JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

JCGR改訂コーポレートガバナンス原則およびベストプラクティス

  

現代株式会社のコーポレートガバナンス

目次

 

Ⅰ.JCGR 改訂ベストプラクティス

第1章 コーポレートガバナンスと企業価値創造

第2章 取締役会の責務

第3章 取締役会の構成と運営

第4章 取締役会委員会

第5章 CEOおよび経営陣

第6章 株主との関係

第7章 情報開示とアカウンタビリティー

Ⅱ.JCGR 改訂コーポレートガバナンス原則

<前文>

<本文>

基本理念

第1章:基本概念と取締役会の責任

第2章:監督と執行の分業体制

第3章:ボードガバナンスの構造と中核機能

第4章:取締役の責務と取締役会の実効性評価

第5章 株主の権利と株主エンゲージメント

第6章 情報開示とアカウンタビリティー

Ⅲ.改訂の趣旨および主要論点の解説

1. ガバナンスの歴史的進化と「2つのガバナンス」の峻別

2. 企業価値創造の財務理論的背景(FCF、WACC、NPV)

3. アカウンタビリティーの再定義と「信賞必罰」

4.監督と執行の分離と、リスクテイキングのガバナンス

4. 現代的課題(ESG、AI)と取締役会の実効性評価

 

Ⅰ.JCGR 改訂ベストプラクティス

 

 

第1章 コーポレートガバナンスと企業価値創造

 

【本章の目的】

本ベストプラクティスは、JCGRコーポレートガバナンス原則を、取締役会、経営陣、株主、情報開示その他の企業実務に具体化したものである。コーポレートガバナンスは、企業価値の持続的向上を実現するための組織運営の仕組みである。本章では、株式会社の基本的な仕組み、株主とステークホルダーの位置付け、所有・監督・執行の役割分担、および取締役会の基本的な責務について、望ましい実務を示す。

本ベストプラクティスおよび以下のコーポレートガバナンス原則における企業価値とは、企業が将来創出するフリー・キャッシュフローの現在価値を基礎とする事業全体の経済価値をいう。企業価値の持続的向上は、債権者その他の請求権を考慮した上で、長期的な株主価値の向上につながる。

1-1 株式会社

株式会社は株主が所有する企業であり、取締役会は株主から付託された責任を果たすため、企業価値の持続的向上を目指して監督機能を遂行すべきである。

1-2 企業価値 

取締役会は、中長期的な企業価値の持続的向上を企業経営の基本目標として位置付け、その実現に向けて経営を監督すべきである。

1-3 株主

取締役会は、株主が企業の残余請求権者であり、最終的なリスク負担者であることを認識し、株主との建設的な対話を通じて説明責任を果たすべきである。

1-4 ステークホルダー

取締役会は、企業価値の持続的向上が顧客、従業員、取引先、地域社会その他のステークホルダーとの健全な関係によって支えられることを認識し、その関係の維持・向上を監督すべきである。

1-5 所有・監督・執行の分離

取締役会は、株主による所有、取締役会による監督およびCEOを中心とする経営陣による業務執行の役割を明確に区分し、それぞれが適切に機能するガバナンス体制を構築すべきである。

1-6 コーポレートガバナンス

取締役会は、企業価値の持続的向上を実現するためのコーポレートガバナンス方針を策定し、その有効性を定期的に評価し、継続的に改善すべきである。

1-7 ボードガバナンス

取締役会は、自らの構成、運営および実効性を継続的に改善し、企業価値の持続的向上に資する監督機能を最大限に発揮すべきである。

1-8 持続可能な企業価値創造

取締役会は、企業価値の持続的向上を実現するため、経営戦略、人的資本、技術革新、リスク管理およびサステナビリティを相互に関連付けて監督すべきである。


第2章 取締役会の責務

【本章の目的】

取締役会は、株主から付託された監督機関として、企業価値の持続的向上に責任を負う。その責務は、経営を自ら執行することではなく、企業の方向性を示し、経営陣を適切に監督し、説明責任を果たすことである。本章では、取締役会が果たすべき基本的な責務を示す。

2-1 企業理念

取締役会は、企業理念および存在意義(パーパス)が企業活動の基礎となることを認識し、その適切な策定および浸透を監督すべきである。

2-2 経営戦略

取締役会は、中長期的な企業価値の向上を実現する経営戦略を承認し、その遂行状況を継続的に監督すべきである。

2-3 資本政策

取締役会は、経営陣が策定する資本政策を審議・承認し、資本配分および資本効率を継続的に監督すべきである。

2-4 リスク管理

取締役会は、企業価値に重大な影響を及ぼすリスクを把握し、適切なリスク管理体制を監督すべきである。

2-5 内部統制

取締役会は、健全で透明性の高い企業経営を実現するため、有効な内部統制システムの整備および運用を監督すべきである。

2-6 CEO

取締役会は、CEOの選任、評価、報酬および必要に応じた解任について最終的な責任を負うべきである。

2-7 CEO・経営幹部の後継者計画

取締役会は、経営の継続性および企業の持続的発展を確保するため、CEOおよび重要な経営幹部の後継者計画について最終的な責任を負い、その策定および実施状況を継続的に監督すべきである。

