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2022コーポレートガバナンス研究会 第9回 「CEOインセンティブ報酬とPay-for-Performance」

Ⅰ.総論:株主の観点からの役員報酬の意義と開示問題

費用として株主の利益を減ずるので、株主にとっては経営者報酬は「経営を委任するコスト」である。他方, 工夫次第で経営者のモチベーションを高めるインセンティブとして機能することが分かっている。したがって、経営者報酬は「利益を生むためのコスト」と認識することが重要である。この点こそ株主が関心を持つべきポイントであり、経営者報酬制度に対して、①コストと効果(成果である利益)の関係は明確か、そして②最終的に、インセンティブとして効率的に機能しているかを監視することが、株主にとって重要である。NYSEの上場マニュアルは、取締役会に①独立取締役による報酬委員会の設置、②適切な役員報酬制度の実施、そして③その開示を要請している。当然、株主の観点からである。

Ⅱ.株式報酬の補足説明

株式報酬:StockーBased Compensation、Share-Based Compensation、Equity Compensation、Stock Compensation

 報酬額が企業業績や株価に連動した報酬のことを株式報酬という。支払は、株式自体のこともあれば現金のこともある。企業の経営陣、取締役、従業員に対して、現金の代わりに自社の株式で報酬を支払う方法である。株主と経営者の利害を一致させ、現金ベースの通常の報酬(給与や賞与)以上のモチベーションを経営者に与えるために使用される。オプション、制限付き株式、パフォーマンス・シェアなど様々なバリエーションがあるが、事前交付型事後交付型とに大別される。

1.事前交付型株式報酬には主として、業績連動型株式(PS)、譲渡制限付株式(RS)およびストックオプション(SO)の3種類がある。また、事後交付型株式報酬には、主として次の4種類がある。業績連動型株式ユニット(PSU)、譲渡制限付株式ユニット(RSU)、ストック・アプリシエーション・ライト、ファントムストック。それぞれについて簡単に説明する。

(1)PS(業績連動型株式報酬;Performance Share):事前に付与対象者に株式が付与されているものの、一株当たり利益(EPS)目標など、会社全体の一定の業績基準を満たした場合にのみ売却・譲渡が可能な自社株。企業の経営陣が株主価値にプラスの影響を与える活動を優先させることを意図している。

(2)RS(譲渡制限付株式;Restricted Share):雇用の開始時に付与されるが、事前に定められた雇用継続期間が満たされた後に、売却や譲渡ができる自社株。

(3)PSU(業績連動型株式報酬ユニット;Performance Share Unit):会社全体として一定の業績基準を満たした場合に、事後的に株式が付与される制度

(4)RSU(譲渡制限付株式ユニット;Restricted Share Unit):主に勤務条件を達成した後「事後的」に株式を付与する制度

(5)ストックオプション(Stock Option;SO);株価に連動する報酬の代表的存在であるある。ストックオプションにおいては、自社株を購入する権利が事前に付与され、一定期間が過ぎると、受給者は予め決められた金額-権利行使価格X-で、権利行使が可能になる自社株を得る。米国では、権利行使が付与日の株価(自社株の終値)より高いものはインセンティブ・ストックオプションISO)と呼ばれ、税制上の優遇措置が受けられる。株価を現在より上げるというインセンティブになるからである。

(6)ファントムストック(phantom stock;PS);ストックオプションと類似の報酬制度である。株式を模した擬似株式を用いて、配当額および株価の値上がり益を現金で受給する権利を付与する報酬制度っだり、仕組みは、配当が支払われる以外は、次のSARと同じである。

(7)ストックアプリシエーション・ライトStock Appreciation Right;SAR);あらかじめ設定された期間中の会社の株価上昇に連動する株価連動報酬で、役員・従業員が対象であるが、とくに役員報酬として知られている。一定期間後に株価S*が所与の条件Xを満たした場合、その差額(Y-X)が報酬として支給される。ただし、株価が下がった場合には報酬はゼロである。株式そのものや、株式を購入できる権利が与えられるタイプと違って、現金で支給される点が特徴。企業の観点からは、後述のストックオプションと異なり、①発行済み株式数が増えないこと、そして②会社に現金収入がないことがメリットとされている。

