2021ファイナンス研究会 第10回「株式持ち合いと自己株取得-財務的意義-」 

株式持ち合い

講義では、株式持ち合いがどのような財務効果を持つかを、二つの企業が株式を持ち合う単純なモデルで分析した。その結論は次の通りである。
(1)二つの企業がそれぞれ独自の事業を行い営業利益を上げている時、株式を持ち合うと、お互いの利益の一部を相手企業に与え合うことになる。したがって、双方の資本は増加するが双方の営業利益も増加する。多くの企業が多様な企業と同時に持ち合えば、企業部門の資本・資産も膨張し、利益も膨張する。</br /> (2)しかし、双方の企業の本来の事業が生み出す営業利益に変化がなければ、その事業に資本を提供していた株主・債権者の利益・利息には変化がない。つまり減少もしなければ増加もしない。資本・資産および利益の拡大はいわば水増しである。
(3)その意味で、株式の持ち合いは何らの財務効果がない。したがって、持ち合いが合理化されるためには、株式持ち合いによる二つの企業のる結合が、利益の源泉になるものを生み出さなければならない。

 M&A総合研究所のウエブサイトは、、株式持ち合いのメリット-意義、効果―として次の三項目を挙げている。 https://mastory.jp/株式の持ち合い
   ・安定した経営を継続できる
   ・会社間の結束力を向上させながら事業拡大を進められる
   ・敵対的買収への対策を講じられる
他方、同サイトはデメリットとして次の三つを指摘している。
   ・株主の意向が反映されにくくなる
   ・資本効率が低下する
   ・株価暴落による経営悪化のリスクが付きまとう

同様に、株式持ち合いの危険性についてウィキペディア(Wikipedia)は次のように指摘している。
   ・資本の空洞化を招くことから、会社法上の資本充実の原則からすれば問題がある。
   ・株主総会における議決権による監視機能が形骸化して損なわれ、さらには経営の歪曲化を招く恐れがある。
   ・実質上「物言わぬ株主」の比率が高まることで、企業統治の維持・改善が損なわれる恐れがある。
 

 M&A総合研究所およびウィキペディアが指摘しているのはコーポレートガバナンスに対する影響の問題である。東証のコーポレートガバナンスコードは株式持ち合いを政策的株式保有と呼び、それを行う場合には持ち合いとしての経済的合理性をチェックするように強く要求しているのは、このような理由からである。

 なお、株式持ち合いの現状について野村資本市場研究所のレポートは次のように要約している。

(1)野村資本市場研究所で算出した2019年度の「株式持ち合い比率」は前年度比で低下した。持ち合い(政策保有株式)が我が国のコーポレートガバナンス改革の中心的な課題として位置づけられる中、各企業が保有の合理性に乏しい株式を売却する動きを進めていることが要因と考えられる。
(2)保有主体別にみると、上場事業法人、上場銀行、保険会社とも株式保有比率は低下しており、持ち合い解消、政策保有株の圧縮は業種を問わず進められていることがうかがわれる。また、3 月決算のRussell/Nomura Large Cap 構成企業を対象に政策保有株式の変化を少し詳しくみると、事業法人では取引関係と結びついた株式の取得も引き続き見られている。また、金額としては小さいが、相手先企業の持ち株会への出資による株式取得は広範囲に行われている。さらに、新規事業開拓やベンチャーキャピタルへの投資を名目に非上場株式への投資はむしろ増加していることが分かる。これらは政策投資というよりも出資の色彩が強い。
(3)2021年より議決権行使助言会社のグラス・ルイスが、「保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式」の「貸借対照表計上額の合計額」が連結純資産と比較して10%以上の場合、会長(会長職が存在しない場合、社長等の経営トップ)の選任議案に反対助言を行う。これにより、機関投資家の議決権行使基準に持ち合いを反映させる動きが出てくるかどうかが注目されるが、当面はエンゲージメント(企業と投資家との対話)のテーマとして扱われることが主になるであろう。その際には法定開示を超えたさまざまな情報の提供や開示が投資家から企業に求められると想定されるため、企業側からの自発的、積極的な対応が期待される。以上のような状況を勘案すると、株式持ち合いの解消の動きは緩やかに継続すると考えられる。

(若杉敬明)

自己株取得

 自己株式とは、株式会社が発行している株式のうち、自社で取得-一般に自社株買いというが法律上は自己株取得-し、自社で保有している株式をいう。金庫株と呼ばれることもある。上述のM&A総合研究所は自己株取得の主な目的として、⑦、⑧を除く①~⑥を列挙している。 https://mastory.jp/自己株式
  ① 敵対的買収を防ぐため
  ② 株価低迷を改善するため
  ③ 事業承継を成功させるため
  ④ 少数株主を整理するため
  ⑤ M&Aの対価として用いるため
  ⑥ 持ち株比率に影響を与えるため  
  ⑦ ROEを高めるため
  ⑧ 過大になった株主資本比率を下げ最適資本構成を実現するため

  ①は、敵対的買収を仕掛けられたとき、自社株を取得しておけば自社株と持ち合い株で安定株を増やすことができ、買収を防ぐことができる。②はかつてわが国が期待したことである。以下で詳述する。③は非上場企業においてオーナー株の遺産相続者に納税資金を作るために行われる自己株取得である。④は、少数株主が多数いる会社が株主を整理するために行われるものである。わが国では、2018年の産業競争力強化法と租税特別措置法の改正により、これまで法務面・税務面における課題点が改善されたことで、自社株式を対価とするM&Aを実施できるようになった。⑤は、自己株取得を行いそれを対価に友好的買収を行えば、安定株主を獲得することになるかも知れない。ただし、自己株取得に資金が必要であるので買収資金が必要であることには変わりがない。⑥は、自己株取得を行えば自己株取得に応じなかった株主の持株比率を高めることになる。何らかの理由でそれが必要な場合、自己株取得によってそれが可能になる。伊藤レポートの公表後、ROEに関する関心が高まっている。企業の純利益を大きく減らさずに株主資本を減少させることができればROEが上昇する。⑦は資本構成においてレバレッジを高めるための自己株取得である。講義でも説明したように、収益性の低い遊休資産を保有している場合、それで自己株取得を行えば株主価値創造が可能であるとともに、ROEを高めることができる。ただし、自己資本を減少させてレバレッジ比率を上げれば必ず株主価値が創造されるわけではない。ROEはハイリスク=ハイリターンになり、リターンの上昇がリスクの増大で相殺されてしまうからである。⑨は、講義でも説明すするように、好業績が続き豊富な内部留保などで株主資本比率が高くなりすぎた場合、それを下げるために行う自己株取得である。負債の節税効果を享受するためには株主資本比率の上限に留まるのが最適資本構成である。

 株主の有限責任制の下では、債権者保護のため株主資本の維持は極めて重要である。その意味では自己株取得は株主資本を減少させることにほかならない。かつてわが国では債権者保護の大義名分とインサイダー取引や株価操縦と言った不正を防ぐために法律で厳禁されていた。それが1990年代半ばに解禁された。上の②が深く関わっているので詳説したい。1990年初頭以降、日本経済のバブル崩壊により株価の暴落そして低迷が続いていたことから、政府は証券業界の要望もあり、株価の下支え効果を狙って自己株取得禁止を緩和する議論を開始した。アメリカでは、会社が自社株買いを発表すると株価が上昇することが知られていたからである。それはファイナンス理論ではシグナリング効果と呼ばれるものである。株式市場では企業の将来の業績予想をベースに株価形成がなされるが、会社のことを十分に知っている経営者の目からすると株価が過小評価されているという事態がしばしば生ずる。このような時、会社が自社株買いを行うと、現在の株主からすると、より高い価値を持つ自社株を安く買えるわけであるから、後に正当な評価がなされて株価が上昇したときにキャピタルゲインを享受できる。したがって、現在の株主にとっての株式価値を目指す経営者は、株価が割安と判断すると自社株買いを宣言する。ここに至る根本原因は、経営者の持つ情報と投資家が持つ情報とに格差があるからである。自社株買いはまさに、株価が割安であることを投資家に知らせる情報発信の意味を持つと考えることができる。そこで、ファイナンス理論では自社株買いの公表が株価を上昇させる効果を「自社株買いのシグナリング効果」とよぶ。

 バブル破裂後の株価低迷に悩まされていた政府と証券界は、自社株買いをやれば株価が上がると考え、1994年、自己株取得を禁止していた商法を改正し解禁したのである。ただし、株式消却やストックオプション(自社株購入権)付与など,特定の目的に限定されていた。しかし、日本の株価は全然回復せずその後も下がり続けた。ここで注意しなければならないのは、「経営者が株主価値創造を企業目的としているとき」、シグナリング効果があるということである。日本の場合には株主価値最大化経営ではないので効果が出なかったと推論できるのではないだろうか。なお、経営者に対するインセンティブであるストックオプションの普及を目指し政府は、2001年の商法改正で、自社株買いで得られた株式をストックオプションの権利行使に対応できるように、企業内に置いておける金庫株を認めた。

 講義の分析が示すように、資本コストを満たせない利益率しか上げられない資産(あるいは事業)を売却し、その資金で自社株買いを行うならば株価は上昇する。そのような資産の代表的なものが当座資産と呼ばれる余剰資金や投資収益率(TSR)の低い持ち合い株式である。このような資産の処分による自己株取得は利益の株主還元の意味を持っている。企業は、株式発行による資金調達(株式発行に限らないが)で、資本コストを上回る投資利益率を持つ投資を実行すれば株主価値を創造する。それと全く逆の財務-投資資産を処分してその資金で自己株取得-により現在の株価を引き上げることができ、株主価値を創造することができるのである。(若杉敬明)

