JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

株式会社考-株式会社の歴史-

株式会社の歴史

日本コーポレートガバナンス研究所
理事長 若 杉 敬 明

1.重商主義と株式会社

 絶対王政が誕生した15世紀後半、大航海時代が本格化し絶対王政の経済政策である重商主義を支えた。毛織物産業の展開による羊毛需要の増大によって、 イギリスでは15世紀後半になると「囲い込み」運動が始まる。 その結果、産業資本に雇用される労働者が生まれた。 国王は、経済的には商人資本と結びつき、軍事的には常備軍を保有し、スペイン、オランダ、フランスなどと 重商主義戦争を遂行して行った。各国で共同出資により大規模な貿易企業・植民地経営企業(Joint Stock Company)が誕生し、アフリカ・アジア・アメリカ大陸への大規模な航海が行われ、

 1600年12月31日、テューダー王朝のエリザベス1世は、それ以前から存在していた「イギリス東インド会社(EIC:East India Company)」を「東インド諸地域に貿易するロンドン商人たちの総裁とその会社」として正式に法人と認める許可状を下付した。貿易の特権を与えられた世界最初の株式会社形態である。イギリスと貿易の派遣を争うオランダは間髪を置かず、1602年オランダ東インド会社(Verenigde Oost-Indische Compagnie;VOC)を設立した。このVOCが世界最初の株式会社とされる。それは次のような理由からである。

 EICにおいては、アジアに1回ごとに個別の企業が設立され船団が送られ、航海が成功して船が港に戻ると、航海で得た輸入品あるいは販売代金を、投資額に比例して出資者に分配され、個別企業は解散された。その意味では、EICは、個別航海への投資家の集まりに過ぎず、恒常的・組織的な株式会社ではなかった。1回の航海単位での投資は、海賊による略奪や難破などで、投資家にとってリスクが大きかった。そこで、オランダのVOCでは貿易会社という企業を作り、そこに出資者を募ることで、1回ごとではなく、複数回の航海で得た利益が出資者に還元され、投資家のリスク減らす分散投資のシステムがとられた。1回の航海ごとではなく、永続的に資金を集め、組織的な会社を組織し、利益を配当する形式の永続会社であった。

2.産業革命と株式会社

 その後、各国で株式会社が導入されたが独占権を伴う許可制で、国王または政府の許可により事業を行うことを認められた特許会社で勅許会社(Chartered Company)と呼ばれた。

 世界で最初の産業革命は1760年代から1830年代にかけてイギリスで起こった。工場制機械工業の導入による産業革命は産業および社会構造の変革をもたらし資本主義を成立させた。多額の資本を必要とする事業が急増し、事業形態として株式会社が多用された。勅許制は経済の発展を阻害することから、許可制あるいは登録制に移行し、ついには株式会社設立が自由化された。イギリスは1844年許可制から登録制に移行、フランスでは1867年登録制による株式会社設立が可能になった。ドイツでは、1870年ついに株式会社設立が自由化された。やがて、イギリスやオランダでも株式会社の設立が自由化された。

3.アメリカにおける資本主義と株式会社制度の発展-M&Aを通して-

 ヨーロッパにおける株式会社制度は、既成の商人資本家や産業資本家によって支えられ発展してきた。移民が作り上げた国であるアメリカではそのような資本家は存在しなかった。資本の面で産業革命を支えたのは個人の富裕層であった。大規模な事業を行うのに必要な巨額の資金を、多数の投資家から集める-塵も積もれば山となる-方式の現代の株式会社を作り上げたのがアメリカである。そのような株式会社に支えられた資本主義は大衆資本主義とも呼ばれる。

 イギリスの植民地であったアメリカは、1776年7月4日イギリスからに独立した。独立前のアメリカにおいては、法人は、英国王の治世下、特定の会社の設立を許可する法律に基づいて設立された。なお、アメリカでは、法人は必ずしも株式会社形態を意味しない。

 独立後、法人(corporation)の設立は州議会の許可制になり、その代わり特権や独占権が付与された。銀行から株式会社形態の法人が普及し、その後、設立が続いた鉄道会社等が株式会社という形態をとった。1811年、ニューヨーク州が規制を緩和、1875年ニュージャージ州法の規制廃止、そして19世紀末までに、デラウエア州はじめ各州で株式会社設立が自由化された。

 その後、アメリカの資本主義および株式会社制度の発展を支えたのはM&A-企業の買収合併-であった。1897年以降、独占利益を求め繰り返しM&Aが行われ、数次のM&Aブームを生み、巨大株式会社を誕生させた。

3.1 第一次M&Aブーム(1900年前後)