2-8 説明責任

取締役会は、株主およびステークホルダーに対して、重要な経営判断およびその結果について適時かつ適切に説明責任を果たすべきである。

 


第3章 取締役会の構成と運営

3-1 取締役会の役割

3-1-1 取締役会は、企業価値の持続的向上を実現するため、経営の基本方針、戦略および重要な経営課題について意思決定を行うとともに、その執行を監督すべきである。

3-1-2 取締役会は、法令遵守の監督にとどまらず、企業価値創造に資する意思決定の質を継続的に向上させる責任を負うべきである。

3-1-3 取締役会は、経営陣への適切な権限委譲と実効的な監督との均衡を維持すべきである。 

3-2 取締役会の規模

3-2-1 取締役会は、迅速かつ十分な審議を可能とする適切な人数で構成されるべきである。

3-2-2 取締役会の規模は、企業の事業内容、事業規模、国際展開および経営環境に応じて定期的に見直されるべきである。

3-2-3 取締役会は、多様な知識・経験・視点を確保しつつ、実効的な議論が可能な規模を維持すべきである。

3-3 取締役会の構成

3-3-1 取締役会は、社内取締役と独立社外取締役との適切なバランスを確保すべきである。

3-3-2 独立社外取締役は、経営陣から独立した立場で客観的な判断を行うことができる者であるべきである。

3-3-3 取締役会は、多様な専門性、経験、性別、国籍、年齢等を備えた構成とすべきである。

3-3-4 取締役会は、企業戦略の遂行に必要なスキルおよびコンピテンシーを備えた構成とし、その充足状況を定期的に確認すべきである。

3-4 議長(Chair)の役割

3-4-1 議長は、取締役会が独立性および実効性を維持しながら運営されるよう議事を統括すべきである。

3-4-2 議長とCEOは、その役割および責任を明確に区分すべきである。

3-4-3 CEOが議長を兼務する場合には、リード・インディペンデント・ディレクターその他の適切な仕組みにより、取締役会の独立性を確保すべきである。

3-4-4 議長は、全ての取締役が十分に発言できる環境を整え、建設的な議論を促進すべきである。

3-5 取締役会の運営

3-5-1 取締役会は、重要な経営課題について十分な審議時間を確保できる頻度で開催されるべきである。

3-5-2 議題は、企業価値に重大な影響を与える事項を優先して設定すべきである。

3-5-3 取締役会資料は、十分な検討期間を確保できる時期に配布されるべきである。

3-5-4 議長は、自由闊達で建設的かつ相互に尊重された議論が行われるよう運営すべきである。

3-5-5 独立社外取締役のみで構成されるエグゼクティブ・セッションを定期的に開催すべきである。

3-5-6 取締役会は、審議事項、決定事項およびフォローアップ事項を適切に記録し、継続的に管理すべきである。

3-6 取締役の選任・再任および取締役会サクセッション

3-6-1 取締役候補者は、人格、識見、倫理観および企業価値向上への貢献能力を総合的に評価して選任すべきである。

3-6-2 取締役会は、現在および将来の企業戦略の遂行に必要なスキルおよびコンピテンシーを明確にし、それに基づいて取締役候補者を選定すべきである。

3-6-3 社外取締役については、実質的な独立性を十分に確認した上で候補者を選定すべきである。

3-6-4 取締役の再任は、出席状況、取締役会への貢献、取締役会評価の結果、独立性および将来の取締役会構成上の必要性を踏まえて判断すべきである。

3-6-5 取締役会は、任期、年齢、独立性、スキル、多様性および企業戦略の変化を考慮した取締役会サクセッション計画を策定し、定期的に見直すべきである。

3-6-6 取締役会は、将来の取締役候補者を継続的に発掘し、社内外の多様な人材から構成される候補者プールを形成すべきである。

3-7 取締役の教育・評価

3-7-1 新任取締役は、就任時に企業、事業、ガバナンスおよび法的責任に関する十分な研修を受けるべきである。

3-7-2 全ての取締役は、継続的な教育および自己研鑽を行うべきである。

3-7-3 取締役会は、個々の取締役の能力向上を支援する教育機会を継続的に提供すべきである。

3-7-4 教育および能力開発は、取締役会評価の結果を踏まえて改善されるべきである。

3-8 取締役会評価

3-8-1 取締役会は、その実効性について毎年評価を実施すべきである。

3-8-2 評価は、自己評価に加え、定期的に第三者による客観的評価を活用すべきである。

3-8-3 評価結果は、具体的な改善計画に反映され、その実施状況を継続的に確認すべきである。

3-8-4 取締役会は、評価の方法および主要な結果並びに改善への取組状況について、株主およびステークホルダーに適切に開示すべきである。