2021ファイナンス研究会 第9回「資本コストの計測」

1.資本コストは機会費用

 人間は何らかの行動を取るときに複数の選択肢の中から選択するのが普通である。合理的な人間であれば最大の価値をもたらす選択肢を選択する。そのとき選択されなかった選択肢がもたらす価値のなかで最大の価値を機会費用という。その価値は選択されなかったことにより犠牲になったのでコストと呼ぶのである。企業はキャッシュフローを求めて投資を行う。–その投資に出資するのは投資家である。–投資家はハイリスク=ハイリターン、ローリスク=ローリターンの市場原理が成立している資本市場で投資をすることもできる。そこで犠牲にする市場原理が要求収益率である

2.負債コストの推定

(1)負債コストの推計

 市場で決まる利回りが要求収益率であるから、負債コストは、自社が発行した社債の市場利回りで推計するのが基本である

(2)オプションフリー・ボンドを発行していない企業の負債コスト

 負債コストとは、企業が長期負債に対して、今日支払わなければならない税引き後の利率のことである。それは現在発行している長期社債の市場利回りとして現れている。ただし、その社債はオプションフリー・社債でなければならない。企業が発行しているのがオプション付社債の場合、企業あるいは債券保有者が金利動向に依存するオプションに投機をしているので、真の自社の負債コストを知る上でノイズになる。オプションフリーの社債が発行されていない場合は、オプション価値を推定し、社債の市場価格を調整して負債コストを推定しなければならない。
社債に附属するオプションとは次の二つである。
・任意償還権:債券発行から据え置き期間経過後、債券発行者の任意で一部または全部を途中償還(満期前償還)できる権利。社債発行企業が買い取る権利であるから、発行企業がコールオプションを取得していることを意味する。コールオプションプレミアムは発行企業が払うので、その分、クーポンレートが高くなる
・買取請求権:債券保有者が発行会社に償還(買取)を求める権利つまりプットオプションの権利をいう。債券保有者がプットオプションを買うことになるので、その分だけクーポンレートが相殺される。
・新株予約権:期間内(転換請求期間)であれば設定された価格(転換価格)で株式に転換できる権利。額面で転換価格を払い社債が消滅する場合、転換社債という。現金で権利行使代金が支払われ、社債が残存する場合債という。いずれにしろ、債券保有者は発行会社の新株を取得すオプションを保有するのでその分だけクーポンレートは低い。
これらの権利が付与された社債はつぎのように呼ばれる。
任意償還権付社債:Callable bond 金利が下がると、発行会社は権利を行使し、既存のクーポンレートが高い社債を償還し、市場金利の低下によりクーポンレートが低い社債に乗り換える
買取請求権付社債:Puttable bond 金利が上がると、社債保有者は権利行使を、発行会社に社債を買い取らせて資金を回収し、その資金でクーポンレートが高い新発債などに乗り換える
新株予約権付社債:Bond with stock purchase right 所定の権利価格以上に株価が上昇すると社債保有者は、株価上昇益を享受できる。株式に対するコールオプション付で金利は低い。

(3)短期借入金のみで負債調達をしている場合の負債コスト推定法

 企業の中には、ほとんど、あるいは完全に短期借入金だけで負債調達をしているところがある。このような場合には、短期金利を負債コストとして用いるべきではない。短期金利は、長期的なインフレに対する予想を反映していないからである。資本コストを見積もる際の時間軸は、キャッシュフロー予測期間の時間軸と一致させる必要がある。
 長期金利の方が、短期借入金を借り換えの繰り返しで長期化している企業にとっても、長期の金利コストの近似値として優れている。長期金利は短期金利の累積だからである。企業が短期負債のみに依存している場合は、テキストにあるように、その企業の長期負債の信用格付けを利用して長期債務の資本コストの近似値とする。

3.株主資本コストの推定のロジックとプロセス

 負債コストが市場利回りデータとして観察可能であるのに対して、株主資本コストは観察不可能である。そのため、株式価格を決める理論-資産価格モデル-に基づいて推定する必要がある。最もよく知られているモデルは、資本資産評価モデル(CAPM)、ファマ・フレンチ3因子モデル、裁定価格理論(APT)の3つである。株主資本コストつまり株主の要求収益率は、株式市場においても財務諸表においても明示的には存在していない。それゆえ推定しなければならない。それには理論が必要である。

①理論的には分散投資の世界でCAPMが成立する。
②しかし、現実はもう少し複雑である
③投資家が株式を売買するときには会社の将来の業績を予想する
④予想はその時に得られるさまざまな情報によって形成される
⑤その予想形成によって株価の売買が発生する
⑥ところが現代の社会では国内外で次々と新情報が発生する
⑦投資家は、情報が発生する度に予想を変更し株式の売買をする
⑧多数の投資が同じ状況にいるので、需要と供給が安定する機会がない
⑨現実にはCAPMの均衡が得られる瞬間などない
⑩このように考えると理論が成立するチャンスはない
⑪したがって、理論が正しいか検証できない
⑫しかも、CAPMは投資家の予想-各銘柄の平均収益率、分散および銘柄間の相関係数-が前提になっている
⑬しかし、投資家の予想データなどどこにも存在しない
⑭したがって、CAPMを検証したり応用したりすることはできない。
このように考えると不可知論に陥ってしまう。しかし過去の株価の情報はデータとして整備されているので、それを活用して将来を推計することはできる。もちろん、将来は過去の繰り返しではないので、それを単純に信じるのは賢いことではない。それは森羅万象すべてがそうである。そのことを自覚して過去のデータを賢く利用するならば、まったく何もないより合理的な行動ができる。そう信じることが重要である。

 

2021 ファイナンス研究会 第8回「経営者報酬」

税法と役員報酬

 

株式会社の経営は、取締役、執行役、執行役員、監査役といった役員によって行われる。役員の名称は取締役会のタイプによって異なる。一般社員の労働の対価は「給与」として支払われるが、役員の場合は「役員報酬」として支払われる。役員報酬を支払うことになる法人税法上の役員は、取締役、執行役、会計参与、監査役である。

役員報酬はどのように決定されるのか。会社法は、役員報酬について「定款または株主総会の決議によって定める」としている。したがって、役員報酬の総枠を株主総会で承認を得なければならない。役員報酬は不相当に高すぎると税務署から否認される可能性があるので、適正金額を設定しなければならない。役員が担っている職務内容、一般従業員への給与支給状況、同業他社の給与支給状況のほか、今後の事業計画や法人税と個人税のバランスなどを、多角的に検討した上で決定しなければならない。

役員報酬と給与の違い

会社が自社で働く人に対して行う支払いには、「給与」と「役員報酬」がある。雇用関係にある従業員に労働の対価として支払うものが給与である。役員報酬とはどのようなものであるのだろうか。また、なぜ給与と役員報酬という区別があるのか。

役員報酬と給与には、税務上の取り扱いに大きな違いがある。従業員に支払う給与は、不相当に高額でない限り、全額損金に算入できるのに対し、役員報酬を損金に算入するには一定の条件がある。例えば、毎月同じ金額を支払っていない限り、損金に算入することはできない。損金算入できれば、課税対象の金額が減ることになるので、法人税を減らすことになる。なぜ条件があるのかというと、オーナー企業の役員が自身で報酬を決めることができるという仕組を利用して、決算に大きな利益が見込まれると、決算の前に役員報酬を増やし、法人税を減らすという調整が行われることがあるからと言われる。

第361条(取締役の報酬等)
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

2 (略)
3 (略)
4 第一項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
(以下略)

 

役員報酬が損金算入を認められる場合として次の三つがある。

(1)定期同額給与

講義資料P.37 の「基本報酬」である。

役員報酬は、原則として「定期同額給与」で支払うこととされている。定期同額給与は、事業年度開始から3ヵ月以内に役員報酬の金額を決定する必要がある。株式会社なら、「株主総会議事録」または「取締役会議事録」を作成・保管した後、年度中は毎月同じ額の給与を「定期同額給与」として支給し続けなければならない。逆に、役員報酬は、毎月一定額を払い続けることによって損金に算入することができる。

(2)事前確定届出給与

講義資料P.37 の「年次インセンティブ報酬」である。

役員には、一般従業員に対して支払われるような賞与(ボーナス)はない。しかし、賞与に似た形で支払いをして、損金に計上することができる。それが「事前確定届出給与」である。
事前確定届出給与として支払うには、事前に「支払いの時期」と「金額」を税務署に申告する。届け出た金額を役員報酬として支払うことで、損金として認められる。

(3)利益連動給与

講義資料P.37 の「長期インセンティブ報酬」である。

利益連動給与とは、国内の法人が、その事業年度の利益に関する指標を基準にして、支給する役員報酬である。利益連動給与を支給するには、次の要件を満たす必要がある。

・その事業年度の利益に関する指標(有価証券報告書に記載されるものに限る)を基礎とした客観的な算定がなされていること
・利益が確定した後、1ヵ月以内に支払われた、または支払われる見込みであること

 

2021ファイナンス研究会 第7回「リスクマネジメントとファイナンス」

Financial Risk Managementをリスクマネジメントの遺憾として捉えるため、講義の冒頭ではリスクマネジメントの体系を説明しようと計画しましたが、時間が足りないので「リスクマネジメントとは何か」「ERMの特徴」と「リスク対策」の概略しか説明することができませんでした。ここではリスクマネジメントのプロセスを捕捉します。

