エッセイ
TVMの本質:永久年金とコンソル債
1年後からn年間、毎回一定金額PMTが支払われるキャッシュフローすなわち年金 annuity の現在価値は次の式で表される。
年金の現在価値=PMT×[{1−(1+r)−n}/r]
ここで、[{1−(1+r)−n}/r] は通常年金の年金現価係数、通常は単に年金現価係数と呼ばれる。年金が永久に続くとき永久年金という。このとき、年金現価係数は n=∞(無限大)と置くと、(1+r)−n がゼロになるので年金現価係数は 1/r になってしまう。つまり、毎年一定額PMTの永久年金の現在価値は PMT/r である。
金利rが5%の時、毎年10万円を受け取ることができる年金の現在価値は10万円/0.05 であるから2,000万円である。したがって、毎年10万円ずつ受け取れる権利を持っていることと、現在の2,000万円とは同じ価値である。確かに、2,000万円を5%で運用すれば、毎年10万円の収入を得られる。政府が財政資金を2,000億円調達したいけれど、何年後かに2,000億円を償還することになるのは好ましくないと考え、毎年100億円の利子を永遠に払い続けるという永久国債を発行したとする。満期はない。それでは元本が必要になったとき困るので譲渡はできる。市場金利5%が永久に続くならば、その永久国債は2,000億円で譲渡出来るので永久国債の持主はノープロブレムである。キャッシュフロー100億円が必要であれば永久国債を買い戻せば良い。100億円の永久キャッシュフローと2,000億円の資産の間を自由に往き来ができる。
イギリスにはかつて「コンソル債(Consols)」と呼ばれる永久国債が存在したとことは有名な事実である。コンソル債は、元本の償還期限が定められておらず、保有している限り永久に利子が支払われるという特徴を持つ債券である。18世紀に発行が始まり、長期間にわたりイギリスの主要な国債として機能したということである。しかし、2015年にイギリス政府は、残存していたコンソル債を含むいくつかの永久国債をすべて償還することを決定し、これによりコンソル債の歴史は幕を閉じた。経済および国家財政が安定していてインフレもデフレもそして金利の変動もなければ、永久国債は夢のような話である。永久国債を発行できる国は夢のような国なのである。残念ながら、現代は夢の時代ではない。市場金利が上がれば永久国債の価格は下がるであろうし、金利が下がれば価格は上がる。仮に永久国債があったとしても夢の国の永久国債のようにリスクがない資産ではない。グローバリゼーションと金融自由化で金利のボラティリティが大きい金融市場にイギリス政府は勝てなかったのであろう。
財政の安定した国が、適切にリスクを反映させた固定利払の永久国債を発行できれば、上述のようにわれわれはフローの世界とストックの世界を自由に往来できる。時間とともに金利が変わればリスクも変化する、難しい現実であるが、それが事実である。その難しい現実に挑戦するのがTVMである。今回は時間の問題を取り扱っているが、次回の研究会ではTVMにリスクを反映させる問題にチャレンジする。
若杉 敬明