第4章 取締役会委員会

4-1 取締役会委員会の役割

4-1-1 取締役会は、専門的かつ効率的な審議を行うため、必要な委員会を設置すべきである。

4-1-2 委員会は、取締役会から委任された事項について専門的かつ独立した審議を行い、その結果を取締役会へ報告すべきである。

4-1-3 委員会への権限委譲は、取締役会の最終責任を軽減又は免除するものではないことを明確にすべきである。

4-1-4 取締役会は、各委員会の権限、責任および役割分担を委員会規程(Committee Charter)において明確に定めるべきである。

4-1-5 指名委員会および報酬委員会は、独立社外取締役を中心に構成し、委員長は独立社外取締役とすべきである。

4-1-6 監査委員会は、独立社外取締役を中心に構成し、財務・会計・監査に関する十分な知識経験を有する委員を含むべきである。

4-2 指名委員会

4-2-1 基本的役割 指名委員会は、取締役会の諮問機関として、取締役会の構成、取締役候補者ならびにCEOの選任および後継者計画について、独立した立場から客観的かつ透明性の高い審議を行い、取締役会に提言すべきである。

4-2-2 取締役会サクセッション 指名委員会は、現在および将来の企業戦略、取締役の任期、独立性、スキル、コンピテンシーおよび多様性を踏まえ、取締役会サクセッション計画を策定し、定期的に見直すべきである。

4-2-3 取締役候補者の選定指名委員会は、取締役会サクセッション計画およびスキル・マトリックスに基づき、社内外から取締役候補者を継続的に発掘・評価し、取締役会に推薦すべきである。

4-2-4 取締役の再任 指名委員会は、個々の取締役の貢献、取締役会評価の結果、独立性、在任期間および将来の取締役会構成上の必要性を踏まえ、再任の適否を審議し、取締役会に提言すべきである。

4-2-5 CEOサクセッション 指名委員会は、経営の継続性および将来の企業戦略に必要な経営能力を確保するため、CEO後継者計画を主導し、その実施状況を継続的に監督するとともに、定期的に見直すべきである。

4-2-6 CEO候補者の発掘 指名委員会は、CEOと協力して社内外のCEO候補者を継続的に発掘し、育成状況、経営能力、実績、価値観および将来の経営環境への適合性を客観的に評価すべきである。ただし、現任CEOが後継者の選定を実質的に支配することがないよう、指名委員会が独立してプロセスを主導すべきである。

4-2-7 緊急後継者計画  指名委員会は、CEOが突然職務を遂行できなくなった場合に備え、暫定的な代行者および正式な後継者の選定手続を含む緊急後継者計画を整備し、定期的に見直すべきである。

4-2-8 説明責任指名委員会は、取締役会の構成、取締役候補者の選定・再任およびCEO後継者計画に関する方針、プロセスならびに主要な取組状況について、機密性に配慮しつつ株主に適切に説明すべきである。

4-3 報酬委員会

4-3-1 報酬委員会は、企業価値の持続的向上を促進する報酬制度を設計すべきである。

4-3-2 経営陣の報酬は、短期的業績のみならず、中長期的な企業価値創造および株主利益との整合性を確保すべきである。

4-3-3 報酬制度は、固定報酬、短期インセンティブおよび長期インセンティブを適切に組み合わせるべきである。

4-3-4 株式報酬制度は、経営陣と株主との利益共有を促進するよう設計すべきである。

4-3-5 報酬委員会は、報酬方針およびその決定プロセスについて十分な透明性を確保すべきである。

4-3-6 報酬委員会は、独立した外部専門家の意見を必要に応じて活用し、報酬制度の客観性および市場競争力を確保すべきである。

4-3-7 報酬委員会は、経営陣の報酬が外部環境の偶発的変化による成果又は損失を適切に調整し、経営陣の実質的な業績および企業価値への貢献を反映するよう設計すべきである。

4-3-8 報酬委員会は、重大な不正、財務報告の修正、リスク管理上の重大な失敗その他正当な事由がある場合に、未確定報酬を減額し、または既払報酬の返還を求める制度を整備すべきである。

4-4 監査委員会

4-4-1 監査委員会は、財務報告の信頼性を確保するため、財務報告プロセスを継続的に監督すべきである。

4-4-2 監査委員会は、内部統制システムの有効性を定期的に評価すべきである。

4-4-3 監査委員会は、内部監査部門の独立性、権限および資源の適切性を確保すべきである。

4-4-4 監査委員会は、外部監査人の独立性および監査品質を定期的に評価すべきである。

4-4-5 監査委員会は、財務報告、内部統制、コンプライアンスその他取締役会から付託された重要リスクを監督し、全社的リスク管理体制の有効性について取締役会に報告すべきである。