目次:リスクマネジメントのステップ
◆Risk Appetite(リスクアペタイト)
1.潜在的リスク(エクスポージャー)の把握
2.被害の頻度と重大性の測定
3.リスク対策の検討
4.リスク対策案の決定・実行
5.リスク対策状況の監視

◆リスクアペタイト:一概に定義することは難しいがリスクアペタイトは次のような要因によって決まるという例示もある
①業界 ②企業文化 ③競合他社 ④追求する目標の性質(例:どれだけ積極的か)⑤組織の財務力と能力(例:資源が豊富な企業ほど、リスクとそれに伴うコストを喜んで受け入れる可能性がある)
-リスク選好度は時間の経過とともに変化することあるので留意すべきであり、可能であれば、状況、利用可能なリソース、スキル、技術、システムに応じて定期的または継続的にリスク基準に照らしてリスクを評価することが望ましい。例えば、通常で年に1~2回、特定のリスクシナリオでは毎日と言われている。

ステップ1 潜在的なリスクの洗い出し

1.企業のリスク・エクスポージャー()を把握する。リスクマネジメントを行う上で、どのような種類のリスクがあるのかを捉えることが重要
 ①火災や怪我などのハザードリスク
 ②離職率上昇やサプライヤーの倒産などのオペレーショナルリスク
 ③景気後退などのファイナンシャルリスク
 ④新規競合企業やブランドの評判などのストラテジックリスク、等々。
2.企業は、経験や記録(内部情報)、業界の専門家への相談、外部調査(外部情報)などを通じて自社のリスクを特定することができる
-インタビューやグループでのブレーンストーミングも有効
3.リスクの環境は常に変化しているので、このステップは定期的に見直す必要がある!
(*) 企業がリスクに曝されていること。リスクに曝されている資産やその金額

ステップ2 リスク実現の頻度とその影響度の測定

-あるリスクが発生する可能性はどの程度か、発生した場合の影響の重大さはどの程度か
 ・ヒートマップが最近多用されていると言われる
-ヒートマップとは、エリアごとにデータの数値を強弱で色分けしたグラフ
◆リスクマップ
-どのリスクが頻繁に発生し、どのリスクが深刻であるか(したがって、多くのリソースを必要とするか)を詳細に示す視覚的なツール
-①や②により、どのリスクの可能性が大きいか小さいか、または影響が大きいか小さいかを特定することができる
-リスクの頻度と重大度を知ることで、どこに時間と資金を使うべきかがわかり、リスクマネジメント・チームは資源配分の優先順位を決め易くなる
ヒートマップの例1 リスクマップの例1

ステップ3 リスク対策案の検討

・リスクを処理する方法にはどのようなものがあるか、問題は、どの方法がコストと効果の観点からバランスが最適であるか?
・企業には通常、①リスクを受容する ②回避する ③-リスクコントロール策をとる ④移転する という選択肢がある
リスクマップの例2

ステップ4 どの対策を取るかの決定および実

1.合理的な解決策をすべてリストアップする
-望ましい結果を達成できる可能性が最も高いものを選択する
2.人材や資金など、リスクマネジメントに必要なリソースを確定し、関係部署の承認を得る
-通常、シニアマネジメントの計画承認が必要である
-その後、チームメンバーに情報を提供する
・関係者は、必要に応じてトレーニングを受ける
3.リスク対策を、論理的かつ一貫性を持って企業全体で実行するために正式なプロセスと手続きを設定する
-リスクマネジメントに関わる全従業員に手続きの遵守を奨励する。

ステップ5 結果の監視

1.リスクマネジメントはプロセスであり、「終わった」ら忘れてしまうようなプロジェクトではない
-企業、環境、リスクは常に変化しているので、リスクマネジメントのプロセス全体を常に見直されなければならない
2.リスクへの取り組みが効果的であったかどうか、変更や更新が必要であるかどうかを判断する
-実施した戦略が効果的でない場合、チームは新しいプロセスからやり直さなければならないことになることを覚悟しておく
3.企業がリスクマネジメントのプロセスを徐々に公式化し、リスク文化を醸成していけば、変化に直面したときの回復力と適応力が高まる
4.これは、事業環境の全体像に基づいて、より多くの情報に基づいた意思決定を行い、長期的にはより強力なボトムラインを生み出すことになる

 

2021ファイナンス研究会 第6回「株主価値創造の投資決定理論」

今回のファイナンス研究会においては、株主価値創造のための投資の経済計算の基本指標として、正味現在価値法(NPV)と内部利益率法(IRR)を取り上げる。ここではその背景にある思想を紹介する。

そこには18世紀の産業革命による資本主義の成立と20世紀後半の資本市場の発展という背景がある。

1.18世紀後半に英国で始まった産業革命が製造業を一変させた。大規模な生産設備を用いた大量生産そして大量販売の時代が到来した。大規模な生産設備を持つには大きな資金が必要であるのでファイナンスが発達した。同時に大量販売のためのマーケティングが発達した。時代は下るが、第二次大戦終了後、戦争による技術革新の成果が波及し、米国経済は生産性の向上により急成長し、国民は豊かになり資本の蓄積が急速に須進んだ。その結果、資本に関する経済学が発達した。

2.それがファイナンスである。資本コスト論を中心に資本の「調達」に関する経済理論が発展するとともに、それに対応して資本の運用に関する経済理論が発展した。企業が生産活動の拡大に資本を投下する際の資本予算(capital  budgeting )および貯蓄を株式や債券などの金融資産に運用するための資産運用理論(portfolio theory)等である。

3.株式会社の目的は営利であり、事業を行うことにより、付加価値を生産し、付加価値から賃金・利息を支払った残りである純利益を株主に分配する事である。既存製品の拡大投資にせよ新製品投資にせよ、新規投資は事業を拡大させ付加価値生産を増加させ株主への純利益を長期的に増殖させる。それを株主価値の創造という。

4.投資とは、①最初に資本を調達して設備などへの投資を行い、②その後複数期間にわたって行われる事業から販売収益(売上高)を得て、③そこから投下資本を回収するとともに(企業会計的には減価償却費の計上)、資本に分配する利益を獲得することである。

5.ゴーイングコンサーンと想定される株式会社が、将来、稼得すると予想される純利益の現在価値が株主価値である。株主の資本を自己資本として設立され営利を追求する株式会社は、新規投資を行うことにより、将来の純利益を増加させ株主価値創造を目指す。そのための、経済性計算-新規投資は株主価値を創造するか否かの判断-が、資本予算Capital Budgetingあるいは投資の経済計算Investment Appraisalと呼ばれる。前者は、企業において希少な資本をどの投資案に配分するかという予算編成(Budgeting)のプロセスから派生した呼び名であり、後者は投資の採算性評価を中心として呼称である。

6.米国では、投資プロジェクトの評価尺度として会計的利益率(ARR:Accounting Rate of Return)または投資利益率(ROI:Return on Investment)あるいは回収期間(PB:Payback Period)が実務では普及していた。前者は投資期間中の年間平均会計利益を投資額で割った利益率であり、後者は年間キャッシュフロー(利益+減価償却費)により投資額を回収するのに要する期間を表す。

7.第二次大戦後、資本市場の発達を背景に、①キャッシュフロー概念、および②貨幣の時間価値概念が実務界に浸透し、③割引現在価値の合理性が認識され用いられるようになった。その結果、正味現在価値NPVおよび内部利益率法IRRが正当な投資の経済性評価指標として認知され、DCF法と呼ばれるようになった。ただし、欠点が指摘されているが、依然として、伝統的なARRもPBも広く利用されている。しかし、資本市場における資本のコストを認識する立場からは、①ARRの欠点としては貨幣の時間価値を考慮していないこと、および②PBの欠点としては投資の全期間のキャッシュフローを考慮していないことが指摘されている。それぞれ実務的には実感に合うことは理解できるので、現代ファイナンスの観点からは、DCF法をサポートする補助的な方法として利用することが推奨されている。

(若杉敬明)

2021ファイナンス研究会 第5回「レバレッジ効果と加重平均資本コスト」

1.ファイナンスには二つのレバレッジ効果がある。資金調達の面からの財務レバレッジと生産現場でのコスト面からの操業レバレッジである。固定金利あるいは固定費という「固定」部分が株主利益あるいは事業利益のリスク、リターンに影響を与えるという共通部分があるので、ともにレバレッジと呼ばれる。レクチャーで財務レバレッジを詳しく取り上げるので、ここでは操業レバレッジの概要を説明する。

操業レバレッジ(Operating Leverage) 財務レバレッジは、自己資本に加えて「負債を利用する」というファイナンスがもたらす、事業利益の一部である当期純利益(株主利益)のリスクに関する効果であったが、操業レバレッジは、事業利益自体のリスクに関する効果である。企業は事業を行って事業利益を上げるが、事業にはコストがかかる。コストにはオフィスのレントや工場の設備などのように売上高とは関係なく発生する固定費と、原材料費や部品費などのように売上高や操業度に比例する変動費とがある。その意味では売上高は当然「変動」収入である。ここでは販売数量をX(確率変数)とする。財務レバレッジの説明ではXは事業利益を表したがここでは販売数量であるので注意されたい。ここでは事業利益をΠ(大文字のパイ)で表す。これも確率変数である。製品単位当たりの価格をp、製品単位当たりの費用をcとする。pもcも一定であ。売上高および変動費はpX、cXであり、期ごとに変動する販売数量に依存するので確率変数である。(売上高-変動費)を貢献利益というが、単位当たり貢献利益は(p-c)、総貢献利益は(p-c) Xである。
総貢献利益から固定費を控除したものが事業利益Πである。
  Π=(p-c)X―F
景気の変動等により販売数量Xが変動すると、事業利益Πが変動する。Πの変動リスクをファイナンスではビジネスリスクあるいは事業リスク(Business Risk)という。
  σΠ=(p-c)σX
したがって、販売数量の変動リスクσXが同じであっても、単位当たり貢献利益(p-c)が大きいほどビジネスリスクは大きいということになる。単位当たり変動費cと固定費Fとの間に代替関係(トレードオフ関係)がある時、Fが大きい企業はcが小さいことから単位当たり変動費(p-c)が大きいので、事業利益の変動すなわちビジネスリスクが大きい。それゆえ、事業リスクを分析するとき、固定費対変動費という原価構造の影響を操業レバレッジあるいは営業レバレッジ(Operating Leverage)という。

