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JCGRコーポレートガバナンス原則

目次

<前文>

<本文>

企業の業績目標と最高経営責任者の経営体制

取締役の選任

取締役の職務

取締役会の責務

取締役会の経営監督機能

最高経営責任者の経営体制

<解説>

はじめに

企業の業績目標と経営者の責任体制

取締役会の構成と経営監督機能

最高経営責任者の経営執行体制

アカウンタビリティと透明性の確保

JCGRの基本的な姿勢

<前 文>

 会社法のもと、株式会社は、営利を目的とする株主の出資によって設立されるが、会社の経営は、株主総会において株主によって選任される取締役に委ねられる。取締役会は営利という業務を遂行するための基本的な意思決定を行い、その執行は取締役会が選ぶ執行役員に委ねる。ここにおいて、取締役も執行役員も株主であることが要件とされていない。

 株主は出資し事業のリスクを負担するが、自らは経営しない。このことから、出資者である株主と実際に経営を行う執行役員との利害の不一致が問題となる。これを解決する仕組みがコーポレート・ガバナンスである。換言すれば、コーポレートガバナンスの目的は、株主とは利害が一致しない経営者から、株主にとって最善の経営を引き出すことであり、その役割を負うのが取締役会である。この関係から、取締役会のあり方、経営者のあり方が自ずと浮かび上がってくる。

 コーポレート・ガバナンスにおける現代のベスト・プラクティスは、独立取締役を中心に取締役会を形成し、取締役とは別人の執行役員に経営を委ねるという体制である。ここでは、執行役員は経営に専念し取締役会は執行役員の監督に専念するという分業が行われており、ガバナンスとマネジメントの分離が行われている。

 この体制の下で、執行役員のトップである最高経営責任者(以下CEO)をして営利に最適な執行体制-経営システム-を構築させるとともに、CEOを営利に向けて動機付けることを取締役会の監督ガバナンスという。このような体制のもとでの、取締役、取締役会およびCEOの行動規範を示すのがJCGRコーポレート・ガバナンス原則である。

 なお、本原則において、最高経営責任者すなわちCEOとは、委員会設置会社の代表執行役および監査役会設置会社の代表取締役のことをいう。また、マネジメント、経営および業務執行は同義語である。

 JCGRは、以下の原則をすべての企業に実践していただきたいと考えている。そのためにいくつかの注意点を指摘しておく。

(1)JCGRコーポレートガバナンス原則は、①ガバナンスとマネジメントの人的分離、②独立取締役を中心とする取締役会、および③指名、報酬、監査の三委員会による執行役員の監督という考え方に基づいたモデルである。
(2)企業は自社に即したコーポレートガバナンス原則を定めるとともに、それを文書化することが不可欠である。文書の名称は、コーポレートガバナンスガイドラインであったり、取締役会規則であったり、あるいは委員会規則であったりしてもかまわない。
(3)企業によって事情が異なるのは当然であるから、各企業はその事情に合わせて修正を加えることが必要である。ただし、①~③の基本的考え方から逸脱してはならない。
(4)自社のコーポレートガバナンス原則をホームページにおいて公開することが望ましい。コーポレートガバナンス原則を通じて、広くステークホルダーおよび社会に自社を理解してもらうことは、自社の持続性という観点から重要である
(5)自社の実務が、自社のコーポレートガバナンス原則に沿っているかを定期的に評価し、それに応じて必要なアクションをとることが重要である。これがいわゆるコーポレートガバナンスの実効性評価である。
(6)自社の事業や環境の変化等に応じて原則自身を見直すことも必要である。
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 <本 文>

 【企業の業績目標と最高経営責任者の経営体制】

 1.取締役会は、優秀な人材をCEOとして選任するとともに、CEOが営利を目指して最善の経営を行うように、業績連動報酬に業績を埋め込んだインセン ティブ報酬を活用する。取締役会は自社の持続性等の観点から将来のCEOにも関心を持つべきである。そのために、CEOに対して、後継者育成計画を立案し取締役会の監視の下に計画を実行することを求める。