4-4-6 監査委員会は、内部監査人、外部監査人および経営陣との十分な情報共有および連携を図るべきである。

4-5 委員会の運営

4-5-1 各委員会は、その責任を十分に果たすことができる頻度で開催されるべきである。

4-5-2 委員長は、委員会運営の独立性、公正性および実効性を確保すべきである。

4-5-3 委員会資料は、十分な審議期間を確保できる時期に配布されるべきである。

4-5-4 委員会は、審議内容および決定事項を適切に記録した議事録を作成すべきである。

4-5-5 委員長は、委員会における重要な審議結果および提言を取締役会へ適時かつ適切に報告すべきである。

4-5-6 各委員会は、必要に応じて外部専門家の助言を受けることができる体制を整備すべきである。

4-6 委員会の評価

4-6-1 各委員会は、その実効性について毎年評価を実施すべきである。

4-6-2 評価は、委員会の構成、運営、議論の質および成果を対象として実施すべきである。

4-6-3 評価結果は、具体的な改善計画に反映し、その実施状況を継続的に確認すべきである。

4-6-4 各委員会の評価結果は、取締役会全体の実効性評価と連携して活用すべきである。

4-6-5 取締役会は、委員会評価の主要な結果および改善状況について適切な開示を行うべきである。


第5章 CEOおよび経営陣

【本章の目的】

CEOおよび経営陣は、取締役会が承認した企業理念、経営戦略および資本政策に基づき企業経営を執行する責任を負う。

取締役会は経営を執行する機関ではなく、その監督を行う機関である。一方、CEOは企業経営の最高責任者として、企業価値の持続的向上に向けて迅速かつ適切な意思決定を行い、その結果について取締役会に対するアカウンタビリティーを負う。

5-1 CEOの役割

5-1-1 CEOは企業理念を実現するための経営戦略を策定・実行し、企業価値の持続的向上に責任を負う。

5-1-2 CEOは取締役会と建設的な対話を行い、重要事項について適時に報告しなければならない。

5-2 経営陣の責務

5-2-1 経営陣はCEOを補佐し、それぞれの担当分野について責任を持って経営を執行する。

5-2-2 経営陣は部門最適ではなく企業全体の価値創造を常に意識しなければならない。

5-3 CEOの権限

5-3-1 取締役会はCEOへ必要な権限を委譲し、迅速な経営判断が可能となるようにしなければならない。

5-3-2 一方、企業戦略、資本政策、大規模投資、人事その他重要事項については取締役会が最終的に承認すべきである。

5-4 CEOの評価

5-4-1 CEOは企業価値創造への貢献を基準として定期的に評価されるべきである。

5-4-2 評価は短期業績だけでなく、中長期的企業価値、資本効率、人的資本、リスク管理等を総合的に考慮して行われることが望ましい。

5-5 CEO後継者計画への協力

5-5-1 CEOは、重要な経営幹部の発掘、育成、配置および評価を通じて、将来のCEO候補者となり得る人材の継続的な育成に責任を負う。

5-5-2 CEOは、指名委員会および取締役会に対し、CEO候補者に関する必要かつ十分な情報を提供し、後継者計画の策定および実施に誠実に協力すべきである。

5-5-3 CEOは、自らの後継者について意見を述べることができるが、候補者の評価、選定および最終決定は、指名委員会の提言に基づき取締役会が独立して行うべきである。

5-6 CEOと取締役会

5-6-1 CEOは取締役会との信頼関係を維持するとともに、経営情報を適時かつ十分に提供しなければならない。

5-6-2 取締役会はCEOを支援すると同時に、その経営を独立した立場から監督する責務を負う。


第6章 株主の権利と株主エンゲージメント

【本章の目的】

株主は株式会社の所有者であり、取締役会は株主から委託された経営監督の責務を負う。

取締役会は、株主との建設的な対話を通じて企業価値の持続的向上を図るとともに、同一の種類および内容の権利を有する株主を平等に取り扱うべきである。

株主との対話は、短期的な株価対策ではなく、中長期的な企業価値創造を目的として行われるべきである。

6-1 株主の権利

  6-1-1 株主の基本的権利は尊重されなければならない。

  6-1-2 取締役会は、議決権、配当請求権、残余財産分配請求権等の株主権が適切に行使される環境を整備すべきである。

6-2 株主総会

6-2-1 株主総会は、取締役の選解任その他法令および定款に定める基本事項について、株主が意思決定を行う会社の最高機関である。

6-2-2 取締役会は、株主が十分な情報に基づいて議決権を行使できるよう努めるべきである。

6-3 株主とのエンゲージメント

6-3-1 取締役会は株主との建設的な対話を促進し、その意見を企業価値向上に活用すべきである。

6-3-2 対話は透明性、公平性および継続性を重視して行われることが望ましい。

6-4 機関投資家との対話

6-4-1 機関投資家は、議決権行使および建設的な対話を通じて企業の持続的な価値創造を支える重要な株主である 。

6-4-2 取締役会は長期的視点に立つ投資家との対話を積極的に行い、その期待と懸念を経営へ適切に反映すべきである。

 

6-5 少数株主の保護

6-5-1 取締役会は支配株主の有無にかかわらず、少数株主の利益を適切に保護しなければならない。

6-5-2 利益相反が生じる場合には、その意思決定の透明性および公正性を確保すべきである。


第7章 情報開示とアカウンタビリティー

【本章の目的】

コーポレートガバナンスは、適時かつ適切な情報開示とアカウンタビリティーによって初めて有効に機能する。

取締役会およびCEOは、企業価値の持続的向上に向けた意思決定とその結果について説明責任を果たし、株主およびステークホルダーとの信頼関係を構築しなければならない。

情報開示は法令遵守のためだけではなく、市場との建設的な対話を支える重要なガバナンス機能である。

7-1 アカウンタビリティー

7-1-1 アカウンタビリティーとは、委ねられた権限に基づく意思決定、行動および成果について報告・説明し、あらかじめ定められた基準による評価を受け、その評価に応じた責任を負うことである。