2.法人税制下での投資利益率と加重平均資本コスト

加重平均資本コスト Weighted Average Cost of Capital : WACC とは、資本コストは負債および自己資本の要求収益率の加重平均であるという意味である。法人税が無い場合には WACC==r(B/A)+k(W/A)である。ここにr:金利(負債の要求収益率)、k:自己資本の要求収益率である。またB:負債、W:自己資本株主、A:B+Wである。自己資本の利益に税率tの法人税が課され場合には WACCt=(1-t)r(B/A)+k(W/A) となる。ここに、kは負債を調達していう企業の株主の要求収益率であり。(1-t)rは、税金があるとき金利は税率の分だけ低くなることを表している。その結果、負債を利用するほどWACCは低下するのである。これに対応して、投資の経済性計算において税引き後のキャッシュフローを用いるときには、キャッシュフローに(1-t)を掛ける。実際には、株主利益分だけに税金がかかるのであるが、キャッシュフロー全体に税金がかかったとして利益率を計算するのである。これについては次回(9月)の研究会にて取り上げる。

3.最適資本構成

講義では詳しく説明する時間がないのでここで詳論する。ROA ROE の平均をμ、標準偏差をσで表すと、ROA,ROEの定義式およびA=W+Bより次の関係が得られる。ここで負債比率B/W をLで表す。
  μROE=μROA+( μROA-r)・・・・・・④
  σROE=σROA+ σROAL   ・・・・・・・⑤
⑤式右辺の第1項σROAビジネスリスク(BR)そのものであり、第2項σROAは負債利用というファイナンスがもたらすリスクである。BRが負債調達というファイナンスの結果Lによって増幅されるリスクである。そこで、 σROAは、フィナンシャルリスクFRと呼ばれる。確かに、B=0つまりL=Oであれば FR=0 すなわち負債を調達していなければフィナンシャルリスクは0である。以上から、負債利用の高度化はROEをハイリスク=ハイリターンにすることが明らかである。これをレバレッジ効果という。
<倒産リスク>リスクが大きいということは、利益の変動が大きいということである。つまり、事業にとって悪環境が長く続いたりすると赤字が続き倒産のリスクが大きくなる。倒産リスクを抑えるためにはROEのリスクを一定範囲内に治めなければならない。その上限をσROE*と表そう。σROE*はいわば経営者のリスク許容度である。σROEは次の条件を満たさなければならない。
  σROE=σROA+ σROA・L ≦ σROE* ∴ L ≦(σ*-σROA)/ σROA=L*
この式から、負債比率Lの上限は、①ビジネスリスクσROAが大きいほど、また②リスク許容度σROE*が小さいほど、低いことが分る。
負債の節税効果から、企業は負債をより多く利用する方が資本コストという点で株主価値創造上有利である。しかし、過度の負債利用は倒産リスクを増大する。最適な資本構成の選択は上のL*であるべきである。(若杉敬明)

 

2021 ファイナンス研究会 第4回「バリュエーション」

バリュエーションとそのアプローチ

一般にValueとは価値とか価格のことであり、valuation(バリュエーション)とは価値を算定すること見積もること、あるいは市場で価格が決まることを言う。企業におけるファイナンスとは、資本を調達し、その資金で購入した財やサービスを駆使して製品を生産し・販売して投下した資金を回収するとともに利益を上げることである。その過程で、さまざまな財・サービスの購入・売却が繰り替えされる。その1年間の集約が企業の業績でありその最終結果が利益である。その成果が財務諸表に総括され、課税等の基礎データとなる。そこに至るまでには無数のバリュエーションが繰り返される。

1.ファイナンス論が対象とするバリュエーション
(1) 株式、債券への投資を行う際の金融資産の価値の計算
(2) 資本を調達し事業を行う際の「投資の経済計算」
(3) M&A(企業や事業の取得あるいは売却)の際の企業価値・事業価値の推定
(4) 財務会計、税務会計に、貸借対照表を作成する際の資産価値および負債価値の決定 
(5) 債権証券化の際の債権価値の推定、等々

2. M&Aにおける企業評価-バリュエーション-の方法
 M&Aにおいては企業評価-バリュエーション-が最も重要なプロセスになる。上記の3)である。しかし、最も難しいプロセスであり、いろいろな方法が提唱され利用されているが、次の三つに大別できる。

(1) コストアプローチ(ネットアセット・アプローチ)主として評価対象会社の貸借対照表記載の純資産(=総資産-負債)に着目して価値を評価する方法である。①簿価純資産法、②時価純資産法(資産・負債をすべて時価評価し自己資本価値を推定)が代表的である。

(2) マーケットアプローチ M&Aにおいて買収・合併対象の企業を評価する際に、コストアプローチと並んで採用される方法で、他の企業や業界との比較で評価する方法である。しばしば利用されるが、現代のように企業が多角化している時代には、比較対象の企業や業界を見付けるのが困難であり、容易そうに見えて客観的な評価が難しい方法である。①市場株価法 ②マルチプル法(倍率法、乗数法)とも呼ばれる類似企業比較法 ③類似取引比較法・類似業種比較法などがある。(https://www.ycg-advisory.jp/learning/valuation/market/

市場株価法 市場株価法は、評価対象企業が上場会社である場合に利用される。市場株価は、長期的には会社の収益力等に基づく企業価値を適正に反映して形成されると考えられているが、短期的には企業価値と無関係に変動することもある。そのため、一時的な株価の騰落といったマーケットの影響を排除するため、毎日の終値を1~3ヵ月程度の期間で平均を取り、これを評価額とするのが一般的である。

②類似会社比較法(マルチプル法) 類似会社比較法(マルチプル法:倍率法、乗数法ともいう)は、評価対象企業の類似会社にあたる上場会社の市場株価と、利益やEBITDA、純資産といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで企業価値を算定する手法であり、マーケットアプローチの1つである。評価対象が非上場会社である場合、市場株価が存在しないため、市場株価法に代替する手段として利用されることが多い。この場合、評価対象企業の流動性欠如について一定の割引(非流動性ディスカウント)を考慮する必要がある。DCF法などと比べれば客観性が担保されているとされるが、この評価の妥当性は選定した類似会社の妥当性に依存している。一般的には、類似会社は以下のプロセスによって選定する。
 1) 所属する業界、類似する業種の上場会社をリストアップする。
 2)同業種の上場会社がない場合、顧客属性や、事業構造、製品サービスの補完性などの観点から、類似会社を選択する。
 3) 事業戦略、ビジネスモデル、地域性、顧客層、製品構成、事業ライン、免許・許認可、規模、国際性などの観点から類似度を判別する。

③類似取引比較法 その他のマーケットアプローチの手法として、類似する企業あるいは業種のM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法がある。しかし、取引対象となった企業が非上場である場合、財務数値は、限定的にしか開示されていないため、類似度の判定が難しく、中小企業のM&Aで利用されることは少ない。

④類似業種比準方式 評価対象の会社に対して、類似している業種の会社を比較対象としながら株価を評価する方法である。

(3) インカムアプローチ 評価対象会社から将来期待される利益やキャッシュフローを、リスク等を考慮した割引率で割引くことにより企業価値を評価する方法 ⇨ ①DCF法 ②収益還元法 ③配当還元法など

3.社債のバリュエーション

レクチャーで取り上げる社債は普通社債(Straight Bond)と呼ばれる。通常は固定金利で、定期的に金利が支払われ、満期が来ると額面価額が償還される社債である。社債の金利は固定されているので、一見リスクがなさそうに見えるが、発行後の市場金利の動向によって社債の価値は変化する。つまり、社債にもリスクがある。

1)期限前償還条項付債券 社債の市場価値は、金利を将来の金利で割り引いたものである。金利が下がれば社債の価値は上昇し、債権保有者(Bondholder)は利益を得るが、発行体は逆に損をする。市場金利が下がったのに、高い金利を払い続けなければならないからである。発行体は、このような場合に備えて、満期前に償還できる契約をしておくことが望ましい。このような社債を期限前償還条項付債券(Callable Bond)という。発行体に有利であるので、発行体は市場金利より高いクーポンレートを設定しなければならない。

2)買取請求権付債券 逆に、金利が上がった場合は、発行体にとっては金利が低いときに調達しておいてよかったということになるが、債権者にとっては逆であるから、満期前にもかかわらず発行体に買い取って欲しいと思うはずである。このような条件が付いている社債を買取請求権付債券(Puttable Bond)という。この場合、債権保有者は市場金利で低い金利で我慢しなければならない。 このように、確定利付きの債権は元利のキャッシュフローを変えられないので、このようにリスク対策として選択権(オプション)が付与されるのである。そのほかに次のような債券がある。

3)新株予約権付社債(ワラント債) 発行会社の新株を一定価格で購入する権利(ワラント)がついている社債。その権利が付いている分だけクーポンレートは低い。将来株価が上昇する可能性が高ければ、投資家は低いクーポンレートを許容する。現在行う投資の効果が出るのが遅いので、当分利払いを低く抑えたい企業が発行する。