 2.CEOは、法律や社内規則、社会倫理等を遵守―コンプライアンス-するとともに、市場原理を遵守し株主以外のステークホルダーに対して公平を期す。

 3.CEOは自らの進退をかけて最善の経営を目指す。

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【取締役の選任】

 4.取締役の過半数は東京証券取引所の独立役員(以下独立取締役)とする。

 5.独立取締役は業務執行役員を兼ねない。

 6.株主総会に提出する取締役候補者の選任にあたっては、経験、性別、国籍および年齢等の観点から多様性を重視する。

 7.取締役候補者の選任に際しては、個々の候補者に対して取締役会が期待する役割を明示する。

 8.取締役の任期は1年とし、再任を妨げない。ただし、再任にあたっては、その可否を取締役の選任基準に照らして厳しく判断する。また、自社における経験を反故にしないために再任の回数については制限を設けない。

 9.取締役は、①期待されている役割を果たせなくなったと自ら判断する時、あるいは②一定の年齢(例えば75歳)に達した時、自ら辞表を提出し取締役会に進退の判断を委ねる。

10.取締役候補者は、取締役会が定めた自社株式数を就任前に保有する。

11.新任の取締役は権威のある機関でコーポレート・ガバナンスおよびファイナンスに関する研修を受ける。

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 【取締役の職務】

12.取締役は、取締役会で行われる業務の意思決定に参加する。

13.取締役は、監督の一環として、株主の出資および債権者の債権が資産として適切に保全されていることを確認する。また、それを担保する財務統制システムおよび内部統制システムが健全に機能していることを確認する。これらが確認できないときには、CEOに是正措置をとるよう促す。

14.監督の機能を果たすために、取締役は必要に応じて、上級執行役員、外部専門家あるいは会計監査役等の助言をあおぐ。そのためにも、執行役員の選任および外部専門家の選任においては慎重を期す。

15.取締役は、取締役会および業務執行に関する重要な会議に出席し、助言等を行う。その責務を全うするためには、相応の準備等が必要であるが、その時間と努力を惜しまない。同時に、会社は、取締役が必要とする情報を適宜・適切に提供する。

16.取締役は、自らの判断により取締役会の議題を事前あるいは取締役会の場で提案する。

17.独立取締役および社外取締役は取締役会の承認を得て社外取締役会を構成し、取締役会の前後に会を開催し、さまざまな事項について議論する。必要があれば取締役会あるいはCEOに報告ないし助言を行う。

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 【取締役会の責務】

18.取締役会は、会社法の定めにもとづき、株主の利益に重大な影響を及ぼす業務に関する意思決定を行う。

19.取締役会は独立取締役が議長として主宰する。CEO等が取締役会議長を兼ねる場合は取締役会の議を経る。

20.取締役会は、自社の取締役に要求される資質を定義し、取締役の選任および解任基準を定める。必要な資質とは、判断力、経験、独立性、自社および業界についての理解度、および取締役会が必要と判断するその他の能力・知識等である。

21.取締役会の開催は年に6回以上とする。開催に先立ち、取締役会議長は取締役に議題を通知するとともに、議題に関連する情報を提供する。

22.取締役会は、少なくとも年に1回、経営戦略、財務戦略およびリスク・マネジメントの基本方針について議論する。

23.現代の複雑な経営環境のもとでCEOの負担は飛躍的に増大している。本来は業務執行に関するものでCEOの責任事項であっても、株主価値に重要な影響を与える事柄については、取締役会がその基本方針の決定あるいは確認に関わる。たとえば、内部統制システム、ITシステム、企業年金制度、CSR(企業の社会的責任)、環境対策等々である。

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【取締役会の経営監督機能】
24.取締役会は、監督機能を果たすために、指名、報酬および監査の機能を確保する。そのために取締役会のもとに、独立取締役を構成員とする指名委員会、報酬委員会および監査委員会を設置する。

25.指名委員会は、会社の特性を考慮して、社内取締役および社外取締役が持つべき資質、知識、専門性等の要件を定める。その要件に基づき株主総会に提出する取締役候補者を決定する。取締役のもっとも重要な職部は執行役員の業務執行に対する監督であるから、取締役の特性として特に独立性を重視する。加えて、指名委員会は、ガバナンスの遂行のために取締役会の下に設置する下部委員会とその委員および委員長である取締役を決定する。下部委員会として必ず設置すべき委員会が、上記の指名委員会、報酬委員会および監査委員会の三委員会である。

