JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

第6回ファイナンス研究会「株主価値創造のための投資の経済計算」

0.はじめに 

今回は検討対象となっている投資案件が株主価値創造に貢献するか否かがどのように判断されるかという問題を取り上げる。ファイナンスの分野で資本予算(Capital budgeting)あるいは投資の経済性計算(または経済計算)と呼ばれる分野である。第5回ファイナンス研究会では資本コストを取り上げたが、その資本コストをどのように使うかという問題でもある。経済性評価には会計的利益率(ROI・ARR)および回収期間(PB)が伝統的に用いられてきたが、その後、より合理的な判断基準として正味現在価値(NPV)および内部利益率(IRR)が利用されるようになってきた。この2つは投資がもたらすキャッシュフローの割引現在価値を前提とする判断基準であるので、これらを利用する投資の経済性計算はDCFと呼ばれる。そのほかに、回収期間をDCFに基づいて計算する割引回収期間法、投資決定にオプションの概念を導入したリアルオプション(Real Option)と呼ばれる方法もある。

1.用語法:キャッシュフロー、営業利益そして純利益

ファイナンスの観点からは、投資とは、最初に資本を投下(資本支出)して種々の資産を取得し、その後それらを用いて事業を行い、販売収入の中から投下資本を回収するとともに資本に対する利子・利益を獲得する企業活動である。この過程における現金の流れをキャッシュフローという。投資が資本に価値をもたらし、資本を増殖するか否かを判断するのが資本予算あるいは投資の経済性計算(経済計算)である。株式会社のメインの目的は営利ーつまり、事業を行い利益を稼得し出資者である株主に利益を分配することーであるから、企業会計の最終的な目的は株主利益の計算である。

ファイナンス論においては、負債も自己資本(株主資本)と同様に、いろいろな資産を取得するための資金の源泉になっており、資本の一部である。それゆえ、かつては頻繁に他人資本と呼ばれた。損益計算書の営業利益に金融収益などの営業外収益を加えた利益から負債に対する利息が支払われるので、事業利益はしばしば利払前利益と呼ばれる。その残りが経常利益であり、これに特別利益・特別損失が加減された利益が税引前当期利益と呼ばれる。これが株主への利益であるが、これから税制上課される法人税を控除した残額が、株主に分配される利益である。実際には一部が内部留保された残りが配当として株主に分配される。

ファイナンス論と制度上の企業会計とでは用語が若干異なるのでここで整理しておく。上でいろいろな利益が出てきたが、自己資本と負債の合計である資本に帰属する利益は事業利益である。ファイナンス論では、これを利払前利益または営業利益(企業会計の営業利益と紛らわしいので注意が必要)と呼ぶ。営業利益(NOI;Net Operating Income)から負債への利息を控除した残りを利払後利益あるいは純利益(NI;Net Income)とよぶ。企業会計では、この利払後利益に特別損益を加減した残りが純利益であるが、ファイナンス論の純利益と企業会計の純利益との間には、特別損益の分だけの差があるので、ファイナンス論の手法に企業会計の数値を適用するときには注意が必要である。ファイナンス論では、利払前利益すなわち営業利益が資本(負債+自己資本)に分配される利益であり、キャッシュフローである。

投資の経済計算におけるキャッシュフローとは、先ず第一に最初になされる初期投資である。これは投資のために調達された資本額に等しく、資本にとってはマイナスのキャッシュフローである。次にその後の各期のキャッシュフローとは、資本(負債と自己資本)に分配される利益である利払前利益(営業利益)ある。しかし、それだけではない。なぜなら、減価償却費は資本減耗を補償するものでもあるが資本の回収の意味があるからである。減価償却費は企業会計上の費用であるが、実際には支出は行われない。利払前利益を計算するにあたっては減価償却費が控除されているので、これを加え戻さなければならない。したがって、毎期のキャッシュフローとは利払前利益プラス減価償却費である。投資の経済性計算において注意すべき点はここである。なお、減価償却費について補足すると、企業会計上は最初の資本支出は費用とされずに、まず貸借対照表上の資産に計上される。その後の各期において、資本の減耗に対応するものとして減価償却費という名称で費用として計上されるが支出ではなく、それは事実上、投下資本の回収なのである。

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