4)転換社債型新株予約権付社債(コンバーティブルボンド) 発行会社の新株を購入する権利が付いているが、権利を行使する社債は消滅する。ワラント債と同様であるが、資金に余裕のない投資家に向いている。

5)仕組み債 上記の1)~4)にもオプションが組み入れられているが、さらに複雑な条件の下でのオプションやスワップなどのデリバティブを組み込むことで、通常の債券のキャッシュ・フローとは異なるキャッシュ・フローを持つようにした債券である。

6)担保付社債 社債の債務に対して担保が設定されていない社債で、債務不履行時の保証がなく、デフォルトリスクがある。リスクを負担する分だけクーポンレートは高い。

 そのほかにもさまざまはバリエーションがある。

4.債券価格:オーバーパーとアンダーパー(P.6)
 債券の価格が、額面金額と同じである状態を「パー」という。債券価格が額面を下回る場合は「アンダーパー」、額面を上回る場合は「オーバーパー」という。ただし、これは日本だけの用語で、英語ではabove parまたはat a premium, premium bondなどと呼ばれ、後者はbelow par, at a discount, discount bondなどと呼ばれる。

5.債券価格:価格弾力性としてのデュレーションと修正デュレーション(p.8)
 債券の価格弾力性とは、金利の変化に対する債券価格の変化の割合のことをいう。例えば、金利が2%動いた時に債券価格が4%動いたとすると、価格弾力性は、2(0.04÷0.02=2)である。価格弾力性Dは、価格Bの変化率(ΔB/B)を金利(1+r)の変化Δrを1+rで割ったもの(Δr/1+r)として表される。このとき債券価格の変化額ΔBは次のように表される。ΔB=-B・{D/(1+r)}・Δr。Dを加工して、{D/(1+r)}=D*とすると、ΔB=-B・D*・Δrとなるので債券価格Bの変化額ΔBを表す式が簡略化される。そこでD*が修正デュレーションとして実務的には多用される。

6.株価指標の見方

配当利回りDY(p.36):株式投資収益率は、配当利回り+株価上昇率と定義される。個々の企業の期待収益率つまり要求収益率は、株式市場において金利+リスク・プレミアムで決まるが、リスク・プレミアムはベータリスク(システマティック・リスクあるいは市場リスク)によって決まり、ある意味ではこれは企業に固有の値である。したがって、企業の成長率我高いときには配当利回りは低く、株価値上がり率が高い。そこに注意が必要である。配当利回りは配当だけに着目する投資家の株価指標であり、利用するときには注意が必要である。

株価収益率PER(p.37):PERは、株価が1株当たり純利益の何倍まで買われているか、すなわち1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかを見る投資尺度である。現在の株価が企業の利益水準に対して割高か割安かを判断する目安として利用される。PERの数値は、低いほうが株価は割安と判断されます。p.37で分析されているように、一般的に利益成長の高い会社ほど、将来の収益拡大の期待が株価に織り込まれるため、PERは高くなる傾向がる。しかし、PERが何倍だから割安、割高という絶対基準はなく、業種によってPERの水準は異なるので、同業種間、経営内容の似ている企業間での比較に用いるのが一般的である。

株価純資産倍率PBR(p.38):PBR1倍は株価と資産価値(株式発行と利益の内部留保による株主の出資)が同じであることを意味する。PBRが1を下回ると株価が資産価値よりも低くなっているわけであるから、言い方によっては割安だと判断される。しかし、P.38によると、PBRが1より低くなるのは、企業のROEが株主の要求収益率kより低いときである。つまり、株主が期待しているだけの利益率(要求収益率)kを企業があげることができないでいることを意味する。この数ヶ月の日経平均企業のPBRは1.25前後である。https://nikkeiyosoku.com/nikkeipbr/ (若杉敬明)

 

2021 ファイナンス研究会 第3回「資本市場におけるリスクの評価」

前回は、資本市場の存在(金利)を前提に、確実なキャッシュフローの時間価値を考えてきた。今回の研究会においては、企業に資本を供給する側の観点に立ってリスクがある将来のキャッシュフローの現在価値についてどう考えるべきかを検討する。現実の世界では、確実なキャッシュフローは極めて少ない。銀行は、預金金利を払って預金を集め、企業や個人に貸付けを行い、元本を回収するとともに金利を受け取り、預金金利との利鞘を収益としてきた。貸付けにおいては、貸付先の都合で金利が払われなかったり、元本が返済されなかったりする。信用リスク、貸倒れリスクである。その損失を補償するために、貸付先全体にプラスアルファの金利を課して、貸倒れの損失を埋め合わせようとする。このプラスアルファを、(貸倒れ)リスク・プレミアムと呼ぶ。講義の前半では、貸倒れに対するリスク・プレミアムがどのような要因で決まるかを簡単なモデル(貸付期間1年)で解明する。この場合、銀行の貸付け事業の現在価値は、貸付額×元利の回収確率を乗じた「期待貸付け回収額」を、要求収益率である「金利+貸倒れリスク・プレミアム」で割り引いた割引現在価値である。

 後半においては、ビジネスリスクを負担する株主にとってのリスク・プレミアム決定理論を取り上げる。いわゆるCAPM(資本資産評価モデル)ある。株主にとって株式投資収益は配当と株価値上がり益(または値下がり損)であるが、いずれも金額が予め決められているわけではない。どのようにリスク・プレミアムが決まり、要求収益率が決まるのであろうか。現代のファイナンス理論は、株式市場における諸現象から、リスクに関する市場原理を解明したのである。

Ⅰ 金利について―短期金利と長期金利―
1.研究会での用語の整理
・金利;利子、利息、利率、年利等の総称であるので、どれを指しているかは状況によって判断する。
・利子・利息:金利を金額(円)で表したもの
・利率:金利を比率(%あるいは小数)で表したもの。年あたりの利率は年利、月当たりは月利という。単に利率と言うときは年利を指すことが多い。
・利回り:投資金額に対する投資収益の割合をいう(%あるいは小数)。投資金額とは債権で言えば市場で流通している債券の価格である。
・投資収益:英語ではリターン。伝統的には配当あるいは利子を言ってきたが、最近は配当・利子+キャピタルゲイン(またはキャピタルロス)を指すのが普通であり、トータルリターンとも呼ばれる。アカデミックな論文などでは「投資収益」とも言われる。
・リターン:通常はrate of returnレート・オブ・リターンの略語

2.短期金利と長期金利
(1)短期金利
・期間が1年未満の金融資産の金利。日本の市場では政策金利によって誘導されて決まる
  ①政策金利:中央銀行(日銀)が金融政策によって市場金利を誘導する際の目標となる基準金利。すなわち、中央銀行が、一般の銀行に資金を貸し出す時の金利で、短期金利の基準。
  ②金融政策:利上げ、利下げ、量的緩和など、中央銀行が、政策金利を変更して、市中に流通する通貨量を調整することをいう
(2)長期金利
・期間が1年以上の金融資産の金利で、期間、短期金利・将来の見通し等および金融資産の発行者(借り手・資金調達者)の信用力を前提に市場で決まる。信用力に関しては、国と企業間、企業間の信用力(リスク)の差が最も大きな要素である。
  ①10年債国債利回り:長期金利の代表の一つ。最も信用力があるとされるは10年国債利。一般投資家が国に10年間お金を貸す時に受け取る金利であり期間約10年の市中金利の基準回
  ②10年債社債利回り:長期金利のもう一つの代表は10年社債利回りである。一般投資家が企業に10年間お金を貸す時に受け取る金利。10年国債利回りに、企業ごとの信用力に応じた上乗せ金利(プレミアム)を追加した金利である。
3.債権投資のリスク
・債権とは、法的に言えば、特定の相手に特定の行為や給付を請求できる権利である。金銭の支払いを求める権利、つまり貸したお金を返してもらう権利がその代表である。ここではそのような債権を持つことを債券投資と呼ぶ。
(1)金利リスク:貸したお金は将来返済されるが、将来のお金の現在価値は金利によって変動する。これを金利リスクという。市場金利の変動は、対策を立てることが可能であるが回避することは不可能である。
(2)信用リスク:将来支払うべき元利が相手の事業や財産状態により確実に支払われない恐れがあることを信用リスクという。金利の支払いや元本の途中返済が遅れることなどである。あるいはそれらにより、信用格付けが格下げになり債権の価値が下がることもある。最終的には、債権の回収がまったく不可能になり貸倒れ(default)ということもある。上述の国債利回りと社債利回りの差(スプレッド)は、信用リスクの大きさにより貸出金利をコントロールし、信用リスクの影響を回避しようとすることである。

講義の前半では、信用リスクがどのように貸出金利に反映されるかを数値的に見ていく。

Ⅱ 資本資産評価モデルの考え方-株式市場におけるリスクの評価-

個別銘柄の投資収益率は、市場と連動して変動する部分(市場リスク、システマティック・リスク)と市場とは無関係に変動する部分(非市場リスク、アンシステマティック・リスク)とから構成されている。複数の銘柄を組み合わせると、非市場リスクが相殺され組み合わせた投資-ポートフォリオ-のリスクは減少する。ポートフォリオに多数の銘柄を組み入れれば入れるほど分散が深化し、個々の銘柄のアンシステマティック・リスクは相殺され消去されていく。そのようなポートフォリオを分散ポートフォリオ(Diversified portfolio)という。分散投資の効果を最大限に生かした究極の分散ポートフォリオは、株式市場で売買できる銘柄をすべて保有する市場ポートフォリオである。