26.報酬委員会は、CEOを始めとする執行役員を営利に向けて動機付けるために、株式報酬を含む業績連動報酬を中心とするインセンティブ報酬制度を定める。

27.監査委員会は、経営システムの一部としての内部統制システムの機能を監査する内部監査の独立性を判断する。会計報告に関する外部監査に関してもその独立性を判断する。

28.指名、報酬、監査の各委員会は、各委員会の目的および責任を委員会規則として規定するとともに、年度末に委員会活動を総括するとともに、目的および自ら課した使命に照らして委員会活動を自己評価し、取締役会に報告する。

29.取締役会は各委員会の報告に基づき、CEOに適切な行動をとるように促す。

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 【最高経営責任者の経営体制】
30.健全な業績目標の実現を目指す経営がCEOの個人的な資質のみに依存しないようにするために、CEOは合理的なマネジメント・システムを構築し維持する。

31.CEOは、リスク・マネジメントの一環として内部統制を重視し、最善の内部統制システムの設計および維持管理に努める。

32.CEOは、内部統制の有効性をチェックする機能である内部監査に関しては自らが責任者になるとともに、部下の内部監査人が独立性を確保するよう務める。

33.高位の役職者が共謀すれば不正の隠蔽は必ずしも困難ではない。不正に関する情報は共謀者以外も必ず保有するものである。内部監査人は内部通報制度を効果的に利用する。

34.CEOは会社全体の業績目標を事業部門・子会社に分解し、それらの業績目標によって事業部門長・子会社CEO等を監督する。つまり業績目標によって業績評価を行い、かつその業績評価に基づくインセンティブ報酬制度を実施する。

35.CEOは、株主の信頼を確保するために、IR、株主総会等を通じて株主と密接なコミュニケーションを図ることによりアカウンタビリティを果たす。

36.CEOは、株主以外のステークホルダーと公平・公正な取引を行うために、法律を遵守するとともに、資本主義経済の前提である市場原理を遵守する。CEOはコンプライアンス経営を忠実に実行すべきである。

37.CEOは内部統制の一部として、内部監査とは別にコンプライアンスを監視する機能を確保すべきである。

38.CEOはコンプライアンスの状況を取締役会に報告するとともに、全ステークホルダーに対して適切な情報提供―ディスクロージャ-を行う。

 2020/09/01 2019/03/03
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<解 説>

【はじめに】

企業は人々が必要とする財・サービスの生産・流通を担うとともに、その過程で付加価値を生産し、それを労働と資本とに分配し所得を創出する。人々はその所得で財・サービスを購入し生活をする。その意味で企業は、社会にとって不可欠な存在であり、重要な社会的役割、社会的使命を担っている。

それゆえ、どの国においても企業は法律により制度化されている。わが国では、企業が行う事業の目的や性格に応じて、さまざまな法律により企業の種類とあり方が定められているが、それらは国や公共団体が出資して運営を行う公企業と、民間が出資し運営を行う私企業とに大別される。さらに私企業の中には法人企業と個人企業とがある。法人企業は、それが基づく法律の違いにより、営利を目的とする会社と必ずしも営利を目的としない組合とに大別される(1)。営利とは、事業を行って利益をあげ、それを出資者に分配することである。

注1)組合のなかには民法上の組合などのように法人格を有しないものもある。

資本主義経済は自由経済を原則とし、民間企業の営利行動により人々が必要とする財・サービスが充足されることを想定している。また、資本主義経済は私有財産制度を前提としており、企業も私有財産であるとし、自己資本の提供者である出資者を所有者とするのが原則である(2)。ちなみに、私有財産制度とは、財産に対する私的所有と、所有に基づく財産に対する支配権、そして支配の結果を甘受する義務―結果責任―とが三位一体となった制度である。

注2)現代社会においては、人が人を所有する奴隷制度は禁じられている。法律は法人企業を「人」と認めているので、法律上、企業の所有者はいない。しかし、法律は出資者を事実上の所有者とみなしている。

わが国における中心的な企業形態である会社は、会社法によってそのあり方が規定されている。会社法は、会社の目的は営利であるとし、その形態として合名会社、合資会社、合同会社および株式会社を定めている。合名会社、合資会社および合同会社においては、少数の出資者による小規模な事業が想定されており、原則として出資者が業務に関する決定を行いかつ業務を執行する。私有財産制度においては所有者が私有財産に対して支配権を行使するという原則に基づき、所有者である出資者自身が経営に携わるのである。