Ⅲ.NYSEの報酬委員会規則

1.NYSEの上場会社マニュアルー報酬委員会規程-

SOX法(2002)に基づきNYSE上場会社マニュアル(1953)が改訂され、従来の監査委員会に加え、指名&ガバナンス委員会および報酬委員会に関する諸規定が追加された。NYSEは、コーポレートガバナンス上場基準の対象となるすべての上場会社に対して、独立取締役のみで構成される報酬委員会を設置し、次に列挙されるすべての義務を規定した委員会憲章を作成することを要求している。加えて、報酬委員会が果たすべき最低限の責務をいくつか要求している。なお、報酬委員会の責任は、報酬委員会の下部小委員会に委任することができる。ただし、①各小委員会は独立取締役のみで構成され、かつ②憲章を定め公表しなければならないとしている。次にNYSEが求めている報酬委員会の責務を見ていこう。

A.報酬委員会の責務-CEOの報酬-

1)CEOの報酬プランを策定策定する(事前)

2)期の始めに会社の目的を確認し、CEOの報酬を決める規準となる会社業績の目標を検討・承認する。そして、①かかる目標および目的に照らしてCEOの業績を評価し、かつ②この業績評価に基づきCEOの報酬額を決定・承認する。この時、報酬委員会のみで決めても、他の独立取締役の出席を認めて決めてもよい。

3)NYSEはまた、CEO報酬の構成要素である長期インセンティブプランを決定するにあたっては、報酬委員会が (a)会社の業績と相対的な株主利益、(b)類似企業における、CEOに対するインセンティブ報酬の金額、および(c)過去数年間にCEOに支給された報酬、を考慮することを要求している。なお、取締役会は、報酬委員会の専管事項であっても、CEOの報酬について議論することができるとしている。それだけ、インセンティブ報酬は重要であるということである。

B.CEO以外の執行役員の報酬

1)報酬委員会は、CEO以外の執行役員についても具体的な報酬を取締役会に提案する。ここで、執行役員とは、①社長、②主たる財務責任者(CFO)、③主たる経理責任者(主たる経理責任者がいない場合には、経理担当者)、④主たる事業部、部門または機能(営業、管理、財務など)の副社長、⑤政策決定機能を果たすその他の役員、または⑥同様の政策決定機能を果たすその他の人物のことである。

2)これらの執行役員について、報酬委員会は、インセンティブ報酬および株式ベースの報酬プランについては取締役会の承認を得て勧告しなければならない。なお、NYSEはSECの定め、つまり「上場会社の年次委任状またはフォーム10-Kの年次報告書に含まれるべき執行役員報酬に関する報告書を作成すること」があるにもかかわらず、重ねて報酬委員会に報告書の作成を要求している

C.報酬委員会の権限

報酬委員会は、独自の裁量で報酬コンサルタント、独立した法律顧問、その他のアドバイザーと契約を締結したり、助言を得たりすることができる。ただし、報酬委員会はアドバイザーの任命、報酬、業務の監督に直接責任を負う、他方、会社は、アドバイザーに対する合理的な報酬の支払いのために、報酬委員会が決定する適切な資金を提供しなければならない。

D.報酬委員会の自己評価

報酬委員会は、執行役員の報酬に関する報告を作成し、SECのルールに従い、株主総会の招集通知に添付される年次株主報告書あるいはForm10-Kにもとづく年次報告書に掲載しなければならない。

なお、報酬委員会に課せられたこれらの責務の遂行を助けるために、多くのコンサルティング会社が、これらの作業を行うための書式や手順を公開している。当然、コンサルティング会社は、評価プロセスにおいて委員会を支援するためのアドバイザリーサービスも確立し提供している。

注)form 10-K:米国の上場企業が、年1回米証券取引委員会(SEC)に提出する年次報告書。日本の有価証券報告書に相当する。10-Qにより提出する四半期株主報告書より詳細な内容になっている

Ⅳ.米国企業における報酬委員会のベストプラクティス

報酬により経営者を監督することが、株主、株主総会そして取締役会の使命である。それゆえ、取締役会は実務として報酬委員会を設置してきた。それをNYSEがルール化した。そこにはインタラクション-交互作用-がある。以下は、NYSEの上場規則の下での米国企業のベストプラクティスである。