 分散投資において重要なことは、個別銘柄の投資収益率(TSR)の変動は銘柄の増加とともに減少するが、個別銘柄の投資収益率の平均(期待収益率)は銘柄の影響を受けず維持され、銘柄数の増加によって相殺されるというようなことは起こらないことである。したがって、分散投資によって組入銘柄の期待投資収益率が減少することはない。分散投資はリスクを減少させるというメリットだけがありマイナス面はないのである。

 したがって、同じ平均であるならよりリスクが小さいことを望む危険回避投資家(Risk Averter)にとっては、可能な限り銘柄を多様化し分散ポートフォリオを保有することが合理的な行動である。究極の分散投資は市場ポートフォリオであるから、合理的な投資行動とは市場ポートフォリオを保有することである。アンシステマティック・リスクが消去された市場ポートフォリオは、すべての銘柄の、究極の分散投資でも消去できないアンシステマティック・リスクを総計したもので、システマティック・リスクそのものを表している。

 分散投資理論に基盤を置く資産運用の世界では、市場ポートフォリオが基準になり、市場ポートフォリオの投資収益率つまり市場収益率の平均μMとリスクσM2が投資成果の基準となる。分散投資で消去されるアンシステマティック・リスクは、それがいかに大きくても無視され、リスク・プレミアムの対象にはならない。リスクとはシステマティック・リスクであり、システマティック・リスクがリスク・プレミアムの対象になる。

 個々の銘柄のiのシステマティック・リスクは、システマティック・リスクそのものである市場収益率の変動との連動性を表す共分散σMiで測定される。ここで、共分散が、プラスであれば個別収益率と市場収益率の増減が同じ方向に同じ方向に動く傾向があり、マイナスであれば反対方向に動く傾向があると判断される。また共分散の絶対値が大きいほど、個別銘柄の変動が大きいと判断される。なお、市場収益率のリスクσM2は共分散の合計である。市場収益率のリスクσM2を1と基準化すると、個々の銘柄のiのシステマティック・リスクは、σMi/σM2と表される。これはベータ係数あるいは単にベータと呼ばれβと表される。これは、個々の銘柄の投資収益率のシステマティック・リスクの大きさが、市場ポートフォリオの何倍であるかを表している。

 ファイナンスの世界では、リスクに対してリスク・プレミアムが与えられる。金利をrFとするとき、市場ポートフォリオに対するリスク・プレミアムは(RM-rF)である。市場ポートフォリオのベータ係数はβM=σMM/σM2=1である(分散σM2とは自らの変数と自らの変数との共分散σMMである)。銘柄iの投資収益率の平均(=期待投資収益率)をμiとするとそのリスク・プレミアムは(μ-rF)である。この銘柄のベータ係数がβであるということは、この銘柄は市場ポートフォリオのβ倍のシステマティック・リスクを有しているということである。したがって、市場ポートフォリオのリスク・プレミアムのβ倍のリスク・プレミアムが相当である。それゆえ、次の関係式が成立する。
       μ-rF=β( μM-rF
       μ=rF + β( μM-rF
これが分散投資理論であるポートフォリオ理論における市場均衡のモデルで、Capital Asset Pricing Model(CAPM;資産評価モデル)と呼ばれる。
 現代投資理論によれば、株式市場においては、個々の銘柄の期待収益率に関して上の式が成立するところで、株式市場に生まれる需給が均衡し株価が決まる。企業価値-株主価値-が決まるのである。
市場均衡においては、要求収益率は期待収益率に等しくなる。市場でこの期待収益率が成立しているならば、投資家はこれより低い期待収益率で我慢することができない代わりにこれより高い収益率を期待することはできない。上の式は、要求収益率がどのように決まるかをも表していると言える。
 CAPMは株式市場を前提として導かれているが、リスクの分散ということは、ファイナンスを含めこの世の中で重要な原理の一つであるので、CAPMはリスク・プレミアム決定の普遍的な理論とされている。 (若杉 敬明)

 

2021 ファイナンス研究会 第2回「資本市場と貨幣の価値」

Q&Aセッション ここ

 貨幣の時間価値の問題は、技術的には複利(compounding)と割引(discounting)の問題であるので、ここで特に付け加えることはない。しかし、実際の計算をエクセルの財務関数で行うことを今回の目的としているので、今回取り上げたPV関数、FV関数、PMT関数の変数(インプット)について説明をしておく。どの関数も、引数として、「利率」、「期間」、「定額支払額」、「現在価値」および「支払期日」という5つのインプットを定めることを求めている。同じ名前であるが、関数によって内容が異なるものもあるので、ここで説明しておく。3関数の使い方は動画<番外編>を視聴されたい。

PV関数(ローン返済や満期積立金を目指して定額の支払いをするとき、ローンの借入額や貯蓄をスタートするときの必要な頭金額が、定期支払額の現在価値として求められる)
1.利率:年率の数値をパーセント表示でインプットする。例えば、関数PV (・,・,・,・,・)(・は引数を表す)の最初の・には利率が入っているセル(a5とC3とか)を記入する。ただし、支払いや受け取りが月ごとになされる場合には、月率に換算する必要があるので「a5/12」や「C3/12」とする
2.期間:返済や積立の年数を指定する。関数においては(2番目の・に期間が入っているセルが記入される。月払い等では、セルを12倍する。つまりa6*12とC4*12となる。期間というよりは支払いや受け取りの回数である。月払いで10年であったら、セルa6やセルC4に最初から120と記入してもよい
3.定期支払額:ローンの場合毎期の返済額を、積立貯蓄の場合毎期の払込額を指定する。通常、マイナスで指定する
4.将来価値:残高を指定する。ローンを完済する場合は0を指定。積立貯蓄の場合は満期受取額を指定
5.支払期日:返済や払込が期首に行われるか期末に行われるかを指定する。期首の場合、通常は1を指定する

<例題1>3年後に300,000円必要である。3年の間、月末に10,000円ずつ積立て、満期積立額(将来価値)として300,000円を確保したい。頭金として今、いくら用意しなければならないか。

<答>B6にカーソルを置き、財務関数からPVを選ぶと、引数の表が現れるので、順に B1/12, B3*12, B3, B4,B5 をインプットすると、B6には、=PV(B1/12, B2*12, B3, B4,B5)が入り、瞬時に答えとして¥66,587が計算される。

  A B
1 利率(年利) 2%
2 期間(年) 3
3 定期支払額 -10,000
4 将来価値 150,000
5 支払期日  
6 現在価値(頭金) ¥66,587

 

◆ FV関数(ローン残高や満期積立額が定期支払額の将来価値として求められる)
1.利率:年率の数値をパーセント表示でインプットする。以下、PV関数と同じ
2.期間:返済や積立の年数を指定する。以下、PV関数と同じ
3.定期支払額:ローンの場合毎期の返済額を、積立貯蓄の場合毎期の払込額を指定する。通常、マイナスで指定
4.現在価値:ローンの場合借入額を、積立貯蓄の頭金を指定する。省略すると0が指定されたものとみなされる
5.支払期日:返済や払込が期首に行われるか期末に行われるかを指定する。期首の場合、通常は1を指定する

<例題2>年利3%で1,000,000円を借りて、一ヶ月後から毎月末に30,000円ずつ3年間返済するとき、3年後のローン残高はいくらか。

<答>財務関数からFVを選択し、引数の表に順に B1/12, B2*12, B3, B4,B5 をインプットすると、B6には、=PV(B1/12, B2*12, B3, B4,B5)が入り、瞬時に答えとして¥-54,372が計算される。

  A B
1 利率(年利) 3%
2 期間(年) 3
3 定期支払額 -25,000
4 将来価値 1,000,000
5 支払期日  
6 現在価値(頭金) ¥-54,372

 

PMT関数(定期的にローンの返済や積立貯蓄の払込を行うとき、1回当たりの返済額や払込額がいくらになるかを求める)
1.利率:年率の数値をパーセント表示でインプットする。以下、PV関数と同じ
2.期間:返済や積立の年数を指定する。以下、PV関数と同じ
3.現在価値:ローンの場合は借入額を指定し、積立預金で頭金を入れる場合は頭金を、頭金がない場合は0を指定する
4.将来価値:ローンで借入金を完済する場合は0を指定し、積立の場合は目標満期額を指定する
5.支払期日:返済や払込が期首に行われるか期末に行われるかを指定する。期首の場合、通常は1を指定する

<例3>金利3%のローンで100万円を借りた。頭金はなしで毎月返済するとき、月々の返済額はいくらであるか。なお、最初の返済は契約と同時つまり期首に行う。

<答>財務関数からPMTを選択し、引数の表に順に B1/12, B2*12, B3, B4,B5 をインプットすると、B6には、=PV(B1/12, B2*12, B3, B4,B5)が入り、瞬時に答えとして¥-29,009が計算される。毎月のローン返済額は29,009円である。

  A B
1 利率(年利) 3%
2 期間(年) 3
3 現在価値 1,000,000
4 将来価値 0
5 支払期日 1
6 定期返済額 ¥-29,009

(以上)

Q&Aセッション

Q01:マイナス金利ですが、これはあくまで中央銀行が意図的(市中銀行の預け金を少なくする)に行っている政策金利であり、ファイナンス理論上は時間的価値がマイナスとなることはない、という理解で宜しいでしょうか?大量の紙幣や硬貨に対する保管的なコストが時間的価値を上回るような概念は別としまして。

A01:名目金利と実質金利とに分けて考える必要があります。貨幣価値の変動が予想されている時には、実質金利=名目金利-予想インフレ率、デフレの時には実質金利=名目金++予想デフレ率です。

