JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

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2022 コーポレートガバナンス研究会 第6回「取締役会の多様性Board diversity」

これからしばらくは、取締役会委員会の新しい動向を詳しく取り上げる。9月の研究会では、指名委員会の新たな課題である取締役会の多様性-Board Diversity-について考察する。

取締役会の多様性と米国取引所のルール

取締役会は、十分な情報に基づいて生産的で効率的な議論を行い決定を下すべきである。それを実現する唯一の方法は、一人の取締役に取締役会を支配させずに、様々な視点をもつ多様な取締役の意見を取り入れることが望ましい。つまり、取締役の多様性が不可欠である。

1.米国の伝統的な取締役会

-米国企業の取締役会においては、当たり前であるかのように、白人男性が取締役の圧倒的多数を占めてきた。女性や非白人をもっと取締役に選任することで多様性のある取締役会を実現すべきだとの主張が近年強くなってきた。取締役会の監督の実効性を高める観点から、CEO以下の執行部からの独立性を確保するとともに、幅広い視点から議論が行われるように、単なる数字だけでなく、多様なバックグラウンドを持つ取締役を選任することを求める声が機関投資家の間で高まっている。これらを受け、市場関係者(取引所・投資家等)の一部は、これまでも自主的な行動を通じて取締役会メンバーの多様化を促進する動きをしてきた。機関投資家は、多様性を欠くと判断されるような取締役選任議案への反対を表明することがあった。また 投資銀行が、取締役会における多様性の確保を、IPO(株式新規公開)引受けの条件とする方針を表明する、といった動きもみられた

2.取引所の対応

◆NYSE: 2019年5月NYSE Board Advisory Councilが発足した。取締役会の多様性欠如は周知の事実であるとして、2019年5月、NYSE Board Advisory Councilが発足し、多様な取締役を求める企業に、多様な候補者を仲介する事業を開始

◆Nasdaq: 2021年8月Board Diversity Rule:主要上場企業に対して、取締役会メンバーの2名以上を「多様(Diverse)」とされる要件を満たす者から選任するよう求める。「多様」とされる取締役会メンバーのうち1名は女性であると自認する個人、他の1名は、過小評価されている社会的少数者(underrepresented minority)またはLGBTQ+であると自認する個人でなければならず、2名以上の「多様」な取締役を選任していない企業は、その理由を説明しなければならない(規則5605(f)(2) 2021年8月6日SEC承認)。なお、主要上場企業とは、外国企業や浮動株時価総額2億5千万ドル未満の小規模継続開示企業(smaller reporting company)もしくは5人以下から成る小規模な取締役会を有する企業以外の上場企業をいう。

NASDAQ Rule 5606 – Board Diversity Matrix(例)

6.3. NASDAQの新ガイドラインの背景

-この10年余、民間企業による”DEI”-ダイバーシティD(Diversity)、エクイティ(Equity)、インクルージョン(Inclusion)-の高まりを受けたものといえよう。企業もNPOも、長年にわたって企業内DEIの課題に投資をしてきた。背景には、人種的正義運動や世界各地で起きているCovid-19の不公平な影響に対する関心の高まりがあると言われている。

より多額の投資*とより迅速な前進が急務と認識されている

https://www.forbes.com/sites/bhaktimirchandani/2022/02/07/want-to-select-for-and-promote-dei-in-your-investment-portfolio–heres-how/?sh=3f68344c2505

-DEIには財務的にもメリットがあることが確認されているが、経営者はなかなか動けないでいる。特に取締役会では、経営者出身者が多く、アイデンティティが一枚岩ではない

6.4. NASDAQのガイドラインの意義

-NASDAQ提言は、決して容易ではないが重要であることは間違いない。取締役会の多様化について、企業を正しい方向に導く最初の一歩ともいうべきガイダンスである。しかし環境の変化・相違に関わらず人数を要請するのみであり、同質的な取締役会の現状を打破するには不十分であると言わざるを得ない。

-言うまでもなく、取締役会は、株主に対して責任を負っている。同時に、ステークホルダーである従業員を含め、サービスを提供する顧客や地域社会に対しても責任を負っている。良きガバナンスは、組織の持続可能性を保証しつつ、すべてのステークホルダーのリスクを軽減しなければならない。取締役会の多様性が不可欠である所以である。

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米国における指名&コーポレートガバナンス委員会の実務-最近の傾向-