7-1-2 取締役会およびCEOは、その意思決定過程および成果について、株主に対して明確に説明しなければならない。

7-2 情報開示

7-2-1 株主との建設的な対話の基盤は適時かつ適切な情報開示でなければならない。

7-2-2 企業は、財務情報のみならず、経営戦略、資本政策、ガバナンス、リスク管理およびサステナビリティー等に関する情報についても積極的に開示すべきである。

7-2-3 情報開示はつねに正確性、公平性、適時性および理解しやすさを備えなければならない。

7-2-4 危機時の開示は重要であり迅速かつ誠実でなければならないが、取締役会の監督のもと正確性、重要性、情報の更新、憶測の忌避に努めなければならない。

7-3 統合報告

7-3-1 企業は財務情報と非財務情報を統合的に開示し、中長期的な価値創造の仕組みを株主に分かりやすく説明することが望ましい。

7-4 市場との対話

7-4-1 取締役会は市場からの評価を真摯に受け止め、必要に応じて経営の改善に活用すべきである。

7-4-2 市場との対話は短期的な株価対策ではなく、中長期的な企業価値向上を目的として行われなければならない。

7-5 危機時の情報開示

7-5-1 企業は重大な事故、不祥事または経営危機が発生した場合には、迅速かつ誠実な情報開示を行わなければならない。

7-5-2 取締役会は危機対応の状況について継続的に監督し、その説明責任を果たすべきである。

2026/08/01
 
 

JCGR 改訂コーポレートガバナンス原則

 

<前文>

<本文>

基本理念

第1章 基本概念と取締役会の責任

第2章 監督と執行の分業体制

第3章 ボードガバナンスの構造と中核機能

第4章 取締役の責務と取締役会の実効性評価

第5章 株主の権利と株主エンゲージメント

第6章 情報開示とアカウンタビリティー

 

<前 文>

 

株主は、議決権を通じて取締役を選任し、企業成果に対する残余請求権を有するとともに、最終的な経済的リスクを負担する。この意味において、株式会社は株主が所有する企業である。

株主が目的とする持続的な企業価値創造は経営陣だけではなく、取締役会による適切な監督と健全なガバナンスに依存する。本原則は、株主価値の長期的な最大化を目的として、取締役会がどのようなガバナンスを構築すべきかを示すものである。

本原則における企業価値とは、企業が将来創出するフリー・キャッシュフローの現在価値を基礎とする事業全体の経済価値をいう。企業価値の持続的向上は、債権者その他の請求権を考慮した上で、長期的な株主価値の向上につながる。株主価値の持続的向上は、顧客、従業員、取引先、地域社会など多様なステークホルダーとの健全な関係を維持しながら企業価値を創造することによって達成される。

本原則の適用にあたり、我々は「コーポレートガバナンス」と「ボードガバナンス」を明確に区別する。

コーポレートガバナンスとは、企業が持続的な企業価値を創造するために、株主をはじめとするステークホルダーとの適切な関係を構築し、企業活動を統治する枠組みである。

一方、ボードガバナンスとは、そのコーポレートガバナンスを実効あらしめるために、取締役会自身がどのように機能し、経営陣をいかに監督・評価し、動機付けるかという取締役会内部の構造およびプロセスを指す。

取締役会は、これらコーポレートガバナンスおよびボードガバナンスの双方について最終的な責任者としての役割を担う。本原則は、コーポレートガバナンスという広範な視野を前提としつつも、その中核的メカニズムである「ボードガバナンス」をいかに確立するかに中心を置いて規定される。

現代の企業に求められるのは、独立取締役を中心とする取締役会が経営陣を監督する体制である。ここには、取締役会は監督に専念し、業務執行役員は執行に専念するという分業(ガバナンスとマネジメントの分離)が存在する。この分業体制の下で、取締役会が受託者責任を完遂し、経営陣に厳格なアカウンタビリティーを求めるための行動規範が、本原則である。

<本 文>

 

【基本理念】

 

企業価値の持続的向上は、健全なコーポレートガバナンスによって支えられる。取締役は、会社に対する法的・受託者的責任を負うとともに、株主共同の利益および持続的な企業価値向上に対するガバナンス上の責任を負う。

 

1章:基本概念と取締役会の責任

 

1.【コーポレートガバナンスとボードガバナンスの責任】

取締役会は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス、およびそれを牽引する取締役会自身の運営(ボードガバナンス)の双方について責任を負う。

2.【取締役会の基本的役割】

CEOおよび経営陣は経営戦略案を策定し、取締役会はその形成過程に建設的に関与した上で承認し、その実行を監督する。

取締役会は、企業理念、戦略、リスク選好および行動規範と整合する企業文化が形成されているかを監督し、実態との不整合がある場合には経営陣に是正を求めるべきである。

3.【資本政策】

取締役会は資本コストを意識した資本配分を通じて企業価値の向上を図る。取締役会は、資本コストを上回る収益率の実現を目標として、投資、M&A、自己株式取得、配当政策など資本配分の基本方針を決定し、その成果を継続的に監督する。その目的は資本効率の改善を通じた持続的な企業価値創造にある。

