネが集まってくる。カネがあれば何でも買える。その前提は優れた経営、すぐれた経営者である。 優れた経営能力は希少な存在であり、市場で調達しようとすると超過収益はほとんど外部から来たCEOの報酬になってしまう。 Ⅲ CEOサクセッション・プラニングの担い手 (若杉敬明) ◆D◆指名委員会憲章の事例 指名委員会およびコーポレート・ガバナンス委員会憲章 (注)ネオゲノミクス(NeoGenomics, Inc.)は、がん遺伝子診断検査サービスに特化する臨床検査室のネットワークを運営。細胞遺伝学、蛍光遺伝子プローブ法(FISH)、流動細胞分析法、形態学、解剖病理学、分子遺伝子検査を含むサービスを、病理学者、がん専門医、泌尿器科医、病院に提供する。) Ⅰ 要約 II 当委員会の構成と運営 III 会議 IV 責任と義務 ◆取締役会および下部委員会の候補者 -取締役会によって承認された基準に基づいて、取締役会または取締役会下部委員会メンバーとなるための候補者の資格を検討する(各候補者の独立性に関する条件の決定を含む)(および、監査委員会メンバーの目的のために法律またはNasdaq規則の下で要求される可能性のある、強化された独立性、財務リテラシーおよび財務専門家の基準をも考慮する)。 ◆取締役会および下部委員会の評価 ◆コーポレート・ガバナンスに関する事項 ◆取締役のオリエンテーションおよび継続的教育 Ⅴ 年次業績評価 |
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