 第一次M&Aブームは、水平の統合によって特徴付けられる。19 世紀初頭のアメリカでは、西部開拓による国土開発を背景に鉄鋼、機械、鉄道等が発達した。会社設立自由化の下で、競争が激化し、リストラや倒産が頻発した。他方で、規模の経済を求め独占を目的とした統合が活発化た。その主役は、基幹産業である石油や鉄鋼・鉄道が主役でスタンダード石油、USスティール等の独占企業を生み出した。他方、独占利益を享受する企業に非難が集中したため、1890年政府は反トラスト法を制定(1)した。

 このブームは1907年の金融恐慌(2)で終焉した。

注1)米国の独占禁止法は、3つの法律「シャーマン法(1890年)」「クレイトン法(1914年)」「連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act)(1914年)」の総称で、事業者による不当な取引制限や価格協定、市場独占を禁止している。

注2)アメリカで発生したこの恐慌の構造的要因は前年制定の改正ニューヨーク州保険法(通称アームストロング法)による資金移動であった。生命保険会社の投資等を規制するこの法律は、イギリス系投信に回復しがたい被害をもたらすとともに、現金の不足を証券でごまかす金融制度の脆弱性を露呈し恐慌をもたらしたと言われる。

 3.2 第二次M&Aブーム(1920年代)

 第一次M&Aブームの間、同一業種で水平統合が繰り返され、独占企業、寡占企業が多数出現し競争が阻害指されたことから、1914年クレイトン法が定められ、水平統合が事実上禁止された。他方、生産技術の革新で、時代は大量生産・大量消費社会に入っていた。企業にとっては原材料から販売までを確保することが課題で、企業再編は水平統合を禁じられたので、寡占をねらった垂直統合へと方向転換していた。産業の花形は新興勢力である食費や自動車であり、これらの産業で垂直統合型の巨大寡占企業が出現した。しかし、1929年、株価暴落を景気に世界恐慌に突入し、ブームは終息した。

3.3 第三次M&Aブーム(1960年代)

アメリカはGolden Sixties(黄金の60 年代)と呼ばれる繁栄の時代であった。第二次大戦後の経済成長のピークを迎え、企業は巨大化・成熟化していた。第一次ブームおよび第二次ブームで水平統合・垂直統合は極限に達しており、この方向でM&Aを進めることは独禁法が許してくれなかった。企業の選択は海外への進出か、国内に留まるならば既存事業と関係のない事業を取り込むか、であった。全社の動きが多国籍企業の形成であり、後者がコングロマリットの形成であった。コングロマリットについてはアンゾフのシナジー概念をコアにした多角化戦略論が理論的支柱であった。コングロマリット形成のM&Aはまさにブームを迎えたが、コングロマリットの元祖と呼ばれるリットン・インダストリーズ(3)が大幅減益を発表し株価を急落させたのを機に、株式相場が暴落し、第三次M&Aブームはあえなく終焉を迎えた。

注3)アメリカの軍需エレクトロニクス・軍艦メーカー。2001年以降は総合軍需企業のノースロップ・グラマン社の傘下にある。(日本大百科全書

3.4 第四次M&Aブーム(1970年代~1980年代)

 1980年代はコングロマリット再編の時代といえる。コングロマリットの多くは、20年寄せ集め企業の馬脚を露呈し業績低迷・株価の下落に陥った。その再編を目的とするM&Aが活発化したのである。折しもグローバリゼーションが始まり大競争の時代が予見されたので、コングロマリットの効率化とグローバリゼーションへの対応を目指して企業のリストラが活発化した。インベストバンクがM&A仲介をビジネスとするようになり敵対的買収やLBOなど新しい手法が導入され、仲介手数料を目的とした大型買収が横行し世界をまたぐM&Aブームが出現した。バブルで金余りの日本から投資資金が流入し、M&Aを加速しM&Aのバブルを生んだとも言われている。しかし、巨額な仲介手数料を狙うインベストメントバンクの介入が、企業価値創造のM&Aでなく、M&AのためのM&Aを横行させるようになり、アメリカ社会ではM&Aに対する批判を巻き起こした。買収に対抗するための買収防衛策が話題を呼んだのもこの時期である。1989年のブラックマンデー(世界的株価の大暴落)を契機にこのブームも去った。

3.5 第五次M&Aブーム(1990年代~)

 IT技術の発達、新素材開発、バイオテクノロジー等々の新技術により、大競争時代の競争はますます激化している。企業は90年代の失敗に学び、本業回帰(core business)を目指し、本業を強化するために多角化した事業を整理するために、選択と集中(Selection and Concentration)と称して、M&Aを着実に進めようとしている。M&Aはもはやブームと呼ばれるような流行りではなく、地道に進んでいる。

以 上

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