4.【リスクガバナンス】

取締役会は、企業価値向上に必要なリスクテイクを支えるリスク管理体制を整備し、その有効性を継続的に監督する。

取締役会は、重大な危機に対する企業のレジリエンスおよび事業継続能力を定期的に検証すべきである。

5.【取締役会文化】

取締役会は、会長(またはLID)のリーダーシップの下、自由闊達で建設的な議論を行い、異なる意見を尊重する文化を形成しなければならない。

6.【取締役会会長のリーダーシップ】

取締役会会長(または筆頭独立取締役)は、取締役会が実効的に機能するための運営を主導する。

7.【株主との建設的な対話】

株主との対話は、単に株主の要求に応えるためではなく、企業価値の持続的向上という共通の目的を実現するために行われる。

8.【取締役会の情報開示】

取締役会は、適時かつ透明な情報開示を通じ、市場との信頼関係を維持する。

9.【受託者責任とアカウンタビリティーの貫徹】

取締役および業務執行役員は、会社および株主に対する受託者責任を深く認識しなければならない。また、取締役会は、最高経営責任者(以下、CEO)をはじめとする経営陣に対し、厳格なアカウンタビリティーを求める。ここでのアカウンタビリティーとは、単なる事後的な説明責任にとどまらず、目標の達成度合いに応じた信賞必罰を含む「結果責任」を意味する。

10ESGとサステナビリティの統合】

取締役会は、従来の財務的指標による営利の追求にとどまらず、ESG(環境・社会・ガバナンス)等に関する新しい課題をコーポレートガバナンスの重要事項として位置づけ、その基本方針の決定と監視に関与する。

11【AIガバナンス】

取締役会はAIを含むデジタル技術について、その利用方針、倫理、安全性、透明性およびリスク管理を監督する。

 

2章 監督と執行の分業体制

 

12.【ガバナンスとマネジメントの分離】

取締役会は、経営戦略その他の重要事項の審議・承認および経営陣の監督を中核的役割とし、日常的な業務執行はCEOが率いる経営陣に委ねる。

13CEOの権限と責任】

CEOは自らの進退をかけて業績を追求し、全てのステークホルダーにとって最善となる効果的・効率的・倫理的な経営体制(マネジメント・システム)を構築する。また、資本主義の大原則である公正な市場原理を遵守し、コンプライアンス経営を忠実に実行する結果責任を負う。

14CEOのインセンティブ

取締役会はCEOに企業価値向上への適切なインセンティブを与える。

3章:ボードガバナンスの構造と中核機能

 

15.【取締役会規則】

取締役会は、その目的、権限、責務、構成、運営方法および評価手続を定めた取締役会規則(Board Charter)を策定し、定期的に見直すべきである。また、透明性を高める観点から、その主要な内容を公表することが望ましい。

16.【独立性と多様性を備えた取締役会】

取締役会は、経営監督を実効化するため、独立取締役としての社外取締役を中心に構成される。同時に、CEOが提案する多様な事業機会を理解し意思決定を下すために、取締役会はスキル、コンピテンシー、性別、国籍、職業経験等の面で高度な多様性を確保しなければならない。

17.【独立取締役】

独立取締役は、株主共同の利益を踏まえて、客観的な判断を行う。

18.【三委員会による監督機能(指名・報酬・監査)】

取締役会は、ガバナンスの基本機能を担保するため、独立取締役を構成員とする指名委員会、報酬委員会、および監査委員会を設置する。

各委員会は、その目的、権限、責務、構成および運営方法を定めた委員会規則(Committee Charter)を策定し、取締役会の承認を受ける。委員会規則は取締役会規則と整合していなければならない。

各委員会は毎年自己評価を行い、その結果を取締役会に報告するとともに、必要な改善措置を講じる。

19.CEOの指名と後継者育成(指名委員会)】

指名委員会は、会社の長期戦略との整合性を検証しつつ、将来のCEOに関する後継者育成計画を立案し、その実行を取締役会の監視下で進める。

20.【業績連動報酬と信賞必罰(報酬委員会)】

報酬委員会は、CEO等の業務執行役員を最良のマネジメントに向けて動機付けるため、業績目標を埋め込んだインセンティブ報酬(業績連動報酬等)を制度化する。業績評価と報酬制度を厳密に連携させ、結果責任(アカウンタビリティー)に基づく信賞必罰を断行する。結果責任の評価に際しては、経営陣の意思決定、管理可能性および実質的貢献を適切に識別する。

21.【リスクおよび内部統制の監査(監査委員会)】

監査委員会は、企業価値創出のための適切なリスクテイキングがなされているかを監視するとともに、内部監査および外部監査人との適切な連携を図り、財務報告やコンプライアンスを含む内部統制システムが整備・運用されているかを評価し、取締役会に報告する。