他方、多数の投資家から巨額の資本を集め大規模な事業を行うことが想定されている株式会社においては、出資者が経営に携わることが前提とされていない。会社法は、出資者である株主は、株主総会において、会社の基本的な方針や重要な事項を決定するとともに取締役を選任し、取締役にその決定の執行を委ねるという仕組みを求めている。しかし、一般に株主と取締役とでは利害が異なる。株主が自ら経営をしない株式会社においては、株主が選んだ取締役によって、株主の利益に忠実な経営が行われるよう、種々の仕組みやルールが定められている。これをガバナンス規整という。

会社法は、公開大会社に対して、取締役から構成される取締役会の設置を求める。取締役会は、事業ドメイン・経営戦略など事業に関する重要事項-業務という-を意思決定し、業務執行は取締役会が選ぶ業務執行役員-以下、執行役員-に委任する。委任が成果を上げるよう取締役会は執行役員およびその業務執行を監督する。会社の目的は営利であるから、この仕組みにおいて前提となっているのは、営利のための業務意思決定であり、営利のための業務執行である。

株式会社には従業員、資本提供者―株主・債権者―、顧客、供給業者等々のステークホルダーが、それぞれ自らの目的を達するために関わっている。同時に、企業はどのステークホルダーが欠けても存続しえない。その意味では、企業はすべてのステークホルダーのために存在しており、すべてのステークホルダーが共存共栄するための公器であるということができる。

株式会社は、このように、異なる目的を持つステークホルダーから構成される組織であるから、それぞれのステークホルダーが自らの利益を主張し合うと調整が困難になる。そこで資本主義経済においては、ステークホルダー間の利害の調整は市場原理に委ねることを前提に、株主が、企業の事実上の所有者としてガバナンスを有し、ビジネスリスクを負担するという形で企業が行う事業の結果責任を負う。資本主義経済では、対等な多数の人々や企業の自由な行動から発生する需要と供給とにより取引条件が決まる市場原理が民主的で公平・公正な取引ルールであると考えられている。

投資家が株主として株式を保有する第一義的な目的は、会社に預けた財産の価値すなわち株主価値を殖やすことにある。個人投資家にせよ個人等から財産を預かった機関投資家にせよ、その目的は共通である。したがって、企業の取締役や業務執行役員は、株主が誰であるかに関わらず、株主価値の継続的増大に専念すればよい。これを株主価値創造という。

株主には、年金や財団などのように長期的視野から株主価値創造に重きを置く長期投資家と、株価の変動のみに注目し株主価値創造にはほとんど関心を持たない短期投資家とがいるが、現実の問題として、株主総会で取締役の選任等に関して積極的に議決権行使をするのは前者の長期投資家である。その結果、経営者は自ずと株主価値創造に専念せざるをえないというのが株式市場における世界的な傾向である。

ちなみに、会社の将来業績を考慮して株価が決定される株式市場においては、企業が、収益性が高いと予想される投資を実行すれば、予想に基づき、将来ではなく現在、株価が上昇する。その後、企業が予想通りの収益性を実現していけば株価は維持される。また予想以上の収益性が実現すれば株価はさらに上昇する。こうして株主価値創造が行われる。

グローバリゼーションの現代においては、企業のステークホルダーも国際化している。このような環境下においては、企業にはすべてのステークホルダーに対して公平・公正な経営が求められている。したがって、企業は法律や社会の道徳・倫理等を遵守するとともに、資本主義の大前提である自由競争に基づく市場原理を守ることが求められている。これら守るべきことを守ることがいわゆるコンプライアンスである。企業の株主価値創造の大前提はコンプライアンスである。企業がコンプライアンスを怠れば、企業は社会的な制裁を受け、株価を大きく下げ株主価値を損なう恐れがある。さらに、企業の存続が不可能になって倒産するようなことになれば、さらに多くのステークホルダーに大きな損害を与えることになる。この意味で、企業経営においては、営利追求のための事業の効率性向上とともにコンプライアンスを実現するために、事業活動をコントロールすること、つまり内部統制が不可欠である。

企業が株主価値創造を継続的に実現していくためには、企業のことを良く理解して、企業と関わりを持ってくれる良いステークホルダーを確保することが不可欠である。そのためには、企業の実態に関する情報を適切・適宜に開示し、つねに透明性―トランスペレンシー―を確保しておくことが重要である。
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【企業の業績目標と経営者の責任体制】

