ベストプラクティスとベンチマーキング |
一般社団法人日本コーポレートガバナンス研究所 理事 若杉 敬明 |
ベストプラクティスとは、世間が行っている最善と思われる実務をいう。最善と言ってもどういう意味で最善かと言うことが問題になるが、企業社会においては好業績を上げている企業の実務で多くの人から見て確かに合理的であると納得できる実務と考えれば良いであろう。ベンチマーキングとはベストプラクティスに至っていない企業が、ベスト・プラクティスをお手本として、自社の実務を再構築することをいう。
コーポレートガバナンス先進国の英米では、会社法のコーポレートガバナンス規整はシンプルであり、基本的には、株式会社においては、株主が株主総会で取締役を選任し、取締役が構成する取締役会が事業に関する意思決定を行いそれを執行すると定めているだけである。それに、ロンドン証券取引所やニューヨーク証券取引所が、多くの優良企業が行っている優れた実務つまりベストプラクティスを参考に、取引所の上場規則により独立取締役および指名・報酬・監査の三委員会からなるガバナンスシステムを推奨している。ここで重要なことは、取引所規則による強制ではなく、"Comply or Explain"方式で普遍化しようとしていることである。この方式の意義については別の機会に譲ることにして、以下では現代のコーポレートガバナンスの理念とベストプラクティスを整理する。 コーポレートガバナンスのベスト・プラクティスを詳述しているのがJCGRのコーポレートガバナンス原則であるが、ここではコーポレートガバナンスに関するJCGRの考え方の概略を紹介する。 コーポレートガバナンスとは株式会社の前身は多額の資金を集め大規模な事業を行う会社である。会社法では、株式会社の他に合同会社、合名会社、合資会社が会社として定められている。小規模な事業を行うことが前提とされているこれら三社においては、出資者自身が経営者として会社を経営することが原則になっている。しかし、出資者つまり株主が多数いる株式会社においては、株主は株主総会で取締役を選任し、取締役が構成する取締役会に株式会社経営を委ねることになっている。ここで取締役は株主であることが要件とされていない。つまり、極言すると、株主は多額の資金を預けて赤の他人に会社経営を任せることを意味する。 他方、会社法は、会社の目的は営利であるとして、営利を確保するためにさまざまな仕組みを定めている。たとえば、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、そして監査等委員会設置会社という3タイプの取締役会制度である。取締役が、取締役会の職務を通して営利を確実に行うように規整している。ここで営利とは、事業を行うことにより利益を上げ、それを出資者である株主に分配することである。株主にとっては、利益は多い方が良いので株主は、取締役会が利益の最大化を追求することを望む。ただし、事業にはリスクがともなうので、短期的な最大化でなく長期的な最大化が重要である。これを株主価値の最大化という。取締役会は、株主により長期的な観点からの利益最大化つまり株主価値の最大化が期待されていると考えなければならない。もし取締役会がその期待に応えなければ、次の株主総会で現在の取締役は選任されず、株主価値の最大化を目的とする取締役が選任されることになるであろう。 株主の期待は株主価値最大化を追求する取締役会であるが、その構成員である取締役は必ずしも株主ではない。開示制度により会社の重要な情報は株主に開示されることになっているが、取締役は会社の中にいて会社内の事情をよく知っているが、株主は会社の外にいるので、取締役や取締役会のすべてを知ることはできない。それゆえ、取締役会が株主にとって最善の経営をしてくれるとは限らない。会社法はそのことを前提として、いろいろな仕組みを定めている。それが上述の会社法のコーポレートガバナンス規整である。 コーポレートガバナンスのベストプラクティス世界的なコーポレートガバナンス改革の流れは1990年代に始まるがその中で生まれてきたベストはプラクティス次のような構成になっている。 1.【独立取締役】取締役会を構成する取締役は独立取締役を過半の多数とする 独立取締役から構成される三委員会によって、優秀な経営陣を構成し、株主価値最大化のために株主価値創造を目指す機能が、現代のコーポレートガバナンスである。 若杉敬明 |
2019年7月10日 9:22 AM |
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