NYSEはNominating/Corporate Governance Committee(指名&コーポレートガバナンス委員会)として従来の指名委員会を再整理している。米国企業の実務ではNominating CommitteeおよびCorporate Governance Committeeを別々に設置している会社もある。ここではそれぞれの委員会の一般的な実務傾向を見る。

1.指名委員会の実務の変化
指名委員会は言うまでもなく取締役会委員会(Board Committee)の一つである。
多くの企業におけるこの委員会の伝統的な役割は次の二つの事項である
①在職中の取締役を再指名するか解任するかを決定すること
②取締役会に代わり、事実上、株主総会に提案する取締役候補者のリストを作成すること
ただし、近年、指名委員会の役割が急速に拡大・変化してきた
➀および➁の「取締役会が株主に提案する取締役候補者リストを作成する」という伝統的な役割に加えて、③すべての取締役会委員会の委員名簿を作成すること、および④
取締役会委員会のうちガバナンス三委員会、つまり監査委員会、指名委員会および報酬委員会の議長を選定すること、等が加わるようになってきた。従来は、コーポレートガバナンス委員会がせっちされていればその役割であった。

アメリカ企業においては、取締役会は、事実上、取締役会委員会に決定権限を委譲し、取締役会は最終的な承認をするだけである。以下の実務も委譲されているコーポレートガバナンス委員会は自ずと強大な権限を持つようになっており、コーポレートガバナンス委員会とくにその議長は公式・非公式に取締役のリーダー的な存在になっている。ニューヨーク証券取引所は、指名委員会とコーポレートガバナンス委員会は関連が深いので、両者を結合した委員会を想定している。

2.コーポレートガバナンス委員会の実務
①委員会の新設、存廃を判断し取締役会委員会の構造(どのような委員会を置くか)を決定する
②各委員会規模(メンバー数)の決定
委員会の目的・責任の規定
④取締役の中から委員会メンバーを選定し、さらにその中から議長(Chairman)を選定すること
⑤取締役会の会議に関するポリシーの決定
⑥会議のスケジュールと会場
⑦会議の議事次第(議題、重要性の順位、時間配分など)
⑧取締役でない上席執行役員の取締役会会議への出席と臨席
⑨過去の会議で配布された資料の扱い
⑩取締役の処遇に関するポリシーの決定
⑪取締役の報酬(形態と金額など)
⑫退任(期間の上限、年齢制限など)
⑬損害賠償問題
⑭コーポレートガバナンスのあるべき姿と指針の策定
→ ニューヨーク証券取引所はコーポレートガバナンス・ガイドラインの策定と開示を要求

3.指名委員会とCEOとの関係
-執行役員人事に関して、かつてはCEOが大きな権限を持っていた。しかし、指名委員会が、非業務執行取締役(non-management directors)で構成されるようになり、CEOにとって代わった.当然、CEOは、指名委員会のメンバーからはずれたが、それでも依然としてCEOの影響力は大きい。具体的には、多くの企業においてCEOは指名委員会に対し執行役員の候補者を推薦する。また、候補者を外部から採用するに際して取締役会に対して人的・予算的援助およびアドバイスを提供する。取締役候補者の場合も同様である。これらのことから、重要な役割を果たしすとともに、影響力を残している

4.指名委員会の伝統的責任と新しい責任
取締役会に対して-究極的には株主に対して-取締役候補者を推薦する。すなわち、多くの企業において、指名委員会の役割は、➀取締役会委員会の全体構成、➁各委員会の目的と役割、および③各委員会のメンバー構成を決定し、取締役会に勧告するまでに拡大している。
さらに、指名&コーポレートガバナンス委員会として、コーポレートガバナンス委員会の機能全般が取り込まれている・
-指名委員会の新しい使命
-取締役会の最も重要な使命はCEOを選任することである。最適なCEOを選任するためには合理的な後継者計画が必要である。後継者計画の立案と運営は、CEOとCHRO(人材担当役員)が取締役会と典型しつつ行うが、次のCEOの最終的な決定は取締役会において行われるが、指名委員会が、事実上、取締役会に対し後継者を推薦する責務を負っている企業が多いと言われる。ただし、 指名委員会が後継者計画Succession Planningに関与するわけでなく、そのアウトプットしての後継者候補の選定には取締役会に代わって指名&コーポレートガバナンス委員会が関わることが多いと言われている。

 

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