4章:取締役の責務と取締役会の実効性評価

 

22.【取締役の職務遂行と研鑽】

取締役は、業務の意思決定および経営監督の責任を全うするため、会社の事業や財務戦略の理解に時間と労力を惜しんではならない。必要に応じて外部専門家へ助言を求め、議論に向けた十分な準備を行う。

23.【取締役会の自己評価(実効性評価)】

取締役会は、自らのボードガバナンス機能が実効的に働いているかを確認し、自己革新を図るために定期的な自己評価(実効性評価)を実施する。この評価は、機密性が高く複雑な内部調整を要するため、取締役会会長(または筆頭独立取締役)の強いリーダーシップの下で行われ、必要に応じてガバナンス実務の修正に繋げる。

24.【継続的改善】

取締役会は、ガバナンスを固定的な制度として捉えるのではなく、経営環境、市場環境および社会的要請の変化に応じて不断に見直し、継続的に改善する。

 

第5章 株主の権利と株主エンゲージメント

25.【株主の権利の尊重

企業は、株主が企業の所有者であることを認識し、その権利を尊重するとともに、株主が権利を適切に行使できる環境を整備しなければならない。

26.【株主総会】

会社は株主総会が株主意思を表明する最高機関であることを尊重し、株主が適切に議決権を行使できる環境を整備しなければならない。

27.【株主との建設的な対話】

取締役会は、企業価値の持続的向上を目的として、株主との建設的な対話(エンゲージメント)を促進しなければならない。株主との対話は、短期的な要求への対応ではなく、中長期的な企業価値の向上に資するものでなければならない。

28.【株主の平等な取扱い】

企業は、すべての株主を公平かつ平等に取り扱い、特定の株主に対する不当な利益供与や情報提供を行ってはならない。

第6章 情報開示とアカウンタビリティー

29.【適時・適切な情報開示

企業は、財務情報及び非財務情報について、正確で、適時かつ透明性の高い情報開示を行わなければならない。

30.【アカウンタビリティー

取締役会及びCEOは、それぞれの責任に応じて、株主をはじめとする資本市場に対し、自らの意思決定及びその結果についてアカウンタビリティーを果たさなければならない。

31.【透明性の確保

企業は、経営方針、資本政策、ガバナンス体制及び重要な経営判断について、資本市場が適切に評価できるよう十分な透明性を確保しなければならない。

32.【情報の信頼性】

企業は開示する情報の正確性、完全性および信頼性を確保しなければならない。

 

改訂:2026/08/01 2022/04/01 2020/09/01 2019/03/03

 

Ⅲ.改訂の趣旨および主要論点の解説

1. ガバナンスの歴史的進化と「2つのガバナンス」の峻別

2. 企業価値創造の財務理論的背景(FCF、WACC、NPV)

3. アカウンタビリティーの再定義と「信賞必罰」

4.監督と執行の分離と、リスクテイキングのガバナンス

4. 現代的課題(ESG、AI)と取締役会の実効性評価

はじめに

今回の抜本的改訂は、2019年以降の急速な環境変化に対応するだけでなく、日本のコーポレートガバナンスが長年抱えてきた構造的課題を克服し、グローバルな資本市場の要請に真に応えるための理論的支柱を提供するものです。

 

1. ガバナンスの歴史的進化と「2つのガバナンス」の峻別

 

本原則の最も画期的な背景の一つは、「コーポレートガバナンス」と「ボードガバナンス」を明確に区別した点にあります。

日本の株式会社運営構造は、明治期の財閥による所有と経営の未分化な状態から始まり、戦後は間接金融を中心としたメインバンク制という独自の規律付け(モニタリング)によって機能してきました。しかし、金融システムの変化とともにメインバンクの機能が後退すると、それに代わる規律付けのメカニズムとして、資本市場と直接対峙する現代的なコーポレートガバナンスの構築が急務となりました。

本原則において、コーポレートガバナンスとは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)等の要素を含め、株主をはじめとする多様なステークホルダーとの関係性を調整し、企業の長期的かつ持続的な価値創造(サステナビリティ)を方向付ける広範な枠組みと定義されています。これは、企業が社会的存在として機能するための外部環境とのインターフェースです。

一方、ボードガバナンスは、その広範なコーポレートガバナンスを「実効あらしめる」ためのエンジンであり、取締役会自身の内部構造およびプロセスを指します。英米型の単一階層(ユニタリー)ボードであれ、ドイツ型の二層式(ツー・ティア)ボードであれ、最終的に経営を規律するのは取締役会の機能的構造です。本原則は、コーポレートガバナンスという広大な概念を語る前提として、その中核的メカニズムであるボードガバナンスの確立に焦点を当てるという、極めて実践的かつ理論的なアプローチをとっています。

2. 企業価値創造の財務理論的背景(FCF、WACC、NPV)

本原則の前文では、企業価値を「企業が将来創出するキャッシュフローの現在価値を基礎とする経済価値」と明確に定義しています。この背景には、現代コーポレートファイナンス理論の根幹をなす価値評価(バリュエーション)の思想が貫かれています。