1.報酬委員会の役割 株主より取締役会に与えられた決定権限の多くを、取締役会は報酬委員会に委譲している。報酬委員会は、CEOはじめ執行役員の報酬制度の設計を行っている。その内容は、執行役員(executive officers)の基本給(salary)、短期インセンティブ(bonus)、長期インセンティブ(ストックオプションはじめ株式報酬制度の策定)の構成(パッケージ)である。報酬制度全体(Packages of compensation programs)については、通常、独立取締全員の承認を得る。株式報酬(equity-based compensation)については、通常、株主総会の承認を得る

2.報酬委員会の職務 報酬委員会は、Annual reportにおいて報酬制度の詳細を開示する。その内容は、報酬哲学、報酬の要素、裁定報酬額、確定報酬額、報酬設計の参照グループ、業績評価の参照グループ、変動報酬の裁定基準、CEOとその他の執行役員の株式報酬の比較、CEOの株式報酬と従業員の平均株式報酬の比較、自社株保有ガイドライン、報酬回収ポリシー、雇用契約解除条項、ゴールデンパラシュート、退職後報酬、等々、実に多数である。

3.役員報酬プランの更新・改訂 報酬委員会は、報酬制度のPlan-Do-See (or PDCA)サイクルの機能に責任を負っており、現行の報酬プランが意図した通り機能し目標を達成したかを検証(評価)し、新たな報酬プランの必要性を検討する。必要があると判断されれば、役員報酬プランを改訂し、あらためて進行状況を監視する。

4.執行役員の副収入 報酬委員会は、執行役員の臨時収入(退職金等)についても監視する。報酬プランがどのような内容になっているかを再検討する。通常、契約時に合意事項として定められるゴールデン・パラシュートなどの報酬がその対象である。

5.外部調査 CEO/執行役員の報酬プランに対する社外・世間の評価を調査する・退職したCEO/執行役員の報酬についても外部評価を監視する。退職後もストックオプションは有効であるので、その後業績が悪化し他場合も、退職役員に有利であれば現在の株主には不利である。そのリスクは両者で分担すべきであるのでその修正が必要である。

5.報酬ポリシー Compensation Policy 報酬についての基本的な考え方とその枠組みである。報酬政策の出発点は「報酬哲学」(Compensation Philosophy)である。既述のように経営者報酬は、株主が経営者に経営を委任するコストであるが。原点に立ち返り経営者をなぜ雇うか等を考え、報酬により何をどのように達成するのかを明確にするのが報酬ポリシーである。会社は、長期的な株主価値その最大化を目指す。そのために、経営者の報酬を株主の利益に一致させる、とか、株主利益を実現するために「世界で一流の経営者を雇う」などを歌うのは報酬ポリシーである。換言すれば、報酬哲学に基づき報酬原則・戦略等を体系化したものが報酬ポリシーである。役員報酬の目的・水準・要素(種類)、Pay-for-Performanceに関する考え方を明確にするのが報酬ポリシーである。

そこでは、①報酬決定プロセス等を明示すること、②株主に対し、自社が役員報酬を通じて何を実現したいのかというメッセージを発信するのに役立つ。役員報酬の目的・意義・特性についてあり方を定めておくことで、一貫したフレームワークの中で報酬に議論を進めることができる。たとえば、役員報酬制度の目的を決めておくことにより、①業績向上に向けた、役員へのインセンティブの付与、②株主との利益共有、③過度なリスクテイキングの回避、④株主価値希薄化の防止に役に立つ。なぜなら、役員報酬を払いすぎると逆に株主利益を減少させるからである。また報酬ポリシーは、優秀な役員人材の引き留め策として有用である。役員人材が流動的なアメリカでは重要なポイントである。

6.報酬委員会に必要な特性 以上のような報酬委員会の機能を確保するためには、取締役から構成される報酬委員会が一定の性質を満たさなければならない。①独立性である。そのためには、報酬委員会は非業務執行取締役のみで構成され、CEOやCHROは排除されなければならない。次は、②開放性 であり、報酬委員会の会合には他の独立取締役も出席可能であると言うことである。ただし、執行役員の出席は不可である。次は③多様性である。報酬委員会は、多様な背景・経験等を有する独立取締役で構成するということである。最後に④Interlocking Directorshipの忌避ということであり、自社の報酬員会メンバーが他社の報酬委員会のメンバーになり、他社の報酬委員会メンバーが自社の報酬委員会のメンバーになるという相互兼任は行わないということである。

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