株式会社は、営利を目的とする法人であり、事業活動を行うことにより利益を得てそれを株主に分配することを目的としている。株主は、会社の実質的所有者としてガバナンスを有するとともに、不確定な残余利益を自らの取り分とし、事業活動にともなうリスクを負担する。

「所有と経営の分離」を前提としたわが国の株式会社制度においては、株主は株主総会を通じて取締役を任免し、取締役会が企業の経営者である代表取締役あるいは執行役を任免するという方式をとっている。その意味では、「所有と支配の一致」が前提である。

「所有と経営の分離」のもとで実際に企業経営を行うのは代表取締役あるいは執行役である。そのトップを以下ではCEOと呼ぶ。経営者としてのCEOの役割は、会社の目的である利益を実現することである。わが国の株式市場においては、年金等の機関投資家を始めとして、長期的な観点から株式価値の増大を目指す投資家が支配的である。したがって、現代のCEOにとって会社経営の目的は、利益機会の開発・確保を通じて長期的観点から株式価値の増大を図ることであると考えるべきである。これを株主価値の創造という。そして、株主価値を創造すべくつねに最善の努力をすることを株主価値最大化という。
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【取締役会の構成と経営監督機能】

CEOが自らの役割を自覚し、株主価値の最大化に向けて最善の努力をするならば、株主にとってなんら問題はないが、現実には必ずしもそれを期待できない。そこで、株主は、経営者から最大限の努力を引き出す仕組みが必要となる。これをガバナンス・システムとよぶ。ガバナンス・システムとは、経営者に受託者責任を全うしてもらうための仕組みということもできる。

他方、グローバル競争、ITの進展および広範な技術進歩の下では、迅速かつ柔軟な経営が求められる。そこで、CEOに絶大な権限を与えることも必要である。しかし、絶大な権限を持つCEOが不適切な経営を行えば、株主ばかりでなく、広く会社のステークホルダーが多大な損失を被る。したがって、CEOから適切な経営を引き出すための仕組みが必要である。

このような観点から、会社経営(マネジメント)はCEOに委ね、取締役会は、株主の観点からCEOの監督(ガバナンス)に専念するというガバナンス体制が合理的であるという認識が世界的に広まりつつある。これを「ガバナンスとマネジメントの分離」という。

取締役会が、CEOを監督するためには、取締役は経営者から中立であることが望ましい。また、純粋に株主の利益を図るためには、株主以外のその他のステークホルダーからも中立であることが望ましい。このような要件を満たした取締役を「独立取締役」という。会社は、取締役の選任基準として独立性を明示することが望ましい。

株主は、CEOが長期的に株主価値を上昇させることを望んでいる。そのためには、CEOに明示的・具体的な業績目標を与えるとともに、経営の状態をつねに監視し業績評価等を行うとともに、業績の達成度によって成功報酬で報いるなどの報奨制度によって経営者のやる気を引き出すことが必要である。前者を監視(モニタリング)、後者を動機付け(モティベーション)という。

社外取締役を中心とする取締役会は、株主のために、監視と動機付けとにより、CEOから最大限の努力を引き出そうとする。監視は実務的には内部統制および内部監査によってなされ、動機付けは報酬をインセンティブとするインセンティブ・システムによって行われる。ガバナンスの観点からの取締役会の本来の役割は、内部監査制度およびインセンティブ報酬制度を有効に機能させることである。

さらにCEOから業績の達成に対して責任ある経営行動を引き出すためには、取締役会がCEOの任免という本来の機能を果たさなければならない。

取締役会は事項によっては経営上の意思決定に関与する。取締役会は三つの監督機能(指名、監査、報酬)のほか、「経営の基本方針」に関わる事項を決定する必要がある。具体的には、経営戦略や大規模な設備投資等をともなう中長期経営計画がこれに相当する。同じ考え方から、本来経営上の問題である内部統制システム、CSR(企業の社会的責任)、企業年金、IT、リスク・マネジメントなどについても、基本方針に関わる部分については取締役会が関与することが望ましいこともある。