(1)インフレやデフレが予想されていない場合:常識的に考えて名目金利がマイナスになることは考えられません。マイナス金利で預金すれば現在価値が減少するのですからわざわざ預金する人はいません。したがって、市場でマイナス金利は成立しません。ただし、巨額の資産を持つ富裕者は、何らかの理由で流動性が必要な場合、安全に現金を預かってもらう代わりに保管料として銀行に金利を払うこと、つまりマイナス金利を承知するかも知れません。これが質問の最後にある断り書きのケースで(事実上のマイナス金利)が考えられます。巨額の資産の保有者は他の部分をリスクのある資産に分散投資などをすれば、そこからの利益で預金のマイナス金利を払うことができます。したがって、マイナス金利の預金を受け入れることが考えられますが、現実には、銀行や証券会社のプライベート・バンキング部門が富裕者の資産を預かり、総合的に富裕者の資産管理をしてくれますので(その分プライベート・バンキングの手数料がかかりますが)、マイナス金利の銀行預金は事実上成立しないでしょう。銀行はマイナス金利(預かり料)でなくゼロ金利で調達しても、その資金は、貸倒れリスクなどを理由に、プラスの金利で貸出しを行えますから、(経済活動が全体として付加価値を生む限りは)十分採算の取れる預貸業務を営むことができます。おかげで、それほど大きな資金を持たない者も、マイナス金利でなくゼロ以上の預金を享受できます。

(2)インフレ予想下の場合:インフレ下であれば黙っていても貨幣価値は時間とともに減少します。名目金利がマイナスであれば預金の貨幣価値の減少をさらに加速するわけですから預金する人はいません。自宅の金庫預金より銀行預金の方が安全だと考える人は、実質金利がマイナスでも預金をするかも知れませんが、マイナス名目金利では預金をする人はいないでしょう。仮にいても、量がわずかでビジネスになりませんから市場ではマイナス金利が成立しないでしょう。

(3)デフレ予想の場合:名目金利がマイナスでも、絶対値が予想デフレ率以下であれば、実質金利はプラスです。したがって、マイナスの名目金利は成立することが可能です。それでも、黙っていても貨幣価値が上がるのですからだれも、マイナス金利の預金を使用とは思わないでしょう。自然と金利が上昇しゼロ金利以上になるはずであり、現実にマイナス金利になることはないと考えるべきです。

(4)いずれにしろ、貨幣価値の変動が会ってもなくても、わざわざマイナス金利の預金をするメリットはほとんど無いわけですから、ファイナンス理論的あるいは経済理論的にはマイナス金利はあり得ないと言えます。銀行間や国際間ではマイナス金利が成立することがあると言われますが、それは名目金利ではなく事後的な実質金利のようです。⇨ 参考

(5)わが国のマイナス金利:わが国の政府はこの10年間、デフレから脱却することが長期の経済成長路線に乗せる唯一の方法だと考えてきました。そして経済成長とは国全体としての付加価値つまりGDPの成長にあるので、企業が積極的に投資等をすることが必要だと考え、アベノミクスの下で企業に成長のヒントを示唆する第三の矢を放ちました。その前提にあるのは、日本企業が積極的にリスクをとって前向きの投資に乗り出さないのは、お金がないからだという認識でした。それゆえ、第二の矢の金融緩和施策で銀行を通して市場に資金を供給しましたが、産業界に資金が出回るどころか、資金は銀行に滞留するばかりで,銀行の日銀への預金を膨らませるばかりでした。そこで、日銀に預金をしないで企業に成長資金として供給させようと、日銀への預金をマイナスにしたので、日銀のマイナス預金政策です。政府の認識と政策はどこか間違っていように思います。   (若杉敬明)

2021ファイナンス研究会 第1回「コーポレートファイナンス-序-」 

Q&Aセッション ここ

 現代の人類「ホモサピエンス」は、数十万年前に地球に誕生して以来、人々が集まり社会生活を行うことにより種族として発展してきた。現代においては、地球上の各地に散らばった人類は、それぞれ国を形成し経済や政治のシステムを作り生活している。わが国はじめ民主主義を基本とする資本主義国では企業形態の中心は株式会社であり、株式会社が経済を支えていると言っても過言ではない。400年の歴史を有する株式会社は資本主義に適合した優れた仕組みであるが、現在のように複雑な環境においては株式会社制度の運営は決して容易ではない。株式会社が人々の生活に貢献するためには、時代によって変質する資本主義の現状にあった株式会社制度のあり方を工夫していくことが不可欠である。その根本問題がコーポレートガバナンスである。株式会社を経営するのは経営者であるので、経営者の経営を社会が必要とする経営に誘導する仕組みが必要である。それが取締役会のガバナンスである。株式会社制度にはそれが内包されているが時間の経過とともに形骸化してしまった。20世紀から21世紀にかけて世界経済が大きく変容する中で、株式会社は業績低迷や経営者の不祥事などの問題を頻発させてきた。各国はコーポレートガバナンスのあり方に根本問題があると認識しコーポレートガバナンス改革を進めている。このような認識の下、第1回のコーポレートガバナンス研究会においては、コーポレートガバナンスをいろいろな角度からみてみる。

1.ファイナンスとは
 人々は働いて収入を得ると,大半を日々の生活費に充てるが残りを将来の大きな支出や不時の場合に備えて貯蓄する。それらは株式や債券の購入に充てられたり,金融機関に預けられたりして,金融資産の形をとる。あるいは企業も一時的に余裕のある資金を金融資産などで運用する。逆に,将来の収入をあてにしてお金を調達し現在消費する人もいる。また企業は製品からの将来の収入を見込んで資金を調達して投資しようとする。金融機関といってもさまざまあるが、これらは余裕資金を持つ個人や企業から集めた資金で,株式や債券の購入,あるいは企業や個人への貸し付けを行う。
 貸し付けを受けた個人はその資金で、たとえばマンションやマイカーの購入に充てる。企業は,株式や社債の発行や金融機関からの借り入れにより資金を調達し,事業を拡大するために,工場を建設したり,内外の会社を買収したりする。そしてそれらの事業からの売り上げの中から調達資金を返済したり,金利や配当を払ったりする。このように個人や企業は資金を調達したり運用したりしている。このような資金活動は民間部門だけでなく、国や地方自治体も行っている。政府は,税金の徴収や国債の発行により資金を調達し,国民に生活基盤、教育・科学、衛生・保健等々に関する公共サービスを提供するほか,公共事業と称して民間ではできない事業を行う。そして,将来の税収や事業収入で国債の元利の支払いを行う。このようにさまざまな経済主体が資金を供給したり調達したりしている。これをお金の融通という意味で一般に金融といいます。個々の経済主体に関しては財務や財政など使い分けることもある。英語ではすべてファイナンス(finance)である。経済主体別には,個人金融(personal finance),企業金融・企業財務(corporate finance),国家財政(public finance)などと呼ばれる。

2.経済とファイナンス
 どのような職業であるかにかかわらず,人々は働いて収入を得て,それで生計を立てている。その収入を,毎月,衣食住や娯楽・交際等々のために支出して生活を楽しむ。しかし,ほとんどの人は,給料のすべてを使ってしまうのではなく,将来の大きな買い物,たとえばマイホームやマイカー,子供の教育資金,老後の生活費,あるいはいざというときの備え等々のために,収入の一部を貯蓄する。
 貯蓄を銀行に預けたとする。銀行は,多数の人から集めた預金を,事業の拡大などを目指す企業に貸し付ける。あるいは大きな買い物(たとえばマンションの購入)を使用としている個人に貸し付ける。もちろん,いずれの場合も,将来,きちんと返してもらえること、つまり回収できることが前提である。そのためには、個人であれば安定した所得が見込めなければならないし、企業であれば事業から十分な収入を上げられると期待できなければならない。
 事業を拡大した企業のばあい、事業の拡大で増加した売上高により利子を払い元本を返済していく。銀行の住宅ローンを利用した個人は将来の所得から元利を支払う。銀行は貸し付けからの元利収入で、預金をしてくれた人たちに利子を払ったり預金の引き出しに応じたりする。
 金融機関の役割は、個人から資金を集め企業に資金を供給し企業の活動を促進することである。銀行が貸し付けた資金を回収できなくなると、資金が思うように集められなくなり金融機能が麻痺してしまう。一昔前の話になるが、バブルの破裂後の1990年代半ばから世間を騒がせた銀行の不良債権問題は,銀行がきちんと返済してもらえると判断して貸し付けた資金が,景気低迷による業績悪化や倒産で回収できなくなったことが原因であった。もちろん、個人の中にもリストラなどで仕事を失い収入が絶え返済不能になった人も多数いた。いずれにせよ、銀行が貸付金を正常に回収できなくなり、預金の返済が危ぶまれるという状況になり、銀行が機能しなくなり、その結果、金融が正常に機能せず、日本の経済が停滞することになった。不良債権問題解決の目途が付くのに10年の歳月がかかた。
 また、2007年頃からアメリカのサブプライムローンの貸し倒れ急増に端を発した金融危機では、サブプライムローン関係の証券化商品に多額の投資をしたアメリカやヨーロッパの金融機関が大きな損失を出し、経営が脅かされることになった。その結果、一時的にではあるが、金融機関は資金を集めることができなくなり、企業に資金を供給することもできなくなった。金融危機により多くの人々が損失を被ったということもありますが、金融機能そのものに対する不安や不信が残り、金融が停滞したのである。その結果、とくに国民の貯蓄が大きい先進国の経済は数年が経過しても不振に喘いだ。
 金融において大事なことは、預けたお金が返ってくる、貸した資金は返してもらえるということである。逆に言えば、借りた人や企業はきちんと元利を返済しなければならないということである。それができれば、お金を預けた人は、最終的にそれを使って事業を行った企業からの利益や利子で元本を増やすことができ、将来、貯蓄した以上の金額を消費することができる。金融が順調に行われれば、お金が世の中を円滑に循環し、経済活動が活発になり、豊かで安全な社会が実現する。お金が円滑に循環するための原理を探るのがファイナンス論であり、本ファイナンス研究会の目的でもある。(若杉敬明)

Q&Aセッション

Q01:「P18  家計が黒字主体で赤字主体の政府に資金を供給・・・・」とありますが、国債発行残高が1,000兆円を超えておりますが、よく日本国内で保有されているからとか、将来の子孫に負担を押し付けるものでないとか言われております。家計に置きなおすと、600万円の年間所得者が1億円の借金を抱えているようなもので、プライマリーバランスも中々実現できず、消費税30%が必要になるかも知れません。この問題に我々の世代としてはどのように対応していけば宜しいのでしょうか?

