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研究会ブログ

2021 コーポレートガバナンス研究会
第1回 コーポレートガバナンス-序-

Q&Aセッション ⇨ ここ

1. コーポレートガバナンスと経営
 コーポレートガバナンスへの関心が高まっているのは良いことであるが、企業はガバナンスだけで事業を行っているわけではない。ガバナンスの誘導の下で事業を経営を行っているのである。
 コーポレートガバナンスを語るときには、経営についても考慮しなければならない。なぜなら、企業は経営者が経営するわけであるが、経営者に良い経営をしてもらうには何か仕組みが必要だということになる。それがコーポレートガバナンスである。コーポレートガバナンスの前提は、経営者が業績目標を実現させる優れた経営能力を持っているということである。ガバナンスとはその経営能力を引き出すことある。したがって、ガバナンスが優れていても経営能力が貧弱であれば、ガバナンスは空回りということになる。逆に、経営能力がどんなに優れていても、ガバナンスが良なければ、それを発揮してもらえない可能性がおおきい。株式会社の目的は営利である。営利とは事業で上げた利益を出資者である株主に分配することである。株主にとっては利益が大きいほど望ましいから、自ずと経営者に利益最大化の経営を要求する。このことから、企業の目的は利益最大化である。ただし、企業はgoing concernであることが社会から望まれているから、長期的な観点からの利益最大化である。経営者に課される課題は長期的観点での利益最大化である。他方、経営者自身は株主ではないから、本来、利益最大化には関心を持てない。経営者の関心は、適正な処遇を受け適正な報酬をもらうことであろう。ガバナンスが機能しないで、経営を経営者に任せきりという状態になってしまうと、経営者はどんなに優れた能力を持っていても営利を疎かにするおそれがあります。「優れた経営能力とそれを引き出すコーポレート・ガバナンスとの組み合わせ」が重要である。つまり、コーポレート・ガバナンスと経営とは車の両輪のようなもので、両方がそろって初めてうまくいくのである。大企業が不祥事を起こすとガバナンスが、そして社外取締役の重要性が喧伝されるが、そのことはガバナンスが正しく理解されていない証拠である。
 ところで、日本のコーポレートガバナンス・コードには、経営戦略や情報開示など経営マターの方が多く取り上げられている。これからの1年間のコーポレートガバナンスの勉強と通して、それが何を意味しているか考えることは重要だと思う。

2. コーポレートガバナンスとは
 Corporate governanceとは、corporationのガバナンスである。Corporationは法人のことを言うが、corporationの特徴は出資者と経営者が別人であることである。資本主義のルールにより、出資者が法人の所有者(owner)である。それゆえ、Corporationにおいては、経営者の経営に、出資者の意図が忠実に反映されているかが問題になる。上述のように、このことがコーポレートガバナンスの原点である。英米ではcorporationの範囲が広く、株式会社はその一つに過ぎない。business corporation(事業法人)の代表格が、米国では株式会社であり、ビジネスの分野でcorporationといえば株式会社を指す。経営学でcorporate financeといえば株式会社の財務を指し、corporate governanceといえば株式会社のガバナンスを意味する。
 株式会社においては、株主は取締役を選任して取締役会に経営を委ね、自らは経営に関与しない。出資者として株式会社のオーナ-であり、会社に対するガバナンスを有するが、経営そのものにはタッチしない。もちろん、株主も取締役や経営者になることができるが、株主や取締役会が、経営者としての認知する場合だけである。株主は、取締役会に、自らが提供した財産つまり出資がきちんと保全されているか、かつ財産の利用により利益を生んでいるかなどの情報を会計報告で求めるが、それ以上のことを法は求めていない。
 株式会社の目的は営利であり、利益は多い方が望ましいので株主は利益最大化―現代では長期的な利益すなわち株主価値の最大化―のために経営者がベストを尽くすことを期待していることを、経営者は理解している。しかし、経営者は会社の中にいる内部者であるが、株主は外部者であり、経営者が行っている経営のすべてを見ることができない。そこで、株主の観点から経営者の経営をgovernすることが必要になる。実際、経営者の不祥事や非効率な経営が長年にわたり問題になってきた。ここでは、この観点からコーポレートガバナンスを問題にしている。
 1980年代、技術進歩とグローバリゼーション、それに途上国の先進国へのキャッチアプ加わり厳しい大競争の時代になり、先進国企業において不祥事と経営の失敗が頻発した。経営者の不祥事は取締役会の監督の怠慢であるということで、英国ではカドベリー委員会の報告を嚆矢として次々と取締役会改革の報告書が発表され、ロンドン証券取引所の上場規則として実践に移されていた。その成果が、2010年のスチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードであり、各国のコーポレートガバナンス改革に大きな影響を与えた。米国ではそのような委員会活動は組織化されなかったが、アングロサクソンとして共通の精神構造を持つので、類似の改革が実務を通して進行した。

3. 日本企業のマネジメントの問題点

 配付資料最後のPartV(Part Ⅱは間違い)「ガバナンスの対象としての日本のマネジメント」については、少し長いですが、コラム『日本企業はなぜ駄目になったのか-ROE、株価そしてガバナンス-』の<3.わが国の企業経営の現状>を参照してください。 (若杉敬明)

Q&Aセッション

Q01:付加価値の計算について、質問させていただきます。

 付加価値の計算において、先生の講義録8ページでは、労働の取り分と資本の取り分の合計で粗付加価値53,純付加価値43とされておりますが、付加価値の中に国家の取り分(所得税等)が含まれることから、粗付加価値60,純付加価値50ではないいかと思いますが如何でしょうか。企業が正常な企業活動を通して付加価値を創出するためには、労働と資本の協働はもとより、企業活動を支えるインフラ整備(教育・治安・法制・金融・税制・会計制度・輸送基盤等)が不可欠であり、これ等のインフラを整備している国家に対して、税金の形で企業の付加価値の中から支払われていると理解した方が分かり易いように思えるのですが・・・

A01:その通りです。

 付加価値は、売上高のうち労働と資本とに分配された分として算出することができます。法人税は自己資本に対する利益(経常利益)の一部が政府に移転されたものですから、付加価値の一部ということになります。したがって、粗付加価値は、人件費(20)+利息(2)+税引き後純利益(21)+法人税(7)+減価償却費(10)=60であり、純付加価値は、粗付加価値(60)-減価償却費(10)=50ということになります。したがって、質問にあるように粗付加価値が60,純付加価値50が正しい金額です。どうしてこんな間違いをしたのか分りませんが、とにかく私のケアレスミスでした。間違いをお詫びするとともに、ご指摘いただいたことにお礼を申し上げます。(若杉敬明)

 


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