株主価値に重大な影響を与えるM&A(企業の買収・合併)についても同様である。これらは経営者の地位を脅かし経営者の利益に反する可能性が無視できないので、その決定を経営者に委ねては、株主の観点からの合理的な意思決定がなされないおそれがある。したがって、M&Aの意思決定は本来経営上の事項であるが、取締役会が独立な観点からこれに関与することが望ましい。
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【最高経営責任者の経営執行体制】

企業活動はさまざまなステークホルダーとの取引から成り立っている。資本主義経済の前提は、国、企業および個人が、遵法および自由主義の精神のもと、市場原理に基づいて公平な取引を行うとともに、法律を守った公正な取引を行うことである。したがって、法律や市場原理を犯した企業は厳しい社会的な制裁を受けることになり、株主だけでなく他のステークホルダーも重大な損失を被る。このようなルール違反を防止・是正する仕組みは内部統制システムの重要な構成要素である。内部監査により内部統制システムの健全な機能を確保することはCEOの重大な責任であると同時に、CEOがその責任を全うしているかいなかをチェックすることは、取締役会の重要な責務である。

CEOは自らに課された業績目標を、会社の事業部門あるいは子会社などの業績目標に分解し、部下にその実現を委ねるとともに監督する。内部統制およびインセンティブ報酬の目的は、まさに部下から責任ある行動を引き出すことにある。そのために、CEOは自社に、経営計画、予算、業績評価、報酬等からなる経営システムを構築し、それぞれの長に合理的な管理を求める。これらのシステムの目的は、安定的に利益をあげ株主価値を創造することにあり、執行システムと呼ばれる。それに対して、このシステムが正常に機能するように統制する仕組みが内部統制システムである。ここでは執行システムと内部統制システムとを合わせて経営システム(マネジメント・システム)とよぶ。経営システムを直轄し、部下の経営を監督することがCEOの基本的な役割であるマネジメントである。
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 【アカウンタビリティと透明性の確保】

CEOは株主の財産を預かり事業活動を通して株主のために営利を追求する。その意味で経営者に対して受託者責任を負っており、株主に適切な報告を行うとともに、受託者責任を果たしていることを証明する義務(アカウンタビリティ)がある。同時にCEOは、株主に対して、自身が、将来の株主価値の創造に向けていかに信頼の置ける経営者であるかを示すことが必要である。これらのために、CEOは、株主総会やIRを通じて、株主と良好なコミュニケーションを保つことが不可欠である。

利益を追求することが株主からCEOに課された役割であるが、CEOは株主以外のステークホルダーと法律および市場原理を遵守した取引をしなければならない。個々のステークホルダーと公平・公正な取引を行うために、適切な情報提供が不可欠である。それと同時に、他のステークホルダーに対して、その他のステークホルダーと公平・公正な取引をしていることを示す必要がある。つまり透明性である。現代においては、公平・公正に反する取引を行うと、法律的にも社会的にも大きな制裁を受け、株主ばかりでなくその他のステークホルダーも大きな損害を被るからである。このような観点から、経営者はつねに外部に対して最大限の情報提供を行う必要がある。このような情報活動がディスクロージャである。なお、現代の株主は多数に分散しているので、株主への情報提供も事実上ディスクロージャである。事実上ディスクロージャはすべてのステークホルダーへの情報提供を意味し、その目的は透明性による企業倫理の確保である。
 

【JCGRの基本姿勢】

コーポレート・ガバナンスにおいて最も重要なことは、CEOが自らの責任を自覚し、株主のために業績を上げることを目指して良質の経営を提供することである。社外取締役を中心とする取締役会による監督や、内部統制、インセンティブ報酬などは、ある意味では形の問題である。重要なのは経営者の自覚とその実現の仕方である。したがって、良質な経営による良好な企業業績をあげるガバナンス体制のあり方は一つではない。重要なことは形ではなく内容である。

それにもかかわらず、現代の企業環境に最も合ったガバナンス体制というものがあることも事実であると信じている。企業が長期にわたって安定した業績をあげゴーイング・コンサーンとして人類に貢献するためには、そのときどきに合ったガバナンスの形をとることが望ましいと考える。われわれはこの信念のもとに、明確な企業業績目標を掲げ、独立取締役を中心とする取締役会が、経営者であるCEOを監督するガバナンスの形が現代の企業環境において最適と考え、これを基準に日本企業のガバナンスを指数化する作業に取り組んでいる。

 (解説:若杉敬明)

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