A01日本の国債は、目的別に見ると①普通国債(歳入債)、②財政投融資特別会計国債(財投債)、③繰延債、④融通債に分類されますが、通常国債と言っているのは普通国債です。普通国債の主たるものは建設国債と赤字国債です。質問の趣旨に応じてこの二つについて私の理解を述べます。

 わが国では、財政の安定を図るために国家財政は収支均衡主義がとられています(が、以下に述べるように形骸化しています)。収支均衡主義とは、財政支出を財政収入の範囲以内に抑える考え方です。主たる財政収入は税収ですから、国のさまざまな事業は税収の範囲で行うことになっています。したがって、税収で賄えない事業は民間に委ねることになります。国が国民のためにいろいろな政策を行おうとすると財政支出が増えますから、自ずと税金も高くなります。また、政策の実行のために政府で働く人も増え、大きな政府になります。逆に、なるべく国は経済に関与せず国の事業を抑制しようとすると、お役人の数も少なくなり、「小さな政府 small government」ということになります。道路の建設や空港・港湾設備などのインフラ関係の事業(国を建設する事業)は、数十年という長期にわたる事業で、採算が取れるには非常に長い期間を要します。またリスクもともないます。民間の経済計算に合わないので、国がそのような事業を行うことになります。インフラの整備が本当に経済活動に貢献するものであれば、その成果として経済が活性化し、企業は利益を上げることができるので、将来的には税収が増えます。また企業や国民は、インフラの利用料金や利用税など払ってくれます。その結果、インフラ投資のために要した資金を回収できます。また、したがって、このような事業のためであるならば、その直接・間接の効果で発行された国債の償還が自ずと可能です。このような事業のためであるならば国債を発行しても、収支均衡の原則に反することがありません。このような見通しの下で発行される国債を建設国債と呼びます。

 それに対して、石油危機や金融危機が生じた場合には、経済全体が落ち込み税収が激減し、収支均衡を貫くことができません。税収の減少に合わせて事業を縮小すれば、国民は大きな不便を負わなければ成りません。一旦、収支均衡から離れ、国債の発行により税収の不足を補い、国の事業を維持したり、あるいは不況から脱出するための積極的な財政支出を行ったりすれば、むしろ、経済が再び活性化し危機を乗り越えることができます。その結果、税収が増えることになり、国債の償還が可能になります。このような状況において発行される国債は、国の事業を維持するためにあえて財政赤字の時に特例で発行されるものであるから特例国債として制度化されており、赤字国債とも呼ばれています。しかし、建設国債にして赤字国債にしても、その償還が可能であるか否かを慎重に検討しなければなりませんから、発行に際しては国会での議決が必要です。特に赤字国債は、国債発行の採算計算が難しく、また国会議員が人気とり票獲得のために安易に賛成しがちで、借金地獄に陥るリスクが大きいことから、慎重に発行することが求められます。

 日本では、第二次大戦後、経済の復興が比較的順調で収支均衡、国債の国会議決の原則で財政運営がなされてきました。しかし、1965年佐藤栄作首相の下で初めて赤字国債が発行されましたが(証券恐慌による昭和40年不況)福田赳夫蔵相が抵抗したことや、オイルショック後の1975年三木武夫内閣が赤字国債を発行する際大平正芳蔵相が「万死に値する」と述べ「一生かかって償う」と語ったことは有名です。今思えば、現在の政治家には見られない矜持をもった政治家でした。しかし、そのような政治家は現れず、ばらまき政治を続けるために赤字国債の発行が恒例化、常態化しています。ひとたび赤字国債の味をしめると、政治家は安易に赤字国債の垂れ流しに陥ることは各国で経験されていることです。赤字国債が発行され続けると、国民の貯蓄は新しい投資には向けられず、赤字国債の借り換えと膨らむ金利支払いに向けられ、現状維持で経済は停滞して行きます。そうではないという理論もありますが、日本の現状は借金地獄に落ちたサラリーマンと同じで、ただ借金の返済と毎日を生きていくだけの経済と同じだではないでしょうか。

 国民が政治の重要性を認識し選挙に積極的に参加し、日本の将来を考えてくれる人を自分たちの政治家として選ばないと、政治に利用して自分の利益を追求しようとする一部の選挙民と、それに応えようとする政治家の国になってしまいます。政治のお粗末は、残念ながら国民のお粗末の反映です。(若杉敬明)

Q02:コーポレートファイナンスにおいて税制の動向の影響は大きいと思われますので、以下の質問をさせていただきます。最近の英国・米国の税制に対する新しい動きとして世界的な「最低税制制度」の導入と、英国の「法人税の引き上げ」、米国では「法人税の引き上げとインフラ投資(景気刺激策)」と「富裕層に対する増税と格差社会の是正の施策(中間層の復活)」の動きが見られます。日本は、財政状態は先進国の中でも際立って悪く、物価上昇率2%の達成による成長戦略の実現(財政再建)の見通しは暗く、コロナの影響により財政状態は悪化の一途ですが、英米に追随した増税政策の導入が視野に入って来たと考えて良いのでしょうか。それとも「ジャパン・プレミアム」や「国債の大幅な格下げ」等の圧力(黒船)が到来するまでは増税の決定は出来ないと考えるべきでしょうか。

A02:マクロ経済においては、経済主体を、個人、企業、政府(そして外国)に分類するので、ファイナンスでは、personal finance(家計), corporate finance(企業財務)そしてpublic finance(財政) と分かれて研究や分析が行われます。税制は財政を賄うための主たる財源です。国はさまざまな政策から成る経済政策を定め、①それを実行するための税源を確保する目的と②個人および企業に財政の目的に沿った行動をとってもらう目的とで税制を決めます。この研究会の目的である(コーポレート)ファイナンスはその限りにおいて税制と深い関係を持っています。しかし、ファイナンスが税制を決めるわけではありません。ファイナンスは、株主価値最大化を通して企業価値を最大化することですから、そのためにむしろ税制を利用します。その意味では税制と企業行動は相互に絡んでいるので、政府はそのことを読んで税制を定め施行しないととんでもない結果を招くことがあります。

ところで質問はこれからの税制のあり方に関する趣旨ですから、この研究会の範囲を超えていますが、若干説明をしておきます。「税制とは税金の体系ですが、税金とは、年金・医療などの社会保障・福祉や、水道、道路などの社会資本整備、教育、警察、防衛といった公的サービスを運営するための費用を賄うものです。みんなが互いに支え合い、共によりよい社会を作っていくため、この費用を広く公平に分かち合うことが必要です。」(財務省税制のホームページ)。国がどのような公的サービスをどの程度提供するかは国民が何を求めているかによります。しかし、国民のニーズは多様であり利害も異なります。それをくみ取り党の公約として掲げて選挙を戦い国政に反映させようとするのが政党です。政党の間の切磋琢磨がまさに政治です。これから他国の状況も見ながら、日本がどの方向に向かうかは国民自身が決める問題です。

 1980年以降、先進国は、高利益企業を呼び込むため、あるいは引き留めるために法人税率引き下げ競争をしてきました法人税率12.5%のアイルランドはフェイスブックの拠点になっています。しかし、法人税率引き下げ競争が国家財政を歪め負担になっていることは間違いありません。国民のニーズとは関係なく国際間の競争だけで法人税率が決まってしまうことは本来望ましいことではありません。OECDも加盟国の最低税率を設けようと議論を進めて来ました。イエレン米財務長官は4月5日、法人税率を競って引き下げる多年の「競走」を終わらせるため、G20で協力して国際的に共通の法人最低税率を導入することを提案しました。いまや分断国家となり共和党の主張を無視できないアメリカの政治情勢を考えると見通しが暗いと言わざるを得ません。しかし、コロナ禍で各国の財政負担が急増している世界情勢において法人税率引き下げによる高収益企業獲得競争は不健全であることは間違いありません。日本もOECDの一員としてこの議論に乗らざるを得ないと思いますが、もともと法人税率は高い方の国であるので影響は小さいと思います。

 税金を徴収し豊かな国家財政の下で公的サービスを経済先進国の夢です。税金は労働の賃金そして資本の利益に課税されます。労働の賃金と資本の利益の合計が付加価値です。付加価値生産性が高い国であってはじめて国政の財源が確保でき、豊かな公的サービスの提供が可能になります。資本主義国では、民間企業が中心になって付加価値の生産を担います。株主価値の最大化を目指して企業価値の最大化、長期的付加価値の最大化の実現を担うのがコーポレートファイナンスです。(若杉敬明)