企業価値の源泉は、会計上の表面的な利益ではなく、企業が将来にわたって生み出すフリー・キャッシュフロー(FCF)です。そして、第1章の【資本政策】において「取締役会は、資本コストを上回る収益率の実現を目標として、投資、M&A、自己株式取得、配当政策など資本配分の基本方針を決定し、その成果を継続的に監督する」と規定されています。

ここでいう資本コストとは、株主の期待収益率と負債コストを加重平均した加重平均資本コスト(WACC: Weighted Average Cost of Capital)を前提としています。投資案件が、そのリスクに対応する資本コストを上回る期待収益を生み、正のNPVを創出する場合、企業価値は増加する。ただし、NPVを基本的な判断原理としつつ、戦略的選択肢、長期的競争力および測定困難な無形資産も考慮しなければならない。取締役会が資本配分を監督する真の目的は、経営陣の意思決定が常に基本としてNPVを最大化する方向へ向かっているかを検証し、資本効率の改善を通じた持続的な企業価値創造を実現することに他なりません。

3. アカウンタビリティーの再定義と「信賞必罰」

 

第1章の【受託者責任とアカウンタビリティーの貫徹】において示された概念は、日本のガバナンス論調に対する強力なアンチテーゼを含んでいます。

本原則は、取締役会が経営陣に対して厳格なアカウンタビリティーを求めるとしています。日本において「アカウンタビリティー」という言葉は、しばしば「説明責任(setsumei sekinin)」と訳され、事後的にステークホルダーに対して事情を説明すれば事足りるという、極めて受け身で弱い概念として矮小化されてきました。

しかし、コーポレートガバナンスにおける真のアカウンタビリティーとは、単なる事後的な説明責任にとどまりません。それは、自ら引き受けた経営目標に対する「結果責任」であり、その目標の達成度合いに応じて、報酬の増減やCEOの進退といった明確な「信賞必罰」を伴うべきものです。

この哲学は、第3章の【業績連動報酬と信賞必罰(報酬委員会)】にも直結しています。報酬委員会が業績目標を埋め込んだインセンティブ報酬を制度化し、業績評価と報酬制度を厳密に連携させることは、まさにこの「結果責任としてのアカウンタビリティー」を制度として実装することにほかなりません。言い換えれば、ビジネスリスクを伴う経営において、成果を出せば報われ、出せなければ地位を去るという資本主義の厳格な市場原理を取締役会を通じて企業内部に持ち込むことなのです。

4.監督と執行の分離と、リスクテイキングのガバナンス

 

第2章において【ガバナンスとマネジメントの分離】が強調されています。取締役会は経営戦略の承認と経営陣の監督に特化し、業務執行はCEOが率いる経営陣が担うという明確な分業体制の構築です。

この分離構造の根底には、経営者が陥りがちなエージェンシー問題(所有者である株主と、代理人である経営者との利害不一致)の解消があります。独立取締役を中心とする取締役会が監督に専念することで、身内意識を排除し、客観的な視点から経営陣のパフォーマンスを評価することが可能となります。

同時に、【リスクガバナンス】の項目において、取締役会は「企業価値向上に必要なリスクテイクを支えるリスク管理体制を整備」すると規定されています。リスクとは単に避けるべき危険(ダウンサイド・リスク)ではなく、企業がリターン(将来のFCF)を得るために意図的に負担すべき不確実性(ビジネスリスク)でもあります。ガバナンスの効いた取締役会は、経営陣の過度な保守主義(無難な経営による価値の停滞)を打破し、資本コスト(WACC)を上回るリターンを生むための健全なリスクテイキングを促す機能を持たなければなりません。

5. 現代的課題(ESG、AI)と取締役会の実効性評価

 

第1章における【ESGとサステナビリティの統合】や【AIガバナンス】の導入は、企業価値の決定要因が有形資産から無形資産へと大きくシフトしている現代の環境変化を色濃く反映しています。

ESG課題やデジタル技術(AI)の活用方針、安全性、倫理といった非財務情報は、将来のキャッシュフロー創出能力やリスク・プロファイルに直接的な影響を及ぼします。取締役会は、これらの新しい課題をコーポレートガバナンスの重要事項として位置づけ、その監視に関与する責任を負います。

最後に、第4章における【取締役会の自己評価(実効性評価)】です。いくら優れた原則を掲げ、多様なスキルを持つ独立取締役を選任したとしても、取締役会という組織が実際にその機能(ボードガバナンス)を発揮できているかは別問題です。機密性が高く複雑な内部調整を伴う実効性評価を、取締役会会長(または筆頭独立取締役)の強いリーダーシップの下で実施し、継続的改善に繋げるプロセスは、ガバナンスを形骸化させないための究極の自己規律メカニズムと言えます。

総じて、この改訂草案は、日本の企業統治の歴史的課題を認識した上で、財務理論の冷徹なロジック(FCF、WACC、NPV)と、信賞必罰を伴う真のアカウンタビリティーを組み込み、世界に通用する強靭なボードガバナンスの構築を目指す、極めて論理的かつ実践的なアーキテクチャであると解説できます。

(解説:若杉敬明)

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