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研究会ブログ
2021 コーポレートガバナンス研究会
第12回 日本のコーポレートガバナンス改革と新しい資本主義
 コーポレートガバナンス研究会最終回では「日本のコーポレートガバナンス改革」とともに「新しい資本主義論」を取りあげる。この研究会では、株主価値最大化の立場から株式会社のガバナンスの課題を解明してきた。ところが新しい資本主義論の一つの論拠は、マルチステークホルダー論と称して株主価値最大化を否定しているからである。私は、株式会社は、株主が株主価値最大化の恩恵を受けられることをインセンティブとすることにより、株式会社が効率的に人々の欲する財・サービスを社会に提供する企業形態であると理解している。その前提は、資本主義の自由経済の下で、全てのステークホルダーと市場価格にもとづく公平な取引を行うことである。他方、株式会社でない方が効率的かつ確実に供給される財やサービスについては、特殊法人・会社、独立行政法人などの公企業を、国は制度化している。株主価値最大化を目指すことこそ、株式会社の社会的使命である。このことを理解しないで、株式会社に余計な使命を課すと、株式会社は非効率化し、国際的な市場で競争力を失い、国は貧しくなってしまう。動画ではこのようなことを説明している。
 
 2021年秋に成立した岸田内閣は成長と分配の好循環を実現する経済政策を「新しい資本主義」と称して内閣の目玉としている。当然のことであるが、賛否両論、賑やかである。議論の質はさまざまであるが、以下、ネットで見つかったものを紹介する。

◆ 岸田総理のあたらしい資本主義論

–私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。成長を目指すことは極めて重要であり、その実現に向けて全力で取り組みます。
–しかし、「分配なくして次の成長なし」。成長の果実を、しっかりと分配することで、初めて、次の成長が実現します。
–大切なのは、「成長と分配の好循環」です。
–「成長も、分配も」実現するため、あらゆる政策を総動員します。

    https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seisaku_kishida/newcapitalism.html

 

(以下、記事の一部抜粋である)
議論1:岸田首相が提唱する「新しい資本主義」とは?
ここが気になる
・「新しい資本主義実現会議」は岸田首相が「成長と分配の好循環」を実現しようと設置した肝煎りの会議です。メンバーは経済団体や民間企業のトップら15人で構成され、半数近い7人が女性です。会議を設置した背景には、経済成長の果実が社会全体に行き渡っていないため、格差が広がっているとの問題意識があります。
・今回の会合では、政府が11月中に定める経済対策に向けた緊急提言を出しました。「分配」の面では、賃金の引き上げに重点を置きました。具体策として、看護師や介護士、保育士の給与を前倒しで引き上げるよう指摘しました。また、賃金の引き上げに取り組む企業への税制面での優遇を強化することも打ち出しました。
・経済対策について政府・与党内では30兆円超との規模感が浮上しています。ただ、コロナ対策ではこれまで計上された65兆円程度の予算のうち、3割を超える22兆円余りが使われませんでした。20年度予算も30兆円余りが使われずに21年度に繰り越されています。「規模ありき」でない「成長」につながる対策が必要です。
日本経済新聞 2021年11月9日 7:00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL086CS0Y1A101C2000000/
コメント:内閣の方針を紹介しているだけでほとんど内容がない。(若杉敬明)

議論2:『新しい資本主義』の源流はステークホルダー資本主義

•岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の具体的な姿は、依然として明らかになっていないが、岸田首相の断片的な発言などを踏まえて考えると、その源流は、近年、世界で注目を集めてきた「ステークホルダー資本主義」にあるように思われる。
•世界で主張されているこの「ステークホルダー資本主義」は、格差問題、環境問題などへの対応が主であるが、岸田政権は、この「ステークホルダー資本主義」と日本特有の問題である賃金の低迷という問題への対応、すなわち賃上げ、分配政策とを結びつけて、「新しい資本主義」という政策のパッケージを作り上げようとしているように見える。
•株主、従業員、顧客、取引業者などのステークホルダー(利害関係者)による企業統治(コーポレートガバナンス)を通じて企業を変革していくのが海外での潮流であるが、日本ではこのプロセスを政府が主導しようとしているのが大きな違いなのだろう。
•「ステークホルダー資本主義」とは、「株主資本主義(株主至上主義)」の対義語である。従来の「株主資本主義(株主至上主義)」では、短期的な株主の利益の最大化が最も重要、と位置づけられており、その結果、従業員や環境、地域社会に負荷をかけるという問題が生じてきた。これに対して、企業が従業員や、取引先、顧客、地域社会といったあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方が「ステークホルダー資本主義」である。
コメント:岸田総理の「新しい資本主義」の本質は「マルチステークホルダー論」であると性格付けているだけでそれ以上のことは言っていない(若杉敬明)

議論3:島田晴雄 新しい資本主義の本来の方向を追求せよ
・POINT
•岸田首相は、1980年代に先進国で主流となった「新自由主義」にもとづく経済政策の弊害を是正して分配を強調する「新しい資本主義」を提唱している。
•米欧に対する的確な警鐘といえるが、日本は米欧より所得分配は平等であり、分配是正が第一義の政策には疑問が残る。特に、18歳以下への一律10万円給付などの政策は、国民を混乱させている。
•日本が直面する最大の問題は、1980年代後半以降、40年近く経済が競争力でも所得でも 凋落ちょうらく し続けていることだ。今、政権が取り組むべき最大の課題は、凋落し続ける日本経済の衰退傾向を逆転させ、新たな発展を実現することだ。
•「新しい資本主義」としてその方向性が示されれば、国民は希望を持って岸田政権を支持し、長期本格政権を期待するだろう。
コメント:岸田総理の新しい資本主義の政策をいくつか紹介しているだけで、「新しい資本主義」や成長と分配などに関しては何も言っていない。(若杉敬明)

議論4:「改革」なき「新しい資本主義」
大崎 明子 東洋経済 解説部コラムニスト
•岸田文雄首相の掲げる「新しい資本主義」の評判がエコノミストの間で芳しくない。大テーマを掲げた割にはその内容が小粒で、新味に欠けるからだ。
•首相が年頭所感で説明する「新しい資本主義」はこうだ。成長については「デジタル化」「気候変動」「経済安全保障」「イノベーション・科学技術」などの社会課題をエンジンとする。分配については、格差に向き合い、「企業による賃上げ」や「人的投資の強化」を行う。これを次の成長につなげ、「成長と分配の好循環」を生むことで、経済の持続可能性を追求する──。
•これでは、巷間(こうかん)いわれるようにアベノミクスと変わらない。(後略)
コメント:「アベノミクスと替わらない」という評価には酸性である。(若杉敬明)

議論5:新しくない「新しい資本主義」では成長もできない
•原田 泰 (名古屋商科大学ビジネススクール教授) Wedge|Infinity  https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25379
• 総裁選、総選挙を通じて、岸田首相はさまざまな政策目標を掲げた。中でも「新しい資本主義」と「デジタル田園都市国家構想」が2枚看板だ。
• 前者は、過度な市場依存によって格差や貧困などの弊害を生んだ新自由主義を排し、経済の付加価値の創出を通じて成長を実現、分配を豊かにするーというのが基本理念だ(2021年12月6日、臨時国会での所信表明演説)。介護、保育などに従事している人たちの所得を引き上げ、賃上げ企業への補助拡大、労働者の学びなおし、ステップアップを図る――。 

コメント:この後、デジタル田園都市国家構想をプッシュし、成長の方策については何ら考えを示していない(若杉敬明)


議論6:岸田政権が実現すべき「新しい資本主義」はグロテスクな世代間差別の是正
•【橘玲の日々刻々】 『週刊プレイボーイ』2022年2月7日発売号に掲載

   https://diamond.jp/articles/-/296215

•「新しい資本主義」は岸田政権の大看板ですが、施政方針演説やその後の国会質疑でも具体像は語られず、野党からは「ぬかに釘」と批判されています。それでも、DX(デジタル・トランスフォーメーション)や気候変動対策、経済安全保障などと並んで、「格差」に取り組む決意は繰り返し表明されています。
• 格差というと富裕層と貧困層の二極化の話になりますが、日本の場合、その背景には正規/非正規の「身分差別」、親会社/子会社の「所属による差別」、海外の日本企業で行なわれている本社採用/現地採用の「国籍差別」などのさまざまな「差別」があります。
•未来を担う若者が生き生きと働ける社会を目指すのなら、このグロテスクな世代間差別を是正しなければなりません。これこそが、岸田政権が実現すべき「新しい資本主義」になるでしょう。

コメント:格差解消の重要性を言っているが、成長については何ら触れていない(若杉敬明)


議論7:岸田政権が掲げる『新しい資本主義』なんて、社会主義者の発想
•岸田政権が掲げる「新しい資本主義」なんて、社会主義者の発想ですよ。週刊朝日は、それを批判する骨太の記事で誌面を埋め尽くして、世の中を動かし、国を動かす。そうなればおもしろいです。

コメント:新しい資本主義を社会主義であると批判しているだけである(若杉敬明)


議論8:大前研一「"新しい資本主義"が危険である、これだけの理由」
・PRESIDENT Online https://president.jp/articles/-/54516?page=1
•私が「3C」と提唱したとおり、強い企業は、顧客(Customer)、組織(Company)、競争相手(Competitor)の「3つのC」を考えて、マーケットが好む商品を提供する。現在のボーダーレス社会では、世界で最も安くて良質な材料を仕入れ、人件費が安く良質な労働力がある場所で生産し、高く買ってくれる場所で販売する。“世界最適化”は自由なマーケットを前提に成り立っている。政府はマーケットに自由な選択を与え、介入しないことが資本主義なのだ。
•企業に「賃上げしたら税金を安くするよ」というのは、マーケットへの介入だ。資本主義でもなければ自由主義でもない。岸田首相の「新しい資本主義」は、すでに失敗が証明されている全体主義、あるいは計画経済の発想だ。
•さらに、腰が抜けるほどびっくりした政策がある。4月以降、賃上げを表明した企業は、公共工事などの政府調達の入札で優遇するというのだ。
政府調達の財源は税金だ。企業努力をせずに賃上げだけをして人件費が増えれば、入札価格は高くなる。入札の原則は「一円でも安く」することなのに、入札価格が高い企業のほうを優遇して税金を多く払うというのは、犯罪的行為だ。
•そして、「上に政策あれば下に対策あり」という言葉のとおり、合理的な経営者はきっとこう考えるだろう。
•「人件費を高くするくらいなら、賃金が安い海外に、仕事をアウトソーシングしよう。その分、国内の従業員は減らす。社内には特に優秀な人間だけ残して、賃上げする。これで人件費は抑えられ、法人税の負担は減り、公共事業も受注しやすくなる」
•このように、賃金と雇用は相反関係だ。賃金を上げて人件費の負担が増えれば、雇用は減る。従って、分配を訴える「新しい資本主義」こそ、実態は国内の雇用減少を促す格差拡大政策なのだ。
コメント:きちんとした論旨で説得力がある。賛同する。(若杉敬明)
 

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